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映 画

「ラストナイト・イン・ソーホー」「偶然と想像」のとっておき情報
(2021年12月15日11:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「ラストナイト・イン・ソーホー」と「偶然と想像」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、12月13日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、今週もよろしくお願いします。
荒木 はい、先週からリスナーも皆さんから「今年見たベスト映画」を教えてくださいと呼びかけましたが、今日ご紹介する2本の映画も、何人かの方には絶対ベスト映画になる作品だと思いますよ。
2本ともここにきて、真打ち登場かとでもいうようなすぐれた作品で、私も絶対ベスト10に入れたい作品です。
鈴木 荒木さんも?えー、楽しみですねー。
荒木 1本目 現在公開中です。「ラストナイト・イン・ソーホー」。昨日の夜ソーホーで、とでも訳しましょうかね。
ソーホーというのはイギリスの首都ロンドンの中のほんの狭い地域です。
行ったことありますか?
鈴木 ないんですよ。行きたいですけどね。

荒木 このソーホーって地域は 現在はともかく、昔はものすごくいかがわしいところだったんです。ストリップバーとか風俗系の店やちょっとヤバ気の店が集まってるところなんですよ。そうですね、だから日本の町でいうとちょっとニュアンスが異なりますが、まあ、「一番近いのは新宿・歌舞伎町でしょうか?いかがわしさでいえば、私の事務所がある、渋谷道玄坂百軒店も負けませんが…まあソーホーって言うのはそういうところです。
このソーホーを舞台にした映画がこれからご紹介する『ラストナイト・イン・ソーホー』。
映画ジャンルでいうと、基本的にはサスペンスで青春映画。なんですが、そこにホラー映画をベースにしたソースと、ミュージカル映画を混ぜてタイムトラベル要素も入れたという、もう欲張りな映画で…でもほんとにそれをうまく混ぜて面白い作品に作り上げた、傑作と言っていいでしょう。
監督は『ベイビー・ドライバー』でおなじみ オタク系ともいわれる、エドガー・ライト彼は、子供の頃 両親から1960年代のロンドンの話とか、当時のイギリスの流行歌をずっと聞かされてきて。自分がまだ生まれてなかった60年代のロンドンに憧れて作った映画がここの『ラストナイト・イン・ソーホー』なんですね。
鈴木 なるほど、なるほど…。
荒木 さあ物語。舞台は現代です。
ファッションデザイナーを夢見て、田舎から出てきて、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始めます。ある時、夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで、歌手を目指す美しい女性サンディに出会います。その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになります。次第に身体も感覚もサンディとシンクロしていきます。
夢の中で何度も60年代ソーホーに行ったり、現代に帰って来たりを繰り出すようになった彼女でしたが、ある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまいます。さらに現実では謎の亡霊が出現し、エロイーズは徐々に精神をむしばまれていくというストーリーです。
ネオンカラーひしめく映像×60年代音楽に圧倒されます。それに乗って、二人の女優、エロイーズ役はトーマシン・マッケンジー、サンディにはアニャ・テイラー=ジョイ。とてもキュートでこれから注目の女優です。名前憶えておいたほうがいいですね。
背景にある60年代のロンドンっていうのは世界の全ての文化がそこから生まれるっていう時代だったんですよね。
鈴木 いわゆるスインギング・ロンドンですね?
荒木 そうですね。このあたりはダイちゃんのほうが詳しいでしょうから、ちょっと説明してください。
鈴木 はい、60年代アメリカにはサンフランシスコに「ヒッピー文化」が開花しましたね。同じように、60年代後半はロンドンが輝いていた時代です。
ビートルズ ミニスカート ツゥイギー ジェームス・ボンド ビダル・サスーン
カーナビ―ストリート…。
若者の文化の大革命と言っていいと思うんですが、その発信地というか震源地がロンドンで「スインギング・ロンドン」と呼ばれていたんですね。
ファッションとか音楽とかカルチャーは全部ロンドンから世界中に向けて発信するという時代ですよね。このブームの発生時期を正確に特定するのは難しいのですが、その導火線となった一つのきっかけは、なんと1966年のサッカーワールドカップイングランド大会での地元イングランドの優勝があるんじゃないかという説があるんですね。
あの優勝騒ぎに浮かれて、大盛り上がり そこにビートルズがミックスされたり、すべてがミックスされた流れが「スインギング・ロンドン」になったんじゃないかと思いますよ。
荒木 なるほどねー。今考えてみると イギリスが頂点というか、いちばんよかった時期ですよね。いろいろな面で…なるほどね・・面白いですね。ミュージカル的映画と言いましたが、当然この映画はこの辺りの音楽が目いっぱい詰まっていますね。
鈴木 たまらないですね。やばい選曲ですよね。
荒木 60年代のご機嫌なポップス、それこそ絶え間なく流れてきます。
ダイちゃんの手元にもリストがありますかね?
この映画 オープニングのピーター&ゴードン「愛なき世界」から始まって、1960年のイギリス中心のヒット曲オンパレードです。特に私が懐かしかったのはペトゥラ・クラークもそうだったんだけど、なんとウォーカーブラザーズの「ダンス天国」ウィルソン・ピケットよりこちらのほうが好きだったな。
余談なんですが、もうひとつ、この作品「007」の影というかオマージュが強烈にうかがえる作品なんですよ。わたしだけかな?こんななこと思っているの。
60年代にタイムスリップした場面 ロンドンの街並みの中に映画館が映りますがそこで上映しているのが『007/サンダーボール作戦』(1965年)
そしてこの「ラストナイト・イン・ソーホー」には二人の元ボンドガールが出ています。
一人目は元ボンドガールのダイアナ・リグ。重要な老婆役です。
この人「女王陛下の007」(1969年)のボンドガール役。シリーズ全24作中、ボンドと結婚した唯一のボンド・ガールとして知られています。
鈴木 最後衝撃的でした…。
荒木 そしてもう一人、007 『ゴールドフィンガー』のボンドガールの1人、マッサージ嬢ディンクを演じたマーガレット・ノーランも主人公のおばあちゃん役だったかな…で出演しています。
残念なことにこの二人は去年そろって亡くなりました。この作品が二人の遺作です。
ショーン・コネリーも昨年亡くなりました。
鈴木 ほんとにオマージュですね。
荒木 それで、次の「007」の映画が最近注目されているんですが、この監督を、熱望していると言われているのが、エドガー・ライトなんですね。
そんな意味でも「007」へのオマージュがかなり濃い多い作品になっているのかなあ、という気はしています。考えすぎかな?
鈴木 楽しい話ですね。
荒木 ちょっと関係ない方向に言ってしましましたが、さっき言ったよう
楽しいポップスとかロマンチックな歌を背景に、画面で起こることは基本 ホラー映画
ですから、あまり詳しいことは言わないほうがいいんですが。
さすが ベネチア映画祭で圧倒的なでスタンディングオベーションを浴び、評論家から
激賞を寄せられている作品なんだと痛感しましたよ。
でもとにかく魅力的な作品でした。ホラーとしてはちょっと甘いという評価もあるようですが、これだけ詰め込んで楽しませてもらうと、そこらあたりは気になりません。
優れた映画です。いろいろなものを重層的に組み立てている…最後まで目を離せませんよ。あっと驚く結末です。「えっ?」っていう感じで。
「ラストナイト・イン・ソーホー」。今年の掉尾を飾る映画です。
鈴木 見たいなー。
荒木 そして ここに来てもう一本、この12月びっくりした作品です。
12月17日から公開なのですが、まさかの、個人的には今年ぶっちぎりで上位に来る作品です。
鈴木 マジですかー。

荒木 日本の映画、『偶然と想像』という作品。「偶然と想像」です。
この作品、ベルリン国際映画祭で銀熊賞!審査員グランプリ獲得。濱口竜介監督です。
今や、世界的な評価が爆上がりの監督さんなので注目していただきたいんです
作品は3話の小さな話からなるオムニバスになっています。
ほんとは何も言わずとにかく見てね、と言いたいのですが、そんなわけにもいかないので
しょうがないから、ちょっと紹介しますね。
でも本当は簡単な紹介も聞かないで見たほうが、何十倍も面白いですよ。
特に第一話「魔法(よりもっと不確か)」という作品は一行の筋立ても知らないで見ると必ずもう一度見たくなりますよ。
鈴木 必ず見たくなる?!
荒木 第2話はちょっとあらすじ説明してもいいかな…。「扉は開けたままで」というタイトル。50代にして芥川賞を受賞した大学教授がいます。
この教授に落第させられて、就職できなかった男子学生が逆恨みから彼を陥れようしてと、女子学生を彼の研究室を訪ねさせ、色仕掛け、いわばハニートラップをかけようとする、 というストーリーなんですが…。最後のシーンのインパクトにアッと言わされます。
鈴木 えーちょっともう?言えないですよねー。
荒木 言えないですねぇ。そして3話目は「もう一度」というタイトル。仙台で20年ぶりに再会した2人の女性が、高校時代の思い出話に花を咲かせながら、現在の置かれた環境の違いから会話が次第にすれ違っていくというお話。
いずれもそれぞれ「偶然」と「想像」という共通のテーマを持ちながら、異なる3編の物語から構成されています。会話劇でおもしろい。3話とも言葉の掛け合いが絶妙で長回し多様で役者は大変でしたでしょうね。
一言でいうと見終わったあと、良質な推理小説を読んだなーという感じでしたね。
鈴木 荒木さんがそこまで言うと見に行かなきゃならないですよ。
荒木 日頃 私たちにも起こる偶然…考えてみれば我々の運命って偶然によって支配されているんですよね、
人と人がすれ違うとか。それによってその後の人生が180度変わっていくようなお話は現実にもありますよね。ダイちゃんと私も偶然 出会っていなければ、こうやってしゃべっていませんよ。
そのあたりに注目し、うまーく考えられている作品ですよ。
リアリティがあって。ああ、これだけ会話で、しかも短編で見せるのは濱口さん凄いなと思いまして。
鈴木 それにしても濱口監督、凄いですよね。今年公開された「ドライブ・マイ・カー」も今年じゃなかったですか?
荒木 そうですね。今年です。「ドライブ・マイ・カー」は、今年の第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本映画では初となる脚本賞を受賞。ほか、3つの独立賞も受賞しましたよね。
濱口監督 恐るべしです。
鈴木 わかりました、荒木さん。
荒木 これ本当に面白かったから。そんな感じで、私がおすすめしたのは、12月17日から公開の『偶然と想像』です。
鈴木 「ラストナイト・イン・ソーホー」は音楽ファンも必見ですよね?
荒木 そうですね。 音楽いっぱいです。特に主題歌的に使われている「ダウンタウン」。オリジナルはご存じのペトゥラ・クラークですが、今回は出演している
アニャ・テイラ=ジョイの歌で聞いていただきたいですね。
鈴木 この後かけさせていただきますよ。
荒木 お願いします。
さあ今12月末まで「今年見たベスト映画」を募集中です。
簡単な感想と今年ごらんになった映画(配信でも大丈夫です)を教えてください。
今年いっぱい募集中です。
鈴木 荒木さん、ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。