-
映 画

「ツユクサ」「ZAPPA」のとっておき情報
(2022年4月29日20:20)
映画評論家・荒木久文氏が「ツユクサ」、「ZAPPA」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、4月25日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、今週もよろしくお願いいたします。
荒木 はい、今週、1本目は4月29日公開 カタカナでツユクサ。あの植物です。濃い紫の花が咲く。「ツユクサ」というタイトルの作品です。
物語です。西伊豆のあたりですね。小さな港町で暮らす五十嵐芙美さん。
そう50歳ぐらいの女性です。彼女はタオルの製造工場に勤めているのですが、一人暮らしです。ある日彼女は運転中に隕石が自動車にぶつかるという、珍しいというか、信じがたい出来事に遭遇します。
しかし それ以外は 気の合う職場の友人たちとほっこり時間を過ごしたり、親子ほども歳の離れた親友の少年と遊びに出かけたり、平凡で穏やかな日々を過ごしていました。
鈴木 いちばんいいなー。
荒木 しかし、彼女は少し前から断酒会(お酒をやめるためにみんなで励ます会)に通っているんです。そこに通い、且つ芙美がひとりで暮らしているのには、心の底に、ある理由と過去があり、それが、ときおり見え隠れします。
そんな ある日、彼女は町に引っ越してきた男性と運命的な出会いをします…という物語なんですが。
主演の芙美には、あの大林宜彦監督の「転校生」でデビューし、「かもめ食堂」などで知られる小林聡美さん。過去を抱えながらも今日を明るく生きる女性を演じます。
そして彼女が新たに出会う男性をあの松重豊さん。孤独のグルメでおなじみのちょっと前まで朝のテレビで虚無造さんやってた…と言ってもわかんないか?今チョー売れっ子ですよね、松重豊さんが演じています。小林さとみと松重豊でラブストーリーという…なんか、新鮮でしょ?
鈴木 逆に地味だけど派手だなーという感じです。
荒木 脚本は 安倍照雄によるオリジナルストーリー。
監督はベテラン平山秀幸監督(『愛を乞うひと』『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』)。
このふたりが10年以上あたため続けてきた物語だそうです。
この間舞台挨拶を見てきましたが、小林さんも松重さんも口をそろえて「今まで映画の中で恋愛することはなくって、初めての経験です」っておっしゃっていました。
なんと、ちょっとしたラブシーンもあり、と言っても軽いキスシーンですけどね。お二人とも初めてらしかったですよ。
また、この映画、一種の群像劇という側面もあって、共演している俳優さんたちも
も渋いというか、味があるというのか…最近は、引っ張りだこらしいですね、江口のりこさん、平岩紙さん、ベンガルさん、渋川清彦さんなど…もう安定感と演技力を兼ね備え、ちょっぴりコミカルで、熟達した俳優たちの味わい深い掛け合いはじんわり心に沁みてくるという感じでほんとに楽しいですよね。
特に江口さんと平岩さんと小林さんの会話はもう自然といおうか、監督は演技指導が楽だったといっていました。この辺りも見どころです。
鈴木 そうなんですよ。特に小林さんそうですけどね。
荒木 また心に傷を抱えた人や、人生のつらさや涙を験験した人にこそ刺さる作品。とはいえ、基本はゆる〜いコメディタッチなので気負わずに観られるはずですよ。
松重さん、つゆ草の葉っぱで草笛を吹くのが上手で彼女が教えてもらうことで、恋愛に発展してゆくわけなんですが…「ツユクサ」というタイトルは そのあたりからタイトルになったんでしょうね。
長い人生、人にはいろいろな出来事があって、幸せを見失ってしまうこともある・・。
切なくもほっこりと心温まる作品で、大人のおとぎ話とても素敵な心温まるドラマです。そっと寄り添ってくれるようなそれでいてクスッとする笑いが作品全体に散りばめられているあたたかい映画です。
というわけで、ほんのりする「ツユクサ」という作品です。4月29日公開です。
鈴木 ほんのりのゴールデンウィークにはいい作品ですよね。
荒木 はい。次は、先週から始めましたアーチストドキュメンタリー特集第2弾はアメリカのミュージシャン、フランク・ザッパを取り上げた作品。

鈴木 出た!! ザッパ!!
荒木 そうですね。アルファベットで「ZAPPA」、ザッパです。現在公開中です。
フランク・ザッパ…もしかしたら最近の若い人も古くからの音楽ファンもなじみがない人が多いのかもしれませんね。
鈴木 多分 なじむタイミングがないんですよ。
荒木 どういう位置付けの人かは、あとでダイちゃんに説明してもらうものとして、映画の内容に入る前に簡単にZAPPAのプロフィールです。
1940年米メリーランド州ボルチモアで生まれます。彼にはイタリア、ギリシャ、アラブ、フランス、アイルランド、そしてドイツといろんな血が混じっていましたが、風貌的にはアラブ系が一番近いといっていいですかね?
音楽をはじめたのは遅く10代半ばごろまでは、ドゥワップやR&Bばかり演奏しており、これが彼の音楽の基礎になったといっていいんでしょうか
26歳の1966年ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション (略称マザーズ)というで、デビュー・アルバム『フリーク・アウト!』をリリース。
ザッパが作った全14曲から構成されたこのアルバム、当時としては異例の2枚組であり、いわゆるロック史上初のコンセプト・アルバム。それ以来、彼は生存中に、なんと100枚近くのアルバム、公式には52作を作ったと言われています。
鈴木 でもね、海賊盤とか入れるとよくわからないんですよ…。
荒木 多数の優れたコンピレーション・アルバムと数十のシングル曲を発表しただけでなく、様々なアーティストのトリビュート・アルバムの主題となったんですね。
ザッパは1993年12月4日、前立腺癌のため52歳で死去します。
鈴木 考えたら、死後30年以上経ているのに、実は年を重ねるごとに存在感が増しているというか、異端中の異端が、実はど真ん中のミュージッシャンになってきてると思います。
僕が一番最初に「フランク・ザッパ」という名前を聞いたのが、ディープ・パープルの名曲に「スモーク・オン・ザ・ウォーター」ってありますよね?
72年の「マシン・へッド」に入っているあれですよ あの曲の歌詞の中で“フランク・ザッパ アンド マザーズ”って歌っているんですよ。
荒木 えーそうなんだ?
鈴木 実はあれ、ディープ・パープルがカナダのモンタレーのスタジオでレコーディングをしている時、「ザッパ&マザーズ」がライブを行っていたんですよ。その時にそこのライブ会場で火事が起こったんです。そのカジノ「FIRE IN THE SKY」って火事のレポートの歌が「スモーク・オン・ザ・ウォーター」なんですよ、
荒木 なるほど。
鈴木 あれで子供のころ、僕は初めて「フランク・ザッパ」を知りました。
そして、音楽に詳しくなってから歌詞を調べてみたら、全部「フランク・ザッパ」に関する火事の内容だったんですよ。そこからザッパに注目するんですけど。
荒木 そうですか、ダイちゃん 映画は見ていただいていかがでした?
鈴木 おもしろかったし、僕が知らないことが、実は6、7割あって…。
荒木 えー,ダイちゃんも知らいことが?
鈴木 この人商業的サクセスからは程遠い感じじゃないですか。
荒木 そうですね。非商業主義というイメージが強い。
鈴木 自分の局がアメリカのヒットチャートに入るのが実は恐れていたんじゃんじゃないかと…この映画の中でも売れたくないんだな、というのがびんびん感じちゃって…。
荒木 売れたくないんですよね。
鈴木 成功とは別次元のレベルにいるんですが、他方 売れまくっているビートルズとか、クラプトンとかがザッパを尊敬しまくっているというのがおもしろくって…。
荒木 私もラジオ局にいた時代、初めてレコード会社の人から教えられて
ミュージッシャンというイメージより音楽もやる、変わった、ちょっと危なげおじさんみたいなところがはじめのうちにはありました。
鈴木 だけどローリングストーン誌が選ぶギタリスト100人のうち第22位に入っていますし、「ロックの殿堂」には95年にはとっくに入っていますしね。
荒木 今になって教祖的価値が出てきたミュージッシャンなんでしょうね。
鈴木 「サージェント・ペッパーズ~」などにグッとくるならフランク・ザッパの「フリーク・アウト」なんかをぜひ、聞いてほしいですよね。
荒木 ポール・マッカトニーなんかも触発されている…なんていうコメントもしていますよね。そして、この作品はなんと数千時間にも及ぶ、今まで未公開だった、アーカイブ映像など膨大な量の資料・素材を通し、彼の音楽キャリアとその背後にある私生活を振り返っていますよね。商業的成功とは、無縁の世界に存在した人なんですね。
鈴木 究極の趣味人 にして偉大な神のような人だったんですね。
僕、この映画2回見直したんですよ、そのなかでザッパの印象に残った言葉を書き写したんですけど、「俺の願いはシンプルさ。作った曲すべてについて、いい演奏、いい録音を残しそれを聞くことだ。聞きたい人がほかにもいればさらに良し。簡単に聞こえるが難しい」と言っているんですね。
荒木 よくわからないけど、わかるような…彼はいろんな名言をたくさん残していますよね。
鈴木 そのあとに出てくる言葉が、「彼は自分の内なる声の奴隷だ」って書いてあるんですよ。
荒木 示唆に富んだ言葉ですね。
鈴木 声の奴隷だっていうのがよくわかるけど自分が演奏してそれを売りたいモノではなくっていう、完璧な譜面を誰かに書いてもらってオーケストラなんか指揮しっちゃたりして、それをゆっくり後で聞きたいってちょっと大滝詠一さんっポイですよね。
荒木 そうですね。大滝詠一ねー。ただこの人 音楽的なことだけに集中したのかというとそうでもないんですよね。
鈴木 そうなんですよ。政治的でもあった人です。
荒木 1988年には民主党支持者であったザッパは大統領選立候補を検討しましたが、これは最終的に実現しませんでした。また、共和党のリチャード・ニクソンやロナルド・レーガンに激しい嫌悪感を示すなど、とことん反権力の人物でもあったんですね。また、極左への協力を断り、アメリカでは保守派の検閲に反対し、偉大なる常識人という一面もありますね。
鈴木 むちゃくちゃ、バランスがとれているんですよ。
荒木 変わったつかみどころがないというか、つかみようがないというか…。
鈴木 皆さんそうですよ。
荒木 フランク・ザッパの一端を見た気がします。
この作品映画にも出てくるんですがほかにもたくさんの資料や音源が、まだあるんですね。
鈴木 地下室に沢山ありましたよね。
荒木 ダイちゃん2回も観たんですよね。
鈴木 面白かったですよ、でも2回見ても4割ぐらいしかわかんなかったですよ。最後に49年の「ダンシング・フール」という曲をおかけします。ZAPPAにしてはそこそこヒットした曲です。
荒木 本日は現在公開中のドキュメンタリー「ZAPPA」をご紹介しました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。