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映 画
アラキンのムービー・ワンダーランド/「逆転のトライアングル」「エンパイア・オブ・ライト」「湯道」のとっておき情報
(2023年2月24日17:00)
映画評論家・荒木久文氏が「逆転のトライアングル」「エンパイア・オブ・ライト」「湯道」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、2月20日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 よろしくお願いします。2月も後半ですが、今日も今年のアカデミー賞候補の作品の中から、最近公開のものをいくつか。今回は、作品賞、監督賞、脚本賞の3部門にノミネートされています、タイトルが「逆転のトライアングル」。2月23日から公開です。この作品、昨年のカンヌ映画祭のコンペ部門で最高賞パルムドールを受賞した作品です。ストーリーです。
鈴木 はい。
荒木 美男美女のカップルがいます。女性はヤヤさん。モデルでSNSのインフルエンサーとして世間の注目を集めています。そして男のほうはかっこいいモデルなんだけど、ちょっと人気が落ち目のカール君。この2人は超豪華客船クルーズの旅に招待されるんです。船内に乗ると、乗客たちは桁外れの大金持ちばかり。超豪華クルーズですからね。わがまま放題のクセモノばかり…。高慢ちきの客ばかりなんですね。
例えばロシアのいわゆる財閥「オルガルヒ」の一員とかですね。それから武器・爆弾を作って売る死の商人とか。写真撮ってあげただけでロレックスをあげちゃう、腐るほど金のある男とか、わけのわかんない人たちばっかりなんですよ。
鈴木 あはははは。
荒木 そんな最低最悪の客の世話をするクルーなんですけど、そのクルーもチップ欲しさでどんな望みでも叶えようと常に笑顔を振りまいてるんです。
しかしある夜、船が嵐にあって難破し、そのうえ海賊に襲われ、ヤヤとカールのカップルを含む何人かが、無人島に流れ着くんです。で、食べ物も水もない、もちろん携帯もない極限状態の中、お客も使用人も無くなっちゃうわけですよ。
鈴木 はいはい。
荒木 今までの上下関係は崩壊して、生き残りをかけた弱肉強食のヒエラルキーが生まれるわけですね。その結果その頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃係のおばさんだったんです。それで彼女が女王として君臨していくというわけなんですが…。ダイちゃんはサバイバル能力に関しては如何ですか?
鈴木 おそらく…ゼロです。
荒木 あはははは。じゃ最下層になるね。
鈴木 最下層っていっても、火を起こしてもらって僕が暖まるパターンです、いつも。
荒木 そりゃ駄目だね。このおばさん、海に潜ってタコは獲るし、火は起こすし、獣はさばくしね。凄いんですよ!
鈴木 僕、そのおばさんに付きます。
荒木 そうなんですよ。そういう風になっちゃうんですよ。あのカール君も実はそういう風になっちゃうんですね。ま、そこはあんまり言えないんだけど。
監督は、スウェーデンのリューベン・オストルンドという人で、この人は「フレンチアルプスで起きたこと」とか、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」などの作品で、人間に対する鋭い観察眼というか、ブラックユーモアにあふれた作風で高い評価を受けてきた人なんです。ファッション業界とか、ルッキズムとか、それから現代における金持ち社会をテーマに描くことで、金持ち階級だね、そういう人たちの行動や態度を猛烈に皮肉るんですね。で、人間の腹黒さや醜さ、滑稽さを表す人なんですけども。全体的に徹底したブラックコメディですよ。
鈴木 そうですか。
荒木 金持ちをみんな下品な人物ばかりで描くんですね。えげつないです。彼らがディナー・パーティを楽しむはずが、海が荒れて、ゲロと下痢便まみれになるというんですが…、楽しい!楽しいのだけれど汚いのが苦手な人、酔いやすい人はごめんねって言う感じですよね。で、そんな彼らが無人島に流れ着いて、初めて本当の意味での"平等"な立場に置かれるわけですよね。で、トイレの掃除のおばさんがトップに立つんですけど、今さっきダイちゃんが言ったみたいにですね、擦り寄ってくる人が居るわけですよ。
鈴木 はいはい。
荒木 もうなんでもいうことききますと。だから社会的な立場や美しさとかお金も、ここではなんの意味もない。
考えて見れば私たちが生きる立場や常識というのは、この与えられた環境だけで成り立っているものですよね。
鈴木 仰る通り。
荒木 ちょっと環境が変わってね、無人島に行ってしまうとか…そうすると立場や常識は全く別のモノになってしまうね、肩書も全然役に立たないという…。そこで人間の本性が出るみたいなところもありますから。まー現実にはね、金持ちはどんどん金持ちに貧乏人は貧乏のままか…。
鈴木 そうなんですよ。そうですよね、二極化ですよ。
荒木 だからちょっと観ていて面白いというか、魅力的なところがありますよ。
鈴木 逆転なんだね、だから!
荒木 そうなんですよね。まー本当に無人島には行きたくないですけど、ちょっと僕はダイちゃんと同じ、サバイバル能力があんまり無いですから…。まー料理も出来ない、お昼でラーメン茹でるくらいしか出来ないんで、自分で何でも、1人で無人島に行っても生き残れるような…、ま、でももう無理だな。この歳だし。
鈴木 もう諦める?そうなったら。
荒木 諦める!…無駄話になっちゃいましたけど。と言う事で、「逆転のトライアングル」、2月23日から公開の作品です。
次の作品ね、次もアカデミー賞の撮影賞にノミネートされています。
「エンパイア・オブ・ライト」という、2月23日から公開です。
これは名匠サム・メンデスです。彼がオリビア・コールマンを主演に迎えて描いたヒューマンドラマです。
イギリス1980年代。非常に厳しい不況と社会不安の時代です。海辺の街に住むヒラリーという中年の独身女性が主人公です。 地元の映画館・エンパイア劇場で働いています。彼女は辛い過去のせいで心に闇を抱えて、うつうつとして生活し仕事をしているんですけども。そんな彼女の前に、ある日黒人青年のスティーヴンが現れます。同じような過酷な現実向き合ってるんですけども、同じような環境にある二人はですね、少しずつ心を通わせていくようになります。前向きに生きる青年との交流を通して、生きる希望を見いだしていくヒラリーだったのですが…という。
鈴木 あー!おー…。
荒木 さすがにオリビア・コールマン、存在感抜群の演技です。
もう何回もアカデミー賞 受賞していますから。見ていて何度かやりきれない気持ちになるんですね。そういう部分があって、ままならぬ人生というのを見せつけられてですね、私みたいな年になるとわかるなという感じです。
鈴木 (笑)
荒木 映画の中にはシネマへの愛とか、人種差別とか、メンタルヘルスとか、歳の差恋愛とか、いろいろなテーマが盛り込まれています。撮影賞しかノミネートされてないんだけど、もっともっとノミネートされていい作品だと思います。
鈴木 本来 作品賞でもありですか?
荒木 ありだと思いますよ。脚本賞もいいし。ノミネートされるべきだった思います。…と言う事で、「エンパイア・オブ・ライト」という2月23日から公開でした。
アカデミー賞関係はこのくらいにして、次はちょっと、これですね。
鈴木 何?
荒木 ♪♪♪…♪♪♪お風呂が沸きました♪
鈴木 これ知ってますよ。お風呂を沸いて入る人はいますから、普通に。俺は入んないけど。
荒木 ダイちゃんは、お風呂入んない人で有名なんだってね!
鈴木 そ!僕は、リスナーさんも結構知ってますけど、お風呂にはつからないシャワーオンリーの人生、40年、50年ですから。
荒木 凄いね!そういう人に向かない映画なのかなと思うんですけど。お風呂と温泉についての映画です。
鈴木 そんな映画あるんですか?
荒木 はい。湯の道と書いて「湯道」と言います。脚本家で放送作家の小山薫堂さん。「おくりびと」なんか書いた、ね。この小山さんが提唱する、お湯の道と書いて「湯道(ゆどう)」ですね。生け花の華道とか、茶道とか、同じ感じの日本独自の「道」ですよね。半分シャレなんでしょうけど、これをもとにオリジナル脚本を手がけたお風呂を通じての人間模様を描いたドラマです。
鈴木 なるほどー。
荒木 2月23日公開の作品です。ストーリーを簡単に。生田斗真さん演じる、建築家の史朗さん。彼は、亡き父親が遺した実家の銭湯に突然戻ってくるんです。この銭湯は濱田岳さん演じる弟の悟朗くんが切り盛りしていたのですが、兄の史朗くんは、この古い銭湯を畳んでマンションに建て替えようとします。実家を飛び出して都会で自由気ままに生きてた兄の史朗に対してですね、弟は冷たい態度をとるんです。そりゃ当然ですよね。
鈴木 うん、わかる、わかる。
荒木 そんなある日、ボイラー室でボヤ騒ぎが起きて、弟が入院することになるんです。この銭湯で働いている、橋本環奈さんが演じてます、いずみちゃんというアルバイトさんがですね、もう仕方がないんで、お兄さんの貴方が銭湯の主人としてやってくださいと言い出します。
…という事で、兄の史朗さん 番台とかに座ることになるんですよ。
この銭湯には、当然 ご近所さんがたくさん通ってきています。
鈴木 そうだよね。
荒木 いろんな事情を抱える人がお風呂に入りに来るわけですけども。そこには定年間近の郵便局員の横山さん。小日向文世さんがやってるんですけど。彼は、お風呂に通うと同時に、湯道会館というところで、「お風呂について深く顧みる」という『湯道』について学んでいるんですよね。家元がいて、そこから学んでるんです。
鈴木 家元もちゃんといらっしゃるんですか?
荒木 そうなんです。そういう人がいたりして。お風呂という、なんというか、分け隔てなく一人一人に安らぎを与えてくれるということを見た史郎くんはですね、考えがだんだん変わってくるというね。という予想通りのストーリーなんですけど。
鈴木 心も身体も裸の付き合いですよね。
荒木 そういう事ですよ。3人が主演を務めてですね、他にも窪田正孝、角野卓造、天童よしみ、クリス・ハート、厚切りジェイソン、笹野高志、柄本明、凄い人数が出てるんだよね。
鈴木 あはは、面白そうだね。
荒木 出演者が物凄く豪華なうえに、カメオ出演の人も多いんですよ。いろんなお話が綴られているんですけども、特に「湯道」ってことに対して、ダイちゃんはシャワーしか浴びないから…。「シャワー道」ですね。なんか自分の作法みたいなのはあるんですか?
鈴木 作法は無いけど、頭から洗っていくとか、シャワーヘッドには凝るとか、ありますね。
荒木 なるほどね。そういうことですね。「湯道」は、始めと終わりは「合掌」なんですね。いろんなところを洗ってから、お風呂の縁のてっぺんでぴったり水位を止めるとかね。それから湯船に入ったら唇の下までつかるとか、いろんな作法があるんですね。"感謝で始まり、感謝で終わるというね。これはシャレですけどね。
鈴木 それは家元というか、お師匠さんがそういう風に教える…。
荒木 そういうことです。
鈴木 なるほど、なるほど。
荒木 銭湯は行ったことあるでしょ。
鈴木 もちろん!僕はそのころ毎日わいわい銭湯に行っいて。
荒木 そうだよね。でもシャワーしか浴びないんだよね。
鈴木 シャワーしか浴びない。お風呂に行ってもシャワーっていうか、サウナ行ったりして、露天風呂行ってウロウロしたり、それだけですよ。
荒木 そうですか。私は365日お風呂に入らないとダメなんで、当然温泉も好きですし。温泉行くと5回くらい入りますから。
鈴木 え!? 荒木さん、1回浸かると何分くらい入るんですか?お風呂。
荒木 300数えますね。(笑)それは冗談ですけど。夏なんかはお風呂は楽しみで、楽しみで…。
鈴木 そうなんだ!やっぱり入浴剤とか凝るんですか?
荒木 あんまり凝らないですね、私。入浴剤もあるんですけど、カミさんが入浴剤嫌いとかあるんで。
鈴木 なるほど。じゃ、普通の水っていうか、お湯だけでいいんですか?
荒木 そうですね。ホントは2番お湯くらいが年寄にはいいんだけど…
そんな余計な話より…。お風呂の映画ですから、当然銭湯なんで、裸の場面たくさん出てきますけど。でも昔のテレビ「時間ですよー」みたいに若い女性が脱いでる場面はほぼありません。
鈴木 なんだ!番台さんだけはやりたい仕事だったんですよ、昔。
荒木 でもね、あの可愛い橋本環奈ちゃんが看板娘で、番台に座ってるんですよ。
鈴木 そしたら俺行きますね。
荒木 そうだよね。でも恥ずかしくて服、脱げないか、もう風呂から上がっても服着ないで脱衣所でぶらぶらしてるか。
鈴木 俺、後の方だと思いますよ。余計によくわかんないオレンジジュースかいちご牛乳5.6本飲んでウロウロしてるパターンですね、多分。
荒木 あはははは!そうでしょうね。そんな感じですよね。ということでお風呂に入らない、ダイちゃんにはちょっと縁の遠い映画かもしれませんけども、お風呂を愛する全ての人に向けた、感動でホッコリ幸せな気分になるという、リラクゼーション効果があるというか、お風呂みたいな映画ですね。
鈴木 お!上手い!上手いこと言うね。荒木さん、僕お風呂入らない、入らないって豪語してたけど、ひとつだけ、昔付き合った彼女とお風呂に入ったりは好きでしたよ。
荒木 それはあれでしょ。ラブホテルとかそういうところでしょ。
鈴木 そういうの言わない!言わない!言わないけど、ま、そういう…そろそろ締めますよ。
荒木 ということで、何も考えずに楽しく見られる。今、流行りのことばで言うと心が「整う」映画です。「湯道(ゆどう)」という2月23日公開です。
鈴木 (笑)ありがとうございます。
荒木 長湯しちゃいました~。
鈴木 うまい!!
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。