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映 画
アラキンのムービー・ワンダーランド/「The Son/息子」「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」のとっておき情報
(2023年3月26日20:00)
映画評論家・荒木久文氏が「The Son/息子」「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月20日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 こんにちは! 先週、アカデミー賞をお話ししましたね。これと反対に、ダメ映画、最低映画を選ぶ「ゴールデンラズベリー賞」、通称ラジー賞ですね。
これが発表になりました。ワースト作品賞は、マリリンモンローの伝記映画です。「ブロンド」という映画です。日本はまだ公開予定なしなんですが、早く観てみたいです。
鈴木 なしなんですか?
荒木 そうなんです。まだね。それからトム・ハンクスが「エルビス」でトム・パーカー大佐役で、ワースト助演賞を取りました。
鈴木 えー!? それ、どうなんですか!?
荒木 (笑) まあ、あれは裏返しだから!
鈴木 ある意味、名演だった気がするんだけどなぁ。
荒木 だけどほら!人の良さが隠せないところがあるじゃない?いい人ばっかしやってるから。本当は悪い人にはちょっと向かないって。良く解釈するとそういう事かなって。
鈴木 良く解釈する…(笑)。
荒木 と言う事で、ラジー賞でした。
今日、一本目。「The Son/息子」。現在公開中の作品です。
ところでダイちゃん、「ファーザー」という作品 覚えていらっしゃいますかね?
2年前ですけど、アカデミー脚色賞と、アンソニー・ホプキンスが2度目の主演男優賞を受賞した作品です。
鈴木 荒木さん紹介してくれましたよね!
荒木 ロンドンで独り暮らしの81歳の老人がいろんなものを忘れていくっていう過程を、老人の視点で描き出したというすごいショッキングな作品でしたね。
これはフランスの映像作家・劇作家であるフロリアン・ゼレールっていう人が、まだ40歳ちょっとの人ですね、この人が作った家族3部作という舞台のうちのひとつだったんです。ゼレール自身が監督したんですけど、今回「The Son/息子」は「ファーザー」に続く「家族3部作」の2作目なんですね。
鈴木 なるほど!それでSonなんですね。
荒木 そうですね。ゼレールが、原作「息子」をヒュー・ジャックマンを主演に作ったんです。とても考えさせられる作品になっています。
ストーリー簡単に紹介します。舞台はニューヨーク。敏腕でお金持ちの弁護士ピーターさんですね。ヒュ-―・ジャックマンさんなんですが、再婚をして、若くて美しい妻と生まれたばかりの赤ちゃんとの3人暮らし。何一つ不自由ない毎日を過ごしていたんです。
鈴木 幸せの絶頂、永遠に続くかな?
荒木 そんな時、前の奥さんから、前の奥さんの元で暮らす17歳の息子ニコラスが、精神的な不調で学校に行けないって相談を受けるんです。ニコラスと会うと、お父さんの家に引っ越したいと言います。
ピーターは、かつて妻と息子を捨てて若い女と結婚したという負い目もあって 息子を受け入れて一緒に暮らすことになります。ところが、父と子の心の距離は埋まるどころか、ニコラスは転校した高校に登校していないことがわかるんです。で、父と息子は激しく言い争います。
父親は、「なぜ、人生に向き合わない!立ち向かっていかないのか?」と言うんですけども、息子ニコラスが出した答えとはー?…という事で。
ま、ちょっと重い作品です。で、ヒュー・ジャックマンが製作総指揮もしています。離婚した母親にはローラ・ダーン。
鈴木 あ!ローラ・ダーン!
荒木 アンソニー・ホプキンスもニコラスのおじいさん役でちょっと出てます。 この映画のテーマひとつは家族の問題ですよね。お互いを理解していると信じて、ごく当たり前の日常を送っていた家族に、突然起こる異変というかね。ま、私たちにとっても無縁じゃないでしょうね。
鈴木 ある話ですよね。
荒木 そうですよね。特に象徴的なのは親と子です。
特に父親と息子。自分の息子でもあるんですけど、自分も誰かの息子ですよね。
子供が悩んでいる時に、「俺がお前の歳の頃にはこうして生きてきた、頑張ってきた」なんてこと言われても、それを前向きに受け取る子ばかりじゃありませんよね。
鈴木 そりゃそうですよね。
荒木 意識的に、父親は自分の育って来た環境や考え方で、そんな頭で接する事もありますよね。だから、父親からしてみれば、親の心、子知らずと思うんですけど、子の心も親はわからないんですよね。だから気持ちが伝わらないという、閉塞状態のこの問題ですね、一個は。もうひとつは心の病という問題です。これは言っちゃっていいと思うんですけども、この映画、うつ病をリアルに描いているんですね。その憂鬱さが本当に強く伝ってきます。心の病って、私達の周りにも何人か悩んでいる人いますね。
鈴木 います。わかる、わかる。
荒木 本当に難しい病気ですよね、これ。医学的に数値がはっきり出る訳でもないし、良くなったり悪くなったりする症状ね。治療法もはっきりしたものはないんですよね。子どもが患者の場合には親の権利もあるので、本当に難しいですね。そういう問題がひとつ。そういうものをこの監督は、前の作品もそうだったんですけど、なかなか人間がきちんと向き合いたくない部分ですね。
鈴木 そうだよねー。
荒木 ギリギリまで考えたくない問題、そういうものを正面から押し付けるんですね。真剣に対応していけ!と提示していく訳なんですね。ここが凄いですよね。ま、嫌なものを見せられてるって感じになるんですけど。ま、正直かなり重いな。
明るいとはいえない作品ですけど、胸にずしんと残る作品です。
鈴木 今、荒木さんがお話されている内容を、私以外のディレクター氏も天井
を見ながらうーん…と頷いてますよ。
荒木 そうですよね。「The Son/息子」という作品なんですけども、3作目の「ザ・マザー」も予定されてるらしくて、どんな映画から楽しみですね。
鈴木 なるほどー。
荒木 次の映画は、「デヴィット・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」という作品。3月24日公開です。デヴィット・ボウイは2016年の1月に亡くなって、もう7年になりますかね。
鈴木 そんなになるかー。
荒木 ボウイは亡くなったのではなく、火星に帰ったんだよという人もいますけど。
鈴木 僕はその通りだと思ってますからね。
荒木 ダイちゃんにとって、デヴィッド・ボウイはどんな位置づけでしたか?
鈴木 だから今おっしゃった通り、火星人ですよ彼は!我々、凡人の地球人から見たら、正直 理解をしようと思ってることが間違ってるっていうか。何やってるかわかんないって感じちゃっている自分が、あ!これは凡人ってことなんだなって思ったもん。自分で。
荒木 ああー!ああー!そういう考え方で観ると、凄いわかる映画です。
デヴィット・ボウイ「ムーンエイジ・デイドリーム」って。
鈴木 わかる映画ですかー。
荒木 この作品は、あのデヴィッド・ボウイ の遺族が公式に認可した初の映画プロジェクト作品なんです。かつデビッド・ボウイの財団、初の公式認定映画なんです。 私も見せていただいたんですが、ある意味びっくりしました。
鈴木 びっくりした!?
荒木 ドキュメンタリー映画とは名づけられているんですが、我々がイメージするドキュメンタリーとは、全く違うんですよ。ドキュメンタリーというよりは、未公開の映像とデヴィッド・ボウイ自身が語る、彼の世界観と彼の人生とか、音楽とアート、そういうものをまとめて見せる、映画というより、MVっていうか、PVっていうか…、そんな感じです。
鈴木 動くデヴィッド・ボウイ展覧会みたいな感じなのかな?
荒木 あ!そんな感じですね。だから具体的には、ボウイが30年にわたり膨大な量を保管していたんです。アーカイブも含め。そこから選ばれた未公開映像と、曲ですね。「スターマン」始め40曲程で構成されているんです。
監督は、ブレット・モーゲンという人なんです。この人はドキュメンタリー畑の人なんですけど、他にボウイやT・レックスらの楽曲を手がけた名プロデューサーのトニー・ビスコンティが音楽プロデュースしてます。で、モーゲン監督は、今まで蓄積された全ての映像に目を通したのですが、これだけで2年かかったそうです。
鈴木 いやー、スゲーなー。
荒木 その上、厳選した貴重映像で構成して、なんと5年以上制作にかかったということなんです。監督がやりたかった事は、ボウイというアーティストの存在そのものでなくてですね、表現者としての総体を説明的なものではなくて、見る人が音と映像によって体感出来ること。これが第一だってことなんですよね。だから、ボウイが何時、何処で、何をした…という説明でなくて、ボウイはどんなことを考えて、こんな楽を作りをしてたんじゃないかっていう事を出してるわけですね。だから、観客がボウイの音楽、クリエイティブ、精神を追体験することができるという前提でこの作品は作られているんですよ。だからその…、何て言ったらいいのかな…。一切ナレーションも字幕説明も、本人意外のミュージシャンなんかのコメントも…ほら、普通でてくるでしょ?
鈴木 えー!?伝記映画じゃないね。
荒木 そうですね。だから、ボウイが音楽や映画だけでなく、ダンス、絵画、彫刻、ビデオやオーディオコラージュとか、さまざまな分野でどのように活動していたのかを紹介していくんですが、それには、もうコメントなんかいらない、そういう考え方でしょうね。だからとにかく、2時間15分パワフルでずっとカオスですよ。だからボウイの上級者向けっていうのかな、非常に熱狂的なファンや、ダイちゃんや、ディレクターの新海さんのような、いわばプロ向けですかね。
鈴木 ああー!なるほどねー。
荒木 はい。だから初心者とか、デビッド・ボウイって誰? ボウイ?名前は知っているけどどんな人なのか、知りたいねって人…はね。
鈴木 見に行ってポカーンって感じかな。
荒木 そうそう。はっきり申し上げておきますけど。こういう人は他にいろんな伝記映画がありますから、そっち観てからこっちを見ましょう。
鈴木 まずそっちを見ろと。
荒木 はい。と言う事で、135分あります。ダイちゃんも一緒に観ようと言ってたんですけど、観る機会なくてね。
鈴木 俺、ちょっと楽しみですね。
荒木 はい。ただ、ボウイの一生を味わった気分になります。気分。理解出来ないけど。
鈴木 僕、デヴィッド・ボウイって、僕が知ったデヴィッド・ボウイがたまたま音楽家だったってだけで、例えば100年前だったらピカソだったかもしれないし、500年前だったらダヴィンチだったかもしれないなっていうくらいの方なんです。
荒木 なるほど、そうでしょうね。
鈴木 だから、たまたま僕は、デヴィッド・ボウイを同時代に音楽で知っただけで、アーティストで芸術家の岡本太郎さんと同じだと思ってるんで、我々はわからなくて正しいんですよ。多分。なるほどなーってフィールするだけでいいんですよ。
荒木 私もね、ボウイの一生をなんかわからないけど、物語として味わった気分になりましたよ。
鈴木 わかる、わかる。
荒木 身体で感じるというね!そういうドキュメンタリーですね。
「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」3月24日から公開です。
鈴木 荒木さんにとって、荒木さん、この業界長いから、当然デヴィッド・ボウイ聞いて、仕事でやってたじゃないですか。どんな存在なんですか?エルトンジョンとは違うの?雰囲気。
荒木 全然違います。火星人というより、冥王星人くらい違いますね。
もっと遠くで。よくわかんないけど。曲はもちろんだけど、彼の言ってること、やってること、他のアートなんかも理解の外にあるなという…、一生懸命理解しようとしても理解出来ないという…、天才でしょうね。
鈴木 そういうことね。冥王星と来たね、火星じゃなくて。
荒木 はい、そうですね。
鈴木 あはははは。来週もお願いします。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。