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映 画

「熊は、いない」「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」などのとっておき情報
(2023年9月24日12:00)
映画評論家・荒木久文氏が「熊は、いない」「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、9月18日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 敬老の日、よろしくお願いします。
荒木 本当に、敬老の日にお祝いされる立場になってしまいました。
鈴木 いや、まだそんな歳じゃないでしょう。
荒木 そんな歳です、恥ずかしいから言わないけどね(笑)。
今日は久しぶりに硬派なイラン映画からご紹介しましょう。中東のイランね。
「熊は、いない」というタイトルです。

鈴木 くまはいない…?
荒木 はい。現在公開中ですけど。イランの映画監督のジャファイル・パナヒさんという有名な人の最新作です。このパナヒ監督は、今から13年前に、イラン政府から映画制作と国外出国禁止、そして、作品の国内上映禁止を命じられながらも、不屈の精神で映画を撮り続けているイランの巨匠です。
鈴木 すごいなあ。
荒木 イランの宗教的な原理主義の押し付けに抵抗をし続ける映画監督ですね。この人のプロフィールはあとで紹介するとして、「熊は、いない」は、そのパナヒが監督・脚本・製作と主演を務める、自分をテーマにして創りあげた最新作です。
ストーリーは、主人公、本人の映画監督パナヒさんはイランの隣のトルコの街で、偽造パスポートを使って国外へ逃亡しようとしているカップルを主人公にしたドラマを撮っているんです。でも、監督自身は国外には出られないため、イラン・トルコの国境近くの小さな村からパソコンのリモートで指示をしながら演出しているんです。面白いですよね。
そんな中、監督が滞在しているイランの小さな村では古い掟のために、小さなトラブルが大事件へと発展し、パナヒ監督も巻き込まれていくという、そして映画の中のカップルにももめ事が起こるという…、こんな映画です。
この、イランの小さな村のカップルの話なんですけど、映画の中のカップルと、このふたつのカップルとパナヒ監督が直面する運命を通して、今もイランに残る抑圧的な社会問題とか、支配の構造を浮き彫りにする映画なんです。
今言ったように パナヒさんは国外に出られない、彼を取り巻く事情は本当の現実そのものなのですね。その監督がドラマを作っているという、どこまでが事実でどこまでがフィクションなのかわからないんですよ。判然としないというか、この監督、もともとそういう前提が多いんです。事実とフィクションとの境があいまいという、彼のお得意なスタイルなんですよ。 ダイちゃんで言うなら、DJ鈴木ダイがFM富士でDJをやっているその中で、殺人事件がおきて、ドラマが展開されるみたいな?
鈴木 あ!なるほどね。
荒木 ちょっと変なたとえだったかな(笑)。映画は後半、2組のカップルが、政治の圧力や昔からの因習、生まれた時から結婚相手が決まっているみたいな、そんなびっくりする風習から逃れようとするのですが、どちらも今のイランの持つ女性蔑視だとか宗教的な原理主義などに押しつぶされるということになるわけです。
ちょっとネタバレだったかな?まずいかな…。
鈴木 あはははは。
荒木 そういう意味で見事な構成で描かれているのは、監督の現状とともに、自由を求める者と、それを圧する側の対立と軋轢です。
これはイランばかりではなく、アフガンとか世界中で起こっていることですね。
このパナヒ監督は『白い風船』という作品でデビューして、国際映画祭でいろいろな賞を受賞するようになって、有名になっていくんですね。何本か撮った中、私が一番印象に残っているのが、『オフサイド・ガールズ』という、聞いたことありませんかね?
サッカー映画です。ワールドカップ予選のスタジアムに男性に変装して潜入しようとする女性の…。
鈴木 あっ!わかった!わかった! あれか!!
荒木 あれ!あれ! イランでは女性の入場が禁止されていることを背景にした物語です。面白かったですよね。
鈴木 あれ面白かったね!あれかー!なるほど。
荒木 あれを撮った監督。そのあと撮った「グリーン・ムーブメント」というデモを題材にした映画で、2010年3月に逮捕されちゃうんですね。
それで実刑と、20年間映画製作と海外渡航禁止。で、自宅軟禁されるんです。
ところが、彼は自分のアパートで映画を創って『これは映画ではない』。という人を食ったようなタイトルで発表するんですよ。そして、 その後『人生タクシー』という、パナヒ自身がタクシーの運転手になって、撮った映画。ダッシュボ ードにカメラ一台だけおいて、撮影した映画なんです。これも面白かったです。
鈴木 おもしろいねー。
荒木 はい。検閲が厳重なイランで、12年間、芸術的表現の権利を放棄することなく、ドキュメンタリーとフィクションをミックスした形で、政治的、社会批判的な作品を作り続けているんです。国内では上映も出来ず、見られないんですが、海外の映画賞はすごい賞を連発して取っている。私も大好きなんですけど。
鈴木 なんか気骨があるっていうかなんか…。
荒木 映画作品はいろんな方法で、外へ出せる。ま、自分の、ノンフィクションだって言って撮っているんでしょう。
この映画の『熊は、いない』、NO BEARSというタイトルですが、“熊”というのは、映画の中では、脅威という警告の意味で使われているんですけども、それは地元の迷信であったりとか、国家権力であったりするわけです。そういう意味で、『熊は、いない』という、逆説的な意味でつけていると思うんですけど。まあ、信じられないほどの抑圧的な社会問題が日常的に残っているということをはっきり語っているんですね。
この作品の完成後、またイラン政府に逮捕されちゃって…、ということらしいんです、今。
逮捕されても、監禁されて実刑じゃなくて、自宅軟禁とか、そういう形態が多いらしいですね。
鈴木 それも大前提のうえなのかなあ?逮捕するはするけど。
荒木 ま、高名な監督ですから、イラン政府もあんまり変な事も出来ないんですね。世界が見ているから。一般の人とはちょっと違うんでね。
鈴木 なるほどね。
荒木 ということで興味深い作品です。この映画、私のほんとに見ていただきたい映画の今年の10本に入る作品なんで、是非、機会があったら映画館に行って頂きたいと思います。現在公開中です。ちょっと硬い映画でしたけど。
鈴木 面白そう!
荒木 次はイベントです。 今週末行われる映画イベントで、北斗市の野外映画、アウトドアシネマ。いいタイトルです。「夜空と交差する森の映画祭 2023」です。
このイベントは10年くらいやっているらしいですけど、今年の長編映画は、「スパイダーマン:スパイダーバース」、「カメラを止めるな!」そして、「パディントン2」。というラインナップです。
鈴木 どれもいいじゃないですか!
荒木 さらに特別上映としてはWOWOW 連続ドラマ「にんげんこわい2」 という作品から第1話が見られるのと、さらには公募された短編映画が13本ほど、繰り返し流してくれるそうですよ。会場は、白州・尾白の森名水公園「べるが」。
鈴木 もう何度も何度も行ったことありますね。
荒木 一度行きたいな、行ったことないな。
鈴木 いいですよ。
荒木 9月23日お昼ころから始まり、翌日24日の朝までのオールナイト開催です。朝までやっているステージや企画もたくさんあるんで、ゆっくりとした時間の中で、森の中で思い思いに過ごしましょう…ということで。
鈴木 いいですね!季節的にいいから、夜なんか長袖なんか着ちゃって。
荒木 「夜空と交差する森の映画祭 2023」ということで、HPを見てください.。で、最後。音楽映画をご紹介しましょう。9月22日から公開です。「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」。

鈴木 CCRだ!!
荒木 ですね。
アメリカのロックバンド「CCR」こと「クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル トラヴェリン・バンド」1970年に行った伝説のロンドン公演を映像化した音楽ドキュメンタリーです。
鈴木 海外公演ってこと。
荒木 そうです。当時人気絶頂だったCCRは、ビートルズと並ぶ売り上げを誇っていたということで、ヨーロッパに、ビートルズに挑戦するという思いでロイヤル・アルバート・ホールに乗り込むんですが、4日前にビートルズ解散というニュースが報じられます。そんな状況下でCCRは渾身のパフォーマンスを発揮して、このホールでの公演はロック史に残る屈指のライブと言われます。今回50年ぶりにロンドン公演の完全な記録フィルムが発見されたらしいですよ。これを4Kで復元し、メンバーへのインタビューとか、バンド初期のライブ映像などを交えて、彼らの軌跡を追うもので…。
鈴木 もうCCRがわかる1本ですよね。
荒木 そうなんですよ。俳優ジェフ・ブリッジスがナレーションを担当しています。ダイちゃんには、もう前もって観ていただいているんですけど、如何でしたでしょうか。
鈴木 僕は、そもそもCCRというバンドは昔から、少年時代から好きで…。
荒木 ああ(笑)、そうでしょうね。そうだと思います。
鈴木 そうだと思いますよね(笑)。それで、アメリカンバンドという意味でも、好きなものなんですが、やはり、カリフォルニア、サンフランシスコ出身であるくせに、くせに、南部ロック、サザン・ロック、スワンプ・ロックをやりやがってですね、非常に泥臭い音なのに、2分3分でまとめちゃうところがまた良くて、音楽を、ロックンロールをよく知っているなって感じで。
荒木 そうですよね。
鈴木 ジョン・フォガティの声の古くささとソウルフルさといい、泥くささといい、ブルージーな雰囲気といいね…。
荒木 ほんと確かに、僕も好きでした。
鈴木 荒木さん好きでしょ!完璧に。
荒木 はい。「スージーQ」が一番はじめかな。
鈴木 そうです。「スージーQ」が一番最初。シングルで一番最初ですものね。
荒木 いろいろ、「ルッキン・アウト・マイ・バック・ドア」とかね。ヒットはしているんだけど、1位にはなってないみたいなんだよね。
鈴木 そう!ほとんど2位止まりなんです。トップ5に入るんだけど、2位止まりってところは伝説的で好きなんですよね。
荒木 そうそう、シルバーコレクターですよね(笑)。
鈴木 そうなんです。ジョン・フォガティが、ソロで、2010年富士ロックに来てるんですよ。あれ、僕見てるんですよ!富士ロック見ているんですよ。
荒木 そうなんですか。へぇー。
鈴木 ジョン・フォガティのTシャツ、当時富士ロックの現場で買って、それ着こんで…声がまったく変わってなくてびっくりした。全然変わってなかったですね。
荒木 なるほどねー。4年あまりの活動で、それも含めて伝説のバンドというか…。ヒット曲は、みなさん耳にしたことあると思うんですけど、あの話題の、例の、「雨を見たかい」では、ベトナム戦争の反戦歌じゃないかと言われているし。フォガティ自身は違うよと言っているんですけど。
鈴木 「フォーチュネイト・サン」は、「フォレストガンプ」なんかでも使われてたし、アメリカンヒストリーには欠かせないバンドですよね。
荒木 そうですよね。ホントそういう意味で、70年代のあの当時は、なんていうか男性的なイメージの強い…。
鈴木 マチズムは感じますよね。
荒木 そうですよね。
鈴木 マチズムは感じるけど、何だろうな…、あの3分間にまとめてくるってのは、繊細な編集能力ないとやっぱり無理じゃないですか。感覚的には、細かい方なんじゃないかと思いますけど。
荒木 ライブが演奏されることを主眼において、曲作りをしているってことも聞いてますし、懐かしい、いいバンドでしたよね。
鈴木 最高のロックンロールバンドですよね。
荒木 ということで、22日からの公開です。「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド」というタイトルです。是非大きいスクリーンで、4Kで、観に行ってください。特に後半盛り上がるね。
鈴木 そうですね。荒木さん、世代的にもCCR大好きでしょう、めちゃくちゃこれは。
荒木 大好きです。絶対5本の指に入ってくる感じのグループですよね。
鈴木 やっぱりそうですか!そんなことを荒木さんから伺えたことも嬉しいなって、ワクワクする感じしましたね。
荒木 このあと曲を聞いてもらいたいと思います。
鈴木 1曲選んでおおくりいたします。ありがとうございます。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。