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映 画

「アルピニスト」「神々の山嶺」などのとっておき情報
(2022年7月9日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が「アルピニスト」「神々の山嶺」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、7月4日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、今日もよろしくお願いします。
荒木 はい、荒木です。7月に入ってようやく海開き山開きという感じですよね。山というとダイちゃんは、GOGO富士山ですが、ほかの山はどうなんですかね。登山とかは?やらないんだっけ?富士山以外高い山はいったことありますか?
鈴木 富山の劔岳かな?昔おじさんと二人で登りましたけどね。基本 高いところダメだからねー。
荒木 ああ、そうか、そうか…。
今日は、個性的な山の映画を2本紹介しましょう。
ところで 私、基本山の映画ってホラーだと思っています。
特にロッククライミング映画ですが、で身も心も涼しくなっちゃう、ある意味こわーい映画。今回の1本目はその典型です。
鈴木 わかる。おんなじ。
荒木 まずは一本目「アルピニスト」、7月8日公開のドキュメンタリー作品です。
鈴木 予告編見ましたよ。
荒木 登山のスタイルはいろいろありますが、一番極端だと思われるのが、たったひとりで命綱もつけず登るというスタイルで、「フリーソロ」と呼ばれます。
鈴木 ないなー、ないない…。
荒木 この映画「アルピニスト」の主人公は、20代の若者マーク・アンドレ・ルクレール。世界的に有名な登山家たちからも一目置かれている、いわゆる業界のフリーソロスタイルのトップクライマーです。
彼は世界でも超難関の岩壁や氷壁などの断崖絶壁を命綱をつけず、たったひとりで登ります。無謀としか言えないこのフリーソロ”というスタイルを貫くマーク。カナダの人なんですが、登ることは絶対不可能とされていた山の数々に挑んで、次々と新たな記録を打ち立てていたのですが、本人は 名声を求めないシャイな性格から世界的な知名度はほぼ皆無なんです。やった、やったといわない。
この作品は、この青年マークに密着し世界の雄大な山とそれに全身全霊をかけ、挑む彼の ちょっと信じられないような映像を見せてくれます。
鈴木 それで有名になっちゃうんですよ。
荒木 登山家の誰もが「マークはクレイジーだ!」というのですが彼は上る時、冬山以外、基本手袋をつけずにほとんど素手です。もうそれこそ何千メートルもある崖で両手の指2、3本づつでぶら下がったりしてるんですよ。
鈴木 無理無理…。
荒木 信じられます? 懸垂みたいにして、垂直の崖を虫みたいにのぼっていくんですよ。文字通り ろうそくや槍の穂先みたいなところを登っていくんですよ。
ポスターとか予告編見てくれました?
鈴木 いや、見れませんよー。ダメダメ…。
荒木 命綱なし、もうクレイジーとしか言いようがない。はじめは信じられませんでした。これCGじゃないのか…見慣れているんで、私みたいなド素人からしたら信じられないことの連続で心拍数上がりまくりでした。いつ落っこちるかもわからない、状況を見ているわけです。
そして登るほうも大変だけど、撮影するほうもこれまた大変ですよね。いまはドローンがあるから全体の引きの絵は取れるにしろ、クライミングの時の表情とか手足の動きはドローンからでは遠くからは撮れませんよね。かといって近くまでくると危険です。
監督は、これまで数多くの登山にまつわるドキュメンタリー映画を製作してきたピーター・モーティマーとニック・ローゼンという人です。登山経験が豊富で、クライミングの魅力や危険性を熟知している彼らだからこそ、クライムシーンの撮影にこだわり抜いた。まあ、プロなんですよ。
マークは。あたかも散歩にでも行くような気軽さです。常人には全く理解できない天才の生き方を描いたドキュメンタリー作品ですが、最後の方にとても衝撃的な事実が明らかにされます。さっき言ったようにどんなホラーより怖いと思うのが山岳映画、山の映画です。この「アルピニスト」という映画、見ているだけでクラクラする、おしりがむずむずするような怖さ…と息をのむような山々の美しさ…怖くて美しい…映画たくさんありますが、おばけやホラーとは質の全く違う怖さです。山好きにはこたえられないんだろうね。
とにかく、世の中にはこういう人がいるんだなーと絶対に体験できない追体験ができたということで、映画じゃないとできない世界ですよね。
まあ、私のような山国育ちで山ばっかり見て育ってきた人間は、あまり興味ないものですが…。
鈴木 荒木さん、全然、山はやる気なし?
荒木 やる気なしですよー、でもね、私、昔ヒマラヤに行ったことがあるんですよ。
鈴木 えーっ!?ヒマラヤ?ヒマラヤへ行って何してたの?

荒木 そのあたりのお話は、次の映画「神々の嶺」の紹介でお話しましょうか? 次は「神々の山嶺」7月8日公開です。
その前に山に関しての有名な言葉があります。登山家の心情を表す言葉として「なぜ、山に登るのか?」
鈴木 「そこに、山があるからだ」ですよね。
荒木 そうですね。これは、イギリスの伝説的登山家、ジョージ・マロリーの言葉です。ジョージ・マロリーという人は1920年にかけて活躍した当時の大英帝国屈指の登山家でした。彼は1924年エヴェレストに挑戦しましたが。消息を絶ち75年後に遺体が発見されます。
記録上に残るエヴェレストの初登頂はイギリス人のヒラリーが達成した1953年ですが、マロリーがそれより30年も前に初登頂を成し遂げていたのかもしれないという説が根強くあったんですね…果たして初登頂を果たしたのか、できなかったのか?
山岳界に残る大きな謎です。
鈴木 ちょっとワクワクするなーおもしろいなあ。
荒木 この「神々の山嶺」にはこの伝説的登山マロリーに関するなぞが大きなポイントになっています。映画の話の方の話ですが、原作は有名な日本人の夢枕獏の小説をもとに、漫画家 谷口ジローという人がコミックにしたものを、フランスで製作されたアニメーション映画なんです。映画のストーリーです。
山の雑誌を作っているカメラマンの深町は取材でネパールのカトマンズを訪れます。
その地で 長い間 日本に帰ってこない有名な登山家・羽生(ハブ)が、あのマロリーがエヴェレストに上るとき持って行ったと言われるカメラを持っていたのを目撃します。
羽生を見つけ出し、そのカメラの写真によっては世界をひっくり返すかもしれない…。
鈴木 そうですよね。
荒木 と考え、マロリーの謎を突き止めようと考えた深町は、謎の登山家、羽生に次第に魅了されていきます。やがて、羽生はそれまで不可能と考えられている、冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑むことになりに、深町も同行することにります…というストーリーです。何年か前に「エヴェレスト 神々の山嶺」というタイトルで 岡田准一、阿部寛さんなどで実写映画化されていますね。
今回日本の作品が原作だけど、この映画の制作自体はフランスなのが本作の素晴らしいところのひとつ。キャラクターの雰囲気や日本の描写が何となくヨーロッパっぽいんですが、渋くって丁寧に作られたアニメーション、時代考証などもかなりきちんとされてて。街とか服装とか。バックの看板なども丁寧に描かれていて昭和の日本をほんのり感じさせます。
鈴木 なるほどねー。
荒木 登山シーンや、崖の崩落、雪崩、滑落シーンもあるのですが、アニメのせいか、怖さなどはすこーしやわらげられているんじゃないかと思うんですが…
「登山家マロリーはエヴェレスト初登頂に成功したのか?」という登山史上最大の謎の結果は映画を見ていただくことにして。
それにしても「なぜあえて過酷な道を自らに課して、登山家は山の頂を目指すのだろうか」
とつくづく思いますよ。山の好きなこの映画を観た人に聞いてみたいですよ。
私も山の素晴らしさは私にもわかります。さっきの話ですけど、28年程前1994年にエベレストのふもとまで行きましたよ。
鈴木 何しに行ったの?
荒木 これ話すと長くなっちゃうんだけど、父親について行ったんですよ。
親父が教えた高校の教え子たちがそのヒマラヤで同級会をやったんですよ。
鈴木 何で、また、そんなところで同級会やるんですか?
荒木 ヒマラヤの4000メートル級のところに「ホテル・エヴェレスト・ビュー」という、世界一高いところにあるホテルを作った人が親父の教え子だったんですよ。
鈴木 うわー、おもしれえ!!
荒木 それで父親と母親が招待されたんですが、母親はヒマラヤなんてとんでもない、絶対いや!と言って、私に、あんたが代わりに行って、お父さん死んじゃったら遺体をもって帰ってきなさいって…親父が75歳の時ですよ。
鈴木 いやー。すげえ!すげえ!
荒木 4000メートル弱のエヴェレストの麓に一泊したんですよ。忘れられません。その時の雄大な山々、特にエヴェレスト景色は今も目に焼き付いていますよ。
神々のいただきという表現がほんとぴったりでした。神はいるんだなーと思いました。
鈴木 なるほど…。
荒木 だけど4000メートルぐらいのところで、酸素が6割ぐらいしかないから、軽い高山病にもかかってしまいはーはー、ぜーぜー、で、とてもそれ以上登れません。だからもう一度見たいとはおもいますが、あの時の苦しさを思い出すと、ましてや登るなんて考えられませんよ。…山は素晴らしいですけど登山家の心理なんて、まったくわかりません。わたしにとっては山は映画で見ているに限ります。
ダイちゃんも高いところはダメですよね?
鈴木 2階から下見おろすのもダメ。
荒木 私、高いところは比較的平気なんですが、それにしても登山家の心理はわかりませんね。だいたい、登ったらまた降りてこなきゃいけないよね。
鈴木 あはは、そうなんですよ。

荒木 てなことで 「神々の山嶺」でした。山の映画2本、ご紹介しました。
最後にこの時期には毎年ご紹介しています。「レインボー・リール東京」のご案内。「第30回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)」はセクシュアル・マイノリティをテーマとする作品を上映する映画祭で、今年第30回を迎えます。
LGBTQなどのセクシャル・マイノリティをテーマとした映画をジャンルを問わず国内外から、セレクションして上映します。
今年は東京2会場、大阪1会場の計3会場で全10作品を上映します。
今年も国際色豊かな作品がそろっています。
ちょっとラインナップ紹介しますね。まず台湾の作品で「ロザリンドとオーランド」近未来の台湾を舞台にシェイクスピアの「お気に召すまま」をオール女性キャストで大胆に脚色した作品です。
鈴木 へー、なるほど。
荒木 次はフランス映画の「秘密の二人」パリの団地で少女たちの葛藤を鮮烈に描いた現代のガールズ版「ウエストサイド物語」です。
他にも『遠地』という韓国の作品、『フィンランディア』という第3の姓をテーマにしたメキシコを舞台にした作品、『アグネスを語ること』という1950年代のトランス女性をテーマにした作品 他にもアルゼンチン イギリスなどからも作品が集まりました。
今回 私が見せていただいたのは日本の作品で『ボクらのホーム・パーティー』 です。
ストーリーは都内で開かれた、ゲイだけのホームパーティ…集まったのは大学生、
ゲイバーの店員、ゲイクラブ従業員のふたり、カメラマン、そして主催者の会社員のゲイ・カップルです。さあ、ホームパーティ盛り上がります。飲んで 騒いで 笑って泣いて、また飲んでと、楽しいパーティはずーと続くはずでしたが、それぞれのメンバーが日頃ろの心にため込んでいたうっぷんが爆発し、パーティは最悪の結末を迎えます…。
絡みやセックス・シーンはほとんどなくって、むしろ群像会話劇ですが、それぞれの心情や考え方、社会との葛藤などがうまく表現されています。
監督もゲイを公言している人ですが、なかなか興味深い作品です。
普段あまり、この手の映画をみることがないでしょうから、いい機会ですよ。
東京地区では7月8日から14日は、シネマート新宿で各7本上映、7月16日から18日は、青山スパイラルホールで10作品を上映します。
「第30回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)」のお知らせでした。
鈴木 荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。