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映 画

「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」と「グリード ファッション帝国の真実」のとっておき情報
(2021年6月18日10:30)
映画評論家・荒木久文氏が、「ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~」と「グリード ファッション帝国の真実」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月14日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん 今日もよろしくお願いします。
荒木 はい、ところでオリンピック…どうなるんでしょうね。なんかやるみたいですよね?
前の東京オリンピックの時、私は小学生だったのですが、だいちゃんはまだ生まれていないですよね?
鈴木 そうですね、生まれていないですよ。
荒木 前のオリンピックの話をすると…どこかの総理大臣みたいになっちゃうんでやめますが、日本の最近なのは1998年の長野の冬のオリンピックですよね、
覚えています?
鈴木 いやあ 夢中で見ていましたね。

荒木 あの時のハイライトは、あのジャンプ団体の金メダルでしたね。
そんなことで今週されるオリンピック関連の作品です。
6月18日から公開の『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』という映画です。
1998年、長野オリンピック 日本中が沸いたスキージャンプ団体戦。あの金メダル獲得の裏側にあったテストジャンパーたちの活躍を描いた映画です。
テストジャンパーといっても 名前が似ているテストドライバーとは違っていて、機材などをテストするのではなく、出場選手がジャンプする前に安全を確認したり、競技中に雪が降った際は何度も飛んでジャンプ台の雪を固めるという、フォアジャンパーとか、トライアルジャンパーと言われる、競技運営のためのスタッフで、競技を支える大切な存在なんです。
主人公はそのテストジャンパーの一人、田中圭さんが演じる西方仁也選手。聞いたことあるでしょ?
鈴木 西方仁也選手?
荒木 長野の前のリレハンメル大会でスキージャンプ団体の一員として出場しましたが、原田選手の失敗で惜しくも金メダルを逃してしまいます。
長野に雪辱をかけていましたが、直前の怪我で代表に入ることが出来ず、屈辱を感じながらも裏方のテストジャンパーとして長野オリンピックにスタッフとして参加します。
そして大会が始まりますが、猛吹雪でスキージャンプ競技が中断となり、その時点で日本は4位。このまま競技が中止だとそのまま終わってしまします。協議を再開するためには 25人のテストジャンパー全員が無事に。飛ぶことが条件となりました。
命の危険もある天候の中、西方選手はじめテストジャンパーたちは、ある意味日の丸をかけたジャンプに挑むのですが・・・というお話なんですけども。
有名なのは、原田選手のね、涙のシーンですが、その涙の裏に、舞台裏にこんなに感動的なことがあったんですね。
みんな実在の選手なんですね。西方選手は田中圭さん。原田選手の役を濱津隆之さんという「カメラを止めるな」の監督さん役の方です。
鈴木 似ているねー!! だいぶ似ていますよね。
荒木 フェイスラインや雰囲気がそっくりで この人だけ本人使ったの?っていうぐらい。似てますね。
みんな実物の方がモデルなんですから。本当にあったっていう実話。その力はすごいですよね。それから 役者さんたちは、もちろんジャンプを飛ぶわけじゃありませんが、スタート台から命綱をつけて飛び出しを撮影しているんですよ。
私は地元 長野なんで、実際にこの白馬のジャンプ台に行きまして、上まで登ったこともあるんですけど、あのスタート地点に立ちましたけど…いや僕ね、高い所平気なんですよ、比較的。でもあれは震えましたね。
鈴木 俺、無理無理…確実。
荒木 いや、もう 13階ぐらいのビルの窓から、たばこの箱くらい広さの着地点目指して飛ぶようなものですよ。足がすくみます。俳優さんたちがよくね、あそこで実際に命綱を着けて、この台から滑ったものですよ。 頭だけでもすごい恐怖心ですよね。
鈴木 いやいや 無理無理…。
荒木 それと僕が観て感心したのは、原田選手に対して西方さんが「俺はお前の金メダルなんて見たくないんだよ」と本音を言う部分あります。それって ほんと、正直だと思うんですよ。スポーツやる人間て、サッカーなんかもね、気の強い選手なんかはね、 交代させられて、交代して入った選手がシュートすると「はずれろ!」となんか「はずせ!」とか思いますよね。実際声に出して言う奴もいますよね。
鈴木 うん わかるわかる…。
荒木 団体スポーツでもそんな。ましてや、やっぱり個人スポーツの選手は、私が私が…おれが、おれが…じゃなければ上手くならないし、そういう闘争心がなければ選手になれないんですよね、一流の選手には。本当のアスリートって、それがなければ大成しないよね?
だけど西方選手考えてみたら、それを乗り越えて、金メダルではない何かのため、それこそ自分のため家族のために、一つ上のステージというか成長しているんですよね。そこが一番素晴らしいところだと思いましたね。
それから一番最後に原田選手が、有名なインタビューですね、呟くように「みんなで、みんなで、みんなで獲ったものなんだ」と言うところがありましたけど、あれは当初聞いた時、団体戦だからチーム4人で獲ったんだなと、そういう意味かな?と。
他の3人も一緒に頑張ったから獲ったんだよ、という風に感じてたんだけど、23年後のね、今そのセリフを聞くと、いやいやもっと深い意味があったんだと。西方さんや他のテストジャンパーに対してのメッセージだったんだなと初めてわかったということもありますよね。その辺がとってもいい映画でしたね。
この映画 4月の頭にも前に試写会のプレゼントしたりしてもいるんですね。過去2回 延期になっているんです。3度目の正直です。
18日公開『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』でした。
鈴木 ついに公開ですか。

荒木 2本目は「グリード ファッション帝国の真実」という作品 6月18日公開です。
グリードの意味は強欲、貪欲、食い意地、欲張り、拝金主義という意味、あまりいい言葉じゃないですよね。クリードじゃなくてグね、グリードね。
ストーリーです。
イギリス人リチャード・マクリディは、60歳です。ファストファッションのブランド経営で超大金持ちになりあがった男です。
自分自身の還暦パーティを盛大に開催するため、ギリシャのミコノス島へやって来きます。
若い愛人同伴してね。 前の奥さんもその恋人と一緒に招待して、一人息子も呼びました。
このころ リチャードはイギリス当局から脱税の疑惑とか、彼の持つ縫製工場での労働問題を追及されていたんですね。彼は、このパーティをぶち上げて、かつての威光と余裕を取り戻そうとしていました。
しかし、このリチャード。あくまで自分勝手で人に気持ちを無視して、傲慢に振舞うので、周りの人々の間には、だんだんと軋みが強まってきます。
鈴木 まさにグリードですね。
荒木 さあ、そんな不穏な空気の中パーティが始まろうとしていました…。
パーティが終わった時、この男には…意外な結末が待ち構えていました。というわけなんですが…。
荒木 だいちゃん、ファッション的にはスポーツ系ですよね。
鈴木 色々着ますが、アディダスですね。
荒木 なるほど そういう感じですね。
この映画の主人公として描かれるリチャードという人物は、「TOPSHOP」「ミス・セルフリッジ」などのチェーンを世界中に持っていた、アルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿がモデルである。ということは初めからうたわれていますね。
ほんもののフィリップ・グリーン卿という人は、 そうですね。かつてのケビンコスナーをうんと太らせて 頭がはげさせた感じのおっちゃんですよね。
このおっさんで、とんでもなくって、毀誉褒貶というか、アップダウンがすごくって…彼は、ナイトの称号を授与されています。映画の中でもサー、と言われていますし。
でもいろいろなスキャンダルや人種差別、セクハラ疑惑、企業経営の失敗 が影響したのか5.6年前でしたか、なんとこの称号を取り消されてしまったんですね。
鈴木 えー、そういう事ってあるんですね?
荒木 そうなんですよ。この人、ほかにも 株の配当金を横領したりした結果、従業員約1万1000人が職を失いうなど混乱を広げたんですよ。とんでもない人ですよね。
主演は、スティーブ・クーガン。なのですが、彼の表情を見た途端、あの、前大統領トランプを思い出しましたね。顔は全く違うんですけど、醸し出す 雰囲気がそっくり。
尊大で、押し出しがよくって、まあ、かなり嫌な人間として、当然、意識して演技しているんでしょうねと思いました。
この悪徳大金持ちがどうなるというのが 映画のメインなのですが。
もう一つこの作品 ファッションと衣料品、洋服の生産と消費の描写が大きな要素になっているのですが、自分の着ている服についても考えさせられました。衣料品の大量生産、大量消費 私なんかは大した服を着てるわけじゃないんですけど…こういう衣服は生産だけでなく、廃棄の問題も最近は出てきているんですよね。これが大きな問題になりつつあるのは皆さんご存知ですよね。
その上に奴隷のような安い賃金で途上国の子供や女性に服を作らせ、それをヨーロッパなど先進国の人間が消費しまくるというとってもわかりやすい構造が描かれています。
そこから派生した衣料産業全体 グローバリズム、ひいてはその影響下で生きる我々の生き方についても考えさせられ、今の自分の生活や幸せが地球上のどこかの誰かの涙の上に成り立っているもあるんだよと意識させられる作品です。
資本主義の行きつくところ。独占資本主義と植民地主義と収奪などキャピタリズムの悪いところをよーく提示しています。
が、まあ、事実を提示しているだけで、何の解決方法が描かれているものでもないですが、根底に流れる国際資本主義や、グローバリズムへの疑問が、意識的なのか無意識なのかは別としてよーく示唆されていると思います。
ドラマとしての本筋はサスペンスというか、この悪徳起業家のおっちゃんがどうなるのかということが本選なのですが、私は、どっちかというとそっちのほうに興味が魅かれた部分もありますよね。というわけで6月18日公開。「グリード」という作品でした。
鈴木 荒木さん、ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。