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映 画

「流浪の月」などのとっておき情報
(2022年5月16日12:10)
映画評論家・荒木久文氏が「流浪の月」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、5月9日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さん、よろしくお願いします。
荒木 はい、まずは「流浪の月」。5月13日公開。「流浪」は「さまよう」という意味の「流浪」です。
ストーリーです。 15年前 雨が降っている夕方の公園。 ベンチで濡れている10歳の少女、更紗。 彼女に傘をさしかけてくれたのは大学生の19歳の青年・文でした。
更紗は身寄りがなく、引き取られている伯母の家には帰りたくなかったのです。文は彼女を部屋に入れてくれます。ご飯、食べさせたりなんかして…。
更紗はそのまま文のもとで夏の2カ月を楽しく過ごします。しかし、まもなく文は更紗を
誘拐した罪で逮捕されてしまいます。
それから15年、 25歳になった更紗は誘拐された”被害女児”として、そして文は“加害者の小児性愛者”という消えない烙印を背負ったまま生きることになるんですけども、ある日偶然から更紗と文はある街で再会してしまいます。さあ…。
鈴木 ほうほう…。
荒木 2020年の本屋大賞受賞の凪良ゆうさんの小説が原作なのですが、
広瀬すずが更紗、松坂桃李が文を演じ、更紗の現在の恋人を横浜流星、文に寄り添う看護師を多部未華子のほか、趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、柄本明らが顔をそろえています。
この作品 一言でいうと、非常に重くて、暗い、2時間半もある長い作品なのですが、胸にズーンとくる傑作です!!
鈴木 出た!! 久々の荒木さんの「傑作です。」が。
荒木 監督は 李相日(り・さんいる)さんなんですが、ダイちゃんは何か彼の作品見たことありますか?
鈴木 「悪人」、「フラガール」も見ましたね。
荒木 結構見ていますね。広瀬すずさんは、李監督とは『怒り』で組んでいて、ここでもすごい役をやったんですが、今回は複雑な役どころでとても悩んだそうです。どうしていいかわからない、というふうに悩んだそうです。それでまた松坂さんも、本当に僕史上一番難しかった、と言っていますよね。それから横浜流星さん、今回は今までにない裏のある、役回りを見事にこなしています。
一皮むけたというか、唯のイケメン俳優じゃないと証明しましたね。早くも助演男優賞の有力候補でしょうね。
鈴木 そこまで、もう、言う?
荒木 ハイ。それから 更紗役のすずちゃん、文役の松坂桃李。 私も以前、原作を読んだときには映画にしたらだれかなーと思いましたが、映像で見せられると、逆に誰を思いつきます?という気持ちになって来るほどピッタリです。不思議なものですね。
鈴木 そういうことあるよね。
荒木 それからスタッフ陣ですが、監督は先ほど言ったように李相日さん。そして撮影監督をホン・ギョンピョさん「母なる証明」「パラサイト 半地下の家族」を取ったカメラマンです。ホン・ギョンピョの撮影した美しい映像にも注目です。
最初のシーン 屋外の場面で、陽の光が一瞬流れて台風がちかずいているシーンが素晴らしい。このシーンひとつで、これから始まる作品の不穏な予感が提示されるような気がします。これひとつでこの映画のすばらしさがわかります。また、最後の美しい月のシーンはこれと対をなす、見事な映像ですので見る方は是非注目してくださいね。
ほかにも、美術、照明、音響、編集など李組常連の実力派が名を連ねていて 画質、サウンドデザイン、照明などホラー映画にも似た緊張感があって、重厚感がすごい。さすがに一流のスタッフを揃えましたねーという感じです。
鈴木 傑作とおっしゃいましたが、今のお話を伺っていると、映像美についての要素がその大きいということですか?
荒木 そうですね。映像美が大きな配分を占めています。
演出もいいし、原作もいいですよ。傑作と思いますが、ちょっと時間が足りないかなーなんて感じもします。
鈴木 まだ足りないですか?2時間半あるのに…。
荒木 もうすこしちょっとバックボーンを描いてくれたらな?とか言えばきりがないのですが、横浜流星さんと広瀬すずさん、ベッドシーンなんかもあって、また、最後の最後にはとてもショッキングなシーンの連続です。ちょっとしんどくなってしますのですが、それでも目が離せません。心がえぐられるようです。それと、原作を後に読むか先に読むかでだいぶイメージが変わるんじゃないかと思います。私は先に読んだほうなんですけど、世界観もそのままの素晴らしい作品でした。とにかく 原作と映画、両方見ることをお勧めします。
鈴木 べたぼめですね。荒木さん。
荒木 今年絶対に外せない、賞関係にも関わってくるような作品です。
そして これは松坂さんとすずさんの新しい代表作になるんじゃないかという気がします。初めに行ったように重い映画ですがズバリ傑作です。5月13日公開の『流浪の月』でした。
鈴木 こりゃ、もう見なきゃいけないですね。
荒木 はい、このところ リンダ・ロンシュタット。フランク・ザッパ、スージー・クワトロと毎回お送りしています、音楽アーチストのドキュメンタリーですが、今回は、個人のドキュメンタリーではありません。ローレル・キャニオンという地名にスポットを当てたなかなかユニークである意味マニアックなドキュメンタリーです。
「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」現在公開中です。

鈴木 来た、来た、タイトルだけでいっちゃいますよ。
荒木 1960年中盤と言いますから ダイちゃんは、生まれたころですよね。い 当時 アメリカはベトナム戦争など激動の渦中にありました。まさにそのころ のちのポップ・カルチャーに変革をもたらしたと言われる、ウェストコースト・ロックと呼ばれる音楽とミュージッシャンたちがいました。
まあ、日本では当時。カリフォルニア・サウンドというちょっとあいまいな表現をさせていましたか…この言葉を生み出したウェストコーストロックの聖地ともいえるのが、このローレル・キャニオンなんですが・・このローレルキャニオンというのは
ロサンゼルスのハリウッド・ヒルズ・ウエストというところにある山間の地なんですが、
狭い曲がりくねった山道沿いにいくつも住宅並び、豪邸も多い。全体の雰囲気でいうとどうなんでしょう。 日本でいうと・・・箱根の強羅みたい?それとも勝沼の山のほうかな?そんなイメージですよ。
鈴木 うまい、うまい…都会よりちょっと上のほうにある感じです。
荒木 ここ ローレル・キャニオンで、多くのミュージシャンが交流することによって様々な状況が生まれて行って、化学変化が引き起こされていき、日本で言うところの「ウェストコースト・ロック」のシーンが出来上がったことをドキュメント映画にしたのがこの作品、数多くのミュージシャンがお互いに引き寄せられるように移り住み、交流し、その結果 化学反応ともいうべき現象が起きて、今も耳にする名曲を次々と生み出したんですね。
ジョニ・ミッチェル、クロスビー、スティルス&ナッシュCSN&Y、ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールド、ドアーズ、ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタット、イーグルス、LOVE、モンキーズ ママス&パパスや ビーチボーイズもはいるんですよね?など、錚々たるミュージシャンのヒット曲と共にその歴史を振り返ります。
ダイちゃんにはさっそく見ていただきました。いかがでしたか?
鈴木 僕が音楽業界というか、放送業界に入ったころは、荒木さんのような諸先輩方が、ダイちゃんはどのあたりの音楽が好きなの?とか必ず聞いてきて、そんな話になるじゃないですか?そうすると、髭もじゃのボーボー頭で褪せたようなTシャツを着ている人は必ず、ダイちゃん、やっぱりウエストコースト・ロックなんだよ、と必ずおっしゃったんですよ。
荒木 いましたね。そういう方。
鈴木 はいはい、イーグルスとか、あのあたりでしょと思いながら調べて聞くと、こんなに奥深い音楽はないなと思い、気が付いたら僕もその沼にどっぷりという感じになるんですけど、今回 ローレル・キャニオンという場所をクローズアップした映画を初めて見たのですが、それぞれのアーチストの伝記だったり、色々出てきます。
各アーチストの音楽作品は聞いているんですが、みんなが集まったというパラダイスとかをフューチャリングしているのは初めてで。見ていて思ったのは、時代を作ったポップカルチャーにはそれぞれ聖地があるということです。中世でいえばイタリアのフィレンツエだったり、20世紀初頭のフランス・パリだったり。それと同じような。
荒木 なるほど…梁山泊のようなね…。
鈴木 そうそう100年後くらいになるときっと、音楽ファンが懐かしく、目を細めて語るのが、昔々1900年代の話・・・とか60年代遥か、昔 カリフォルニアのローレル・キャニオンには、こんなス素晴らしい音楽のムーブメントがあったんだぞ、と必ず語られるようになるのがこの時代の音楽だと思います。
イーグルスなんかは新しい連中という位置づけに僕はびっくりして・・・
荒木 そう 第2世代扱いですよね。
鈴木 イーグルスは、リンダ・ロンシュタットをフューチャリングして、ジョニ・ミッチェルみたいな若い才能がみんなローレル・キャニオンに集まっていたりして・・・見れば見るほど、こういう環境がアーチストによってはドンピシャでうれしいんだろうな、と思いながら、こういう時代は再び来ることがあるんだろうか?という疑問符も投げかけて僕自身が…それで映画が終わったという感じですよ。
荒木 確かにそうですよね、各アーチストがそれぞれ、よそアーチストの家にブラっと寄って、飯食ったり、セッションしたり すごい連中がドラッグやったり、恋愛したり、ベッドに入ったり…。
鈴木 むちゃくちゃだったんだと思いますよ。
荒木 ヒッピーの文化も強く入っていましたからね。
今考えるとむちゃくちゃなことをやめてという感じだと思うんですが、そういう中からこういう音楽が出てくるというか…特に、ジョニ・ミッチェルとか、そのあたりはどうでした?
鈴木 ウッドストックという名曲がありますが、CNS&Yがのちに歌って大ヒットしますが、ウッドストックか、ニューヨークか、ローレル・キャニオンかという感じですね。ウッドストックや、ニューヨークは、みんな知っているけどローレル・キャニオンという地名は意外に知らない方が多いですよね。リンダ・ロンシュッタットやイーグルス、バーズなんかをお好きな方は必ずローレル・キャニオンということを頭に置きながら聞くとより、一層音楽の魅力が増すと思いますけどね。
荒木 豪華というか、すごいメンバーですよね。
鈴木 オールスターですよ、オールスター。
荒木 インタビューも面白いですよね。こぼれ話的に誰と誰がひっついたとかも 音楽的にもくっついたの離れたの再編成もあるわけです、よね。
鈴木 デビッド・クロスビーは嫌な奴だったというのがよくわかるし…。
荒木 是非ご覧になっていただきたいです。今お話したのは「ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック」という現在公開中の作品のことをお話したのですが…。
鈴木 もう一本、あるんですよねー。

荒木 なんと続編というか、もうひとつの「ローレル・キャニオン」ものが来るんですね。それが「エコー・イン・ザ・キャニオン」という5月27日から公開の作品です。こちらも、ローレル・キャニオンとそこに住んでいたミュージッシャンを題材にしたドキュメンタリーですが、ボブ・ディランの息子であるミュージシャンのジェイコブ・ディランが製作と案内役を務めています。
こちらは、あのトム・ペティはじめ リンゴ・スター、ブライアン・ウィルソン、エリック・クラプトンら錚々たる顔ぶれのミュージシャンたちへのインタビューで、当時のウェストコースト・ロックの誕生エピソードを盛り込みながら、当時を振り返り、ひも解いています。
鈴木 そればかりでなく ジェイコブ・ディランは、ベック、ノラ・ジョーンズ、フィオナ・アップルたち、当時の音楽に影響を受けた新しい世代のミュージシャンたちとライブやってましたねー。
荒木 ローレル・キャニオン生まれの名曲を映画の中で何曲かカバーしていますよね。トリビュート・アルバムも作っているんですね。そのアルバムとこの映画がセットという感じですかね。ママス&パパスのミシェルの色々お盛んだったお話しとかが面白かったです!
鈴木 より一層、ローレル・キャニオンが、よくわかりますのでこの2本をセットで見てほしいと思いますね。ローレル・キャニオンってすごかったって感じますよ、
荒木 そうですね。音楽ファンは必見です。「エコー・イン・ザ・キャニオン」という5月27日から公開の作品でした。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。