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映 画

「孤狼の血 LEVEL2」のとっておき情報
(2021年8月21日9:50)
映画評論家・荒木久文氏が、「孤狼の血 LEVEL2」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月16日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さーん、よろしくお願いいたします。
荒木 「孤狼の血 LEVEL2」 8月20日 公開の作品です。
鈴木 出たー!!

荒木 孤狼は孤独の狼です。一匹オオカミという意味もありますね。
3年前公開された白石和彌監督の「孤狼の血」の続編です。
1本目はごらんになりましたか?
鈴木 見ましたよ。
荒木 今回 だいちゃんには、この続編である「孤狼の血 LEVEL2」、見てもらいましたよね。
鈴木 これはすごいですよー。
荒木 後で 感想をお聞きしますが、ちょっとあらすじを簡単にご紹介します。前回の主演は役所広司さん。その時、コンビの新人刑事として登場した松坂桃李さんが演じる日岡秀一が今回の主人公です。舞台は平成3年の広島。呉原市、呉市でしょうね。
どう見てもですね。
前回虐殺された大上刑事(役所広司)の後輩で跡を継いだ刑事・日岡。彼は以前ものすごく真面目で正義感が強い若いエリート警官でした。当時は反発していた、大上刑事の跡を継いだ彼はあのころとは全く変わって、ほぼ別人。風体もどっちがヤクザ?って感じの、まるで役所さんのスタイルをそのまま受け継いじゃった、正義と悪のぎりぎりのところを行っているんですね。まさに孤独なその孤狼の血を引き継いだという感じです。
「警察じゃけえ、何してもええんじゃ」と、すっかり不良刑事になっている日岡。でも暴力団の抗争を防ぎ、堅気を守るという信念はとても強く、そのためならどんな汚い手でも使う型破りの刑事。自分の独特のやり方で裏社会をコントロールしています。
一方 ほんとのヤクザサイドですが、時代が移り、以前のように自由にしのぎができず、極道やヤクザが足を洗い始める中、刑務所から出所してきた、こっちは本物のヤクザ、上林(鈴木亮平)は、自分の組の幹部殺しの本当の黒幕は、警察の日岡だと突き止め、残酷な復讐が開始されます。さあ、常識はずれのヤクザ、悪魔のような上林によって、町の秩序が崩れ始めます。さあ日岡はどうなる?・・・・というものなのですが…。
だいちゃんにも見ていただきました。
全体の感想を聞く前に 俳優さんの感想から…お聞きしましょう。
松坂君はどうでした?
鈴木 松坂君って、ここまでいい意味で擦れた感情をむき出しにしてはまる役者さんだと思っていなくて…。
荒木 そうですよね。今まではどっちかっていうと気のいい青年役が多かった。
鈴木 今の時代を感じさせるイケメンという、イメージだったんですが あの時代に実在したのではないかと思われる、厄介だなと思われる刑事を、素晴らしく演じていて引き込まれましたよ。見事に。
荒木 髪を短くして、頬も随分こけています。無精ひげ…ダークな世界で荒れ狂う姿がとても印象的です。前作の新人警部のおどおどした日岡君はどこへ行ったんじゃい!というくらいに血にまみれながら怒鳴る、殴る、蹴る、超迫力あります。
ちゃんと情婦もいます。人間こんなに変われるんですね…という感じ。
鈴木 びっくりしましたよ。
荒木 相手役の鈴木亮平はいかがでした。
鈴木 上林役ですね。そもそも鈴木亮平さんって役者さんは ナイスな好青年という感じで好感度もむちゃくちゃ高いタイプですよね。
僕は邦洋問わず 悪役の出る映画が大好きで、いろいろ見ているんですが、今回 これ以上見たことないっていうような、悪。「ザ・悪」じゃないですか、何のやさしさのかけらもない…こんな怖い人間見たことない。
荒木 ムショから出てきたその足で自分をいじめた看守の家族の家に殺しに行くんですよね。殺人マシーンなんですね、彼は、敵だろうと味方だろうと、自分の兄貴分だろうと親分だろうと、片っ端から殺していく。すごく冷たい目をして、ヤクザの上下関係とかも無視して片っ端から殺しまくります。
鈴木 こんな怖い人間見たことないですよ。怖い。これはちょっと。
荒木 さっき言ったようにやさしい役が多かったですよね。インテリですよ、この人。東京外国語大学 英語専攻卒業、英語が堪能で、英検一級。彼の名が知られたのは多分 『HK 変態仮面』でしょう。なぜか偶然落ちていた女物の下着を被ると、突如変態仮面に変身するというほとんど裸の変態ヒーローでしたね。
また、役に合わせて体重を20kgも30㎏も増量したり、減量したりすることでも知られていますよね。プロ意識のかたまりということでも知られています。
鈴木 殺し方がなんともすごい、一滴の血もないような・・なんとも血が通っていないなという感じ…。
荒木 今回は「日本一悪い人を演じてくれ」という白石和彌監督の要望だったようですが…。
鈴木 そうだとしたら見事に「日本一悪い人」演じていますよ。
荒木 昔 渡瀬さんが演じた悪役を思い出しましたよ。最初から最後までずーっと怖い。
鈴木 そうですね。ブレがない。
荒木 久々の恐怖というか 髪型もヘンだったよね。
鈴木 そうそう、短いのか、パンチパーマなのか何なのかわかんない
あの時代にいたかもしれないという感じでした。
荒木 鈴木さんご本人 演じた後に自分の演技を見て、そのキャラの残虐さに落ち込んでたらしいですよ。
鈴木 あはは わかる、わかる…。
荒木 ほかにもねー 吉田鋼太郎とか男臭い人ばかり出ていますが…。
鈴木 僕が印象に残ったのは、スパイ役で入っていた“チン太”役の村上虹郎さん。あの方がよかったですね。切ない役。
荒木 日岡からヤクザの組に送り込まれたスパイ役。ヤクザと警察の間で、板挟みになって、だんだん大変な事になっていきます。それがね、ものすごく切なく描かれていて、これは昔から描かれるチンピラの悲劇のパターンです。必ずこの役周りの人はいますね。目がよかったんですよね。
鈴木 キラキラしているんですけど、悲しいんですよね。
荒木 そのお姉さん役で、西野七瀬さん。
鈴木 これがまた妙に不器用そうな演技に見えながらリアリティがあるな、と感じました。
荒木 そうですね。 ケータイCMの貯めすぎ先生。
日岡の愛人、情婦役で 村上虹郎さんのお姉さん。髪の毛茶色くして水商売のママ役、似合ってました。ぎこちないけどしろーとっぽくて。
鈴木 元乃木坂の西野さん。
荒木 全体の感想としてはいかがでした?
鈴木 僕も昔から「やくざ映画」よく見ていましたが、ま、それとは違った次元ですが、任侠映画・やくざ映画をちゃんと継承していて私より上の世代で70年代の作品を見てきた人たちもわくわくすると思いますよ。
荒木 おっしゃる通りですね。まさに“東映の血”が色濃く感じられる映画ですよ。 全編通して 男くさくて汗臭い。おまけに血なまぐさいというわけで、
まあ、スタイリッシュ、無機質で体臭すら感じられないようなこぎれいで清潔な映画が
とっても多くなっているような気がする昨今ですが、ま、そういうものはそういうもので大変いいのですが、一方こういう灰汁の強―い、泥臭い映画を見たいですよね。
ちょっと難しいことを言うと、時代背景としては昭和から平成へ 昭和が終わり、合法的なビジネスに転換していく平成初期のヤクザを描いています。
血で血を洗う抗争からビジネスへという時代を背景のバイオレンスの裏に、今までは触れられなかった暴力団組織が抱える、在日問題や、差別の問題 汚職問題といったテーマや、さらには出自の問題や戦後の貧困などの社会のタブーについても触れられており、前の作品を超えた社会性も持っていて深みと社会性が見えます。
ヤクザになる人たちはどうして、その道に入っていくのかとか…。
本当はこっちのことをもっともっと話したいのですが、それはまたの機会として…。
さらに 前作より恐怖度が増したうえ、サスペンス要素も加わっています。
「孤狼の血 LEVEL2」、是非シリーズで見たいですよね。
鈴木 見たいですね。 3本目あったら必ず見ますよ。
荒木 今回は原作にないオリジナル脚本で、この次の第2部は製作するでしょう。たぶん。
鈴木 これは本当に面白い作品でした。後、盛んにやくざさんがビジネスという言葉を多用するんですよ。時代のはざまというか。
荒木 しのぎとか言うなーってね。そのあたりの時代の変遷、ギャップというのが面白いですよね。
鈴木 素晴らしい映画 見せて頂きました。ありがとうございました。
それと、全編にわたって、特に前半、広島弁なんですよ。徹底的に広島弁、字幕を入れてもいいぐらい、異界感というかどんどん引き込まれてゆく感じでした。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。