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映 画

「あらののはて」「愛のくだらない」「シュシュシュの娘」などのとっておき情報
(2021年8月31日12:45)
映画評論家・荒木久文氏が、「あらののはて」「愛のくだらない」「シュシュシュの娘」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月23日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さーん お願いします。
荒木 はい 先週は東映という会社の「弧狼の血 LEVEL2」
という作品をごご紹介しましたが…。
鈴木 ヒットしているみたいですねー。
荒木 そうですね…東映というと先週 俳優の千葉真一さんが亡くなり
ました。だいちゃんは、千葉さんというと?
鈴木 ソニー千葉ですよね。キーハンターですかね?僕らの世代はね…
それと関根勤さんの物まねかな?あれですよねー
荒木 元新聞記者 風間洋介役でしたよね。
私が忘れられないのは、やはり「仁義なき戦い 広島死闘編」の中で、ほんとにやばい
ヤクザ、大友勝利です。真っ黒、黒光りする顔でとんでもないセリフと迫力、「キルビル」にも出ていました、ご冥福をお祈りします。
前回は大手の配給会社の大きな作品である「孤狼の血 LEVEL2」をご紹介しましたが、今週は正反対というか、自主映画や、それに近い小さな規模の作品をご紹介します。ミニシアターなどで上映されることが多い、大規模じゃないだけで、中身はピシッと締まっていて密度か濃くって面白いですよ。
まずは「あらののはて」という作品。現在公開中です。
「ルネシネマ」という自主映画制作ユニットの2作目です。
物語です。25歳でフリーターの風子さん。彼女は高校時代に美術部の男子・荒野君に頼まれて絵のモデルをした時に感じた体験を8年も経った今でも忘れられずにいました。
当時 荒野くんのモデルを初めてした、ふうこは 突然 気持ちよくなって絶頂感に襲われて失神してしまったのです。

鈴木 えー、触れられているわけじゃないですよね?
荒木 そうです。ちゃんと服を着てモデルをしてたんですが…
その事件がきっかけとなって退学してしまった荒野くんとは、それ以来、会えていません。あの時 突然 そんな状態になった謎を解くために、風子さんは、荒野くんを探しだし、再び自分をモデルに絵を描くよう迫る…というお話なんですが。
鈴木 ちょっと、わくわくするお話ですねぇ。
荒木 そうですね。奇抜で変わった設定の上、絵作りが変わっています。魅力的です。 カメラを固定するシーンが多いのに役者の動きもが多くて、まあ例えばけんかするシーンもあるわけなんですが。役者は当然 動くから、固定枠からはみ出してしまって芝居しているですね。だから音と声だけで表現する…ちょっとラジオみたいですが…とても新鮮です。そういう実験的な演出というか教科書的な演出にとらわれない自由な発想、そういう作風がとても面白いです。長谷川朋史監督の「あらののはて」。東京池袋のシネマロサにて公開中です。
鈴木 見たいなー。

荒木 次は女性監督の野本梢さんが脚本も手がけた作品。
タイトルが「愛のくだらない」。8月27日から公開です。
主人公は地方のテレビ局のアシスタントプロデューサーとして働く33歳の女性・ケイさんです。彼女は、ヨシ君という彼氏と同棲中。ほんとは別れたいのですがヨシ君のほうは、早く子供を作ろうと積極的で毎晩迫ってきます。
彼女は別れを切り出せないまま、ずるずると子作りに励むフリをしていました。
一方、仕事のほうはトラブル続きで、忙しくってとっ散らかっている、ケイさんは、彼氏をほっぽらかしたままで 次第に周囲との歯車が狂い始めていきます。さあこの二人はどうなるのか、ケイさんの仕事トラブルは収まるのか…というお話なのですが…
野本監督自身のリアルな体験を元に撮り上げた作品です。
放送局に出入りする、ちょっと変わった、灰汁の強い人たちや、自意識過剰なタレントさん、必要以上にプロデューサーに気を遣う出演者など、ああーどこもいるいる…。
鈴木 います。います…。たくさん。
荒木 めんどくさい人たちがたくさん出てきますよ。業界あるあるネタが織り交ぜられています。特に放送局で働く30代40代の女性たちは、忙しさや、責任のある仕事任されているし、ある種の意地だってありますよね。仕事でもプライベートでも大変ですよね。この番組のディレクターも女性ですね。
彼女たちがへこみながらも頑張る姿を描います。日々の生活や仕事の中で“生きづらさ”みたいなものを感じている人はとても共感をいだくと思います。
鈴木 コメディですか?
荒木 ある種のコメディですよね。8月27日から、東京・テアトル新宿、9月24日から大阪・シネ・リーブル梅田で公開されます。
「愛のくだらない」という作品でした。

3本目です。 現在公開中「シュシュシュの娘(こ)」
シュシュシュは擬音ですね。「こ」は娘と書いて「こ」と読ませます。
入江悠監督作品。入江監督といえば、「22年目の告白 私が殺人犯です」「AI崩壊」などの商業作品で成功を収めている、個性的な売れっ子監督ですよね。
もともと自主制作作品から出た人で出世作は「SR サイタマノラッパー」シリーズ。
なんと 9年ぶりに自主映画として手がけた長編作がこれ「シュシュシュの娘」なんです。
コロナの影響で仕事を失ったキャスト、スタッフと商業映画では制作しえない作品を作ることをテーマに、全国のミニシアター支援も含めてよく行われるクラウドファンディングでの支援金を募って作りました。
ストーリーです。舞台は監督のふるさと埼玉の地方都市。
25歳の「みうちゃん」はおじいちゃんの介護をしながら暮らしています。
市役所に勤めているのですが、普段からまったく目立たない存在で職場でも孤立してます。彼女を気にかけてくれるのは、同じ役所に務める先輩の間野さんという中年の男の人だけです。そんな間野さんは、上司から理不尽な公文書の改ざんを命じられた末に、自殺してしまいます。みうちゃんは、間野さんの仇を取り、役所に報復するため、改ざん指示のデータを手に入れることを決意します。という筋立てなんですが…。
かたき討ちと言っても涙を流して決死の覚悟というわけでもないし、文書改ざんとか外国人排斥などの社会的なテーマがいくつか盛り込まれているのですが、そうそうシビアじゃありません、まあ、全体的にゆるーいというか、突き詰めているようなものではありませんが、社会的発想はがちがちじゃなくて、漫画チックな展開も多いですね。そのうちにちょっと タランティーノっぽくなっちゃたりして目が離せません。
入江監督が、自主映画の自由さを楽しんでいるような雰囲気も感じられます。
みうちゃんには福田沙紀ちゃん。最近大手事務所から独立してから初の出演ではありますが、やたらウマ下手なダンスや怪しい行動やアクションなど脱力系の魅力が新鮮です。
久々に原点の自主映画に戻った入江監督と 独立1作目出演の福田沙紀ちゃんの原点に戻ったような演技がとても魅力的です。
ちなみにタイトルのシュシュシュというのはどんな意味か分かりますか?
鈴木 えー?わからない。
荒木 小さいころ忍者ごっこで手裏剣を投げる真似なんかしませんでした?シュシュシュって?実はそれなんですよ。
鈴木 よけいわからないー。
荒木 あはは、なんでそうなのかは映画を見てくださいね。
早くからミニシアターを支援してきた入江監督のこの作品 ふつうミニシアターでの公開は大都市から始まって順次地方に広がってゆくのが慣例ですが この作品は全国、の約30館ほどでの一斉公開を目指しています。ミニシアターは映画文化の多様性を担っているとよく言われますし、こういう文化は 世界でも珍しいともいわれています。
これを機会にミニシアターのことももう一度考えてほしいと入江監督はおっしゃっていました。「シュシュシュの娘(こ)」東京では渋谷ユーロスペースなどで現在公開中です。
ミニシアター系の3本ご紹介しましたが、このほかの今週公開の作品では話題作がそろっていますね。まずは「ドライブ・マイ・カー」
鈴木 「ドライブ・マイ・カー」!!
荒木 村上春樹小説集に収録された短編を、濱口竜介監督・脚本により映画化した作品です。少し前ですがベネチア国際映画祭銀熊賞を受賞しました。ここでは 詳しく紹介しませんが 受賞にふさわしい、見事な作品です。170分もありますが、決して長いと感じません。内容には戯曲関係的要素が多く盛り込まれているのですが、私は個人的にある意味、もう一人の主役ともいえる、ここに登場する車、スウェーデンの幻の名車と言っていいでしょう、SAAB 900あこがれの車でした。今はない会社です、サーブ。これにひきつけられちゃいましたね。
もう一つ選ぶとしたら8月27日公開「オールド」という作品です。
鈴木 あの浜での?予告編見ただけで見たくなったものー。
荒木 そうです、そうです。
映画の内容は、異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われた一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラー。これM・ナイトシャマラン監督作品です。あの大傑作「シックスセンス」の監督です。ほんと衝撃的な品でしたが…、どんでん返しの天才と言われています。
でも、実はシャマラン作品はあたりはずれ激しい というのが定説になっているんですね。ホームランもあるが、空振り三振結構多いよね、という評価です。
鈴木 じゃ、「オールド」はどうなんです?
荒木 はい、私も早速見せてもらおうと 宣伝会社に問い合わせをしましたら、なんと監督の方針でメディア試写はやらないというんです。まあ、メディア試写はやらない作品というのは、珍しいことではないんですが、今回は宣伝を担当する宣伝会社のスタッフにも見せないというんですよ。ほんとかなと思いましたが…。
鈴木 えー? どうやって宣伝するのー?
荒木 よっぽど面白くってネタバレが怖いのか、それとも三振ぽいからかは、わかりませんが、アメリカではヒットしているらしいですけど…すごいよねー、だれか今週末 見たら感想教えてくださいな。
鈴木 どうなんだろう?どう考えても結末が、予測できない。
荒木 タイムスリラーと言われていますが、隠されると、見たいよねー。
今日は5本ぐらいの作品 小さい作品から謎の作品までご紹介しました。
鈴木 でも荒木さん、映画の良さとか面白さって、大きい小さいじゃないよね?
荒木 そうですね。いかに監督の思いや、アイディアが詰め込まれているのか?
ということでしょう、失敗もありますけどね。
鈴木 そうですね、想像力なんかの大きさですよねー。荒木さん、ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。