-
映 画

「ハッピー・オールド・イヤー」のとっておき情報とプロの評論家が選ぶ「私の好きな映画ベスト3」
(2020年12月25日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が、「ハッピー・オールド・イヤー」のとっておき情報とプロの評論家が選ぶ「私の好きな映画ベスト3」を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「GOOD DAY」(火曜午後3時、12月22日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さーん!こんにちは。よろしくお願いします!
荒木 よろしくお願いします。
年末も近づいてきましたけど、今日は「やり残したこと」がテーマの映画についてと、やり残したことについてのお話をしたいと思います。
大掃除のシーズンですが、ダイちゃんは大掃除とかはやる方ですか?
鈴木 やる方なんだけど、たいしてキレイにならないんですよ。
荒木 でもきれい好きのイメージありますね。
鈴木 きれい好きなんだけど、身の回りは結構汚れてた方が仕事はしやすいタイプです。
荒木 そうですか。私もそうなんですよね。実は私はモノの整理が大の不得意なんですよ。
鈴木 荒木さんもシャカシャカやってそうなイメージだけど。
荒木 いやいや、全然ダメ。捨てられない整理できない…。
鈴木 あ、同じだ!
荒木 年末になると整理しようとするんですが、全くできません。その上、安物ばかり買う…。
鈴木 わかるわかる!
荒木 子供の時から変わっていません。ダイちゃんはどう?
鈴木 変わらないねぇ。三つ子の魂百までですね。
荒木 片づけコンサルタントのこんまりさんっているじゃないですか。近藤麻理恵さんによると「ときめき」がキーワードらしいです。そのモノにときめくか、ときめかないか?で捨てるものを決めろっていうんだけど、決められないし捨てられないよね。みんなときめくし。
鈴木 しかもそこに切ない思い出まで込められてると、ときめくも何もなくてもとっておきたくなっちゃうんですよ。

荒木 そうなんですよね。私やダイちゃんと同じような人いっぱいいるかもしれませんね。
今日はそんな「お片付け」がテーマの映画…というわけではないんですが、物は捨てても思いは捨てられるのか?などと考えさせられる作品です。
現在公開中『ハッピー・オールド・イヤー』というタイの映画です。
舞台はタイの首都バンコク。女性デザイナーのジーンが主人公です。
スウェーデンの留学から戻った彼女の理想は、モノを持たない、いわゆる「ミニマリスト」としての生活です。いますよね、そういう人。
鈴木 わかるわかる!いる!
荒木 彼女は母と兄が住む実家を年内の残り1ヶ月余りで、整理整頓・改造して自分の事務所にしようと思い立ち、必要最低限以外のモノのを全部捨てる決心をして作業を開始します。
整理品のうち、友達から借りたままだった洋服、レコード、楽器、写真などを返してまわる中で、元恋人から借りたカメラは小包にして送ったのですが、受取拒否され返ってきてしまいます。
他にも家を出てしまった父親のピアノなど、母親は思い出の詰まったものに愛着があり、捨てることに大反対しています。しかし、ジーンは「前に進むために過去のモノは捨てるのよ」と主張し実行していくのですが、初めのうちこそぽんぽんゴミにして捨てていきましたが、そのうち段々捨てようとするモノにまつわる思い出が心に引っかかってきます。
鈴木 わかるなぁ~!
荒木 そうですよね。
すっきり整理されていく部屋に反比例して、捨てようとするモノが持つ記憶とか思い出が否応なく浮かび上がってきて、ジーンの心は乱れて迷いが生じ、やがて昔の自分を振り返ることになります。
ダイちゃんがさっき言ったように、モノという物理的なものが持っている思い出や、それが自分のことろに来たきっかけなどをはっきり覚えている場合が多いですよね。
鈴木 その通りです!!
荒木 特に人からもらったプレゼントとかね。
ダイちゃんは自分で買ったものもあるでしょ?どんなものが捨てようと思っても捨てられないですか?
鈴木 CD、洋服、本。
荒木 本なんか読み終わってあんまり面白くないものでも捨てたくないですよね。
鈴木 そう、なんかとってあるんだよ。
荒木 思いがそこに詰まってるっていうこともあるしね。自分で選んだもの、人に選んでもらったもの・プレゼント、「これはあの人に贈ってもらったんだ」っていう思いが常にあるからね。
鈴木 昔の彼女からもらったハンカチとかさ、思い切り鼻でもかんで捨ててやろうと思うんですけど捨てられないんですよ。
荒木 そうですよね。
考えてみるとモノだけでなく、私たちは生きる上でも一つの道を選ぶということで別の道を捨てていますよね。
例えば、ダイちゃんもDJになるという道を選んだことで、ほかの道、例えばサッカー選手になる夢とかを捨ててきているんですよね。
鈴木 そう!科学者になる夢とかね、例えばね。
荒木 つまり、何かを選び、何かを選ばない。人生ってその連続ですよね。
ちょっと視点は違うけど、今のかみさんを選んだということは、他の誰かを捨てて選ばなかったということだよね。
鈴木 井川遥さんと結婚しないって私が決めたわけですからね。
荒木 もしもし?(笑)
鈴木 いやだからそういうことですよね、ある意味。
荒木 もっと幸せになっていたかどうかは分からないですけど、今の道を選んだということは他の道を放棄したということですよね。
そう考えると必要、不必要という基準でモノを見るだけじゃなく、そのものが自分のもとにある理由を考えていると片付けできなくなっちゃうんですよね。言い訳みたいな話になりますけど。そんなことを考えながら映画を観てしまいました。
タイトルも「ハッピー・ニュー・イヤー」じゃなくて『ハッピー・オールド・イヤー』ですし、今の時期に観るにはピッタリだと思います。
監督はタイの期待の監督で、『マリー・イズ・ハッピー』などで国際的に注目を集める新鋭ナワポン・タムロンラタナリット。
主演はこの番組でも紹介したと思いますが、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の主演女優、チュティモン・ジョンジャルーンスックジンです。なかなか考えさせる作品でした。是非公開中の間に観ていただきたいです。
もう一つは、今年やり残したものはと考えていたら、5月の自粛期間中にこの番組で「また後で詳しくやりますよ」などと無責任に言っていたもので、やってないものがたくさんあると言われ気が付きました。
その中の一つで、「私のお気に入り映画」という企画やりましたよね。
鈴木 プロのお気に入り聞いてみたいっていうやつですね。
荒木 そう。ダイちゃんをはじめ、リスナーの皆さんから自分のお気に入り、マイフェイバリット映画作品を紹介していたことがありましたよね。
その時皆さんから「ところで荒木さんとかプロの批評家とか評論家の皆さんのお好きな映画、思い出の映画はどんなものが多いのですか?」というご質問があって、私個人の作品はお話したのですが、多くの批評家や評論家さんの好きな作品は次の機会に…と言って紹介してなかったんですね。今年のことは今年のうちにというわけで、もしかしたら参考になるかもしれませんので、今日は後半そのお話をしたいと思います。
鈴木 嬉しい!
荒木 「プロの批評家とか評論家の方はどんな映画が好きなのですか?」というご質問ですか、ちょうどいい資料がありました。
私も所属する組織で評論家翻訳家監督など150人ぐらいの会員で構成されている日本映画ペンクラブ、たまに皆さんにもお話していますが、この組織が昨年秋60周年を迎えてその記念として会員に「私の好きな映画ベスト3」を聞かせてくださいというアンケートを実施したんですね。これをもとに、評論家というか会員たちはどんな映画が個人的に好きなんだろうかということをお話したいと思います。たくさん映画を観ている中でどれがトップになるんだろうという興味湧きますよね?
鈴木 気になる、気になる。
荒木 ただこの「日本映画ペンクラブ」という組織は年寄りが多くて、おじいちゃんおばあちゃんが多いんですよ。平均年齢70いってないかっていうくらいです。昔のスクリーンの編集長だとか毎日新聞の文化部の記者だとかそういう人たちが多いんです。
鈴木 じゃあプロ中のプロですよね?
荒木 そうなんですよ。若い人には「はあ?」ということになるかもしれませんが、そんなことを頭に置きながら聞いていただければと思います。
まず、個人的に有名な評論家の好きな映画をちょっと見てみると、翻訳家の戸田奈津子さん って知ってますよね?
鈴木 戸田奈津子さん、当たり前じゃないですか!
荒木 有名ですよね『スター・ウォーズ』や『タイタニック』の字幕や、トム・クルーズなんかが来日すると横で通訳しているおばさまです。超売れ子だったんですよ。一番すごい時は1週間に一本映画を訳していたそうです。
鈴木 ええ!すげぇ…。
荒木 戸田さんの好きな映画、第3位は『ゴッドファーザー PART II』、2位が『ウエスト・サイド・ストーリー』、1位が『第三の男』です。
そしてこの会の代表幹事の評論家の渡辺祥子さん。アカデミー賞の季節になると必ずテレビで見ますよね。私の報知映画賞の選考委員で私の師匠筋の方です。
渡辺さんのベスト3は、3位『山猫』1964年のクラウディア・カルディナーレですね。2位『007シリーズ』全部。
鈴木 全部!?
荒木 意外ですよね。そして1位『ローマの休日』です。
鈴木 Roman Holidayかぁ。
荒木 そう、Roman Holidayです。
もう一人、アンコーさん。大先輩にあたりますよね。ニッポン放送オールナイトニッポンのパーソナリティで古い人はみな知ってる、カメ&アンコーの斉藤安弘さんです。
彼のベスト3ですが、3位『ウエスト・サイド・ストーリー』、2位『七人の侍』、1位『ニュー・シネマ・パラダイス』です。
こういう感じなんですよ。皆さんそれぞれ特色ある作品を選んでますね。
そして投票した会員のベスト3、総合の順位は発表されていないので私が点数をつけてまとめました。3位が1点、2位が2点、1位が3点というふうに集計してみました。
鈴木 うわー!内部事情だ!
荒木 プロの評論家が選んだベスト3の結果ですが、ダイちゃん1位はなんだと思いますか?
鈴木 1位は・・・『ベン・ハー』
荒木 『ベン・ハー』ね。さあどうなるか。
プロの評論家が選んだベスト3、第3位は『ゴッドファーザー』!! フランシス・フォード・コッポラですね。
鈴木 一作目?
荒木 パートⅡを推した人が多かったですね。
1972年から3部作られていますが、1974年のアカデミー賞を取ったパートⅡを推した人が圧倒的に多かったです。
第2位は、『ローマの休日』です。オードリー・ヘップバーン。ラブコメの元祖ですよね。
そして第1位はダントツで『七人の侍』でした。

鈴木 『七人の侍』が1位ですか!?
荒木 そうなんですよ。日本映画の『七人の侍』です。黒澤明の1954年(昭和29年)4月26日に公開された「世界で最も有名な日本映画」と言っていいでしょうね。
鈴木 そうでしょうね。
荒木 だけどちゃんと観たことある人はそう多くないみたいです、一般のかた。
鈴木 僕も通して観たっていう記憶ないですもん。
荒木 そうですよね。テレビでやってるのを断片的に見ることは多いでしょうね。
だけど、頭からちゃんと観ると素晴らしい映画だということがよくわかります。
鈴木 やっぱちゃんと観なきゃダメですね。
荒木 これは観なきゃだめです。後世に与えた影響が大きいので。特に洋画にね。
どうしても観ろってわけじゃないけど、観る機会があったら集中して観てくださいね。
どうですか?想像してたものと意外な結果でしたか?
鈴木 いや、僕は意外じゃないですよ。
荒木 そうですか?
鈴木 あぁ、なるほど。やはりそうなんだな、という感じですね。
荒木 『ゴッドファーザー』、『ローマの休日』、『七人の侍』、他にも『ウエスト・サイド・ストーリー』とか色々ありましたけど…。
鈴木 まさか『ハムナプトラ』とかは出てこないだろうなと思ってたんですけど(笑)
荒木 出てこないですね。
まあこれは評論家たちのベスト3なんですけど、一つの参考になればと思います。
お正月、今年はお家にいる機会が増えると思いますので、Netflixで新作や韓国映画もいいですが、まだ観たことのない方はいい機会ですので、こうした評論家たちが好きな映画というのも理由がありますので良かったら観ていただきたいと思います。決して損することはないと思います。
鈴木 音楽でも温故知新じゃないけど、新譜は楽しいんですけどやっぱり名盤名曲は星の数ほどあるじゃない。
荒木 そうなんですよね。クラシックはクラシックの持つ良さがあって、定番と呼ばれるものは普遍性を持ってますからね。
鈴木 荒木さん、年の瀬にきていい話してるじゃないですか、我々。
荒木 いつも変な話ばっかりみたいなこと言うね。
鈴木 あはは。いやー『七人の侍』観なきゃ。
荒木 本当に迫力のある映画ですから、機会があったら是非観ていただきたいと思います。
鈴木 荒木さん、そんなこんなでメリークリスマスなのでよいクリスマスをお過ごしくださいませ。
荒木 あー、そうだねー。
鈴木 明後日もうクリスマスイブですよ。
荒木 ほんとだね。明後日イブだよね。もう毎年毎年寂しいクリスマスです。
鈴木 年越してコロナも落ち着いたら是非ゆっくりお会いしたいと思います。
荒木 そうですね。次回(12/29)今年最後なので。
鈴木 楽しみだわー。では来週もお願いします!
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。
【関連記事】
「声優夫婦の甘くない生活」「私をくいとめて」「新解釈・三國志」「天外者」のとっておき情報
「燃ゆる女の肖像」「バクラウ 地図から消された村」「サイレント・トーキョー」のとっておき情報
「アンダードッグ」「アーニャは、きっと来る」「ヒトラーに盗られたうさぎ」のとっておき情報
「Malu 夢路」と「滑走路」のとっておき情報
「ビューティフルドリーマー」と「さくら」のとっておき情報
トランプ大統領出演の映画やTVと「十二単衣を着た悪魔」のとっておき情報
東京国際映画祭と「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」のとっておき情報
「きみの瞳(め)が問いかけている」と「花と沼」のとっておき情報
「スパイの妻」と「わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない」のとっておき情報
「82年生まれ、キム・ジヨン」と「本気のしるし」のとっておき情報
「ある画家の数奇な運命」と「小説の神様 君としか描けない物語」のとっておき情報
「ミッドナイトスワン」「蒲田前奏曲」「エマ、愛の罠」のとっておき情報
「窮鼠はチーズの夢を見る」と「マティアス&マキシム」のとっておき情報
「喜劇 愛妻物語」と「カウントダウン」のとっておき情報
「頑張る若者たち」を描いた「行き止まりの世界に生まれて」「田園ボーイズ」のとっておき情報
青春学園コメディ「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」と村上虹郎主演の「ソワレ」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ホラー映画特集―「メビウスの悪女 赤い部屋」「事故物件 恐い間取り」などのとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ジェクシー! スマホを変えただけなのに」などこの夏おすすめの映画3本のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/高校生を描いた青春映画「君が世界のはじまり」と「アルプススタンドのはしの方」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/海洋パニックホラー「海底47m 古代マヤの死の迷宮」など「海の映画特集」
アラキンのムービーキャッチャー/又吉直樹の小説を映画化した「劇場」と韓国映画「悪人伝」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/映画「透明人間」と「河童」と「お化け」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/今までにない長澤まさみ主演の「MOTHER マザー」と「のぼる小寺さん」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ランボー ラスト・ブラッド」と「悪の偶像」など注目映画のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と「15年後のラブソング」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ドイツ映画「お名前はアドルフ?」と異色のドキュメント映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/「わたしの好きな映画・思い出の映画」:「世界残酷物語」と「八月の濡れた砂」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/ブラピ主演「ジョー・ブラックをよろしく」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/パンデミックムービー「コンテイジョン」と「ユージュアル・サスぺクツ」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/コロナ感染拡大でミニシアターの危機と救済&映画「スター誕生」のとっておき情報
アラキンのムービーキャッチャー/映画「レオン」と「水の旅人 侍KIDS」のとっておき情報