「あちらにいる鬼」人気女流作家と妻子ある作家の愛の激流と出家のドラマ

(2022年11 月8日17:45)

「あちらにいる鬼」人気女流作家と妻子ある作家の愛の激流と出家のドラマ
「あちらにいる鬼」(©2022「あちらにいる鬼」製作委員会)

昨年11月に99歳で死去した作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが出家した背景に、妻子ある小説家・井上光晴氏との7年に及ぶ不倫があったといわれる。その光晴氏の娘で直木賞作家の井上荒野氏が瀬戸内さん、光晴氏、その妻の3人をモデルにした小説「あちらにいる鬼」を映画化した文芸ロマン。監督の廣木隆一と脚本の荒井晴彦は寺島しのぶ主演の「ヴァイブレータ」(2003年)、寺島と豊川が共演した「やわらかい生活」(2006年)、オリジナル脚本(中野太と共同)の「さよなら歌舞伎町」(2015年)に続く4度目のコラボレーション。瀬戸内さんがモデルの女流作家・長内みはるに寺島、井上光晴氏がモデルの白木篤郎に豊川悦司、白木の妻・笙子に広末涼子のほか、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子などのキャスで人気女流作家が出家するまでの愛の激流を描く。
2022年/日本/139分/製作:「あちらにいる鬼」製作委員会/配給:ハピネットファントム・スタジオ

「あちらにいる鬼」人気女流作家と妻子ある作家の愛の激流と出家のドラマ
「あちらにいる鬼」(©2022「あちらにいる鬼」製作委員会)



■ストーリーbr>
1966年、講演旅行をきっかけに出会った作家の長内みはる(寺島しのぶ)と白木篤郎(豊川悦司)は互いに妻子や同棲相手がいる身だったが、男女の仲になる。妻・笙子(広末涼子)はもうすぐ第2子が産まれるときにも、篤郎はみはるのもとに通っていたが、家で編集者を前に妻の手料理を絶賛し、小説を書くことを勧めたりしていた。みはるは真二(高良健吾)と同棲していたが、奔放な篤郎に次第にのめり込んでいく。
妻の笙子は、篤郎に捨てられ自殺未遂をした初子(蓮佛美沙子)の病床を見舞ってお金を渡したり、夫とみはるの関係を知りながら心を乱すことなく見守る生活を送っていた。そうしたなか、みはると篤郎の関係に亀裂が生じるが、それでも関係を断ち切れないみはるはある日、篤郎に出家することを告げる。

「あちらにいる鬼」人気女流作家と妻子ある作家の愛の激流と出家のドラマ
「あちらにいる鬼」(©2022「あちらにいる鬼」製作委員会)

■見どころ

官能描写で「子宮作家」といわれた小説「花芯」(1958年)や、教え子との不倫体験を描いた「夏の終わり」(1963年)など恋愛や女の情念を題材にした小説で人気の女流作家・瀬戸内晴美が1973年に突然出家して瀬戸内寂聴になった時は大きなニュースになったが、その背景にあった作家・井上光晴氏との不倫関係をモデルに、井上氏の娘の井上荒野氏が書いた小説が原作だけに、リアルで激動の愛が濃密に描かれている。寂聴さんは荒野氏に協力を惜しまず、映画化を聞いて楽しみにしていたという。
作家・長内みはると作家・白木篤郎が逢瀬を重ね激しく求め合いながら関係が深めるが、やがて2人の間に亀裂が生じて出家の決断に至るドラマは壮絶で、不倫とか恋愛とか情事とかのくくりを超えた男の女の間の深い河と情念を寺島と豊川が渾身の演技で描き出している。篤郎とみはるの関係を知りながら見守る妻の役で広末が存在感を見せている。そして、みはるが剃髪するシーンやその後の3人の関係のドラマなど最後までまで目が離せない展開が続く。
(2022年11月11日(金)全国ロードショー)