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映 画

「for you 人のために」「長崎の郵便配達」「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」のとっておき情報
(2022年8月19日12:50)
映画評論家・荒木久文氏が「for you 人のために」「長崎の郵便配達」「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月15日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 荒木さ~ん、こんにちは お願いします。
荒木 今日は8月15日。終戦記念日ですので 先週から2週にわたってお送りしている戦争関連の作品をお送りしたいと思います。
先日相次いで原爆記念の日を迎えた広島と長崎関係のドキュメンタリー作品をご紹介したいと思いますが両作品とも現在公開中です。
まずは広島をテーマにした「for you 人のために」というタイトルの作品です。
森 重昭(しげあき)さんという方、お名前はなかなか聞いた事ないかと思うんですけど、
ご自身が被爆者で歴史研究家です。どういう人かというと、広島の原爆で亡くなったアメリカ人捕虜の存在を40年以上かけて調べて、彼らの遺品をアメリカの家族のもとへ送り届けて、今も調査を続けているという人なんです。
鈴木 ちょっと視点が変わった感じですよね。
荒木 そうですね。アメリカ人捕虜も犠牲になってるんですね、広島の原爆投下では。2016年には当時のアメリカのオバマ大統領が初めて広島を訪問した時に、直接言葉を交わしたということでね。
鈴木 あ!あの方!
荒木 ハグしてましたよね。 この「for you 人のために」はその森さんが自身の被爆体験や、アメリカ兵の調査の行動を記録したドキュメンタリーなんです。 彼の生涯を描くとともに被爆して亡くなったアメリカ人捕虜に縁のあった場所などを、森さんと奥さんが改めて辿る姿を追ってるわけです。
さらに、自分自身も被爆しながらも救助活動に奔走した外国人神父たちもいたんですね。
他にも被爆者手帳という被爆者が持っている手帳の為の制度の設立に尽力した日本人の方にもスポットをあてています。ま、あまり表に出てこない人達を描いています。被爆しながらも、人のために尽くし続ける人たちを描いた「for you 人のために」。現在公開中の作品です。
2本目は長崎なんですけれども、タイトルは「長崎の郵便配達」という、これも現在公開中のドキュメンタリー映画なんですね。
ピーター・タウンゼンドさんというイギリス人がいたんですけれども、どっか、名前聞いたことありませんかね? 実は有名な人で、元イギリスの空軍大佐なんですよ。
彼は第2次大戦中にイギリス空軍の英雄となって、軍を退いた後は、英国王室に仕えた人なんです。有名なのは、この人 今のエリザベス女王の妹のマーガレット王女と恋に落ちたんですね。

鈴木 えー?
荒木 周囲の猛反対で、結局この恋は破局するんですけど、この事で世界中の話題を呼び映画「ローマの休日」のモデルになったともいわれる人なんです。
鈴木 凄い!!
荒木 凄く格好いいんですよ。金髪で、ウェーブのかかった髪で。
この人はその後ジャーナリストになったんですけども、長崎で被爆した日本人の谷口稜曄(たにぐち すみてる)さんという人を専門的に取材するんですね。 この谷口さんは16歳の時 郵便配達中に長崎で被爆するんです。その後生涯をかけて核廃絶を世界に訴え続けた人なんです。で、タウンゼントさんは これをもとに小説を書きます。
「THE POSTMAN OF NAGASAKI」、長崎の郵便配達という作品を発表したんです。
これが大きな話題になりました。ま、お二人とも亡くなったんですが、谷口さんも、タウンゼントさんも。この映画はですね、タウンゼンドの娘で女優のイザベルさんが父の思い出の長崎を訪問して…著書とボイスメモが出て来たんですが…これを頼りに父と亡くなった谷口さんの思い出をひも解いていく姿を追ったドキュメンタリーなんですね。
2人の平和への願いを“配達”してほしいという「思い」、父から娘へのメッセージが込められている、ドキュメンタリー作品です。
長い間、こういうことを日本人だけじゃなくて、世界の人を巻き込んで原爆の悲惨な状況を説明していくっていう、とても大切なことだと思います。色々考えさせられる作品でしたね。
ということで、今回もまた気分を変えて! ダイちゃん、BUMPYリスナーの皆様お待たせしました。さあ、夏の音楽映画ね!

鈴木 わーい!わーい!
荒木 真っ盛りの夏と言えば ダイちゃんも大好き! 我々もそうですけど、ビーチボーイズですよ。
鈴木 ビーチボーイズ!!!
荒木 タイトルは「ブライアン・ウィルソン 約束の旅路」っていう、ま、
これもドキュメンタリー映画。現在公開中なんですけども。
ブライアン・ウィルソンというと、アメリカのロックバンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」の創設メンバーにしてリーダー!ということですよね。
鈴木 そうですね。
荒木 この映画は彼の現在と過去に密着した初のドキュメンタリー作品です。
もう、この辺りは、ダイちゃん専門なんで、ホントは全部ダイちゃんにしゃべって欲しいんですが、後で観て頂いた感想などをやりますけど、ちょっと一応、プロフィールなんかをね、私からご説明します。
ブライアン・ダグラス・ウィルソン、1942年生まれといいますから、現在80才ですね。リーダーにしてボーカル、ベース担当ですね。卓越した作曲と編曲能力を併せ持つ彼は、1961年のビーチ・ボーイズのデビュー以来、数々の楽曲を次々と作曲して。当時は珍しかったんですよね、セルフプロデュースって。
鈴木 そうですよね。当初は、職業作家がいて、それを歌う歌手がいてって、分業制になってましたよね。
荒木 そうですね。
鈴木 やっぱり、ビートルズはイギリス。アメリカはビーチボーイズ。
ブライアンって、このあたりからシンガーソングライター、自分で作って自分で歌うってなります。
荒木 で、このバンドを全米トップまで引き上げてですね。この人、文字通りの天才なんですね。
鈴木 天才!
荒木 ただ、波乱の人生を辿った人で、ま、薬物中毒、精神科医との非常に凄惨な関係とかね…。
鈴木 ユージン・ランディですよね。
荒木 そうですね。亡き兄弟や父との愛情の問題とか、そういうことで、天才ソングライターが抱えていた悲しくも壮絶な真実が、本人によってこの映画の中で明らかにされるわけですが、よくここまでしゃべったという感じでしたよね、ダイちゃん!
鈴木 そうですよね。だからね、ブライアンが、あの時に孤立して死んでしまったら、こういう映画も振り返ることも本にも出来なかったわけなんで、そういう意味であの激動のとてつもない破滅的な時期を、今ブライアンが振り返れてるってだけで、ファンとしてはもうそれだけで十分嬉しいんですけど。
荒木 そういうことですよね。ま、3年間で70時間以上に及ぶインタビューを敢行したそうなんですよ。
鈴木 びっくりですねー!
荒木 中心になってるのが、ブライアンが元ローリング・ストーン誌の編集者のお友達のジェイソン・ファインとともに、自分の青春の地であった西海岸のゆかりの地を巡っているパートです。車の中で、あそこ行こう、ここ行こうとか言いながら、思い入れの地を回ってるんですよ。あの辺もとっても昔を思い出しながらしゃべってる、いい感じの2人でしたよね。それに加えてブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョンなんかもね。
鈴木 出ています!
荒木 そうそうたるメンバーがね、ビーチ・ボーイズへの愛を語ってますけども。音楽史的には、「ペット・サウンズ」から、次の「スマイル」への精神的な悪化の一番酷い時期もちゃんと描いてますよね。
鈴木 でもね、僕、ブライアン・ウィルソンって、やっぱり大袈裟でも何でもなくてバッハとかベートーヴェンとか、レノン、マッカートニー、バカラック…、それは当然なんですけれど。 本当に、バッハとかベートーヴェンに並ぶくらいの才能と、やっぱり、天才ゆえの苦悩ってのがブライアンには本当にあったと本当に神の子だと思ってて。
荒木 本当の天才だよね。
鈴木 いや本当の天才だと思ってて。
荒木 頭の中にオーケストラが居るって、誰かが言ってたものね。
鈴木 ロックンロールにハーモニーを持って来た現代音楽のシンフォニーを持って来た最初の方で。このブライアン・ウィルソンがいなかったら、やっぱりその後のポップミュージックって全く形が違ってたんだろうなってぐらいで。
荒木 そうですね。
鈴木 で、このブライアン・ウィルソンってね、僕は知れば知るほど初期のビーチボーイズの、明るい太陽だ、海だ!女の子だ!って…それは当然いいんだけど、ここからの闇、あまりにも暗い!
荒木 あ!そうですね。
鈴木 暗いよ! だからね「インマイルーム」って名曲がビーチボーイズにあります。あれ僕大好きなんだけど、あれはやっぱり一人寂しく膝を抱えて部屋の四隅のどっかの隅に座り込んで聴くのが、一番正しい聴き方じゃないかって…。
荒木 なるほどね。(笑)
鈴木 あの曲は、全然太陽も女の子も、何にも感じないなっていう。本当にブライアン、ビーチボーイズを聴いているとね、ある時の時代はうわぁっ!嬉しいな!夏だな!って聴いた時期あるんですけど、今は一年中、クリスマスだろうが朝だろうが夜だろうが、何時聴いてもバッハを聴くように、ビーチボーイズはいいですよ!
荒木 そうですね。本当そういうことですよね。ま、いろんな精神的な営為がですね、苦労、さっき出た精神科医、ユージン・ランディとの闘いと言ってもいいのかな、これは。確執の中からね、こういうものも生み出されて、現在も矍鑠としてやってますよね。
鈴木 やってますね。
荒木 今はソロ活動という事で、他のいわゆる分派みたいな形での…。
鈴木 今ねビーチボーイズは、3つに分かれてるんですよ、実は。
荒木 3つもあるんですか?
鈴木 はいマイク・ラヴ側とブライアン側とアル・ジャーディン側。
アル・ジャーディンとか、あの辺りは、マイク・ラヴ側ともブライアンとも仲はいいんですけど、ブライアンとマイク・ラヴはエンターテインメント性と音楽性とで、やっぱり折り合いがつかないんですよね。
荒木 ま、いろいろ思想的なこともありますからね。
鈴木 そうそう、それは全然いいんですけども。でも一回ね、荒木さんね、ちょうどひと月くらい前なんですけど、実は山下達郎さんと対談させていただいたんですよ…。
荒木 そうそう、聴きましたよ…。
鈴木 ビーチボーイズの話で盛り上がってね! そうやっぱりビーチボーイズを知ることって、やっぱりポップミュージックを知る最短であり最長距離なんだなって…。
荒木 なるほどね。
鈴木 その辺りもね、達郎さんの言葉からも改めて感じましたけどね。
荒木 ま、そういう意味ではね、セルフプロデュースって意味ではね、
山下さんも日本の象徴的な人ですからね…。
ビーチ・ボーイズは、結成オリジナルメンバー5名の内、2人はもう亡くなってますけどね。
鈴木 デニスとカールね。
荒木 まあ、明確な解散宣言してなくて、それぞれ3つのグループぐらいで行動してるんですけど。このブライアン・ウィルソンもね、ホントに矍鑠として映画の中で映ってましたけどね。
鈴木 ホントに長生きして欲しい方ですよ。
荒木 ほんとですよね。80歳になったけど。
鈴木 ゆっくりして欲しい。
荒木 という事で、「約束の旅路」というね、非常に象徴的なタイトルですが、現在公開中なんで、音楽ファンは是非、天才ブライアン・ウィルソンの「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」を観に行って頂きたい。
鈴木 荒木さん! 本当にファンとして、ありがとうございます(笑)
さて、荒木さん!ビーチボーイズの曲を一曲お届けしたいんですけど。
荒木 ま、何をかけてもいいんですけども。
鈴木 71年の「サーフズ・アップ」という、これまた名盤のひとつなんです。これまたタイトルトラックの「サーフズ・アップ」を聴きたいなと思いまして。こちらをお送りしたいと思います。
荒木 はい、ありがとうございます。
鈴木 荒木さん、ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。