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映 画

「ずっと独身でいるつもり?」「サマーゴースト」「ボストン市庁舎」のとっておき情報
(2021年11月19日17:00)
映画評論家・荒木久文氏が、「ずっと独身でいるつもり?」「サマーゴースト」「ボストン市庁舎」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、11月15日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん よろしくお願いします。
荒木 はい、秋も深まってきていますが、今一番結婚式が多い時なんですよね。ある統計によると一年のうち10月が一番多くて、2番目は今月11月らしいですよ。
まあ、そんなわけでもないんですが、こんな作品からご紹介です。
「ずっと独身でいるつもり?」。現在公開中です。
田中みな実さん ごぞんじですよね?フリーアナウンサーで且つ、最近はドラマやCMなど多方面で大活躍…が映画初主演。そして 原作は人気漫画家おかざき真里のコミック。演出は「おいしい家族」「君が世界のはじまり」などで注目の女性監督 ふくだももこ。
今 最前線 フロントを行くといった女性3人がトリオを組んだ女性映画、注目作品です。
ストーリーです。
36才のまみ(田中みな実)さん。彼女は10年ほど前に出版したエッセイで異例のヒットを記録し、一躍有名作家となりました。
ところが、続くヒット作を出すことができずに、本来の作家活動ではない、WEB配信番組のコメンテーターを務めたり、作家としてはいまいち、くすぶるというか、ぱっとしない時期を過ごしていました。
一方で、周囲からは事あるごとに独身であることを心配されていて、親や周囲から文字通り「いつまで独身でいるつもり?」などと言われます。彼女には年下の恋人がいて、結婚に向けて進んではいるのですが、彼と一緒にいるうち、だんだん明らかになるギャップや、価値観の違いから日々日々不安と、言いようのない怒りみたいなものがたまっていきます…という不安な感じで映画は進みます。

鈴木 ありげ。よくあるパターンですよね。
荒木 そうですね。この映画の見る人の考え方、年齢 環境などによって捉え方が全く変わる映画です。
私の知り合いの、主人公と同世代の女性の一人は、この映画を見て「独身なので、結構周りからね、普通に結婚して、幸せになりなよ。とか言われることとかもやっぱりあるんですよ。でも、この映画を見て、周りの意見も大切だけど、まずは自分が幸せだと思うこと、それを、まず、大切にして生きていきたいな、と思いました。」と言っているんですが…
そういう人多いかもしれませんね。
また、この作品は一種の群像劇でもあるので、いろんな女性が登場するんですよね。
主人公のほかにも20代のパパ活女子だったり、子供がいるインスタグラマー主婦とか、あとは主人公をウォッチャーしているツイッターやっている女性だとかがたくさんいて、見る人、特に女性は誰かに自分の感情を移入するかで感想が全く違ってくると思います。
それと女性特有と言っては叱られてしまうかもしれませんが。昔と違って、今はSNSとかで他人の生活がすぐ見えてしまうので、羨ましいとか、嫉妬とかいう感情が刺激されやすいっていうこともあって、攻撃したり攻撃されたりで、結局女性は、男社会と言われる世間と闘いながら、女同士でも戦っているんじゃないかと私なんか思いましたよ。究極 女の敵は女なのかなということなの?とも思いました。
鈴木 なるほどね。
荒木 それと、この作品 みんなが見て感情移入したり、ヒロインに自己投影できる映画ではもちろんありません。 当然 私なんかもダメなんですよ。
鈴木 あはははは、どれも俺じゃないという感じですか?
荒木 ダイちゃんもそうだと思いますよ。
これは当然です。わたし、自分ではおんなは早く嫁に行ったほうがいいとか、子供を育てるのが女の幸せなのとか、当然全くそうは思わないのですが、それでもここでいうところの世間、世の中という守旧派の代表にされてしまっている世代ですね。
この映画のメインターゲットとは一番遠くにいますからね。
その意味で わたしや私の世代 というターゲット外の層がまったくシンパシーを感じないという事実がこの映画の完成度が高いということでしょうと、皮肉ではなく思います。
鈴木 なるほどねー。
荒木 もう一点 今回田中さんの役回りはイメージと違って比較的、思慮深い、耐える女性というかんじなのですが、も こんな今どき耐える女性いる?という感じの役 です。ダイちゃん、田中さんのイメージってどうですか?
鈴木 そうですね、清純なイメージもありながら、健康的なお色気もちょっとある、そんな感じ?
荒木 それとちょっとつきぬけたところ、あるでしょ?
鈴木 そうですね。あるある。
荒木 今回そういうところがあまりなくて落ち着いた感じの思慮深い女性役なんですよ。彼女をこういう役に起用したというのは、新しい田中みな実のキャラクターとして、もう別のキャラだしていいでしょう ということなのかな?まだ一周回ってないと思いますけどね。昔の大映テレビっぽいあのテレビドラマM 見たいな徹底的に破壊的な役をやらせたいなーと思うんですが どうなんでしょ?
なんか本人インタビューであまり重なるところがないみたいなことを言っていましたが…
まあ役者だからね、重なる必要は全くありませんが、難しい役に挑戦してますよ。
こういった、世代の考え方によっては、全く刺さらないというか、相いれないテーゼを含んだ作品はどんどん若い才能に積極的に作ってほしいですよね。 オールジェネレーションオールフィーリング、汎用なんて言うのは、今時ないんだと思います。
女性は刺さると思いますよ。
鈴木 男性は逆に自分に共通点がないところがいいのかもしれませんね。
荒木 男の人が行ってもいいと思いますが、この映画、出てくる男が、また嫌な奴ばっかりなんだよね。都会的で、若くてかっこよくて、スノッブで…嫉妬が渦巻いて嫌ですよ。
現在公開中「ずっと独身でいるつもり?」という作品でした。

次は「サマーゴースト」これも公開中これ、最近見てすごく印象に残ったアニメです。
主人公は地方都市に住む、受験を控える高校3年生友也君 自分の望む将来を見つけ出せずにいます。そして2年の女子高生あおい 彼女はいじめに悩んでいて自分の居場所が見つけられません。もうひとり同じく高校生のりょう君、重い病気があることがわかり、未来が閉ざされています。
この3人の住む町にはある都市伝説が、まことしやかに伝えられていました。
それは夏の間、ある場所で 花火をすると若い女性の幽霊「サマーゴースト」が姿を現すというものです。友也君はじめ3人には、それぞれサマーゴーストに会わなくてはならないある理由がありました。そして彼らはネットを通じて出会います。 夏の夜、3人は花火をもって、ある場所に向かいます…さてサマーゴーストは出てくるのか?
鈴木 面白そー。
荒木 この映画 実は40分間という短いアニメ映画なんですがとても満足度が高い作品でした。「死」と「生」 デッド とアライブですよね、これがテーマなのですが、よーくまとまっています。 内容的に1時間、2時間を超えるものにすることも可能だったと思うんですが、あえて無駄を限界まで削ってクオリティーを下げないようにしている印象です。
必要最低限の会話で観てる側に想像させる感じはがに無駄がないところ、絵がとても印象的でなどが内容が濃くしています。
鈴木 瞬きできないじゃないですか?
荒木 幅広く活躍するイラストレーターのloundrawさんが監督を務め,ミステリー作家・乙一(otuichi )としても知られる安達寛高あだちひろたかさんが脚本を手がけた作品。現在公開中です。短い短いアニメです。「サマーゴースト」。
それにしても40分で料金1300円はもったいないなと思う人もいるかもね。
コスパがもっと良くって内容もすごいという映画がみたいという方のために
そんな人にはピッタリの 1本4時間32分の作品を紹介します。

鈴木 えーいいです。長いよ。
荒木 …と、思いますよね。長いし。
そしてタイトルは「ボストン市庁舎」。 どうですか?ダイちやん、このそっけないタイトルの映画、見たいと思いますか?
鈴木 え、僕ですか? 僕は前にボストンに住んでいたからちょっと見てみたいなと思うけどね。普通だったら見ないでしょ。全然。市庁舎の話で4時間以上?
荒木 タイトルが、「ボストン市庁舎」。原題シティ-ホールというそっけないですよね。ようは市役所ですよ。「ボストン市役所」。
わたしにもマスコミ試写会の試写状が来てたんですけど、なにこれ?タイトルもそっけない、長いねーと思っていたら試写が終わっちゃって。そしたらすごくいいで作品だって言うんで慌てて週末に映画館に見に行きました。
それにしても恥ずかしい話、私未熟者でこの映画の監督フレデリック・ワイズマンっていう監督なんですが、この名前を見逃していて…この監督の偉大さをきちんと認識していませんでした。反省です。
彼は91歳。現役の世界で最年長監督です。クリント・イーストウッドと同い年です?
この人はドキュメンタリーの巨匠で。1967年から50数年間で48本もドキュメンタリー映画を作ってきた人なんです。ギネス級の人です。
今回は、監督自身の生まれ故郷であるマサチューセッツ州ボストンの市役所の仕事と街の姿を捉えたドキュメンタリーです。
大都会マサチューセッツ州ボストン ダイちゃんもおなじみの町ですね。
鈴木 僕、1991年と2年の2年間住んでいました。
荒木 そうですか、その頃はボストン市は荒れてたみたいよ。
鈴木 えー そうなのか…。
荒木 びっくりしましたよ。見て。カメラは市庁舎の中へ入り込み、市役所の人々とともに街のあちこちへいくんですが、そして市民のために奮闘する、当時の市長さんマーティン・ウォルシュと市役所職員たちの姿を映し出します。これが結構面白いんですよ。市役所の仕事ってたくさんあるでしょう、基本住民の生活にかかわることすべてですからね。道路の補修から始まって、やれ停電だ、水が出ない 公園に車いすで入れないとか、野良犬がいる、ごみ回収の問題、学校の問題 企業を入れての温暖化対策 ホームレスの問題 高齢者支援 同性愛者の結婚まで数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事の舞台裏をすべて見せてくれます。
びっくりするのは、市の職員たちがひとつひとつとても丁寧で親身になってくれる 素晴らしいんですよ。日本でいうところの「お役所仕事」とは、対極 天と地の差なんですよ。
市民の訴えに公務員がきちんきちんと答え、悪い答えでも希望を与えてくれるような
ほんとにこれやらせじゃないのか?と疑うぐらいのすばらしさ。
鈴木 実録なんでしょ?
荒木 そうですよ。ドキュメンタリーですよ。
当時の市長さんマーティン・ウォルシュという人が、改革派で素晴らしい人で、まあ、トランプとは対極にある人だったんですね。どれも気の遠くなるような面倒な仕事ばかりで、果たしてこれをやっているのがあのおおざっぱなアメリカ人なのかと途中で疑いたくもなります。大ちゃんが行ってた頃とはたぶんイメージが違うんでしょうけど、素晴らしい市役所なんですね。
鈴木 ボストンは人口の約6割が学生でMIT ,ハーバード大学 若々しくてインテリジェンスあふれる街なのは間違いないですよ。
荒木 学校の問題もあるんでしょうね。
今回は、ボストンの市役所の仕事を捉えていますが、アメリカ全部の町がそうなのかというと、監督はあらゆる市に「市の仕事を密着して全部撮らせてほしい」と手紙を書いたんですが、返事が帰ってきたのはボストンだけだったんですね。
長いですけど丁寧に撮っていて見ごたえあります。これは長いからいい作品ですね。
政治や行政にかかわっている人 は特に見ておいたほうがいいと思いました。
鈴木 ボストンの街の雰囲気見たら、懐かしいし涙出るかもな…。
見たいなー。
荒木 是非見てください。「ボストン市庁舎」現在公開中です。
鈴木 ところで、荒木さん、田中みな実はタイプですか?
荒木 いいえ、私はタイプではありません、私はもっと、こうね…。
鈴木 荒木さんと女性の話してたら時間がいくらあっても足りませんので
このあたりで…ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。