コロナ感染拡大でミニシアターの危機と救済&映画「スター誕生」のとっておき情報

(2020年5月21日)

コロナ感染拡大で映画館が閉鎖される中、映画評論家・荒木久文氏がミニシアターの危機的状況と救済のための様々な試みを紹介。そして「スター誕生」の4作品を取り上げ、主演したジャネット・ゲイナー、ジュディ・ガーランド、バーブラ・ストライサンド、レディー・ガガの「鼻の形の比較」など、とっておきの情報を公開した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、5月12日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報(映画評論家・荒木久文)
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木ダイ よろしくお願いします。

荒木久文 こんにちは。はじめにリスナーの方々にちょっとお願いとお知らせがあるんです。新型コロナの影響で危機的状況を迎えているところは、いろいろなあらゆる業界でたくさんあるのはご存知の通りなのですが映画業界も例外ではありません。

特にね。ミニシアターと呼ばれている映画館が大ピンチに陥っています。ミニシアターというのは、ダイちゃん、ご存知じですよね、東宝とか大手配給会社の直営映画館ではなく、シネコンでもない独立系の、席数も少ない比較的小さな映画館です。渋谷ユーロ・スペースとか イメージ・フォーラムとか聞いたことあると思いますが 4月からはほとんど休みになっていて、当然収入はゼロに近いんです。

大手映画配給会社直営の映画館と違ってこれらのミニシアターはビルの1階とかを賃借していることが多いんです。都市部が多いので毎月高い家賃がかかります。非常事態宣言が延長されるとこれはもうどこかでお金を借りるというだけではもたなくなって、このままでは休館ではなく閉館つまりつぶれざるを得ない状況に陥りつつあるんですね。こういうミニシアターがつぶれちゃうと私たちにも観ることのできない映画がたくさん出てきます。

鈴木   そうですよねー。

荒木   つまり、大手配給作品以外のものです。この番組でも取り上げている、小さな個性的作品や東ヨーロッパやアジアの作品などですね。過去にミニシアターがヒットさせている作品というのは結構あって、最近でいえば「カメラを止めるな」「この世界の片隅で」などという、小さな低予算映画が多いのですが、個性的作品がとても多いんです。作品だけじゃなく、ミニシアターは多くの監督の発表の場になっていて、新人が世に出るきっかけを作っているんです。

今はビックになってる是枝監督もそうですし、園(子温)監督、最近でいえば今泉力哉さんなんかもそうですよね。若い監督はこういうミニシアターからスタートしていることが多いんです。 こういう人たちのチャンスが消えてしまうんですね。このような危機的状況にあるミニシアターを救おうと映画業界では一般の人に向けていろいろな試みが行われています。

そのひとつが「仮設の映画館」という企画です。仮説は仮設住宅の仮設 つまりバーチャルムービーシアターということです。インターネットで見る映画方法なんですが、まず一般の方(観客は)WEBから入って、作品を観客がお金を振り込んで鑑賞します。その際どこどこの映画館で見るという選択ができるんです。例えば岩波ホールで見たいと思えば岩波ホールを選びそして そこに行ったつもりになって、WEBで映画を見てお金を払うんです。すると劇場側はそのお金を配給会社と分けることになってお金が回ることになるんですね。だから誰でもこのシステムを通じて、ミニシアターを応援するということができるということになるんですね。これが「仮設の映画館」というシステムなんですね。詳しくはWEBで「仮設の映画館」で検索してみてください。

もう一つミニシアター支援策があります。これは、映画監督さんたちが立ち上げた「#SaveTheCinema・ミニシアターを救え!」プロジェクトです。「ミニシアター・エイド基金」という名目でのクラウドファンディングで支援金を集めようという試みです。クラウドファンディングですから単なる「寄付」ではなく、一人ひとりが自分の状況に合わせた「ちょっとした支援」をできるようにするためです。支払う金額によって、正常になった時に使える チケットやパス、作品ストリーミングなどのリターンがあり、その人に合わせた「支援」の選択肢がそろっています。リターンもそうですが、自分はミニシアターの「支援者」になるんだという意識を持って「映画文化の多様性を守る」一員になるというと、大上段に振りかぶりすぎなんですが・・ということが、このプロジェクトの一番の意義を見ていただきたいと思いますね。こちら「ミニシアターを救え」または「ミニシアターエイド基金」で検索してみてください。

鈴木  はい、ありがとうございます。

荒木  さあ、気分を変えて、リスナーからいただいた映画を紹介していくシリーズです。ラジオネーム「肉球」さんから…映画ファンなんですね。「今年の視聴本数は100を超えました」とあります。「荒木さんには映画「スター誕生」語ってもらいたいです。残念ながら1937年の作品はまだ見ていないですが、1954年と2018年の違いを見比べると面白いと思います。鼻の形を突っ込んだり、アカデミー賞がグラミー賞だったり…」とあります。「肉球」さん、視点が凝ってますよね…。

鈴木  「肉球」さん、非常にポップミュージックにも詳しい方ですよ。

荒木  ああそうですか…。もともとスター誕生は4本あります。ひとつ目は主演ジャネット・ゲイナーによる1937年版(下の写真=インスタグラムから)。2本目は1954年のジュディ・ガーランド(上から2番目の写真の㊨=バーブラのインスタグラムから)主演のリメイク版。3本目は1976年のバーブラ・ストライサンド(同㊧)によるリメイク。そして最新版は2年前2018年、4回目のリメイク「アリー/スター誕生」(上の動画=ガガのインスタグラムから)です。

もっと言うとほんとはもう一本あるんです。というか、一番初めに作られた1937年版の「スタア誕生」は実はその4年前につくられた「ハリウッドの栄光」というタイトルの作品のリメイクなんですね。ですから正確に言うと5本なんですが、ここでは4本ということでお話しします。

この4本、比較しながらお話ししましょう。まずストーリーなんですが、主人公はスターに憧れ、ハリウッドへやってきた女性エスター。彼女は大スターのノーマン・メインとの出会いをきっかけに女優になります。そして、彼女は大スターとなり、ノーマンと結婚します。しかし、一方ノーマンのほうは人気ががた落ち、酒に溺れるようになり、ついにはエスターがアカデミー賞を受賞する舞台に泥酔状態で現れ自暴自棄な行為を繰り返します。 エスターは愛する夫を介抱するために引退を決意するのですが、それを知ったノーマンは愛する妻のために死を選ぶ…というのが共通というか、まあベーシックなストーリーです。

ただ1作目と2作目は、映画界が舞台なのですが、ご存知のように3、4作目は音楽業界が舞台になります。ですから1、2作目はアカデミー賞のシーンですが、3作目4作目はグラミー賞が重要なシーンになっています。 同じ音楽でも3作目は全体的にロック系という感じですかね…。4作目はポップスかな。各映画の主演女優さんはさっき言いましたが、順番にジャネット・ゲイナー、ジュディ・ガーランド、バーブラ・ストライサンド、 レディー・ガガですが、作品内の主人公の名前は1作目から3作目はエスターという名前で共通なんですが、4作目のガガでアリーになります。だから「アリー/スター誕生」となってます。もともとミュージカル映画なので歌のシーンは多いのですが、2作目はミュージカルスターとして活躍があったジュディ・ガーランドの歌と踊りを見せ、3作目4作目は歌が抜群にうまいシンガーだということですね。

リクエストをくれた肉球さんがおっしゃっていた、鼻の形比較してみてくださいというお話ですが、まず1作目ジャネット・ゲイナー。言い忘れましたが、この人、アカデミー賞主演女優賞、第1回目1927年の最初の受賞者ですね。美人顔ですよね。鼻は小さめでスーとしている、目がちょっとたれ目で、まあ昔の女優さん顔です。2作目のジュディ・ガーランドはこの前、映画「ジュディ」もご紹介しましたが、鼻筋がスーッと通ってちょっと上向きの愛嬌のある鼻をしています。問題は3作目、バーブラの鼻。ちなみにバーブラ、この作品でアカデミー賞主演女優賞です。前のふたりに比べるというか 比べなくともでかいですよね。

鈴木  でかいよねー。

荒木  堂々と顔の真ん中にぶら下がっているという感じですが、よく見ると鼻の一番前の部分、鼻の先端部、 鼻尖(びせん)というらしいんですが、鼻先が横じゃなく上下にでかいんですよね。横に大きい「だんごっぱな」じゃないんですが、一番目に入るので存在感というか、お鼻大きいなという感じです。ご存知のようにね。彼女の特徴です。4作目のガガはね。もうご存知、映画の中でも鼻の話題に触れていましたよね。あれは実際にあったことなんですよ。本人曰く、初シングルが出る前に「鼻を整形したほうがいいんじゃない?」と言われたらしい。これに対し「いいえ、私は自分のイタリア系の鼻が気に入っているの」と返したと明かしています。実際の話です。このエピソードを巧みに入れているんですね。そうですね、いわゆる「かぎっぱな」 鼻柱が鉤のようにとがり曲がっている鼻。日本でいう「わしばな」ですよね。イタリア系なんですね。ユダヤ系はこの鼻が多いんですが…。「肉球」さんが宿題に出した鼻の比較をしてみました。 鈴木  あはは、いいね…。

荒木  …ということで女優さんのお話ししましたが。そして男優さんですが、案外知らないかも…。1作目から3作目はいずれもノーマンという名前になっています。そのノーマン、1作目はフレドリック・マーチ、2作目はジェームズ・メイスン。両方とも当時国民的俳優さんがやっています。3作目はクリス・クリストファーソン。古い人はだれでも知ってますよね。私も好きでした。もともとカントリーシンガー、俳優として映画にもたくさん出ています。ご存命です。

そして2018年版、ジャクソン・メインという名のカントリーシンガーを演じたのはブラッドリー・クーパー、もともと俳優さんですが、歌もうまかったですよね。この4人の役者さんたち、劇の中でアルコール中毒になって亡くなるのは共通なのですが、変更されているのは死ぬ時。1作目2作目は入水自殺。つまり海で自殺です。3作目は車で暴走して事故死。そして記憶にも新しい最新作では納屋で首つり自殺してましたよね。時代によって変わっていくんです。

他にもいろいろ見てゆくと、ヒロインがその時代のゲイアイコンなどという共通点などもあるのですが、これはちょっとマニアックになるのでまたの機会にしますが…。ミュージカル娯楽大作ではありますが、まあ、その時代時代によって社会的状況や諸問題が巧みに取り入れられていて、それは各時代の女性の生き方の反映でもあるわけです。1作目のヒロインの生き方と4作目は明らかに女性の描き方が180度異なっていますよね。当たり前ですが。まあ、時間があるかたは今流行の「スター誕生シリーズ」1本目からの一気見に挑戦してみると、今まで気が付かなかった部分が明らかになると思います。

鈴木  1作目が1937年、最新作が2018年。その間80年もあって、10年ひと昔と言いますが、その8倍。変っていくのは当然ですよねー。

荒木  そうですよね。でもストーリーベースは変わらない、スターに駆け上ってゆくというアメリカンストーリーですよね。夫婦愛の映画でもあります。

鈴木  2年前のアルバムはしょっちゅう聞いているので今回は3作目のバーブラの愛のテーマ「エバーグリーン」を聞きたいなと思います。(音楽 エバーグリーン スター誕生/愛のテーマ バーブラ・ストライザンド)

荒木  「肉球」さんからのリクエストで映画「スター誕生」についてお話ししました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。