-
映 画

「きみの瞳(め)が問いかけている」と「花と沼」のとっておき情報
(2020年10月27日15:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「きみの瞳(め)が問いかけている」と「花と沼」の見どころととっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、10月20日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 こんにちは。よろしくお願いします。
荒木 よろしくお願いします。
鈴木 お元気ですが?
荒木 なんとか頑張っています。世間は『鬼滅の刃』が盛り上がっていますね。
鈴木 すごいことになってますよね。
荒木 すごいですよね。大変な記録を打ち出していますので、こちらも注目していきたいですね。コロナ禍でもいい作品は人気があるということですね。
鈴木 ちゃんと人が入るんですよね。
荒木 そうなんですよ。また、このことについては今後お話したいと思います。
鈴木 楽しみにしています。

荒木 今日は10月23日公開の『きみの瞳が問いかけている』という作品です。
吉高由里子さんと横浜流星くんの純愛ものです。
ストーリーです。
吉高由里子さんが演じる主人公の明香里(あかり)は、数年前に不慮の交通事故で家族を失ったばかりか、視力を失い 目が見えなくなってしまいます。
しかし彼女は、積極的に点字をマスターし、暮らしの中の小さな楽しみを糧に明るく日々を過ごしていました。
そんなある日、明香里は仲良くしていた駐車場の管理人のおじさんと間違えて、塁くん(横浜流星くん)という青年に声をかけてしまいます。彼はかつて将来を有望視されたキックボクサーだったのですが、過去のある事件をきっかけに心を閉ざし、アルバイトで食いつなぎ抜け柄のように生きていました。
小さな勘違いから、二人は話をするうちに距離は近づいていき、明香里に塁くんは次第に心を開いていくようになります。
ささやかながらも掛け替えのない幸せを手にした――かに見えたのですが、やがて塁くんは、自分が関わった過去の出来事が明香里の失明と関係があることを知ることになります・・・。それはあまりに残酷な運命のいたずらだったのです。
キャッチフレーズが「この秋一番泣けるピュア―ストーリーの感動作」という、ハンカチ3枚くらい用意した方がいいですね。涙もろいという人はスポーツタオルを首に巻いていった方がいいですかね。この前の試写会では声を上げて泣いていた人もいました。
鈴木 そこまでくるんだねぇ。
荒木 そうなんです。
チャールズ・チャップリンの名作『街の灯』にインスパイアされて製作された2011年公開の韓国映画で、130万人が見たといわれる『ただ君だけ』という作品をリメイクしたものです。
監督は、恋愛ものをやらせたら、「現代日本恋愛映画の巨匠」と呼ばれる三木孝浩監督です。これがまた上手く作ってあるんですよ。
吉高さん横浜くんの売れっ子同士ですが、横浜流星くんはこの映画のために体重を10キロ増量したそうです。空手大会で優勝経験のある横浜さんに、キックボクシングの対戦相手にはプロのキックボクサーが起用されており、キックボクシングのシーンは大迫力に描かれています。
そして吉高さんは不幸の嵐の中で健気に明るく生きる…というこのパターンの女子やらせたらその上手さはちょっと他に見当たらないですね。透明感がすごい。
彼女、恋愛映画はそう多くないんですね。そういう意味でこの作品は彼女の恋愛映画としての代表作になるんではないでしょうか?
もともとの原作があの名作チャップリンの『街の灯』をベースに描かれていますので、知らない人は集中して観ていられると思いますが、『街の灯』を知っている人はクライマックスに向かう作品のプロセスというか、展開が容易に想像できるので筋が読めちゃうから楽しみ半分とがっかりするかもしれませんが、そんなことありません。
鈴木 オマージュを捧げているという感じはあるんですか?
荒木 そうですね。筋立てはだいたいそうですね。
ただ、チャップリンの『街の灯』をベースにはしていますが、コピーではないので知っている方も楽しめます。
この映画、伏線がどちらかと言えばわかりやすく散りばめられています。
アイテムとしては、前半登場する花のかおり、それから子犬、明香里がいつも口ずさむ歌、そういった要素がエンディングに向かって大きな展開のきっかけになってくるんです。こういった伏線が、どういう風に回収されるのかな?生かされていくのかな?と考えながら観てください。ちょっと質のいい推理映画のように、まあ見事に終盤に向かって構成されていますよ。そんなところも見どころかもしれません。
今の日本の恋愛映画って、いわゆるキラキラ系の学園ものの美男美女で織りなされている作品がちょっと増えがちになっていると思っていたんですけど、これはあくまでアラサーとか大人向けになっていて、本当に大人の純愛という言葉が相応しいと思います。
鈴木 今の大人たちがかつて純愛をしていた、憧れていたことを思い出すんじゃないですか?
荒木 思い出しますよね。
キスシーンの撮り方も、ハリウッドではよく使われているヴィンテージレンズというものを使っているおかげで淡い感じになっています。綺麗で女性が喜ぶような、胸キュンの写真集みたいになっているんですよね。
美人とイケメンを観に行くということでもいいんじゃないでしょうか。
女性のための純愛ストーリー、10月23日公開の『きみの瞳が問いかけている』という純愛作品でした。

純愛ものの次はエロの話です。
鈴木 純愛の次、エロですか!?いきなり?
荒木 はい、すみません。エッチな映画のお話です。
私たちの若い頃、ダイちゃんの時代にもあったかな?ピンク映画というエッチな映画。
鈴木 ありました。観に行けたことはなかったけど、子供の頃観たいなと思ってました。
荒木 日本のエッチ映画の歴史は1960年代と言いますから、今から60年も前に始まっています。初めてこれを配給したのが大蔵映画という会社でした。
その後1970年代には「日活ロマンポルノ」が誕生し一世を風靡します。
その後1980年代前半はピンク映画の最盛期で、たくさんの「ピンク映画」と呼ばれるいわゆる成人映画、エッチな映画が作られました。
しかし、1980年代後半からはアダルトビデオに主役を奪われ衰退します。
鈴木 僕らの頃はそっちがメインでしたからね。
荒木 そして今はすっかりネットの世界が主戦場ですよね。
ところがそんなこのネットエロ全盛の時代に、ただ一社このピンク映画の灯を絶やさず、作り続けている会社があるんですね。それが「大蔵映画」です。1962年に製作された日本で最初のピンク映画『肉体の市場』というタイトルですが、これを配給したのがまさに大蔵映画なんですね。
それから56年、今でも「OP PICTURES」(オーピーピクチャーズ)名義で年間36作品をコンスタントにピンク映画を製作して上野のオークラ劇場などで上映しています。知る人ぞ知るです。伝統を頑固に守っている職人さんみたいですよね。
これらのピンク映画、当然18歳未満禁止です。そこで大蔵映画さんは考えました。
ピンク映画をより多くの方に観てもらうにはどうしたらいいだろうと。
そこで考え出されたのが「OP PICTURES+」(オーピーピクチャーズプラス)というシステムです。
鈴木 え!どういうこと!?
荒木 一つの企画をR18とR15の2バージョンで製作、エロティックな世界観はそのままに濡れ場をコンパクトにしてドラマ部分をより充実させたR15+を一般劇場で公開し、ピンク映画を15歳以上の高校生でも見られるようにした特別企画なんですよ。
鈴木 15歳と18歳というその3歳の差っていうのがまたいいですね。
荒木 まさにそこの層に観てほしいんですよね。
R18+は成人映画劇場で、R15+は一般劇場で公開というわけです。
2015年から始まっています、プロジェクト「OP PICTURES+」(オーピーピクチャーズプラス)。前にも紹介したことがありましたよね。『夫がツチノコに殺されました』とかいう映画、覚えてますか?
鈴木 ありましたね。覚えてます。
荒木 このR15+のピンク映画の特集上映「OP PICTURES+フェス 2020」が、今年も10月29日まで、東京・テアトル新宿で開催されます。
今日はその「OP PICTURES+フェス 2020」についてちょっと紹介します。
今年の7月の最終週に紹介した『アルプススタンドのはしの方』という非常にいい映画だよって強く推薦しました。ディレクターの日原さんも見に行ったと言ってました。
あの作品の監督をしたのが、ピンク映画界の巨匠、城定秀夫さんです。
その城定秀夫監督がメガホンをとった最新作『花と沼』が上映されるのをはじめとし、彼の過去作品が複数リバイバル上映されるんですね。これもめったにないことですよ。
まず最新作『花と沼』です。
内容は気持ちの悪いもの、“キモいー”というものに性的な興奮を覚えるOLと、彼女がひそかに思いを寄せるキモイ上司の淡い恋を描くいわば“超変態恋愛物語”です。
やることなすことすべてがキモいと全社員が認める自分の上司にたまらなく興奮してしまうOLが、ある日、彼の愛用する万年筆に小型盗聴器を仕掛けることから物語が始まります。
鈴木 むちゃくちゃ面白そうじゃないですか!
荒木 OLの名前が一花ちゃん。上司が沼田なので『花と沼』というタイトルなんです。
ばかばかしい設定をまじめに変態的フェチズムとして描いていて、ユーモラスな発想が面白いです。
ベットシーンなども、ウェブとかAVに見慣れていると、むしろおとなしめです。というか想像させる映し方でむしろ新鮮じゃないかと思います。ぼかしも入っていません。
そういう撮り方をしていません。
他にも城定監督の作品は『悦楽交差点』、『舐める女』、『方舟の女たち』、『恋の豚』などが上映されます。
鈴木 タイトルだけで観に行ってしまいますね。
荒木 そうですよね。
さらに本特集では、OP PICTURES新人監督発掘プロジェクト2019で優秀賞を受賞した佐藤周のピンク映画デビュー作、ホラーピンクと書かれています。『橘アヤコは見られたい』が上映される他「OP PICTURES+フェス2020」では全17作品が上映されます。
タイトルだけ見ても面白そうですよ。
『おっさんとわたし』という、おじさんと若い女性の不思議なポジティブストーリー。
『今宵、奇跡が起きる温泉で。』温泉を舞台にした人情ファンタジー。
鈴木 奇跡起きてほしいね。
荒木 僕一番いいなと思ったのは『揉めよドラゴン 爆乳死亡遊戯』。
鈴木 揉めよドラゴン!!!
荒木 こんな面白いタイトルのものをやっています。
10月29日まで、東京のテアトル新宿で開催されています。「OP PICTURES+フェス 2020」についてでした。興味のある方は是非検索して観に行っていただいたいと思います。
鈴木 荒木さんが教えてくれたこのタイトルだけで鈴木ダイは十分きますね。
荒木 タイトル付けるの上手いですよね。
鈴木 上手いね。すごいなぁ。
荒木 良いタイトル特集というのできそうなくらいですね。
鈴木 荒木さんが学生の頃、日活ロマンポルノには普通にみんな行ってる感覚なんですか?
荒木 そうですね。三本立てというものもありましたから、一日中入り浸ってたこともありますよね。
鈴木 じゃあやっぱり普通に行けてたんですね。
荒木 今活躍している監督、黒沢清さんとかそういう方たちが作っていた作品でしたから、そういう意味でも注目ですし、才能を培った時代でしたよね。
鈴木 それって、クラスの女の子とか好きな子が「何あいつら」とか言う感じにはならないんですか?
荒木 公言して行きませんからね。黙って行きますけど、一般の映画も日活ポルノも観てましたね。あんまり選ばなかったですね、洋画も観たし。
鈴木 映画ならなんでも観たいんだね、やっぱり。
荒木 そういう時代でしたね。
鈴木 荒木さん、今日はいい感じに色んなところに含みがあって終わる感じがしていいですね。
荒木 純愛とエロという対比でしたけど。
鈴木 見事ですね。それではありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。
【関連記事】
「スパイの妻」と「わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない」のとっておき情報
「82年生まれ、キム・ジヨン」と「本気のしるし」のとっておき情報
「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報
「ミッドナイトスワン」「蒲田前奏曲」「エマ、愛の罠」のとっておき情報
「窮鼠はチーズの夢を見る」と「マティアス&マキシム」のとっておき情報
「喜劇 愛妻物語」と「カウントダウン」のとっておき情報
「頑張る若者たち」を描いた「行き止まりの世界に生まれて」「田園ボーイズ」のとっておき情報
青春学園コメディ「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」と村上虹郎主演の「ソワレ」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ホラー映画特集―「メビウスの悪女 赤い部屋」「事故物件 恐い間取り」などのとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ジェクシー! スマホを変えただけなのに」などこの夏おすすめの映画3本のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/海洋パニックホラー「海底47m 古代マヤの死の迷宮」など「海の映画特集」
アラキンのムービーキャッチャー/又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/今までにない長澤まさみ主演の「MOTHER マザー」と「のぼる小寺さん」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ランボー ラスト・ブラッド」と「悪の偶像」など注目映画のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と「15年後のラブソング」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ドイツ映画「お名前はアドルフ?」と異色のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「わたしの好きな映画・思い出の映画」:「世界残酷物語」と「八月の濡れた砂」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ブラピ主演「ジョー・ブラックをよろしく」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/コロナ感染拡大でミニシアターの危機と救済&映画「スター誕生」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報