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映 画

「彼女来来」と「一秒先の彼女」のとっておき情報
(2021年6月27日11:45)
映画評論家・荒木久文氏が、「彼女来来」と「一秒先の彼女」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月21日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん!! 今日もよろしくお願いします。
荒木 はい、今日はね、「彼女2題」というか、タイトルに彼女という言葉がつく映画 2本ご紹介しましょうね。
まずは1本目の彼女。「彼女来来」。先週から公開中です。彼女が来る来ると書いて「かのじょらいらい」と読みます。

ストーリーです。主人公は佐田君 30才の男性。佐田君は付き合ってから三年目になる、恋人のまりちゃんと一緒に住んでいて、同棲というやつですか、仕事も私生活も充実した 毎日を送っていました。
ところが、ある夏の日の夕方。佐田君が家に帰ると、そこにいるはずの真理ちゃんのすがたはなく、代わりに同じぐらいの年の見知らぬ若い女がいました。
その女は「マリ」という名前で、「ここに住むために来たの、」とよくわからない、無茶苦茶なことを言いだします。
さあ、突然失踪してしまった本当の恋人の真理ちゃんはどこへ行ったのか?
最愛の恋人が失踪して、その代わりのように 素性の知れない、押し掛け恋人のようなもう一人のマリとのギクシャクとした同居する佐田くんの日々が始まりました。
主人公の白昼夢のようでもあり、幻想のような、現実のようなとても不思議な話。
まあ、一言でいうと風変わりな映画です。一体どうなっているのか?、そしてそうなるのか?という・・ミステリアスな恋愛ファンタジーというか こういう映画はなんというんでしょ?いわゆる「不条理」ものと呼ばれるやつですよね。
全く非合理的な出来事。ありえない設定で 映画の中では詳しい説明もないまま話が進みます。文学でいうと、カフカやカミュの不条理小説的な世界感ですね。
見る人は まずこの訳の分からない状況を受け入れないと最後まで映画に入っていけず、止まったままになっちゃいますね。混乱したまま終わり。
鈴木 なるほど。まず拒絶はするなと…。
荒木 そうですね。つまり、この手の作品は浸ってしまう事。なすがままに受け入れないとだめですよね。 全くダメな人もいると思いますよ。
考えてみると主人公の置かれた状況は不条理ですが、恋人やパートナーが突然いなくなることは、去ることは決して現実離れしたことではないですよね。この映画は不条理劇のようでいて、描かれたドラマは我々の日常と全く無関係とは言えませんね。 突然知らない人が来ることはあまりないですけどね。
だいちゃん 同棲の経験はありますか?
鈴木 そうですね。今の奥さんと結婚前3年ほど同棲していましたね。
荒木 そうですか。一般的に今、そうみたいですね。
鈴木 まあ、そうでしょうね。普通ですね。
荒木 だけどどうなんでしょ?人間ちょっとしたガールフレンドなんかはともかくとして、一緒に住んでる恋人や夫婦は 人格やモノの価値観やもっと言えば、思想信条まである程度一致しなければ一緒に生活していけないんじゃないかと思うんだけど…。
ふらっと来た女の人と一緒には住めないけどね…どんないい女でも。
鈴木 そりゃそうですよね。だけど好みのきれいな女性だったら…ねー。
荒木 なるほど。好みね。だけど 飽きるでしょ?すぐ。
鈴木 安心感とかほしくなる…。わかる わかる。
荒木 そんなことにこだわっていると映画に入っていけないんですけどね・・・
不思議な映画です。出演者3人は 佐田君役 に前原滉さん 恋人の真理ちゃんには今売れています 奈緒さん 見知らぬ真理ちゃんには 天野はなさん 奈緒さん以外は舞台の人、ご存じないかもしれないですね。
監督は山西竜矢さん 監督の意図なのかとても、言っちゃなんだけど、ある種の『気持ち悪さ』や「不気味さ」がありますよね。うまくあらわしていますよ。
もともとこの映画は戯曲、演劇の映画化、そして 演劇演出の出身の監督だからなのか長回しだったり陰影 光と影の使い方がとても特徴的です。
タイトルですが、「彼女がくるくる」と漢字で表記して「彼女来来」。中国語かなとも思うのですが、よくわからないんですが、この来来、いろんな説があるんです。
来来…という言葉「来来」=「いい加減にして」。来来週などライライの中国語は来ですね。多分誘いの意味と思います。日本語のさあと似ていますね。人を誘ったり、促したりするときに発する語です。例えば、さあ、始めるよ。みたいな…。
ライは来の漢字で、相手を急かすということらしいです。とにかく不思議なタイトルです。
曖昧さと不気味さを感じる、個性的な作品です「彼女来来」現在公開中です。
もう一本の彼女、こちらは6月25日公開。台湾映画。「一秒先の彼女」というちょっと面白いタイトルです。

鈴木 「一秒先の彼女」グッとくるタイトルですねー。
荒木 ストーリーです。アラサー女子のシャオチーは、郵便局の窓口で働いています。が、仕事も恋もパッとしない毎日です。彼女は幼い時から、何をするにも人よりワンテンポ早いんです。例えば、映画を観て笑うタイミングも人より早い、ダンスをするにも、歌を歌うにも同じです。フライング気味なんですね。
鈴木 困りますね。ちょっと(笑い)
荒木 そんな彼女、バレンタインデーの日、ハンサムなダンス講師とデートの約束をしたのですが、目が覚めるとなぜか翌日になってしまっています。ワープしてしまったのか?寝過ごしか?大切な大切なバレンタイ・デーが消えてしまったんですねー。
消えた1日の行方を探しはじめるシャオチー。手掛かりは街中の写真店で、なぜか目が見開いている見覚えのない自分の写真、数字が書かれた私書箱の鍵、失踪した父親の思い出…謎は一層深まるばかりです。
そして、毎日 郵便局にやってくる、シャオチ―とは正反対の、人よりワンテンポ遅いバスの運転手・グアタイも手がかりを握っているらしいということがわかります。
そして、そんな彼にはある大きな「秘密」がありました。…といっても聴いてても私の説明もちょっとよくわからないでしょう?
鈴木 あはは そうですね。
荒木 まあさっきの映画とちょっと似ています。不条理なんですよ。説明がつかない。2人のタイムラグから生まれるファンタジックな不条理ラブコメです。
あの中華圏のアカデミー賞と言われる金馬奨、これでなんと監督賞、脚本賞、作品賞ですとか諸々含めて5部門受賞した、非常に評価されている作品でもあります。
監督はチェン・ユーシュン監督。代表作は「熱帯魚」ですね。20年前から温めていた脚本を基に撮りあげたそうです。
いろいろ見どころあるんですが視覚賞も取ったこの作品は、突っ込みどころも満載で、時間が止まる場面があるのですが、画面の人たちはきちんとストップしているんですが、時間は止まっているので当然なんですが、持っている風船なんかは風にふらふら揺れている。
鈴木 人だけが止まっているんですか?
荒木 そうなんですよ。これどう解釈したらいいのか?わざとしているのか
ちょっといい加減な部分なのか?アジアっぽいというと失礼なんですが、そこもほほえましい。
それから、その設定が面白いですよね。しかも消えた「1日」を探す。
それがバレンタインデーだったって。実は 台湾には2回バレンタインデーがあるんですね。 1回目は2月14日、で2回目はこの映画の舞台になっている7月7日なんですね。
今年は8月14日になるらしいんですよ、7月7日は旧暦でね。こちらの方がより重要なイベントになってるらしいですよ。男性から女性にプレゼント送るのが習わしだし。
そんなバックボーンがあるんですね。
映画全体を通して、いわゆる情緒溢れるというか、カラッとしていないのが良い悪いは別として、レトロというかと、モノにこだわったり。特に男の子は、女の子に対する気持ちをずっと持ち続けているところとか。郵便なんかを使う、いわゆるアナログなんですね。
全体的に…ちょっと前の時代設定ですね。
なんか今って本当に毎日の流れがとっても早いじゃないですか。それとは違ったゆったりした独特のペースを守ってるんですよね。日本の昭和みたいですね。そしてバスも舞台になっているんですが、バスがメインで出てくるとかね。そういうあたりものんびりしています。ファンタジーストーリーでありながら、夢なのか現実かわからないところだとか、ちょっと妄想なのか、その辺も入っているところで。絵的にもとってもカラフルでしたよ。よく分からない感じの世界観が楽しいのと一作目と同じで、夢か現実かわからない。「彼女来来」とは全く異なる作品ですが、モノトーンとカラーみたいな感じの対比ですよ。底でつながっている感じ。
6月25日公開予定の『1秒先の彼女』でした。
鈴木 でもね こんなに発達した世の中でも一秒先の未来はわからないんですよ。読めない。当たり前ですけどね。
荒木 それがわかっちゃうとね。つまらなくなっちゃうですよ
人間一秒先のことはわからない。真っ暗ですよ。
お互い一秒一秒を真剣に生きましょうとか、詰んない説教みたいになっちゃいますね。
鈴木 おっしゃる通りです。 荒木さんありがとうございます。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。