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映 画
「イタリア映画祭」などのとっておき情報
(2023年7月1日13:15)
映画評論家・荒木久文氏が「イタリア映画祭」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月26日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 このところ日本で行われている各国の映画の特集上映、いわゆる映画祭の情報をお送りしてきました。前々回は韓国、そして前回はインド大映画祭ということでした。今回はイタリアです。といっても実は今年のイタリア映画祭は5月に東京と大阪で開かれて、すでに終了してはいるんです。
鈴木 あらあら?
荒木 その映画祭の目玉で、オープニング作品だった「遺灰は語る」という今日ご紹介する映画が、非常に話題を呼んでいますので、ご紹介します。もう公開されてるんですが、「遺灰」は死んだ人の骨を灰にしたものという意味の遺灰です。
ストーリーからいきます。1934年にノーベル文学賞を受賞したイタリアの文豪ルイジ・ピランデッロという人がいました。この人は死んで遺言を残します。
内容は「わたしの遺体は火葬にしてその灰を故郷のシチリア島に残して欲しい」というものでしたが、当時のイタリアの独裁者ムッソリーニは彼の名声を利用するために、遺灰をローマに還さないんです。第二次世界大戦後、ようやくシチリアへ帰還することになり、シチリア島のお役人がその重要な役目を命じられ、取りに行って持って帰ろうとします。ところが、彼がアメリカ軍の飛行機で運ぼうとすると、縁起が悪いと搭乗拒否されたり、汽車で移動中に遺灰の入った壺がどこかへ消えてしまったりと、次々とトラブル、アクシデントが起こるんです。で、珍道中みたいになるんです。
ここまで全編 モノクロなんですけども、突然、後半カラーに代わってですね、全然違う話が出るんです。
鈴木 時代も変わるってことなんですか?
荒木 そうなんです。なんでというと、内容的にはニューヨークのブルックリンに渡る、シチリア出身の少年の話になるんですけども、前半とは全くシュチュエーションが異なるというね。これは、亡くなった当人のピランデッロの「釘」という、彼が死の直前に書いた短編小説を映画化したものなんです。
だから、全くおかしな構造になっているんです。観てる人は何が何だかわかんないという、全く別の映画が2本組み合わさっているような感じなんです。不思議な映画なんです。じゃあ、こんな不思議な作品 誰が作ったのというと、パオロ・タヴィアーニという91歳のおじいちゃんイタリア人監督なんですよ。
鈴木 ずっと映画監督やられていた方なんですか?
荒木 そうなんです。有名な方で、お兄さんと一緒に映画監督をやっていたんですよ。イタリアでは知らない人のいない名作を送り出してきたイタリア映画界の重鎮なんです。お兄さんが死去したため、今回の作品がパオロさん単独の監督作品なんです。まずわかりにくい。
わかりやすくは作っていないんですよ。もう非常にいろんな引用がちりばめられていて、知ってる人はわかるんでしょうけど、とても変わった難解な作品ではありますが、とても見応えのある作品です。面白いというか、奥が深いというか、コメディっぽいところもありますんでね。だけど、人間には達する境地というものがあるんだなあと。よく、美術館とかいろんなところに行くと、「おおー!境地だ」と思うでしょう。ああいう感じ。
鈴木 わかる!ちょっと達観した感覚になりますよ。
荒木 そうなんですよ!ああいう感じですよ。第72回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した作品です。
ちょっとわかりにくい説明でしたけど、「遺灰は語る」という作品です。
ということで、そろそろ華々しく大団円を迎えようとしていますね!
大不人気の企画ですけど(笑)。「私の好きな映画音楽」です!
鈴木 出た!出ました!
荒木 一部、私たちだけで盛り上がっているとも言われてますが…。
鈴木 いい!それでいいんだよ!
荒木 今回は私、荒木久文が選ぶ「私の好きな映画音楽日本映画編」です。
鈴木 今回、これは結構楽しみに聞かれる方多いと思います。荒木さんの好み。
荒木 自分でやってみて一曲選べっというのがこんなに大変で、もともと無理だということがよくわかりました。だから人気無いんだよね、応募少ないし…。
鈴木 あはははは。
荒木 とりあえず、気を取り直して勝手に盛り上がって行こうってことで、ダイちゃんも盛り上がってちょうだい。
鈴木 わー!!パチパチパチパチ。
荒木 まず、私が選んだ大好きな日本映画音楽1曲目はこれだー!!
♪~「仁義なき戦いのテーマ」~
鈴木 これー?!これ、もしかして「仁義なき戦い」?
これ選んでんの?!いきなり!
荒木 アドレナリンが出るでしょう?
鈴木 出る出る!
荒木 言うまでもなく名作ですね。1973年の「仁義なき戦い」のテーマです。
原爆のキノコ雲とともにスクリーンから暴力的に襲いかかってくるこのテーマ。ダイちゃんご覧になっていますか?
鈴木 だいぶ前、ビデオ、VHSかなんかの時に借りて観た記憶があるな。
荒木 やくざ映画、任侠映画ですよね。ヤクザ映画は戦前からありましたが、一番脚光を浴びたのは1960年から1970年くらいですかね。
言うまでもなく高倉健さんの作品ですよ。「網走番外地」とかね、いい映画たくさんありました。こういうのもほんとよく観たんですけど…。
ところが1973年に発表されたこの「仁義なき戦い」は従来の任侠ものとは全く異なった映画なんです。
鈴木 どういうこと?
荒木 観ていただくとわかるんですけど、従来ヤクザを、特に高倉健さんとか義理や人情に篤い人間として描かれていたんです。
鈴木 ちょっと美化してたってこと?
荒木 そうそう。主人公が耐えて、耐えて、最後は悪人を打ち砕くという…ね。それはそれでとても見応えのあった作品だったんですが、この「仁義なき戦い」は、広島の暴力団抗争の実話に基いてるんですけど、ヤクザ見たでしょ? 特に山守組組長とか。ずるくて卑怯で臆病なんですよ、かつ滑稽。ほんとに人間くさかったですよね。
リアルで怖かったしね。それを感じられる映画としてはじめて描いた作品なんですね。
鈴木 大傑作、エポックメイキングな一本ってことじゃないですか!
荒木 おっしゃる通りです。ヒットもしました。監督、深作欣二、主演、菅原文太ですね。カメラワークも独特でしたよね。グラグラ揺れてて走ったりなんかして。
鈴木 ちょっと酔うよね、酔うんだよねあれ。
荒木 そうね。で、今聴いていただいた音楽は、津島利章さんという、多彩な音楽性を持っていた人で、クラシックもジャズと両方のセンスをもっていた方だったようです。感じますよね。
シリーズはの1から9まで、9作続いたんですけど、一番注目すべきは、最後の作品から約20年後に作られた、「新・仁義なき戦い」という2000年の作品なんですよ。これは 監督は阪本順治さんで、出演は豊川悦司さん、布袋寅泰さんです。 1のリメイクと言っていいと思うんですけど、あの布袋さんが音楽監督を務めてます。彼が作ったこの映画のテーマ音楽なんですよ。
♪~「新 仁義なき戦い。のテーマ」
バックに流れてますよね。
鈴木 これ、聴いたことあるっていうか…。
荒木 さすが!
鈴木 なんか、どっかサントラで入ってた気がするよ。
荒木 そうなんです。2003年に公開されたタランティーノ監督の映画「キル・ビル(Kill Bill)」で、テーマ曲として使われた曲でもあるんですよ。
鈴木 入ってたね!同じ曲ですか?
荒木 同じ曲。タランティーノが、是非これがいいって言ったらしいですよ。他にも、最近、今年3月の侍ジャパン、WBCのテレビ朝日系列のスポーツ系のニュースにこれ使われてましたよね。2021年の東京パラリンピック開会式でも、本人が弾いてましたよね。ちょっとよけいな話になりましたが 1曲目は「仁義なき戦いのテーマ」でした。
鈴木 最初からウケる!これは。
荒木 ありがとうございます。
さて、今回3曲選ぶにあたって、私、自身の好きな映画ジャンルで選ぼうと思ってですね、1曲目はやくざ映画ね。いろんな過去を振り返ってみたら、もうひとつはまあ、若い時に観た「娯楽映画」ですね。気楽に観られる。これから1曲チョイスしようと思いました。その娯楽映画がこれです!
♪~「男はつらいよ」~♪
鈴木 男はつらいよシリーズですかー。
荒木 (笑)もうこれしかないですよ! 日本映画史に残ると言えば、黒沢も、小津も是枝も、たけしもいるけど、山田洋二ですよ。そして車寅次郎ね!
ダイちゃんはこのシリーズは?
鈴木 観たことあるけど、どれをいつ観たのか記憶に無いくらい、適当にバラバラ観ている感じですよね。
荒木 それでいいんです。だって50作作られているんですよ。
鈴木 それが4作目はなんで…とか、全然わからないもの。
荒木 お話は共通ですね、寅次郎が、故郷の柴又に帰って来て、何かと大騒動を起こす人情喜劇なんですけど。 毎回旅先で出会った「マドンナ」、恋は成就しないんですよね。その寅次郎の恋愛模様を日本各地の美しい風景を背景に描いてます、
本当に日本的なね。ダイちゃんは?どのマドンナが好きでしたかね?
鈴木 僕は、松坂慶子さん!美人でしたよね!
荒木 なるほどねー、綺麗だったよね。人気の高いのは、松坂さん、吉永さん、大原麗子さんもね。
私は、浅丘ルリ子さんのリリー。4回マドンナを演じていましたよね。ロケ地も全国各地を巡っているんですが、山梨県だと第10作でやってるんですね。
鈴木 山梨でやってるの?
荒木 はい。 「寅次郎夢枕」甲府がメインですね。50作も作っているんで、ギネスブックですね。
で、ある時期、お盆とお正月きっちり2回やって、みんなお正月に集まっちゃ、ご飯食べたら家族で映画館に行くっていうね。
鈴木 いい時代じゃないですか。
荒木 いい時代だったですね。私の友達も世田谷の成城に住みながら、お正月、ご飯終わったらみんなで映画館に行ったっていう(笑)。
主題歌の「男はつらいよ」は、星野哲郎、山本直純なんですけど、ほんと息の長い曲でみんな知ってますよね。若い人も。
鈴木 知ってる、知ってる。
荒木 他の人が映画の中で歌ったこともあるんですよ。
鈴木 え?知らない。
荒木 49作、渥美さん亡くなったあと、八代亜紀さんが特別編でやてるんです。そして50作は、なんと桑田佳祐さんが歌ってます。
鈴木 凄いな!それ。
荒木 味があってとってもいいですよ。
この「娯楽映画ジャンル」、何にしようかとっても迷いましたけど、加山雄三の若大将シリーズとかね、ゴジラのテーマとかね、クレイジー・キャッツの無責任シリーズもいいなと思ったんですけど。
鈴木 いっぱいあるなー、考えてみたら。
荒木 こういったジャンルでこの曲が好き!!という人がいましたら、まだ間に合わないかもしれませんがお寄せ下さい。
鈴木 あはははは。
荒木 ということで3曲目 ジャンルとしては アイドル映画です。
アイドル映画っていうと、ダイちゃんどうなの?
鈴木 何だろう?ジャニーズ系が出て、てんやわんややって、恋しちゃって何とか…、そういうノリですよね。
荒木 一般的なアイドル映画というと、映画史的には『セーラー服と機関銃』なんですよ。その前にいわゆる、橋幸夫とか、西郷輝彦とかの御三家や、郷ひろみの新御三家、その後も小泉今日子さん、松田聖子さん、山口百恵さんなんかもあるですが、これ歌謡が重要要素で入っている青春映画なんですね。そういう意味でいうと、映画史的には「セーラー服と機関銃」が最初ということになります。
鈴木 そうなんだ!そういう位置づけなんだ。
荒木 はい。まそんなに学術的にきちんと決まっているもんでもないですけどね。そういう風に言われてるっていうね。その中から、私、2曲に絞ったんですよね。逆に、絞れなくて…。1曲目は『セーラー服と機関銃』です。
鈴木 薬師丸ひろ子さんの?
荒木 はい、監督は相米慎二さんで、作詞来生えつこ 作曲は来生たかおさんの「夢の途中」が原曲、大ヒットしましたよね。ちょっとアートフィルムっぽい異色の映画作品でもありました。
そして2曲目は、映画「時をかける少女」から、大林宣彦監督の…。
鈴木 原田知世さん? あはははは。
荒木 主題歌の作詞作曲は、ご存じの通りユーミンですよね。1983年3枚目のシングルなんですよ。初回プレス盤は、レコードジャケットにラベンダーの香りが付いていましたよ。本当にラベンダーの香りだった。覚えています。匂いの記憶ってあるんだよね。
鈴木 匂いと声は忘れないらしいよ。
荒木 この映画、本編最後のエンディングテーマとしても使用されていて、最後に撮影現場を繋いだミュージカル風の映像が流れるんですよね、みんなで歌っている。よかったですよねー。この2人、角川シスターズの長女と次女的存在で、透明感のある歌声で、素人っぽい歌唱でね、こんな透明感溢れる歌声、天使の歌声かと思いました。
どちらを選んだかは、この後聴いてもらえばわかると思うんですけど、私昨日の夜から迷いに迷ってですね、ダイちゃんにも新海さんにもそこまで悩まなくてもいいんじゃないかと言われました。
鈴木 勝手に決めてくれ!って感じですよー。
荒木 (笑)どっちでもいいんですけどね、拘りました。ということで、結果は聴いてもらうんですけど、大人気じゃない、大不人気で人気のこのコーナーも、あと1回か2回で終了ですね。私はもう1回海外映画で!
鈴木 それ是非聞きたい! いいね、そういうのがいいねー。
荒木 私の好きな…。今度は思いっきりマニアックですからね。みんな知らないかもね。よろしくお願いします。
鈴木 ありがとうございます。
♪~「セーラー服と機関銃」~♪
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。