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映 画
「マイ・ブロークン・マリコ」「秘密の森の、その向こう」「チビハム・ジューシー・アンド・ミー」のとっておき情報
(2022年9月29日21:30)
映画評論家・荒木久文氏が「マイ・ブロークン・マリコ」「秘密の森の、その向こう」「チビハム・ジューシー・アンド・ミー」の女性監督の作品3本のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、9月26日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 今日は3作とも女性監督で、しかも主人公は女性という作品をご紹介します。
鈴木 おー!はいはい。
荒木 まずは、9月30日公開「マイ・ブロークン・マリコ」。壊れちゃった私のマリコとでも訳しますか…。
鈴木 はいはい。
荒木 オンラインコミックで連載されて話題になった漫画を映画化した作品です。監督の女性はタナダユキさんです。主人公のシイノトモヨを永野芽郁さん。そして親友のマリコを奈緒さんが演じています。
ストーリーです。ヒロインはOLのシイノトモヨちゃんです。彼女はブラック企業で営業として働いているんですが、鬱屈した日々を送っています。ある日、彼女はテレビのニュースで親友のマリコがマンションから転落して亡くなったことを知ってショックを受けます。幼なじみだった二人は助け合いながら育ってきた特別な関係だったわけなんです。
マリコは幼い頃から父親や恋人に暴力を振るわれて、言わば人生を奪われ続けたような女の子だったんですね。
鈴木 なるほど。
荒木 それで、親友のシイノちゃんは茫然自失するんですが、彼女の為、親友の為に、何か出来ることはないのかと考えて、もう居ても立っても居られず、なんと包丁を片手に、マリコの実家に乗り込んで、父の前からマリコの遺骨を奪って逃亡します。
鈴木 何それ!?
荒木 学生時代にマリコが行きたがっていた海へ、彼女の遺骨を連れていくことが、マリコの魂を救うことになると考えたわけですよね。で、シイノは遺骨と共に二人旅に出かける…、というお話なんですけどね。
まず、シイノを演じる永野芽郁ちゃん、今までにない、煙草はすぱすぱ、牛丼ワシワシ、ラーメンズルズルの立ち食い女子で、てやんでえ姉ちゃんみたいな…。
鈴木 意外で、好きですね。
荒木 ね。時には鼻水流しながら泣いたり怒鳴ったり、わめき散らしたりの感情むき出しの演技なんですよ。永野芽郁というと、ダイちゃん。イメージとしてお嬢さんぽい…。
鈴木 つんとしたわけではないけど、すっとしてる感じするけどね。
荒木 そうなんですよね。今回ね、全然反対。でもそれも無茶苦茶恰好いいですね。
鈴木 ああ…。
荒木 友達を急に亡くした悲しみとか後悔とか、怒りとか、いろんな感情をワーっと発散させて。だけど、そういういろんな感情を交互に抑えたりしながらやっているっていうね、今ダイちゃんが言ったように、可愛い子ばっかりやってきたんですけども、ああここまで出来るようになったんだなっていう…ね。
鈴木 (笑)父親の感情じゃないですか!それ(笑)
荒木 (笑)父親か、叔父さんみたいな感じ、親戚のね。こんな永野芽郁ちゃん見たことないんで、恰好いいんですよ。 で、一方のマリコ役の奈緒さんも儚くて消えてしまいそうな女性、いつ壊れてしまうのかわからないような女性の繊細さを上手く演じてます。
鈴木 へぇー。
荒木 まあ、聞いたら重いテーマだって思うでしょう?
鈴木 どうなんですか?ライトなんですか?タッチは?
荒木 うん、コミカル部分が多いです、とても。
鈴木 あぁー。
荒木 ま、一種の女の友情物語なんですけども、私ら男性から見ると女の友情って、ちょっと難しいような気もしますよね。
鈴木 するする。
荒木 映画の中でも、絶対的な結びつきがありながらも、「めんどっくせえ」とつぶやく場面もあったり、それを超えても距離感だったり、お互いの共依存っぽくなったりして。恋人が出来た時は離れるとかね。いろんな面倒臭さはあるんですけど、友情映画ですね。
鈴木 彼氏が出来た時困るね、これがまたね、女性同士もねぇ。
荒木 そうなんですよね。離れたりしちゃうことが多いみたいですね。
ま、女性監督のタナダユキさんの力量が素晴らしいと思います。微妙なところとか大胆なところとか、上手く演出していますね。男の監督だと、なかなかこうは出来ないでしょう。
鈴木 同性だから、やっぱり納得出来るところもあるんでしょうね。
荒木 そうなんですよ。このタナダ監督は、家族をテーマにした温かい作品とか、ちょっと官能的な、エロっぽい作品も多くて、時間的にも短い映画が多いんですね。この映画も短いんですけども。
鈴木 へぇー。
荒木 私、特にこの人の初期の作品が好きで。「四十九日のレシピ」とかね、「お父さんと伊藤さん」とか、「ふがいない僕は空を見た」とかの作品があるので、興味のある方はもう一度見てもらうといいと思います。
鈴木 ああ、なるほど。
荒木 そういう意味じゃ、女優も、監督も、細部までこだわりが詰まってる、リアリティのある映画だと思います。
鈴木 うーん。楽しみですね。
荒木 女性に特にお勧めしたいです。
9月30日から公開の「マイ・ブロークン・マリコ」という作品でした。
鈴木 はい。
荒木 二つ目はですね、現在公開中です。フランスの映画です。
鈴木 ほうほう。
荒木 「秘密の森の、その向こう」という…。
鈴木 いや~…。
荒木 (笑)いろんな意味が深いですが…、これはちょっと可愛い映画なんです。
鈴木 あ!ホラーでも何でもないのね?
荒木 (笑)何でもない。ま、SFかな。監督はセリーヌ・シアマさんていうね、後でご紹介しますけど、ダイちゃん観たことあるかな?「燃ゆる女の肖像」っていう。
鈴木 あー、観てないけど、知ってるなあ。
荒木 はい。有名な監督ですよね。ストーリーは、8歳の少女ネリーちゃん。
彼女は大好きだったおばあちゃんを亡くしたばかりなんです。両親に連れられておばあちゃんがかつて住んでいた森の中の一軒家を片付けに来るんですね。しかし、ネリーのお母さんのマリオンさんは、少女時代をずっとこの家で過ごしていますので、何を目にしても自分の母、つまりネリーのおばあちゃんの思い出に胸を締め付けられて、悲しみで遂に家を出て行ってしまうんですね。
鈴木 サスペンスタッチだね、ここまで聞いていると。
荒木 そうですね(笑) 残されてしまったネリーちゃんは、周りの森を散歩するうちに、同じぐらいの年の少女に、ばったり会います。
鈴木 おおー!
荒木 その少女はマリオンという、なんとネリーのお母さんと同じ名前なんですね。
鈴木 お!
荒木 二人は遊んでいるうちに親しくなって、マリオンに招かれて彼女の家を訪れると、そこはなんと、ネリーちゃんの、自分の“おばあちゃんの家”だったんですね。
つまりネリーは、自分と同い年の、8歳の母に出会うわけなんです。
こういう不思議な物語なんです。
鈴木 お!あー。あー。
荒木 で、ネリーとマリオンは、ジョセフィーヌ&ガブリエル・サンスという
双子の一卵性双生児の姉妹が演じています。とても可愛いですよ。
監督は「燃ゆる女の肖像」で話題になったセリーヌ・シアマが脚本も書いています。娘・母・祖母の3世代をつなぐ、時空を超えた三世代の愛のSF物語ですね。彼女は日本のアニメ監督から、たくさん影響を受けていると話しています。
鈴木 へぇー。そうなんですか?
荒木 例えば、宮崎駿監督。
鈴木 はいはい。
荒木 そう考えると、少女が自分のおばちゃんの少女時代に会うというのは「思い出のマーニー」という作品がそうでしたよね。で、森の中で不思議な事が起こるというのは、「となりのトトロ」がそうですよね。
鈴木 ああー!なるほど。
荒木 それから、細田守監督の映画では、「未来のミライ」で、4歳の男の子のところに、未来から中学生の妹がやって来るという設定でしたよね。だから、こういう家族と時空の旅の物語というのは、前からあるパターンではありますけど、女性を描く独特の感覚はセリーヌ・シアマならではでしょうね。
鈴木 なるほどー。
荒木 はい。それから色使いが凄くいいんですよ。
鈴木 淡いんですか?ビビットなんですか?
荒木 あのね、木漏れ日の光とかね。日光とか、「絵」としてとても綺麗です。
鈴木 光だねー。
荒木 それから、色彩を対比させる画づくり…。例えば、ネリーとマリオンはそれぞれ赤と青を基調とした衣装を着ているんですが、これが森の中では映えるんですよね。衣装もシアマ監督が担当してるそうです。
…と言う事なんですが、ダイちゃんはどう思うかな? もし、お父さんと同じ年代、例えば、8歳くらいに会ったとしたら?子供の頃に会ったとしたら、どうするんでしょうね?仲良くなりますかね?
鈴木 いや、う…ん。何とも言えないねー。
荒木 微妙だよね(笑)。大人になればね、それぞれあれなんだけど、8歳の子供の時に会って、一緒に遊ぶとしたらどうなのかな?
鈴木 ムカつくかもしれないねぇ!もしかしたら。
荒木 (笑)そうなんだ。
鈴木 何か俺に似てんなあ…みたいな。ちょっとムカつくかもしれないなぁ。
荒木 ああそうか、似てるからね。うーん。というような事も、ちょっと考えさせられる、不思議な映画でしたね。
鈴木 「フィールド・オブ・ドリームス」だって、父親に会うじゃないですか。
荒木 ああ、そうだよね。父親に会うって話は、日本の映画でもありますね。
鈴木 ありますよね。
荒木 ただ、子供の頃に会うってのは、またちょっと違うんでしょうね。
鈴木 そうだよなぁ。
荒木 お互い子供でね。っていう、現在公開中、「秘密の森の、その向こう」というフランス映画でした。
ところでダイちゃんは アメリカ留学していたこともありますよね?
鈴木 はいはい。
荒木 あっちに行っていて、生活面や習慣面でのカルチャーギャップとか、驚きを一番感じたのはどんな事でしたか?
鈴木 僕ね、それを聞かれてすぐに思い出したのが、91年「ターミネーター2」。
向こうにいる時に公開されたんですよ。
荒木 はいはい。
鈴木 で、公開日に友達と観に行って。そしたら、シュワちゃんが殺したり殺されたりやるじゃないですか。 そしたら観客全員が立ち上がって、殺せー!って言ったんですよ。そういうこと、日本の観客、ないでしょ!絶対。
荒木 ないです、ないですよ。静かに観てます。
鈴木 ライヴじゃなくて、決まってるフィルムでわかってるはずなのに、殺せーっ!go kill him…なんてやってるのを見て、ちょっと、これはちょっと違う世界だなって、カルチャーショックを遥かに超えた経験でしたね、あれは。
荒木 まあ、そういう文化ギャップってありますからね。
鈴木 あります、あります!
荒木 最後は、そういう文化キャップなどを含めて作られた、女の友情も含めて描かれたアニメ作品なんです。
鈴木 ほ!ほ!ほおー。
荒木 「チビハム・ジューシー・アンド・ミー」っていう、現在公開中です。
長く日本にいるアメリカ人の留学生パプリカ。彼女は、日本でホームステイをする予定の、従妹のチビハムちゃんを迎えに、日本人のお友達のジューシーちゃんって人と一緒に空港にやってくるんです。まもなく、丸々と大きな体形に超ダサいワンピースを身にまとった金髪のおデブちゃんのチビハムが現れて、早速、空港で大トラブルを起こします。
鈴木 おー!
荒木 ま、アメリカ人特有の自己主張とか、文句を連発するわけです。さあ、こんなチビハム、日本でちゃんと暮らしていけるのかどうか、不安を感じるパプリカちゃんだったんですが…。もう、我が道を行くチビハムは、日本の習慣や様式など全く無視して、わがまま連発、さまざまなトラブルを巻き起こして周囲の人々は振り回されっぱなし…って言う話なんです。
鈴木 ほうほう。
荒木 この作品は、日本在住20年のアメリカ人映画監督・大神田リキさんって人が手がけたアニメーションなんですけども。キャストの演技をそのままアニメに取り込むモーションキャプチャーみたいなね、新技術をたくさん駆使して制作されているんですけどね。チビハムちゃんはちょっと特殊なキャラで、パプリカとジューシーが驚くことばかりするんです。和食には見向きもせず、ハンバーガーばかり食べて、緑茶が甘くないと泣き叫び…。
鈴木 (笑)わかる、わかる。
荒木 このチビハムちゃんがアメリカ人の典型というか、ちょっと違うと思うんですが、アメリカ人の悪いところを、これでもか、これでもかとデフォルメしてるんですよね。ま、アメリカが世界中の国で自分たちの心情や宗教や、考え方をおしつけているって批判がありますが、そのことを暗に批判しているのかな?とうがった見方をしちゃいましたけどね。
鈴木 ちょっと観たいな。これ 面白そうだな。
荒木 特に滑稽だったのは、チビハムが和式トイレで失敗して、周りをうんちだらけにしちゃうんですね。
鈴木 いやー、昔なんか、特にあったと思いますよ、あれは。
荒木 超太っているチビハムちゃんですので、和式トイレを使わせるのは、ちょっと可哀そうですよね。
鈴木 しゃがめないんじゃないかなあ?
荒木 そう。本人もね、「こんなスクワットみたいなトイレはできないわ」というのも無理からぬことでしょうね。そういえば、最近 和式トイレってほとんど見かけませんよね?
鈴木 そうですよね、ないですよね?
荒木 ないですよねー。ま、余計な事なんですけど…。コロナも空けて、今月から 外国人の観光旅行も増えてくると思います。富士山周辺なんか大変でしょうね。
鈴木 そうでしょう、そうでしょう。
荒木 と言う事で、変な締め方になってしまいましたけど…。「チビハム・ジューシー・アンド・ミー」現在公開中です。上映館が限られていますので調べてから行ってくださいね。
鈴木 わかりました。
荒木 と言う事で、女性監督で、主人公が女性の3本、ご紹介しました。
鈴木 (笑)荒木さん、ありがとうございます。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。