-
映 画

「男の優しさは全部下心なんですって」「葵ちゃんはやらせてくれない」「漁港の肉子ちゃん」のとっておき情報
(2021年6月9日15:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「男の優しさは全部下心なんですって」「葵ちゃんはやらせてくれない」「漁港の肉子ちゃん」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月7日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、よろしくお願いいたします。
荒木 はいー 今まで大作のご紹介が多かったので、今日は今週公開の映画から暫くぶりに個性的な小さな作品から紹介しましょう。両方とも題名がとてもユニークで面白いですよ。
1本目は「男の優しさは全部下心なんですって」というタイトル。
鈴木 おー、わかる―!!!
荒木 2本目は「葵ちゃんはやらせてくれない」というタイトルです。
鈴木 えええー?!! あはは!!
荒木 両方とも6月11日公開です。

まずは「男の優しさは全部下心なんですって 」…のむらなおさんという女性監督ですね。
ヒロインはみこちゃんという若くてきれいな24歳。メリーゴーランドの受付をしたり、着ぐるみを着て風船を配ったりしています。彼女、人が良くってすぐ人を好きになってしまします。いわゆる恋愛体質というわけですよ。でも好きになる相手には必ず本命がいるんですね。それでも、みこちゃん、好きになった男を全力で愛してきましたが、結局なぜか男たちは彼女から去ってしまいます。それで 彼女についたあだ名は“恋愛体質純情セカンド”つまり2番目の女。どういうわけかファースト、唯一の恋人になれません。
それでも結構 出会いもあって…さあ、日常、非日常の境も超えて、みこちゃんの奮闘は続きます…。
鈴木 おもしろい!ここまで聞いただけでおもしろい!!(笑い)
荒木 映画初出演の辻千恵さんという女優さんが主演を務めています。
ポップでちょっとアクの強い世界観のラブストーリーとでも言いますか?気軽にみられる作品です。私たちからすると「やさしさは全部下心なんですって?」聞かれたら、「そりゃそうですよね。」というしかないですよね??だいちゃん?
鈴木 そりゃそうです。下心で包んでいるですよね?いい具合に・・・。
荒木 そうですか(笑い)「男の優しさは全部下心なんですって 」という作品でした。
鈴木 名作という気がしてきた・・・。

荒木 次、2本目「葵ちゃんはやらしてくれない」という身も蓋もないタイトルですが…ストーリーです。映画監督を目指す青年・信吾くん。
彼の前に、大学時代の映画研究部の先輩川下さんという男性が幽霊となって現れます。
川下さんは一年前に自殺していたのですが、なんと片思いをしていた大学時代の後輩・葵ちゃんとどうしてもエッチをしたいという願いをかなえるために、蘇えってきたというんです。そして、二人で過去の一日にタイムスリップしようと言いだします。
その日は もしかしたら川下さんが葵ちゃんとセックスできたかもしれない唯一のチャンスだった、大学時代のある一日に戻ってくるのですが…さあ 川下さんは過去をやり直し、念願の葵ちゃんとエッチできるのか?というまあ、タイムスリップナンセンスラブストーリとでも言いますか…。
鈴木 これも名作に思えてきた…。
荒木 新進女優の小槙まこ(こまきまこ)が葵ちゃん役を演じています。
ちょっと平手友梨奈ちゃんとかスケートの本田真凛ちゃんに似ている感じですかね。
この作品はあの老舗のレコードメーカー・キング・レコードさんの配給です。
キングレコードの映画レーベル「エロティカ クイーン」の一作。
キングレコードは映像に力を入れているんですよ。
この企画は、大人向けに魅力的な作品を届けるべく 才能豊かな女優や女性タレントを主役に起用して、魅力的なストーリーとともに刺激的な“愛のカタチ”を提供するレーベルです。名前の通りちょっとエロチックな作品を揃えています。
最近のタイトルをあげると「裸の天使 赤い部屋」。なかなかいいですよ。
刺激的なラブストーリーでありながら気軽に気軽にみられる映画です。
キングレコードの映画レーベル「エロティカ クイーン」注目ですよ。
「葵ちゃんはやらしてくれない」6月11日から公開です。

最後は6月11日公開「漁港の肉子ちゃん」というアニメ作品。もういろいろなところで取り上げられています。
漁港は漁師の港です。肉の子供と書いて肉子。
あの明石家さんまの企画・プロデュースで、直木賞作家・西加奈子の小説をアニメ映画化ということで今、とても話題になっている作品です。
舞台は 東北、宮城県あたりですね、小さな漁港で暮らしている食いしん坊でまるまる太っている脳天気な肉子ちゃん。年は30とか35ぐらいかな?そのくらい? 娘が一人います。しっかり者でモデル体型の11歳 小学校5年生の娘キクコちゃん。
肉子ちゃんは食堂で働いているのですが、情に厚くて、惚れっぽく、さっきと同じ恋愛体質なんですね。すぐ男に惚れて、騙されてしまいます。とてもクールな娘の喜久子ちゃんはそんな母のことが少し恥ずかしいんですが、とてもいい子です。ところが、この親子何なら訳ありそうなんですよ…やがていろいろな出来事からこの母子、二人の秘密が明らかになっていきます。という筋立てなんですが…。
声の出演は主人公・肉子ちゃんの声を大竹しのぶさん。娘のキクコ役には、木村拓哉さんの長女でモデルのcocomiさんです。
結論から言いますと、この作品、今年のアニメーション作品としては断トツの出来です。
鈴木 ダントツにいいですか?!
荒木 絵作りと言い、脚本と言い、演出と言い、出色で、間違いなく今年前半の作品としてはトップクラスの、とっても質の高いアニメーション作品だと思います。
理由はいくつかあるんですが、そのひとつは映像の美しさ! 東北の小さな港町が舞台ですが、その舞台になる、海や山と森、田んぼと水路 雨と青空、風景がとても鮮やかに描かれています。全体の絵の色調のバランスが取れていて、とても繊細できれいで素晴らしい。もちろん人間の描写、大人と子供のはざまにある、11歳前後の少年少女たちの心の動き、身体の微妙な描写もすばらしいです。
どんなスタッフが作ったのかというと…
原作はさっきいいました、「サラバ!」で直木賞を受賞し、「さくら」や「きいろいゾウ」など、著作が映像化されてきた人気作家・西加奈子の小説。
スタッフは、まず素晴らしい「海獣の子供」で多くの方面から高い評価を受けた渡辺歩監督。「ドラえもん」なんかにもずーっと関わっていますね。
そしてSTUDIO4℃という 最近乗っているスタジオ。 スタジオジブリ出身の小西賢一がキャラクターデザイン・総作画監督、脚本は大島里美さんが担当。 とにかく今一番注目されていると言っていい素晴らしいスタッフ陣です。
鈴木 へーすごいね。
荒木 少女の微妙な心の動きを中心に親子の愛とか家族の姿、結びつきをリリカルに表現しています。内容的にはネタバレになる部分が多いのであまりお話しできませんが、アニメファンや映画ファンの人には作品へのオマージュがたくさんちりばめられていることですね。例えばジブリ作品、例えば「となりのトトロ」の、ああこれどこかで見たな?と思われるところ、そして食事シーン。ジブリと言えば、登場人物たちがおいしそうに食事をする場面、多いですよね。あとフレンチトーストを作る場面もあるのですが、親子で協力してフレンチトーストを作ると言えば、ダスティン・ホフマン主演の名作「クレイマー、クレイマー」! に出てきます。
随所にこうした名作へのオマージュ、リスペクトが随所に見られ、映画ファンの心をも
巧みにくすぐる映画愛にあふれた一作になっていますよね。
そして「問題」です…。
鈴木 問題?
荒木 そうです。問題は 「明石家さんまプロデュース」。これです。
鈴木 なんで それが問題なんですか?
荒木 だってねー ダイちゃん、明石家さんまさんと言いますと、お笑いの大家ですよね? 好きでしょ?
鈴木 そりゃそうですよ。好きも嫌いもそんなレベルじゃなく、そこにビートルズがいたように、そこに、さんまさんがふつうにいるわけですよ。
荒木 そうですね。その「明石家さんま」というインパクトと、吉本興業の作品だということ、そして“肉子ちゃん”というタイトルのインパクト。
これだけ見ると、この作品、お笑いの、それも大阪ノリの悪乗りコメディだと思っちゃう人が絶対いるってことですよね。
鈴木 そりゃそうですよね。普通そう思っちゃうんじゃないですか?
荒木 そうでしょ。だから、これがもしかしたら 足引っ張っちゃうんじゃないか?とちょっと心配なんですよ。事実 私も 作品見る前は、ちょっとねー、なにか騒々しくって暑苦しい作品なんじゃない?ポスターも太ったおばはんがバーンと出てるし…というイメージがありましたが、もう正反対の繊細ですばらしい作品ですよ。
鈴木 あらら…。
荒木 だからちょっとさんまさんプロデュースというと誤解しちゃう人いるんじゃないかと…。
鈴木 見終わった方は、さんまさんのプロデュースでなるほどと…そのギャップに萌えますよね。
荒木 そうかもしれません。なるほどね。それはあるかもしれませんね。声の出演、さっきお話した大竹しのぶ、cocomiさんの起用なんかも、さんまさんの力でしょうけども、その他の声の出演者がすごいすごい…。
今ここでは言えない方が多いんですが、エンドロールの声の出演者を見てびっくっりしちゃいますよ。えー、ビッグネームそろぞろ…蝉の鳴き声だけをあの大物にやらしてるの?なんてびっくりします。
鈴木 誰だ誰だ?せみー。
荒木 びっくりします。それこそ 効果音だけとかね。大物俳優無駄遣い。大量消費です。贅沢ですよー。声優だけじゃありません。
音楽もすごい。 主題歌は、あの吉田拓郎の名作「イメージの詩」です。 この作品にも出ている声優さんで、人気子役の10歳の稲垣来泉さんが歌っています。吉田拓郎さんも涙が出たと、絶賛していますよ。
後で聞いていただけると思いますが、エンディングテーマ音楽は、あの「GREEEEN 」の書き下ろし新曲「たけてん」です。
これもさんまさんの力。さすがは明石家さんま 両刃の剣というか。すごい。ですね。
「漁港の肉子ちゃん」、間違いなく、私は今年前半のナンバーワン作品と言えると思います。
鈴木 これは 賞取りも注目ですね。
荒木 チケットを朝からプレゼントして頂いていますが、チケットご提供頂いたから誉めてるわけじゃないですからね。(笑い)
鈴木 これはアニメファンに関わらず見ておきべき作品ですね?
荒木 そうですね。 見逃すと後で後悔する種類の作品ですよ。多分。
鈴木 荒木さん、ありがとうございましたー。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。