-
映 画

「わたしのお母さん」「手紙 オモニの願い」「母性」のとっておき情報
(2022年11月12日11:00)
映画評論家・荒木久文氏が「わたしのお母さん」「手紙 オモニの願い」「母性」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、11月14日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 突然ですが、ダイちゃんのおかあさんってどんな方ですか?
鈴木 お、お母さん⁉ 母親? いぃやあー、素敵ないいお母さんですよ。
荒木 そう。何かいろいろ影響うけたとか…、ありますか?
鈴木 ずうっと働いている女性だったので、父親よりも2歳年上の女性で、ずうっと働いているイメージが、あったですね…。
荒木 そうですかーなるほど。
実はこのところ、マザー、母親をテーマにした作品が多く公開されているんです。
母の日とかとも違い、何でもないんですが、ちょっとその辺り、母 及び母と子の映画をいくつか紹介したいと思います。
まず、日本の映画です。すでに公開中ですが、「わたしのお母さん」という作品です。
鈴木 「わたしのお母さん」。ストレートだなぁ。
荒木 タイトルだけ聞くと何かほんのりした作品と思いますが、これがなかなか一筋縄ではいかない複雑な映画なんです。
ストーリーです。主人公は夕子さん、井上真央さんが主演です。
現在、結婚して夫と2人で暮らしています。彼女は自分の母親、石田えりさんが演じていますが、母親と同居することになります。石田えりさん演じるこの母親は、明るく社交的な性格なんですけど、なんと夕子さんとは正反対なんです。夕子さんは内向的で物静かで…そういう親子いるよね。
鈴木 いる。いるよ、意外にいると思うな。
荒木 で、夕子さんはそんな母親に昔から苦手意識を抱えているんです。
実の母ですけど、同居生活を始めた夕子さんは、昔と変わらない母親にどんどんストレスを募らせて行くんですね。
そんなある日、母娘の関係を揺るがす出来事が起こる…と言う話なんですけども…。
母と娘というと、なんでも分かり合える…みたいなイメージがありますよね。
鈴木 あるある。友達みたいってイメージはある。
荒木 でもね、世の中そうでもないんですよね、本当は!正直、母親を好きになれない娘とか、娘を理解できない母親とか。
鈴木 いっぱい居るんだろうな。
荒木 相性の合わない親子っていると思いますよね。
鈴木 わかる、わかる。
荒木 だからこそ、苦しむ人もいるしね。この映画は、そんな母娘。溝が埋まらない母と娘の間に一体何があったのか?そのあたりを丁寧に、丁寧に描いています。
ちょっと暗い映画なんですけども(笑)。井上真央ちゃんは、本来イメージは明るいですが、ここのところ内向的というか、いわゆる感情を表に出さない演技の作品が増えてきてるんですね。今回は、もっとも顕著と言いますか、凄い沈黙と暗い表情、何も語らずたたずむ姿とかがとても印象的なんです。
セリフがとても少なくて、行間読んでください的映画とでもいいますか…ああいう種類の映画ですね。観客に考えさせる時間を多く与えているという感じ。これを見ると、似た経験がある人はもちろん、親子関係が上手くいっている人だとか、あるいはちょっと違和感があるけど、何となく母と子だからと言って成立している人とかね。いろんな立場から見ても心に刺さる作品ですね。
鈴木 なるほど。そうすかー。
荒木 ある意味残酷な作品かな?と思います。
まー、互いの気持ちのすれ違いに葛藤する母と娘。この複雑な感情を綴った人間ドラマです。現在公開中「わたしのお母さん」。
ま、ダイちゃんとか私の母子関係にはちょっと…。ま、男の子だから、またちょっと違うからね。男の子は割合…お母さんっ子って言葉がありますけど、マザコン傾向が多いような気がしますね。
鈴木 わかる、わかる。
荒木 私なんかこの歳になっても、かみさんから、マザコン野郎って言われますから。
鈴木 まだ、そんなことまだ言われてんの?あららららー。
荒木 親はもう、死んでんのに、マザコン野郎とか言われてますけど。ま、男の子のほうがね、そういう意味ではお母さんと仲いいって感じもありますよね。
鈴木 そうですね。
荒木 で、こちら、2本目。母と男の子 息子のストレートな愛を描いた韓国ドラマです。「手紙 オモニの願い」です。
鈴木 「オモニ」…。

荒木 韓国語で「お母さん」ということですね。現在公開中です。
主人公の男は、ギガンといいまして、彼は一発成功を夢見て、故郷を飛び出すんですけど、意気込みとは裏腹にちょっといろんな事があって、誤って人を殺してしまって死刑囚となるんです。で、牢屋に入れられてしまいます。母親は息子に一目会おうと面会に行きますが、会わせてもらえません。周りの人に、嘆願書を書いて人々の署名を集めれば死刑を免れるかもしれないという話を聞いた母は、息子のために、できなかった読み書きを一から学び始める…。子どもを救いたい一心で必死に頑張る母の姿を描いたドラマです。
鈴木 熱そう。何か情が厚そうな映画だな、これ。
荒木 無条件で息子が可愛い母親と、何があっても息子を想うという母の気持ちがストレートに出ている、それに初めて気が付くバカ息子という、そういう感じなんです。
鈴木 なるほどー。わかりやすい。わかりやすい構図だなぁ。
荒木 ひと昔前の母モノと言っていいですよね。で、涙腺の弱い人はハンカチたくさん必要です。泣けるネタ、いっぱい盛り込まれています。
「手紙 オモニの願い」という、現在公開中の映画です。
最後は大物作品です。ちょっと先ですが、11月23日公開の、母の性と書いて「母性」と読みます。
戸田恵梨香と永野芽郁が母娘役を演じたミステリードラマです。注目作ですよ。
簡単なストーリーです。女子高生が死亡する事件が起きます。発見したのは少女の母で、事故なのか自殺なのかわからないということなんですけども、この事件を聞いた高校教師の清佳さんは、あることを思い出します。…という事で映画ははじまります。
鈴木 もうそこがミステリーじゃん。

荒木 (笑)それは自分と母に関することで、ですね、映画では、母と娘がふたりの過去をそれぞれの視点から振り返っていくパターンになっているんですよ。同じ時間や同じ出来事を回想して、それが絵になっていくんですが、その内容がだんだん次第に食い違っていきます…というちょっと説明しにくい内容なんですが。
鈴木 ほぉ、ほぉ。
荒木 で、この親子はさっきの映画「わたしのお母さん」と同じように、単純な仲良し母子じゃないんです。キャッチコピーが「母の愛が、私を壊した」という…。
鈴木 うぅわー!うわー! なるほどー。
荒木 (笑)という感じなんですね。あんまり喋れないんですけどね。
鈴木 わかる、わかる。はいはい。
荒木 主な出演者は、語り手でもある母のルミ子を戸田恵梨香さん、娘の清佳を永野芽衣さん。つまり戸田恵梨香さんの母親役を大地真央さんです。そのお姑さん役を高畑淳子さんが演じています。
鈴木 ああ!もう濃厚‼
荒木 そうですね。この女優4人のそれぞれの存在感が、まず凄いんですよ。
戸田恵梨香さんは、陶器のような表情といったらいいのかな?無表情の表情⁉ 失礼ながら、こんなうまい女優さんだったのか!と改めて思いました。永野さんも前の作品とは異なる、複雑な感情の表現も素晴らしかったんですが、問題は、この高畑さんと大地さんね。
鈴木 問題は…(笑)
荒木 大地さんは、ちょっと浮世離れしたところのある母親やるんです、永野さんのおばあちゃん、戸田さんの母親役だったのですが、これがいい味なんですよ。
お金持ちのおばあちゃんなんですけどね、ちょっととぼけたところのある、「そこに愛はあるんか?」…的な、あの方のコマーシャルですけど、彼女の。そんな感じが上手く入っているんです。
鈴木 上手い!荒木さんが上手い!
荒木 (笑)ありがとうございます。で、高畑さんの姑は、もうリアリティあり過ぎで、ちょっと言葉もありません。もう凄い!この4人が作品をひとつ上のレベルに押し上げているような気もします。
監督は、恋愛映画の名手"と言われる廣木隆一監督作品ですが、原作はダイちゃんも読んだことありますよね? あの例の、読み終わると、面白いけどイヤーな気分になるといういわゆる「いやミス」の女王と言われる湊かなえさん。
鈴木 (笑)前話題になった時、僕読みましたよ。
荒木 そうですよね。「告白」とか「白雪姫殺人事件」などが、映画にもなっていますよね。
「母性」母の性と書くんですけども、これがメインテーマなんですけど。
母性って何かというと、小さな子どもを見て「かわいい」と感じる気持ちを母性とか母性本能と言い、女性には、子どもに愛情を注ぎ、面倒を見る本能が、もともと備わっているとされていましたよね。ところが最近は、実は「母性」は,本能的に女性に備わっているものではなくて。
鈴木 ものじゃない!?
荒木 そう。その女性の人間形成過程,とりわけ3~4歳ころの母親との関わりによって生じて、個人差が凄くあるんだそうですね。つまり、女性は子どもを産めば必ずしも母性が芽生えるわけじゃないということなんですよ。
鈴木 なるほどー。
荒木 この辺りがこの映画の「きも」なんですよ。もうひとつはこの母子。
娘であり、母親から愛される立場であり続けたいまま、子どもを産んでしまった母親っていうのがね。娘の意識が抜けきらないというね。そういうおばあちゃんから母、そして娘…っていう愛情のリレーみたいなものがね。
鈴木 あー!今日の荒木さんは、いつも以上にわかりやすく、素敵すぎるね。
荒木 そうですか。ありがとうございます。ま、さまざまな立場の人、結婚している人、してない人、子どものいる人、いない人。いろんな人が観ると思いますけど、男の私にとっては、母性というものにダークサイドというか、行き過ぎた母性や受け身でしかない母性があるみたいなものを感じました。
鈴木 なんか束縛だったり、所有欲だったり、そういうものを母性だと思ってる方もいるじゃん。
荒木 そういうこと。そう、自分の思うように子供を育てたいっていう人もいるしね。ま、小説も面白くて、読み終わった時にはイヤな気分になると言われますが、こちらの映画も観終わった後は、面白いんですけどちょっと不快な気持ちになるかもしれませんね。
鈴木 帰り、これ絶対、天ぷらそばを立ち食いで喰いたくなる映画ですよね。
荒木 何それ?
鈴木 よくわからないけど、そんな気分になるわー。
荒木 あはは、それだけ演技が凄いし、脚本もいいというね!そういう映画です。11月23日公開です。「母性」という話題作でした。 ちょっと長くなっちゃいましたけど、母物。ちょっとげっぷが出るかもしれませんけど。うるさい母ちゃんはどこにでもいますからね。
鈴木 これでこの後、海援隊の母に捧げるバラードをかけちゃったら、大笑いですね(笑)
荒木 (笑)いろんな家族の数だけ、母親と子供の関係ありますからね。考えさせられる4本です。
鈴木 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。