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映 画

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と「15年後のラブソング」のとっておき情報
(2020年6月22日16:15)
映画館がコロナ対策をして再開されたなか、映画評論家・荒木久文氏が現在上映中の「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と「15年後のラブソング」の新作映画2本をピックアップ。その内容やとっておきのエピソードなどを解説した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、6月16日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 暑くなってきてもう夏バテしてるような気もするなぁ。荒木さーん!
荒木 春先から夏バテですね。年中夏バテとも言えるんですけど。
鈴木 大丈夫なんですか?ちゃんと寝て飯食ってますか?
荒木 あんまり寝れないんですよね。老人ですし夜中起きちゃうし朝も早いんですよ。
鈴木 それ辛いですね。気を付けてくださいね。
荒木 はい、気を付けます。
ということでね、いよいよ映画界も静々(しずしず)と動き出しました。
今日は、ハリウッド大作を一本ご紹介したいと思います。
「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」現在公開中の作品です2月のアカデミー賞特集の時にもちょっと紹介しましたが、日本では3月公開の予定だったんですが、3ヶ月近く待たされて今月公開されました。
若草物語という言葉がタイトルに入っていることからわかるように、19世紀のアメリカの作家、ルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説で誰でも知られている名作です。
どこの小学校の図書室にもありますが、さすがに男の子はあんまり読まないですよね。
鈴木 知ってるけど読んだことないですね。

荒木 まぁ一般常識で知ってればいい感じですよね。
原作は1860年代の南北戦争時代のアメリカでの、ピューリタンであるマーチ家の四人姉妹を描いた「若草物語」です。
続篇が3つくらいあり、過去4回ほど映画化されている名作ですが、今回のこの映画は原作続編を全部含んで原作と同じ「Little Women(リトル・ウィミン)」というタイトルで新しい視点で描いています。日本語タイトルが「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」とちょっと変わっていて賛否があるようですね。
映画では南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、みずみずしいタッチで描いています。
しっかり者の長女メグをエマ・ワトソン、活発で信念を曲げない次女ジョーをシアーシャ・ローナン、内気で繊細な三女ベスをエリザ・スカンレン、人懐っこく頑固な末っ子エイミーをフローレンス・ピューが演じています。豪華な顔ぶれですよね。
次女のジョーが中心になります。ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていたんですね。
女性が表現者として成功することが難しい時代、1860年代です。女性にとってのメインの仕事と言えば、社会的には教師くらいしかありませんでした。その時代に性別によって決められてしまう人生を乗り越えようと、思いを寄せる幼なじみのローリーからのプロポーズにも応じず自分が信じる道を突き進むジョーなのですが・・・。シアーシャ・ローナンとてもいいですよ。
恋人ローリーにはあのティモシー・シャラメ、そしてジョーの人生に大きな影響を与える伯母役をメリル・ストリープが演じています。
監督はグレタ・ガーウィグという人。聞いたことあるでしょ?
鈴木 グレタ・ガーウィグ、名前聞いたことあります。何やってた方でしたっけ?
荒木 女優でもあります。「フランシス・ハ」とかに出てましたが、2017年にシアーシャ・ローナン主演で『レディ・バード』という作品を初監督して、この番組でもご紹介しましたが、批評家から絶賛されアカデミー監督賞と脚本賞にノミネートされました。それ以来の俳優と監督のコンビです。
グレタ・ガーウィグの演出が本当に素晴らしいんですよ。物語が時間を超えて過去に戻ったり現在に飛んだり、行ったり来たりします。
ぼんやり観てると現在なのか過去なのか分からなくなっちゃいますね。作り方は親切とは言えません。しかしこのような時間の処理方法が、観客にとって姉妹の思い出だとか忘れられない瞬間とか人生の決断を実に印象的に鮮明に映すんですね。映画は7年間を描いているのですが、それだけ時が過ぎて時系列が前後しても、細かいところまでこだわって上手く作ってあるので、心情や様子がはっきり残るんですよ。非常にテクニック的に上手く作ってありますね。
鈴木 でも実際に頭の中の記憶って行ったり来たり、しょっちゅうやってますもんね。
荒木 やってますよね。決心したときの様子はこうだったんだな、というのが後になって生きてくる。そういうテクニックですね。
そして主演である次女のジョー役、シアーシャ・ローナンですね。今や若手ナンバーワンの25歳のアイルランド人の女優さん。一番印象に残っているのは「ラブリーボーン」という作品です。そして注目の女優は個性的な四女、エイミーを演じたフローレンス・ピューという女優さん。イギリスの若い女優さんでとてもはっきりした顔してますね。今年のアカデミー助演女優賞にもノミネートされました。
昨年公開された「ファイティング・ファミリー」という作品で女子プロレスラーを演じています。ちょっと丸っこいがっしりした体つきで、今後注目の女優フローレンス・ピュー。覚えておいたほうがいいですよ。
今年のアカデミー賞では衣装デザイン賞を取りました。
1860年代のアメリカですから基本的にはビクトリア調の針金が入っているような落下傘みたいなスカートで日傘さしているという感じが主流です。
4人の姉妹の服装は個性によって全く違います。活動的なジョーは男の子みたいな恰好が多く色は赤、病弱なベスは子供っぽい服で優しいピンク色が多いです。長女メグにはライラックとか緑、エイミーは水色が多い、というように色も効果的に使われていて個性がよく出ています。その辺りもよく見ていただくと色使いがとても楽しいです。
鈴木 意外にもディテールを見逃せないですね。
荒木 そうなんですよ。注意して作ってありますからね。
今回の映画、主人公は作者のオルコット自身と言われていますが、今回はそれだけではなく監督グレタ自身の姿が強く投影されているというか、気持ちがとても入っていると思いました。
女性に限らず、自立するということは「経済的」な自立を指しますよね。精神論、気持ちだけでなく金銭的な考え方や自立概念がきちんと前に出ているという感じです。
グレタ・ガーウィグとオルコットの共同作品という感じなので、是非この辺は注目です。
今月公開の作品の中では最大級の上映館、340館で公開中です。「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」、時間があったら是非観ていただきたいと思います。

もう一本、こちらも6月12日から公開中なのですが、「15年後のラブソング」という作品です。イギリスの人気作家ニック・ホーンビィの小説を実写映画化したラブストーリーです。
舞台はイギリスの港町サンドクリフ。30代後半の女性アニーが主人公。彼女は博物館で働いていて恋人もいます。長年一緒に暮らしている恋人ダンカン。二人は結婚もしていないし子供もいない、まあ腐れ縁ともいわれる相手です。
そんな状況の中で彼女は平穏とも言えるし煮詰まりそうでもある、もやもやとした毎日を送っていました。
ダンカンは15年も一緒に暮らしていますから、彼女を顧みることもなく自分の「趣味」のみにただ没頭するだけ。その「趣味」というのが、何年も前に引退してしまった伝説のロック・シンガー、タッカー・クロウの研究だったんです。ダンカンはタッカー・クロウに心酔しており、彼のポスターなどを飾った部屋を聖堂と称し神のように崇めていました。
鈴木 なんか分かるなぁ。
荒木 よくいますよね。
ある日、アニーはあまりにも自分を顧みないダンカンへの反発として、彼が主催運営しているタッカー・クロウのファンサイトに「タッカー自身と彼の狂信的なファンと曲の良さが全く理解できない」とけなし、ディスる投稿をします。
タッカー・クロウというミュージシャンはかつて大ヒットを飛ばした実力派ミュージシャンだったのですが、途中でやめて好き勝手に生きてきて、そして今はアメリカの田舎で世の中との繋がりを避け半ば世捨て人のように生きていました。彼にとって過去の栄光で自身を伝説化するサイトは、とても居心地の悪いものだったのです。しかし、彼はアニーの投稿を見てストレートな意見に好意を抱き、ある日アニーのもとに1通のメールを送るんです。それがアニーとタッカーをつなぐことになるのですが、この三角関係はどうなるのか…。
伝説のミュージシャン、タッカー・クロウをイーサン・ホークが演じていますが、うらびれた爺ちゃん感が本当に良いですよ。
ヒロインのアニーを「ピーターラビット」シリーズのローズ・バーンというコメディが多い女優さんが、アニーの恋人ダンカンを名わき役のクリス・オダウドがそれぞれ演じています。
伝説のミュージシャンを演じるイーサン・ホークはさすがにいいですね。
昔好き勝手やって引退してしまったアーティストで、自分の意志には関係なく神のように一部ファンに神格化されてしまい、しかも私生活では全員母親の違う4人の子供の父親。
孫も生まれおじいちゃんになるという寂れたダメダメ男を演じていますが、これがはまっています。また、その歌声には大注目です。イーサンのちょっとしわがれた声がとても心地よく耳に響きます。
音楽的にも注目の作品です。一流の人達がタッカー・クロウの曲を作っています。
映画の中でタッカー・クロウはかつてのオルタナティヴ・ロック系アーティストという設定です。実は監督のジェシー・ペレッツという人は人気オルタナティヴ・ロックバンド、レモンヘッズの初代ベーシストだった人なんです。彼はバンドを脱退後映像のほうに移ったのですが、一世風靡したロックスターでタッカーのようなよくある話の持ち主をたくさん見てきたんでしょうね
後半、オルタナティヴ・ロックのThe Pretenders(プリテンダーズ)が流れてきたり良いんですよ。
ダイちゃんに聞きたいことがあって・・・。
映画で面白かったのは、熱狂的ファンであるダンカンが自分の好きなタッカーの曲を「あれは最高傑作だったよー」と言うんですが、本人は「ああ、あれは失敗作、クソ曲なんだよ」というシーンがあるんです。作った人の思惑と受け取った人の感じ方は必ずしも一致しないのでしょうけども、アーティストの意向とファンの間でそのあたりのギャップって現実にはよくあるものなんですかね?
鈴木 相当よくある話じゃないですか。
一番あり得ると思うのは、アルバムのトラックをシングルカットするってあるじゃないですか。シングルカットの曲をレコード会社はこれは名曲だ、売れるぞー!って言うんですが、アーティストは一番つまらない曲だ、大嫌いだ、っていう曲なんだけど、レコード会社の意向でシングルカットしたら結果その人の最大のヒット曲になっちゃった!というのはアーティストは一番困るパターンじゃないですか。
荒木 なるほどね。ライブやコンサートでその曲歌わないということもありますよね。
鈴木 歌わないけどファンはわーわー言いますよね。辛いだろうなぁ。
荒木 熱心なファンになるほど気持ちが強くてそうなることもあるし、アーティストの作品は作者のものなのかファン一人一人のものなのか、そういうところも出てきて興味惹かれましたね。
いい歳した大人たちの後悔、懺悔、現実・・・それらと向き合い勇気を出して一歩踏み出す姿は勇気をもらえます。優しい気持ちになる、不器用な大人のラブストーリーでした。
音楽映画としてもクオリティ高いですよ。
「15年後のラブソング」という現在公開中の作品をご紹介しました。
鈴木 だけど荒木さん、ロックスターというのは僅か15年で過去の人になっちゃうんですね。
荒木 次から次へと新しい人が出てきますからね。
非常にいい雰囲気の歌が作られていますから、是非観に行って聴いてみてください。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。
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