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映 画

「コーダ あいのうた」「声もなく」「ブラックボックス:音声分析捜査」などのとっておき情報
(2022年1月27日20:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「コーダ あいのうた」、「声もなく」、「ブラックボックス:音声分析捜査」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、1月24日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、今週もよろしくお願いします。
荒木 はい。最近はラジオに世界にも映像的な要素が入ってくるようになりましたね。番組のホームページで パーソナリティやゲストの顔も見えるし、ラジオと同時にその模様も配信して、テレビみたいな番組もあったりしますよね。
鈴木 ツィッターなどをフォローしたりね。
荒木 まあ、しかし ダイちゃんはもちろん、私もオールドラジオマンでしたからラジオはもともと音と声の世界ということを一義的に考えていますよね。音声(音と声)ですよね。そこで、今日は最近の映画から 「音」と「声」が大きくかかわっている作品を集めてみました。
鈴木 へー、面白そうですね。

荒木 まず、音と声というけれど、も社会には音や声と無縁の人 声を出せない人や音(耳)の聞こえない人 ろうあ者と言われる人ね。いらっしゃるわけですよね。そういう人たちも共に社会生活をしています。そんなところにテーマをとった作品から、まず、ご紹介。
アカデミー賞の候補になると評判になっています。「コーダ あいのうた」という現在公開中の作品。「CODA」(コーダ)っていうのは、音楽用語、「最終楽章」ですよね。
鈴木 レッド・ツェッペリンのアルバムにもありますよ。
荒木 今回はそれではなく「聴覚障害者の親を持つ子供」という意味の映画「Children of Deaf Adults」の頭文字でCODA。それがタイトルになっています。
物語です。ボストン近く、グロスターという海の町で漁師の両親と兄と暮らす高校生の女の子ルビーが主人公です。
鈴木 行ったことありますグロスター。クラムチャウダーが美味しいんですよ。
荒木 彼女は家族の中で1人だけ耳が聞こえます。ほかの三人は耳も聞こえず、話も出来ません。彼女は幼い頃から家族の耳となって、いわば通訳ですよね。手話で3人をサポートしています。
ルビーは朝3時ごろから魚船に乗って毎日仕事を手伝います。耳が聞こえる人が船にいないと危ないんで・・。だから学校の友達も少ないんです。そして新学期、ルビーは憧れの男の子がいた合唱クラブに入部します。すると、ルビーの歌の天才的な才能に気づいた
顧問の先生が名門音楽大学への進学を強く勧めます。ルビーも行きたいんですが、彼女の歌声が聞こえない両親は理解できず漁業の手つだいが必要だと大反対するんですね。
さて・・というストーリーです。
今回のこの映画では耳が聞こえない人たちの役は本当に全員、本当に聞こえない人たちが演じているんです。お父さん役もお母さん役もお兄ちゃんも。
鈴木 え、そうなんですか?!演技じゃないんですか?
荒木 そうなんですよ。特にお母さんの役をやっている人は、マーリー・マトリンさんという人で、この人は21歳の時の1986年「愛は静けさの中に」という映画で耳が聞こえない役で、アカデミー主演女優賞を取っているんですね。でも耳が聞こえない役っていうのはそんなにたくさんないから、主演女優賞を取っても、その後あんまり仕事がないらしいですよ。
それに作る側も 意志疎通などの問題で耳が聞こえる俳優を選びますよね。でも最近は リアリティの問題とか、社会参加の問題という要素も含めて、聴覚障害者役の俳優も実際に耳の聞こえない人を使うという傾向も強まってきているようですね。演技力の問題はありますが。
そして主人公 ルビー、夢と家族の間で葛藤しながら決してめげることなく、明るさを失いません。まあ、定番ではありますが…エミリア・ジョーンズという女優さん、現在19歳の彼女がアカデミー賞の主演女優賞有力とも言われているそうです。
映画では 音楽もたくさん使われていますが、一番いい場面でこのルビーが歌うのが「青春の光と影」。これがとても印象的に効果て身に使われているんですね。
鈴木 ジョニ・ミッチェル?ジュディ・コリンズ、大好きな曲ですよ。
荒木 合唱コンクールの場面があり 時に耳の聞こえない両親が見に来るんですね。そしてそのすばらしさに気づく場面は感動的です。最後のオーデションというか試験の場面でもね。青春映画としてもきちんと基本を押さえてあり、社会的なハンディキャップのある人たちの共に生きるという問題にも言及、しかめつらしく、しゃちほこばっていないこともおすすめする理由です。
「コーダ あいのうた」、公開中です。
もう一本、声と音に関する映画。これも公開中。ズバリ「声もなく」という韓国映画です。
鈴木 「声もなく」?

荒木 そうです。ストーリーです。テインという青年が中心です。彼は耳は聞こえるけれど、言葉を話せないという、失語症ですよね。生まれつき捨て子として育ち、妹と最底辺の生活を送ってきました。父親代わりともいえるチャンボクという身障者のおじさんとコンビを組んで普段は卵の行商をしながら、裏社会の犯罪組織からリンチで殺された死体の処理などを請け負って生計を立てていました。小心で要領の悪い二人です。ある日、二人は若いヤクザに一日だけでいいから11歳の少女を預かれと命令されます。彼女は金持ちの娘で、身代金目的で誘拐されたんです。いやいやながら二人はその少女を預かることにしました。ところがその預けたヤクザが組織から殺されてしい、テインは自分の妹とその人質の女の子と家族のような奇妙な生活が始まってしまいます…という話。
鈴木 なるほどー。
荒木 いやーこの作品、1982年生まれの女性監督ホン・ウィジョンさん脚本も書いていますが、凄い監督だなと思いますよ。ユーモアばかりでなく、韓国の現状と社会のひずみもさりげなく描いていますし、人質の女の子の親は女の子だからという理由で身代金払いを渋るとかね。あの「パラサイト 半地下の家族」にも通じる雰囲気や脈が強く脈打っていると思えますよ。
「リンチ死体の処理」「誘拐」「児童(こどもの)売買」などの犯罪がぞろぞろ出てくるのですが…。
鈴木 結構えぐい場面もあるんですか?
荒木 基本コメディですからね。さりげなーく醜いものを描いているのですが、乾いたカメラの感じがずーっと貫かれているような気がします。
主演のテインは人気俳優のユ・アインという人です。モデルもやっている彼は線の細いイケメンですが、この映画では役作りのために15kg増量したそうです。引き締まっていない体型、オシャレカットではない坊主頭の風貌、あのカッコいいユ・アインがなんとも冴えないもっさりした主人公を演じています。
90分を越す長さのなかで一切セリフがなかったユ・アインの演技、むしろ大変難しかったでしょうね。表情も立場の弱いヘンテコな悲哀を滲ませています。
鈴木 今、画像見ました。かっこいいですよね。
荒木 「声もなく」いや、面白かったですよ。韓国映画恐るべしです。
音と声が関わっている映画、さあ次は異常な聴覚を持つ男、つまり 聞こえすぎるというか、普通の人の何十倍も耳のいい人が主人公です。
鈴木 それも困るなー。

荒木 「ブラックボックス・音声分析捜査」というのがタイトルです。現在公開中。「ブラックボックス」ってわかりますよね。本来多くの意味を持っている言葉なんですが、飛行機の業界では航空機事故調査のために旅客機などに搭載されている、飛行データを記録するフライトレコーダーと操縦室の会話と音声記録するボイスレコーダーのこと。
ストーリーです。ヨーロッパアルプスで最新型大型旅客機がアルプスで墜落し、全員が死亡します。航空事故調査局の音声分析官 マチューは人並外れた聴力、聞く力がすごい。 耳がいいということですね。彼が、調査した結果 残されたかすかな音からテロの可能性を突き留めます。乗客にイスラム過激派と思われる男がいたこともあって、このマチューの分析は高く評価されます。ところが後に乗客者の一人が墜落し直前に残した事故直前の留守電を聞くと、その音がブラックボックスに残された音と違う事実にマチューは愕然とします…。
鈴木 えーっ。
荒木 テロじゃない?そしたら操縦ミス? 技術的トラブル? 飛行機の構造的欠陥?それとも後ろには航空業界の闇やもっと巨大な陰謀があるのかと、緊張が続いて、え、え、え、の連続です。というわけで物語は文字通り二転三転 ぐいぐい引き込まれ時間を忘れる傑作サスペンススリラーですよ。
鈴木 おもしろそー。
荒木 耳のいい、このマチューが聞こえる世界を「こんな感じなんだよー」と観客に提示する場面もあります。音の世界にかかわる音声分析官って珍しい仕事ですが、仕事で音声にかかわる人、ラジオと同じなんですよ。つまり 共通なのは音から広がる想像とイメージの世界なんですよ。面白いとおもいます。
「ブラックボックス・音声分析捜査」公開中です。
そうそう それから 番組開始時からプレゼントの告知をしていただいていますね。
映画ご招待券プレゼントです。
今週1月28日公開の「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」という長いタイトルの作品です。
鈴木 長いんですよね…あはは。
荒木 「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督が、フランスの架空の街を舞台に描く長編です。
雑誌、国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌の編集長が急死し、雑誌の廃刊が決定してしまうところから始まります。キャストにはオーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、フランシス・ド・マクドーマンドでしょ、ほかにも、ベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライト、レア・セドゥ。
鈴木 え、レア・セドゥ出ているの?
荒木 そうなんですよ。レア・セドゥ全裸で出演ですよ。
鈴木 あらら。
荒木 もうね、すごいですよ、アート作品のようでもあります。
不思議な魅力を持った監督です、ウェス・アンダーソン。癖があって面白い、私も大好きな監督です。彼が好きな人は絶対見なきゃです。
鈴木 フランスにある、アメリカの出版社の支社という設定ですよね。
荒木 そうですね、独特の世界観が、好きな方、どうぞ。略して「フレンチ・ディスパッチ」2月4日からの公開です。チケットは2組4名プレゼントです。
鈴木 リズナーさんからも「フレンチ・ディスパッチ」というタイトル
からたくさん応募をいただいていますよ。応募まだまだお待ちしております。
荒木さん、ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。