-
映 画

「牛首村」と「ゴヤの名画と優しい泥棒」のとっておき情報
(2022年2月26日10:45)
映画評論家・荒木久文氏が、「牛首村」と「ゴヤの名画と優しい泥棒」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月21日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 はい 現在公開中の「牛首村」からご紹介です。
鈴木 あ、出た!!これ見たいんだよなあー。

荒木 大ヒット「犬鳴村」「樹海村」に続く、ホラー映画の第一人者清水崇監督が手がける「恐怖の村シリーズ」第3弾です。
モデルのKōki,さんが映画初出演で初主演、主人公の女子高生を演じていることも話題です。
ストーリーです。主人公は女子高生 かのんちゃん。もちろんKōki,さんが演じています。
彼女はWEBサイトの心霊動画で自分そっくりの女子高生を見て驚きます。動画の中の女子高生は牛首マスクを無理やり被せられ、廃墟に閉じ込められ、映像はそこで途切れてしまい、どうやら行方不明になったらしいのです。
胸騒ぎと不安に駆られたかのんちゃん、動画の撮影地、富山県の坪野鉱泉に同級生の男の子と向かいます。そこで彼女は「牛首村」と呼ばれるおぞましい村で狂気と恐怖に襲われるのですが…。という怖―い話ではあるんですが…。
鈴木 これ注目ですよね。
荒木 そうですか…まず、主演のKōkiさん。木村拓哉さんと工藤静香さんの次女ですね。目や口元なんかはパパ似で、長い手足、すらっとしたスタイルはママ似のいいとこどりですね。意志の強そうな、表情と時折見せる幼さが同居していて、そんな表情が2役が生きていますね。ポテンシャルの高い女優さんだなと思いました。
鈴木 そうですねー。
荒木 それと、この村シリーズ、全部本物の心霊スポット、実際の都市伝説をべースに作られているそうなんですね、1作目の犬鳴村は福岡県、2本目の樹海村は言うまでもなく山梨県、今回は富山県にある坪野鉱泉という北陸地方では有名な心霊スポットをべースに作っているそうなんですよ。
先日 監督の清水崇さんにお話を伺えたのですが、ダイちゃん、こういう映画を撮る時一番苦労するのはなんだと思います?
鈴木 お祓い!!
荒木 それもあるでしょうねー。
鈴木 それと 地元の方々、住んでいる人が、やめてーと協力したがらない。
荒木 それなんですよ。正解です!!各地のロケ現場の許諾をとるための地元への説明と説得が、すごい大変なんだって…。
鈴木 だってねー、住んでいる方いらっしゃるんですものね、いやじゃないですか…。
荒木 実在の心霊スポットって地元にとっては、基本ネガティブイメージなので、いい悪い半々らしいのですが…それはそうでしょうねー。怖いところって言うイメージがついちゃうと…ね。
だから そういうところでロケをするときは自治体と近隣住民の集会に何度も何度も通って説明したり説得するのが一番大事な仕事とおっしゃってました。
鈴木 やっぱりそうなんだー。
荒木 樹海村もそうだったんでしょうね。河口湖町あたりなのでしょうか?
でも樹海は昔から心霊スポットとしてはメジャーで…。
鈴木 みんな知ってるからねー。
荒木 1作目の福岡や今回の富山より対応は慣れているんじゃないのかな?
地元の方 どうでしょねー?
さらに 清水監督、これが山田洋次監督の「寅さんシリーズ」だったりしたら、地元は、ようこそーと、もろ手挙げて大歓迎なんですがねー。ホラー映画ゆえの苦労、気遣いが大変だっておっしゃっていました。
鈴木 そうだよね。実話ベースだからねー、もっときついですよね。
荒木 ダイちゃんは霊感、強いほうですよねー。ドッペルベンガー見ちゃうぐらいだから。もひとつ こういうホラー映画には怖い裏話がつきものですよねー。
鈴木 そうですね。不思議なものを時々見てますけど…。
荒木 その辺掘っちゃうと、長くなるんで…そういう怖いエピソードはあるんですか、と聞きましたら、監督は、「まあたまにあるけど、全然霊感がないんで、気が付かないことが多い」んですって、後で霊感の強いスタッフやキャストに聞くんですけどおもに機材の不調や、誤作動なんだけど、そんな事一般の映画でもいくらでもあるし、気にしてないということでした。意外でしたよね。
それから 清水監督は海外でもデビューしていて、作品もヒットしているのですが、欧米の人とアジアの恐怖の違いは当然あって、西洋では、いわゆるジャンピング・スケアリー、 恐怖というよりびっくりさせるほうが、喜ばれる傾向があって、怖―い幽霊が部屋の隅にいてもあまり驚かない…東洋的な恐怖の感覚とは違うとおっしゃっていましたね。
監督自身は映画を見た日の夜に思い出してトイレに行けないような怖さ、監督ご自身は「お土産」と呼んでいるようですが、そんな怖さの映画を追及していきたいと語っていましたよ。
鈴木 わかりますねぇ。
荒木 恐怖の村シリーズ第3弾「牛首村」公開中です。
お土産もらいに見に行ってください。
さあ 今度は絵画 絵のお話です。1961年イギリスであった本当の話がもとになった映画「ゴヤの名画と優しい泥棒」というタイトル。
絵の話っていうと、絵の持つ謎とか名画の偽物本物、高額名画の盗難なんていう犯罪が絡むって言うのが定番ですが、次も例にもれませんが 名画の盗難モノです、しかし今回それだけじゃなくって、本当によく作られたユーモラスな心温まる作品にもなっています。
まず ストーリーから…。
1961 年。イギリスが誇る世界屈指の美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーから、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれます。捜査を始めたロンドン警視庁はその巧妙な手口から、国際的なギャング集団による巧妙で周到な計画による犯行だと断定します。
世間は上へ下への大騒ぎ。しばらくすると犯人から脅迫状が届いてそこには、「絵を返してほしかったら、イギリスの国営放送BBCのテレビの受信料、年金受給者は無料にしろ」とあります。

鈴木 あはは、ありそうだね。
荒木 この手紙がもとで犯人は逮捕されますが、なんと、元タクシー運転手のケンプトン・バントンという 妻と息子と小さなアパートで年金暮らし をするごく普通のおっさんというか、爺ちゃんの単独犯行だったんですね。
盗んだ手口は美術館の窓に梯子をかけて侵入するという古典的で単純なもの。
鈴木 えーえー?
荒木 60年代だからねー、ずさんなんですよ、警備もね。
作品も自宅の物入れに隠されてたのが無事戻ってきます。しかし、事件にはもうひとつのあるやさしい嘘と感動的な事実も隠されていた…というお話です。
鈴木 よさげですねー。
荒木 実際に起きた事件をベースに描かれ、ウィットに富んだジョークや皮肉がたっぷり詰め込まれて極めてグッドな作品ですよ。
この主人公、この事件の犯人ケンプトンさん、ひとことで言えば“議論好きのクセが強い老人”です。
ちょっと変わった人。当時60歳。労働者階級の出身で無学なのですが、独学で勉強してラテン語を読めたり、戯曲まで書くというインテリの教養人なんです。弁護士とも互角にウィットにとんだ話ができます。
ただ、正義感が強くて、思ったことは相手が誰であろうと言ってしまいます。だから、トラブルが絶えません。移民をバカにした職場の上司とけんかして、クビになったりするという、世渡り下手で、実際に身近にいたらかなり面倒臭いタイプです。この時も退役軍人や国のために働いた老人たちがお金がなくって、ろくにテレビも見られないのはおかしいという正義感から起こした犯罪だったんですね。
周りの空気を気にすることなく、敵も多いけど味方からはひたすら好かれる…いわゆる「因業な爺い」 わたしはね。こんなじいちゃんになりたかったですよね。ダイちゃんはどんな爺いになりたいのかな?私 がんこ爺って最近憧れますよ。
鈴木 なんで?なんで?
荒木 わたし、周りに気を使って生きてるからねー。かみさんに気を遣い、周りの人に気を遣い、ダイちゃんにも気を遣い、この前なんか 隣の犬にまで気を遣って「これは、プーちゃん 今朝も毛並みがいいですねー」なんて、おべんちゃら言ってね…。
鈴木 あははは・・・好き勝手に物言って暴れたいんですねー?
荒木 その通りですよ。憧れの爺像です。演じているのは ジム・ブロードベントという俳優さん。あまり知られていないかもしれませんが…英国の名優です。
鈴木 ああ、この人か、はいはい…。
荒木 見ていますか?写真。誰に似ていますかね?
鈴木 菅前首相…。
荒木 そうだね、古い人だとわかるかもしれないけど、薬害エイズの安部英(たけし)さん…ムツゴローの畑正憲さんにも似てるよね。
鈴木 機嫌が悪い時のベッケンバウアー監督…。
荒木 ははは…マニアックすぎてわかんないよね。74回アカデミー賞助演男優賞を受賞しているイギリスの名優です。ハリーポッターシリーズや、パディントンなどに出演しています。存在感がすごい。ユーモラスな演技の数々。
見てくれも本物(のケンプトン・バントン)にとってもよく似ています。
奥さんのドロシー役は、もう誰でもご存じのイギリスの、「クィーン」で第79回アカデミー賞主演女優賞に輝いた英国を代表する大女優です。ヘレン・ミレン。この家族の唯一の常識人です。決して豊かではない家庭で、一生懸命働いて夫にガミガミと小言を言う…。
少し頼りない実家暮らしの息子と変わり者のがんこ親父の亭主も面倒を抱える彼女は一家の稼ぎ頭で、お金持ちの家の家政婦などをして唯一の定期的な収入を得て一人で家庭を切り盛りしているしっかり者で一番常識人ですが この夫婦ののけ合いが大きな見どころですよ。会話がとても面白い。夫婦漫才みたいです。
イギリスの労働者階級ってこんなに面白い会話ができるのかと思いました。
しかしこの夫婦は口に出せない、悲しい事実も共有していたんです。
まあ、そちらは映画を見ていただくとして、表面上は軽いけど、奥行きが深く完成度の高い作品です。
鈴木 そういうのが一番ですよね。
荒木 雰囲気とユーモアあふれる痛烈でおしゃれな会話、エモーショナルな物語展開、そして最後 胸にグッときますよね。
鈴木 そうですかー。
荒木 良質という言葉がとても似あう作品です。そこにはきちんと皮肉たっぷり。不平等、階級社会への反発の空気も持っています。イギリスの伝統的なグッドムービーと言っていいと思います。
残念なのは監督のロジャー・ミシェルさん、「ノッティングヒルの恋人」「恋とニュースのつくり方」を作った方ですが、おととし65歳の若さで逝去したため、この作品が彼にとって最後となってしまったことです。
よけいな話ですが、盗難の翌年に公開された映画『007/ドクター・ノオ』(007シリーズの劇場公開作品1作目)の1シーンにこの「ウェリントン公爵」の肖像画が登場するんですね。
この時はまだ絵画は盗まれたままで、所在不明でした。ジェームズ・ボンドの敵であるドクター・ノオの部屋にこの作品が登場、つまりこれはドクター・ノオがこの作品を盗んだという設定で、現実の事件と絡めた英国ジョークだったのです。
原題は「THE DUKE」です、あのSIR DUKEのデュークです。伯爵という意味ですかね。
描かれているのはイギリスの軍人で「初代ウェリントン公爵」のアーサー・ウェルズリー(1769-1852)。彼はスペイン独立戦争(半島戦争)で活躍した人物です。
特に1815年のワーテルローの戦いではナポレオン軍を打ち負かし、ナポレオン戦争に終止符を打った事でも知られています。
2020年夏には国立西洋美術館にも来たゴヤ作品です。
絵の映画はそれを見ると、その絵も見たくなりますよね。広がりがあります。
鈴木 荒木さん、どうもありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。