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映画
「フェイブルマンズ」スピルバーグ監督の原点が明かされる初の自伝的映画
(2023年3月1日11:00)
「ジョーズ」「E.T.」「ジュラシック・パーク」など数多くのヒット作、名作で知られる巨匠スティーブン・スピルバーグ監督初の自伝的作品で、主人公のサミー・フェイブルマンが、8ミリの撮影を始めた少年期から映画監督になる夢を叶えるまでを家族や学校での波乱のドラマを交えて描いた感動作。
10代の頃のサミーにTVシリーズ「ゾンビ」(15~19)などに出演しているガブリエル・ラベル。スピルバーグ監督が「この映画で一番大変だったのは、私のような男をキャスティングすることだった。だが、この子が次々とホームランを打ち始めてくれた」と絶賛した。
サミーの母親ミッツィ役に「ブロークバック・マウンテン」(05)、「ブルーバレンタイン」(10)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(16)でアカデミー賞とゴールデングローブ賞にノミネートされ、「マリリン7日間の恋」(11)でアカデミー賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞を受賞し、「グレイテスト・ショーマン」(17)などに出演しているミシェル・ウィリアムズ。
父親のバート役に「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(15)で英国アカデミー賞、「ラブ&マーシー 終わらないメロディ」(15)でゴールデングローブ賞にノミネートされ、「それでも夜は明ける」(13)、「THE BATMAN-ザ・バットマン-」(22)などに出演し、「ワイルドライフ」(18)で監督・脚本を務めるなど多彩な活躍で知られるポール・ダノ。
バートの親友ベニー・ローウィに、製作総指揮、脚本も務めた「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(07)が全米で大ヒットして、「グリーン・ホーネット」(11)などで製作総指揮・脚本を務め「ザ・インタビュー」(14)などで監督を務めるセス・ローゲン。
ボリス伯父さん(サミーの祖母の兄)に「普通の人」(80)でアカデミー賞にノミネートされ、「旅立ちの時」(88)、「インデペンデンス・デイ」(96)など90本以上の作品に出演しているベテラン俳優のジャド・ハーシュなどのキャスト。
第80回ゴールデングローブ賞で作品賞、監督賞を受賞。第95回アカデミー賞(現地時間3月12日授賞式)に作品賞、監督賞、主演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優賞(ジャド・ハーシュ)、脚本賞など7部門にノミネートされた。
監督・脚本:スティーブン・スピルバーグ/脚本:トニー・クシュナー/音楽:ジョン・ウィリアムズ/衣装:マーク・ブリッジス/美術:リック・カーター/編集:マイケル・カーン、サラ・ブロジャー/撮影:ヤヌス・カミンスキー
2022年/アメリカ/原題:Febelmans/151分/字幕翻訳:戸田奈津子/配給:東宝東和
■ストーリー
1952年、少年のサミー・フェイブルマンは「暗い所なんか嫌だ」と映画館を怖がっていたが、科学者の父親バート(ポール・ダノ)は映写器の仕組みを詳しく解説し、音楽家でピアニストの母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)は「映画は見たら忘れられない素敵な夢よ」と優しく言い聞かせ、両親に連れられて映画館に行く。サミーは上映されていた「地上最大のショウ」を見て、すっかり映画の虜になり、汽車が線路上の自動車と激突して脱線、爆発するシーンが特に気に入り、父親におもちゃの汽車を買ってもらい何度も激突させて壊していた。見かねたミッツィは、夫の8ミリカメラを与え、これで撮影すれば汽車は壊れないという。サミーは、汽車の撮影だけでなく妹たちを役者に見立てて次々と作品を撮り始める。
やがてバートはRCA社でコンピューターの革新的なライブラリー・システムの開発の功績を認められてゼネラル・エレクトリック社にスカウトされ、一家はアリゾナに引っ越す。バートは親友の同僚で子供たちも慕っているベニー(セス・ローゲン)を置いて行こうとするが、ミッツィに反対されて共に旅立つ。引っ越しの道中に一家の様子を撮影するなど映画製作にのめり込んでいったサミーは、第2次世界大戦を描く”大作“を構想するが、より高価な8ミリカメラと編集機が必要でバートにお願いするが、反対されてしまう。
そうしたなか、突然母親を亡くしたミッツィは悲嘆にくれ、何とか妻を励ましたいと考えたバートは、サミーに8ミリ用の編集機を買い与え、一家とベニーとで行ったキャンプ旅行でサミーが撮影していたフィルムを編集して映画を製作するよう頼む。サミーは編集にのめり込むうちに背景に映り込んでいたある疑惑のシーンを見つけてショックを受ける。
その後、バートはIBMに転職することが決まり一家はカリフォルニアへ引っ越すことに。今度はベニーを連れて行くことはなく、一家はベニーに別れを告げて旅立つ。そして新たな土地で思いがけない出来事が待ち受ける。
■見どころ
スピルバーグ監督は「私の作品のほとんどが、成長期に私自身に起ったことを反映したものだ」といい「たとえ他人の脚本であろうと、否応なしに自分の人生がフィルムに零れ落ちてしまう。しかし、『フェイブルマン』で描いているのは比喩ではなく記憶なんだ」と語っている。まさにスピルバーグ監督の原点であるデビューまでの人生そのものが描かれている作品としてみると、「激突!」(71)、「ジョーズ」(75)、「未知との遭遇」(77)、「インディ・ジョーンズ」シリーズ、「E.T.」(82)、「ジュラシック・パーク」シリーズなど、革新的テーマ、芸術性、エンターテインメント、そして壮大で緻密な仕掛けなどで感動させ魅了する監督を知る上で目からウロコのエピソードが詰まっている。
そして父親がコンピューター・デザイナーの先駆者で、母親が音楽家でピアニストと科学者と芸術家の両方の血を受け継ぎ、子供の頃から8ミリカメラで撮影するようになり、ティーンエイジャーで撮影・編集と本格的に映画作りをするようになっていき、映画製作の夢を膨らませてハリウッドの扉を叩くまでの乱万丈のドラマは見どころ満載だ。
高校時代にユダヤ人だからといじめられ、殴られて流血するシーンも。このユダヤ人差別の体験は「シンドラーのリスト」(93)で、第2次世界大戦中に1100人以上のポーランド系ユダヤ人をホロコーストの虐殺から救ったドイツ人オスカー・シンドラーを描いた背景にもなっているとみられる。さらには、両親の離婚にも踏み込んで描いていることも注目される。
一家を訪れたボリス伯父さんがサミーと映画の話に花を咲かせ、サミーが芸術家の血を引いていることを認めながらも「忘れるな。芸術は輝く栄冠をもたらす。だが、一方で胸を咲き、孤独をもたらす」と忠告する。これも監督の映画人生で胸に刻まれたもののように思えた。
(2023年3月3日(金)全国公開)