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映 画

「祈り―幻に長崎を想う刻―」と「映画 太陽の子」のとっておき情報
(2021年8月14日11:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「祈り―幻に長崎を想う刻―」と「映画 太陽の子」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月9日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さーん、お願いいたします。
荒木 はい、今日は8月9日、長崎原爆の日ですね。6日は広島の現原爆記念日でした。そして15日は終戦記念日と続きます。やはり毎年そうなのですが、この時期になると戦争関連の作品に触れご紹介しなければなければ…という気持ちになりますね。ダイちゃんは広島、長崎、行ったことありますか?
鈴木 はい、両方行きました。資料館などを見学しましたよ。

荒木 そうですか…そんなわけで今日は原爆関連をテーマに描いた映画を2本紹介します。
まず、「祈り―幻に長崎を想う刻―」という作品です。8月20日公開です。
長崎はもともとキリスト教と縁の深い街で、昔は東洋一のキリスト教大聖堂とうたわれた浦上天主堂がありました。浦上天主堂…聞いたことあるでしょ?
76年前 1945年8月9日午前11時2分、長崎市に原爆が投下され、当時の長崎人口24万人のうち約7万4000人の命が奪われたと言われています。そのとき、浦上天主堂も被爆し、外壁の一部を残して崩壊してしまいました。
広島の原爆ドームは、後世に伝えるため残されたが、長崎は残骸を撤去するか、保存するかでいろいろ議論があったのですが結局、取り壊わされたんですね。
当時の浦上天主堂跡には、瓦礫のなかに埋もれるように、教会の中にあった、聖母マリア像の首と腕が転がっていたらしいですね。
現在は、浦上天主堂が再建され、聖堂にあったマリア像は、焼けただれた頭部だけが残っていたものを「被爆マリア像」と名付けられ展示されています。
さて、この映画、舞台は長崎に原爆が投下されてから12年後です。昭和32年当時、まだ廃墟となっていた浦上天主堂跡から被爆したマリア像を盗み出しそうとする、二人の女がいました。彼女たちはカトリック信徒の鹿(しか)と忍(しのぶ)。
鹿さんは 高島礼子さんが演じています。被爆して肌にケロイドを持つ看護婦であり娼婦です。そして、闇市で詩集を売りながら、自分を凌辱した男への復讐を誓う忍は黒谷友香さんが演じています。まず 彼らはなぜ 被爆した浦上天主堂から被爆マリア像の残骸をひそかに盗み集めているのか?そして雪の降るクリスマスの日。マリアの首を仲間とともにいよいよ盗もうとしますが、そこには思いかけない結末が…というものです。
ちょっと、ミステリー仕立てでもありますね。監督は「ある町の高い煙突」の松村克弥。
原作は1959年に発表され、第6回岸田演劇賞、第10回芸術選奨文部大臣賞を受賞した田中千禾夫の戯曲「マリアの首 幻に長崎を想う曲」つまり、舞台です。
唐十郎や野田秀樹ら多くの演劇人にも影響を与えたといわれている作品です。
ただの戦争反対の映画ではなく、宗教的な色彩もある作品で映画で舞台のテイストも色濃く残してあって、とっても密度の濃い見ごたえのあるの作品です。
鈴木 濃厚ですか…。
荒木 原爆によって死亡した人はもとより 被ばくして生活を壊された人の人生など 大変な生活をきちんと描き出しています。
美輪明宏さんが「マリア像」の声として出演しています。それから、主題歌は長崎出身のさだまさしさんが歌っています。
今のところ 長崎というところは人類が経験した最後の被爆地なんですね。
鈴木 そうですよねー。
荒木 長崎の次が永遠にないことを、見ていると本当に願いたい気持ちになりますね。長崎の原爆をテーマにした映画「祈り 幻に長崎を想う刻」でした。
8月20日から公開です。
鈴木 これはちょっと見ておきたいですねえ。

荒木 そうですね。2本目「映画 太陽の子」、8月6日から公開中です。
昭和20年 夏。日本の負け戦の色が濃くなっているころ。舞台は日本海軍の秘密命令を受けた当時の京都帝国大学の物理学研究室です。
そこに所属する若い科学者・修(柳楽優弥さん)、彼とそこの研究員たちは、世界初めての原子核爆弾、いわゆる原爆 を作るべく研究開発を進めていました。当時 日本も原爆を作ろうとしていたんですね。
修は昼も夜も 研究に没頭する日々です。彼の家には、家を失った幼なじみの世津(有村架純さん)が居候することになります。同じころ 兵隊として戦地に赴いていた、修の弟・裕之(三浦春馬さん)が一時帰郷し、幼馴染の3人は久しぶりの再会を喜びます。
でも ひとときの時間の中で、弟の裕之が戦場で負った心の傷に修と世津は気が付きます。
その頃 原爆づくりに夢中になっていた修は、その爆弾が持つ破壊の恐ろしさにようやく気づき、葛藤と恐怖を抱えるようになります。そんな中、運命の8月6日 広島に原爆が投下される日がきます…。
柳楽優弥演じる修は 原子爆弾を開発出来ればきっと世界は良くなる"という思いで
研究に没する研究者を演じるのですが、 柳楽君 狂気と理性との間で揺れる主人公の感情の変化をすごい迫力で演じています。特にあのひとみ、彼独特のあのまなざし。柳楽さん独特のあの目の絶妙な演技で表現していますよね。
弟の兵隊 三浦春馬さんは心に不安を抱えながらも真っ直ぐに命に向き合う演技も見応えがありました。なんか現実と重なった部分もあったように思えます。
鈴木 なるほど…。
第二次世界大戦はいろいろな兵器が使われた戦争でしたが、ピリオドを打ったのは、当時の最終兵器 いうまでもなく原爆でした。
実は 第2次世界大戦の始まるころには 原爆開発の競争、レースが始まっていたんですね。
先行していたのはナチスドイツ 1939年ごろから、ドイツと占領地区全域から非ユダヤ人のドイツ人物理学者を一人残らず招集して、原爆製造の可能性について討論を開始しています。ドイツではアメリカ合衆国以上に核分裂の理論は完成していたんです。
日独伊の枢軸国側が先行していたわけです。
一方連合国側、敵のこうした原子爆弾開発に焦ったアメリカは、イギリス、カナダを巻き込んで原子爆弾開発・製造のために、科学者、技術者を総動員した計画を進めます。これが有名な「マンハッタン計画」ですね。
日本の原爆開発計画というのは 陸軍と東京帝国大学が1940年前後から二号研究という名称ですでに始めていましたらしいですね。そしてこの映画のモデルになっているのが 海軍と京都帝国大学が戦争末期に行っていた"F研究"。と呼ばれるもので、映画にも出てきますが、終戦間際のモノがない時代に 原料になるウランは手に入らない、電力や機材もに足りずで 結局とん挫するわけですが、開発に成功さえすれば戦争に勝てると信じて
研究しているんですね。そういう姿が少し悲しくもあり、怖くもありますよね。
当時の国全体の精神状態だったんですね。
鈴木 そっちに突き進むしかなかったんですね?
荒木 そうなんですね。実はこの作品 日米合作作品なんですね。
そのせいか、原発の良し悪しや戦争による悲惨な被害についてはあまり描かれていない
というのが、正直な感想です。それとちらっと感じるのは、あの時代にすでに核抑止力という考えの萌芽が見られる点ですね。「核をもって核を制す」…ですね。それが70年以上たってもやはり 原爆保有の論理として存在するわけです。 見ていただくといろいろなことを感じると思います。
比較的静かな映像の中で、事実が持つ迫力というか、科学者の狂気と理性、弟の軍人としての覚悟と本音、一人一人がどう生きたのか、生きるのかという姿を見せつけられた気がしますね。重い映画ではあるのですが…「太陽の子」現在公開中です。
こうした、戦争をテーマにした映画はどうしても重いし、辛い作品が多いけど、言えるのは、描かれているこの時代の実態はフィクションではなく、現実のものだったということ。
鈴木 そうですよね。
荒木 そして、今 私たちが生きている、この現代と繋がっていうことをです。つまり地続きであるということですね。過去の話のようで、今の話でもあり、未来への話でもあるわけですよね。
鈴木 おっしゃるとおりですよ。
荒木 一年に一回ぐらいは、こうした思い戦争映画に触れ、日本とそれから原子力や、原爆保有の現実、そして戦争というものを、もう一度考えるきっかけにしないと意味がないと思いますね。
先週 私は「ワイルド スピード」見るときの基本態度はと言いましたか?
鈴木 何にも考えるなーって言っていましたよ。見るだけだーって。
荒木 そうですよね…頭、空っぽにして何も考えないで…と言いました。今回の映画は反対…見る前に考えて 見ながら考えて、見終わって考えてください。考えることは、楽しみでもあります。考えないで見るとだめですよ。
鈴木 子どものころから夏が一番大好きな季節なんですが、夏になるといつも戦争と歴史に向き合わなければならないのが、日本人なんですが、本とか映画だとかに触れて、ちゃんと考えて何かを感じるという夏にすることが大事ですよね。
荒木 そうですね。若い人たちにも考えてほしいです。
老人のたわごとみたいですけど、日本が経験してきたことが現在につながっているんだということを考える、まあ、こういうの見ると暗くなるし、悲しいからやだな、と思うかもしれませんが、まあ、ある意味日本人の勤めです…というと言い過ぎですかね。
鈴木 荒木さんありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。