アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報

(2020年5月25日)

コロナ感染拡大で映画館が閉鎖される中、映画評論家・荒木久文氏が、伝染病を題材にしたパンデミックムービーを紹介。なかでも新型コロナ感染拡大を予言していたかのような「コンテイジョン」について掘り下げた。さらにはケヴィン・スペイシー主演のサスペンス映画「ユージュアル・サスペクツ」のとっておきの情報を公開した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、5月19日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊧と鈴木氏)

鈴木   よろしくお願いします。

荒木   リスナーの皆さんに好きな映画や思い出の映画を教えていただく企画ですが、たくさんお便りいただいています。その中に、新型コロナ拡大防止のために何かヒントのある映画はありませんか?というお便りがあったので、過去の映画を見て何かヒントがないか調べてみました。
伝染病をテーマにした感染映画、いわゆるパンデミックムービーはたくさんありますけど、何か思い当たるものありますか?

鈴木   僕は圧倒的に「アウトブレイク」ですね。

荒木   名作ですね。
他にもたくさんありますよね。その中で今注目を集めている作品がいくつかありまして、ゾンビものなんかも本当はこれです。

鈴木   「新感染」もそうですよね。

荒木   そうですね。空気感染じゃなくて接触というか噛まれるとゾンビになるので、ちょっと違うんですけど。
今注目を集めているのは、日本映画ではまず、1980年公開の「復活の日」です。小松左京の原作で今から56年前に書かれた作品の映画化でした。角川映画でしたね。風邪に似た感染症「チベット風邪」という名の未知のウィルスによる感染症で、人類がほぼ死滅してしまい、南極に逃れて生き残った11カ国863人の過酷な運命を壮大なスケールで描いていました。 当時22億円ほどの費用をかけて制作されました。
外国映画では、「アウトブレイク」の他に、アルベール・カミュの著作「ペスト」を原作として作られた、死の恐怖を描いた「ブレイク」という1995年の作品があります。
他にもたくさんありますが、今一番注目されているのが、2011年公開の映画「コンテイジョン」です。英語で感染とか接触感染という意味ですね。
キャッチコピーは「恐怖はウイルスより早く感染する」というものでした。

鈴木   気持ち悪いくらい今の雰囲気じゃないですか。

荒木   ここのところNetflixの人気映画ランキングで独走している作品です。

なぜこんなに注目されているのかというと、この映画の内容が、今回の新型コロナウイルスの世界的流行による現在の状況がそのままと言っていいくらいリアルで似ているからです。この映画が、今回の新型コロナウイルスを予言していたといわれる所以もあるんです。

アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報
(「コンテイジョン」=Netflixの公式インスタグラムから)

ストーリーですが、まず、香港出張から戻ったアメリカ人女性が、はじめ風邪のような症状から体調不良を訴え死亡します。そして、同じような事例が世界各地で起こり、社会閉鎖や恐怖と狼狽でパニックに陥る人々の姿や、処理ができずに体育館に山積みにされる遺体の様子や、ワクチン開発に取り組む医療関係者が描かれています。そして一方ではネットでデマを広める人々の姿など、今まさに現実に起こっていることが写実されています。

細かいところまで本当によく似ているんです。例えば、発生場所は中国の武漢ではないのですが、香港です。世界中の人々がマスクと手袋をつけるようになり、人と人の距離がとられます。咳やくしゃみをしている人々に対し異常なまでの嫌悪感が生じてきます。そのうちマスクや保存食の買い占めや略奪が発生し、WHOやアメリカの国家安全保障局が対応するのですが、その様子はまさに今ニュースで報じられている場面ではないかと思うくらいです。

映画では、意外に早くアメリカやフランスでワクチンが完成するのですが、今度はこのワクチンを強奪しようする国が出てくるんですね。名前を出すのは可哀想ですが、中国なんです。まるっきり悪役扱いです。どこかの大統領が見ると喜びそうな設定です。そして、感染源、いわゆる0号患者というのが突き止められるのですが、それが蝙蝠(こうもり)を食べた豚を料理した中国人コックだったんです。

鈴木   なんだろう、気持ち悪いですね。

荒木   本当にすごいですよね。今回の新型コロナウイルスも蝙蝠ではないかと言われてますからね。 出演はマット・デイモン、グウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレット、マリアン・コティアールなど豪華な役者が出ていますが、こんな大物たちがバンバン死んでいくんです。マット・デイモンだけが奇跡的にウイルスに免疫も持っていた男を演じていましたね。
そして監督は私も大好きなスティーブン・ソダーバーグ。彼らしくなんというかとても抑制的でドキュメンタリータッチに描かれており、現在のテレビの映像を見ているようなリアルさです。
すごいというか、怖いのはこの映画の終わり方です。ワクチンができて、はいはいよかった、ハッピーエンド、これで元通り、というわけにいかないんです。

壊れてしまった感染前の日常や、経済・社会生活はパンデミックが終わっても決して元には戻らないということをきちんと描いています。
尊い犠牲を払っても、これから緊急事態宣言が解除されてもピタッと収まるわけじゃない。これから夏の暑い時期にもマスクをしなければならないということから始まって、人と人との距離、電車やバスなどは意識して人との間隔を空けるようになっているし、ある程度の新秩序や新マナー、新しい日常というものができてきて、経済状況も含めて決して元通りにはならないということ、「withコロナ」と言われていますが、そういったことも予言しているんです。
鈴木   こちらの作品2011年公開ということは、2010年くらいには制作されていたと考えても10年前じゃないですか。

荒木   そうなんですよ。興味のある方はNetflixにありますから見てください。アメリカのワーナー映画がこの「コンテイジョン」の続編を企画しているらしいですよ。また情報が入ってきたらお伝えします。

重くなってしまいましたが、リスナーの皆さんからいただいている、好きな映画・思い出の映画についてお話しするシリーズ企画です。
今日は、ソラマーゾフさんからのメールです。
「こんにちは いつも楽しく聞いています。今日は私が見て衝撃を受けた映画3つ挙げます。まずは 「ギルバート・グレイブ」、そして「ユージュアル・サスぺクツ」、最後の作品が「告発」です。

というわけで3本いただきましたが、どれもすごい作品で迷いました。今回はダイちゃんもたぶん見てると思いますが「ユージュアル・サスぺクツ」にしようと思います。

鈴木   見てますね。面白かったです。

アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報
(「ユージュアル・サスぺクツ」=インスタグラムから)

荒木   1995年にアメリカで製作されたサスペンス映画ですね。
タイトルのユージュアルは「いつもの」という意味、サスペクツは 名詞で「容疑者、疑わしいもの」などの意味の suspect の複数形です。
the usual suspects は「常連の容疑者、いつもの怪しいやつら」などの意味です。
この映画のストーリーですが、ストーリーについては本当は紹介したくないんです。サスペンスなので。もう見た方はたくさんいらっしゃるでしょうけど、まだご覧になっていない方は予備知識なしで見ていただくのが一番いいんですが、そういうわけにもいかないので触りだけ紹介させていただきます。

舞台はカリフォルニアです。ある夜、サン・ペドロという港の埠頭で船が大爆発します。その船はコカインの取引場所で、そこでコカインを強奪しようとしたグループと麻薬組織の争いがあったらしい。合計27人が死んで、生き残ったのはたった2人。しかも1人は重傷で病院に、もう一人は無傷で生き残った、ロジャー・“ヴァーバル”・キント(ケヴィン・スペイシー)という男で、この男を関税特別捜査官(チャズ・パルミンテリ)が尋問することになります。まあここまでしか言わないほうがいいですね。
見終わるとたぶん、皆さん 裏切られてあっと叫び、してやられたな!!と叫ぶパターンになると思います。
ただボーっと見てるといろんなシーンが挿入されたり、場所が変わったり過去と現在が行ったり来たりして複雑ですので、目をそらさず居眠りせずに見てください。正直、一回見ただけじゃ理解できないことが多い作品です。2回見てああ、やられたということがわかる作品だと思います。
伏線の引き方が素晴らしいので自然な流れで終わります。本当に巧妙ですが、勘のいい人だったり、こういった映画を見慣れている人だと、ああ、ここ伏線だなと思うかもしれませんね。ちょっと変わった角度から録っていたり、あれ?と違和感があるところがあったり。まあ、疲れますけどね。キングオブサスペンスと言われるだけのことはありますよ。

鈴木   どんでん返し率がすごいですよね。

荒木   そうですよね。最後にどんでん返しで全ての謎が解けるのですが、答え合わせのつもりで2回見ると試験でわからなかったところを正解集で答え合わせするように見ると楽しいですよね。 脚本はクリストファー・マッカリーという人ですが、この作品でアカデミー賞脚本賞を受賞し、アメリカ脚本家協会の「最高の映画脚本101」に選ばれています。
監督はブライアン・シンガー、『X-メン』『スーパーマン リターンズ』『ワルキューレ』などの監督もしています。このシンガー監督は脚本のクリストファー・マッカリーとはニュージャージー州の高校の同級生で俳優のイーサン・ホークも同級生だそうです。
あの「ボヘミアン・ラプソディ」の監督を、はじめしていましたが、「職業倫理に反する行動」を理由に解雇されているんですね。さらに過去に 当時17歳だった少年に性的暴行を行ったとして訴訟を起こされています。そういうサスペクト(容疑者)ですよね。

出演者は、ケヴィン・スぺイシーの他にはガブリエル・バーン、スティーブ・ボールドウィン。若くてスマートだったベ二チオ・デル・トロも出ていましたね。とにかくみんな渋い。その中でもやはりピカイチなのはケヴィン・スペイシーですね。この作品でアカデミー助演男優賞を受賞。その後、主演男優賞を受賞しています。
リクエストを寄せてくれたソラマーゾフさんも「ケヴィン・スぺイシーの演技が素晴らしかったです。それから彼のファンになりました、少し前にはセクハラ騒動で世間をお騒がせしていましたね、残念です。」と書いていらっしゃいますが、そうなんですよ。
2017年10月、俳優のアンソニー・ラップという人が、14才当時にケヴィン・スペイシーから性的ハラスメントを受けたと告白しました。その後、ケヴィンから性的ハラスメントを受けたという人が男女を問わず続出したため、ケヴィン・スペイシーが謝罪、さらにゲイであることをカミングアウトした。

この映画の監督と主要俳優が、若い男性に対してセクハラのユージュアルサスペクトになっちゃいましたね。

鈴木   本当だ!地で行ってるんじゃないかっていう感じですね。

荒木   オチになりませんけどね。
ということで、ソラマーゾフさんから3本いただいたのですが、「ユージュアル・サスペクツ」を紹介しました。

鈴木   ケヴィン・スペイシーが「ビヨンド・ザ・シー」という作品で歌手ボビー・ダーリンの役をやっていて、強烈にボビー・ダーリンに似ていたんですよ。気持ち悪いくらいに。

荒木   よく言うカメレオン俳優ですよね。 役に入り込んで、ボビー・ダーリンのソウルが乗り移ったみたいな演技でしたね。いい役者さんですけど、最近出てこないから心配です。

鈴木   やっぱり締め出されちゃってるんですかね。

荒木   今セクハラについてはうるさいですからね。社会情勢がこういう状況ですから仕方のないことかもしれませんね。

鈴木   荒木さんにとってのユージュアルサスペクツは自分の中であるんですか?

荒木   自分だね。常に疑わしい人とか怪しいという評判ですから。髭も生えてて。

鈴木   あはは。その怪しさも危険な甘さになっているなと思いますけどね。 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)に入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。