「TAR/ター」ケイト・ブランシェットが天才指揮者の芸術と狂気を熱演

(2023年5月9日12:45)

「TAR/ター」ケイト・ブランシェットが天才指揮者の芸術と狂気を熱演
「TAR/ター」(©2022 FOCUS FEATURES LLC.)

ケイト・ブランシェットがベルリン・フィルハーモーニーの女性初の首席指揮者となった天才指揮者の孤独と同性愛と暴走を熱演した話題作。自身4度目のゴールデングローブ賞(ドラマ部門)主演女優賞、ヴェネチア国際映画祭の女優賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の作品賞・主演女優賞、などを受賞し、第95回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門にノミネートされた。
監督は第73回アカデミー賞の作品賞にノミネートされた「イン・ザ・ベッドルーム」(01)、第79回アカデミー賞で自身の脚色賞、主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)など3部門にノミネートされた「リトル・チルドレン」(06)などのトッド・フィールド監督で、16年ぶりの最新作。脚本・製作も務めた。

2022年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/159分/原題:TÁR/字幕翻訳:石田泰子/配給:ギャガ GAGA☆
(©2022 FOCUS FEATURES LLC.)

「TAR/ター」ケイト・ブランシェットが天才指揮者の芸術と狂気を熱演
「TAR/ター」ターとシャロン㊨(©2022 FOCUS FEATURES LLC.)

■ストーリー

世界最高峰のオーケストラのひとつベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の女性初の首席指揮者となったリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、作曲家としても高く評価され、天才的な才能と絶大な権力を発揮していた。自伝の出版やベルリン・フィルで唯一録音を果たせていないマーラーの交響曲第5番のライブ録音を控えるなか、創作者として指揮者としての壁に苦しんでいた。ターの恋人でコンサートマスターのバイオリン奏者シャロン(ニーナ・ホス)や、アシスタントのフランチェスカ(ノエミ・メルラン)がターの厳しい要求に答え彼女を支えていたが、ある事件をきっかけにターは幻聴に悩まされるなど次第に精神のバランスを失い始める。

「TAR/ター」ケイト・ブランシェットが天才指揮者の芸術と狂気を熱演
「TAR/ター」若いチェロ奏者㊧とター(©2022 FOCUS FEATURES LLC.)

■見どころ

「アビエイター」(04)の助演女優賞、「ブルージャスミン」(13)の主演女優賞と2度のアカデミー賞を受賞しているケイト・ブランシェットが、孤高の天才指揮者の栄光と狂気を熱演している。その圧巻の演技は鬼気迫るものがあり「ケイト・ブランシェット史上最高傑作」(米「EMPIRE」)とも絶賛された。ターは実在の人物ではなくフィクションだがまるで実在の天才指揮者のようにリアルで、ターの一挙手一投足に引き込まれていく。

「TAR/ター」ケイト・ブランシェットが天才指揮者の芸術と狂気を熱演
「TAR/ター」シャロンとター(©2022 FOCUS FEATURES LLC.)

ブランシェットは同作で第95回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされたが、オスカー像は「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」のミシェル・ヨーに譲る結果となった。授賞式を前に米誌「VOGE」が「ブランシェットはすでに2つのオスカーを持っている。3つ目を受賞すれば、業界の巨人としての彼女の地位を確認できるかもしれないが、彼女の広範で比類のない作品群を考えると、まださらなる確認が必要だろうか」としたうえで「ヨーにとってアカデミー賞は人生を変えるもの」などとヨーにあげるよう提案。ヨーが自身のインスタグラムにこの記事を引用したが、「ほかの候補者に言及する」のは禁止されているため、すぐに削除する騒動もあった。裏返せばそれほどブランシェットの演技が際立っていたことを物語るエピソードだったといえそうだ。
ブランシェットはドイツ語とピアノを習得して、演奏シーンはすべてケイト自身が演じているという。天才指揮者の孤独や、不安、精神のバランスの揺らぎなどを繊細に大胆に余すところなく演じている。また、シャロンとは養子を育てる同性愛のパートナーで、彼女との愛と確執や、ターの若い女性に対するセクシャル・ハラスメントなども描いて芸術と狂気のせめぎあいを描いていいて濃密な映像とドラマが繰り広げられる。
(2023年5月12日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開)