日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」

(2023年3月16日20:30)

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
前列左から斉加尚代監督、岩波律子氏、早川千絵監督、中瀬桂子氏、後列左から澤田隆三氏、岩波ホールスタッフの3人、青木眞弥氏、坂上直行氏(15日、都内)

「日本映画ペンクラブ賞」の表彰式が15日、都内で開催され、同賞に選ばれた「岩波ホール支配人・岩波律子氏とスタッフの皆さん」など受賞者が表彰された。また「2022年度日本映画ペンクラブ会員選出ベスト映画」では「PLAN75」が日本映画ベスト1に選ばれ早川千絵監督が受賞した。

1968年に開館して昨年7月に映画ファンに惜しまれながら54年の歴史に幕を閉じて閉館した岩波ホール(東京・千代田区神田神保町)は、大手配給会社が扱わない数々の名作、話題作を発掘して日本に紹介してきたことで知られる。岩波律子氏(72)は1990年から閉館まで岩波ホールの支配人を務めた。

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
岩波律子氏㊧とスタッフ

岩波氏は「1968年のスタートのとき私は高校生で、オープニングに参加しました。参加したのは兄の社長と私だけだと思います。佐藤忠男先生(映画評論家)が始まる前からやたら呼ばれて相談されたとおっしゃってました。最初の頃はいわゆる映画館ではなくて、音楽会とかお芝居とか、特に日本映画特集とかフランス映画特集とかそういう特集を、川喜多かしこさん(川喜多記念文化財団理事長で東和映画代表、1993年、85歳没)なんかのアドバイスでやってました」と創世記について振り返った。

そして、1974年に川喜多氏と高野悦子氏(元岩波ホール総支配人、2013年、83歳没)でエキブ・ド・シネマ(フランス語で映画の仲間の意味)を発足して、「世界各国の映画を上映するようになったんですけど、私共の場所は神田の古本屋街にありまして、当時は10階の一番上に劇場があってすごく珍しかったんです。映画が終わってカーテンを開けると広いロビーがあって、そこでスタッフと私たちはお客さんと交流して、よかったわねえとか、待っている間もときめきの瞬間を抱ける場所があった。一生懸命お客様と接したと思います」と振り返った。

「長くもあり短くもある年月でしたけれども高野悦子の想いに沿っていろんな国の映画を上映して、私共も旅をしました。だから外国に行かずにいろんなことを学べて本当に素晴らしい人生の学校だったなと思います」と語った。

■功労賞

功労賞には「フランス映画と映画人への愛着を真心のこもった文章で伝え続け人々に映画絵の想いを深く刻んでいった素晴らしさを称える」として映画評論家・山田宏一氏(84)に贈られた。

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
青木眞弥氏㊧と坂上直行氏

同じく功労賞には波乱の人生をつづった「嵐を呼ぶ女」(キネマ旬報社刊)が話題になった映画プロデュ―サーの吉崎道代氏が選ばれた。吉崎氏(1942年生まれ)はイタリアで映画を学び1975年に日本へラルド映画に入社。「ニュー・シネマ・パラダイス」などを買い付け、その後映画プロデュ―サーとして独立し、1992年の米アカデミー賞では2作が計15部門にノミネートされ、「クライィング・ゲーム」は脚本賞、「ハワーズ・エンド」は主演女優賞(エマ・トンプソン)、脚色賞、美術賞を受賞した。

ロンドン在住の吉崎氏に代わって、同氏の「嵐を呼ぶ女」を出版したキネマ旬報社青木眞弥編集長が吉崎氏のコメントを読み上げ、日本ヘラルド映画時代に吉崎氏の部下で、「嵐を呼ぶ女」を企画したアークエンターテインメント株式坂上直行専務取締役が、山崎氏のコメントを読み上げ、同氏のエピソードなどについて語った。

山崎氏はコメントで「女性プロデュ―サーとして半世紀に渡り、インターナショナルな映画界で映画製作ができたのは、ひとえに海外、そして日本の映画人の助力と協力のおかげです。映画界で働く日本の、そして世界にサンキューと感謝の気持ちを伝えたいと思います」と感謝の言葉をつづり「私は英国映画界で映画製作をしており、日本の映画界への貢献度は少ないのですが、海外での私の仕事が日本の映画人に取り上げられたのは嬉しいことです。私の製作した映画が日本で上映され、多くの観客の方々が見てくださったのも賞の対象になったのではないでしょうか」と伝えた。
そして「映画ほど素晴らしいアートはほかにありません」としたうえで「小さなスクリーンで映画を見ることに飽きた人たちが映画館に戻ることを心待ちにしています」、「その日を夢見て,そして世界のどこかの映画館で、一般の観客が私の映画を見て感想を友人たちと語り合う。または輝く星を見ることができるような映画作りを続けていきたいと思います」などとつづった。

坂上氏は日本ヘラルド映画に勤務していた当時、吉崎氏が同社で映画の買い付けをしていたことを明かし、「人を巻き込み、巻き込みながらやっていく、それぐらいパワーのある女性。あのハーベイ・ワインスタインと丁々発止にやりあって権利を取っていったというぐらいのやり手の女性」と敏腕ぶりを明かし、その後吉崎氏が独立して海外でプロデューサーとして活躍していったことに「海外でやっていくというのは彼女ぐらいのパワーがないとだめなのかと思った。その足跡を皆さんが認めてくださったと思います」などと語った。

■日本映画1位「PLAN75」 早川千絵監督「やっぱり1位というのは嬉しいもの」

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
早川千絵監督

会員の投票による「2022年度日本映画ペンクラブ会員選出ベスト映画」も発表され、日本映画ベスト1に「PLAN75」(早川千絵監督)、外国映画ベスト1に「トップガン マーヴェリック」(ジョセフ・コジンスキー監督)、文化映画ベスト1に「教育と愛国」が選ばれた。

75歳以上の高齢者に自ら死を選ぶ権利を保護・支援する「プラン75」が施行された近未来を描いた「PLAN75」は、昨年6月に公開された早川監督の長編デビュー作。昨年のカンヌ国際映画祭で新人監督に与えられるカメラ・ドールを受賞し、第65回ブルーリボン賞の監督賞と主演女優賞(倍賞千恵子)を受賞するなど高い評価を得た。

早川千絵監督は「日本の映画を支えたレジェンドの皆さんと同じ場所に立たせて頂いていることに感動しています。子供のころから映画にあこがれて、映画の道を進みたいと思ったのはここにいる皆さんがいらっしゃったからだなあと、今つくづく思っています」と語り、「今回受賞のお知らせを頂いたときに、やっぱり1位というのは嬉しいものだなと喜びを噛みしめております」と笑顔を見せた。
「多くの方に取材をしていただきまして、そのおかげで多くのお客様が映画館に足を運んでくださいました。この映画について書いてくださった皆さん、映画を見てくださった皆さんに、この場をお借りしてお礼を申し上げたいです」と菅署の言葉を述べた。」そして「監督としてまだまだ駆け出しの身なんですけど、いい映画を撮り続けられるよう頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします」と締めくくった。

■外国映画1位「トップガン マーヴェリック」 中瀬桂子氏「『トップガン』をトム映画の興収1位にする」

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
中瀬桂子氏

外国映画1位に選ばれた「トップガン マーヴェリック」は、ジョセフ・コシンスキー監督に変わって東和ピクチャーズの中瀬佳子宣伝室長が登壇してあいさつした。同作はコロナ禍で4回公開が延期になり昨年5月にようやく公開にこぎつけたという。「これは希望の映画だと思った。とても楽しく最後まで見れますし、公開の時期(昨年5月27日)もよくて、コロナ(沈静化)の希望が少し見えてくる時期にトム・クルーズと、監督はこれなかったんですが、プロデューサーに来ていただいて、明るい話題を提供したことが、映画館に行きたいと思っていた観客の皆様に非常に喜んでいただけたのではないかと思っております」と語った。
実は、日本で1番ヒットしたトム・クルーズ主演の映画は「ラスト サムライ」(2003年)(興行収入137億円)で、「トップガンー」は2番目(約135億7000万円)だという。「もう一度再上映して137億円を超えたいな、137億を超えるまで上映したいと思っています」と1位に向けた”マル秘作戦”を明かした。

■文化映画1位「教育と愛国」 斉加尚代監督「学問に対する政治介入が止んでいない」

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斉加尚代監督

ドキュメント映画「教育と愛国」の斉加尚代監督(1965年生まれ、毎日放送所属)は「素晴らしい映画が沢山ある中で映画『教育と愛国』を選んでいただき大変光栄で幸せに思います。私は兵庫県宝塚市で育って、子供の頃近くに宝塚映画製作所があって、祖母がよく映画の話をしていました。ですので、私の中では映画は銀幕の世界で遠い世界だったんです。大阪でテレビの報道記者になって教育現場を取材するようになって、大阪の公立の小中学校の先生から取材の喜びを知るようになりました。自分の記者としての原点が教育現場にあったわけなんですが、その先生たちが、2010年頃から教育現場への政治の介入によって表情を曇らせているのを目の当たりにして、何かできることはないかと考えたときに、関西のテレビの枠を超えて、映画の世界に飛び出していくということも自分に与えられたチャンスかもしれないと考えるようになりました」と振り返った。

「この映画を見た先生が、『私の苦しみの原因が描かれている』と言ってくださって、さらに、新潟の先生は、自分たちが政治介入によって傷ついているということをこの映画を見て気づかされた』と言ってくださいました。映画って本当に人をつなぐ芸術なんだということを、自分が初めて映画の世界に踏み出して、知って、体感することができました」という。

そして「映画を通じて先生やいろんな地域の人が繋がっていって、そこで交流を始めてくださるいろんな意見を直接製作者に届けてくださるということにとても感動しました。今年に入ってからも上映が続いていて、いろんな方たちがこの映画に感動や思いを寄せてくださってるんですが、一方で、この映画が支持されるということは、日本で学問に対する政治介入が止んでいない。非常に危険水域に達しているということの裏返しではないかと危機感を募らせています。何とか教育の独立、学問の独立、普遍性を保って次世代の子供たちに安心して社会を渡していけるようにしたいと切に願っています」と語った。

一緒に登壇したプロデューサーの澤田隆三氏(毎日放送)は、会社から映画製作の許可がなかなか下りず苦労した話などが明かされた。昨年5月に全国映画館で公開され、「全国の行く先々の劇場で温かい激励の言葉をかけていただいて、映画人の方や劇場の方に大きく育てていただいた」と語った。

■【日本映画ペンクラブ】映画評論家、翻訳家、監督など映画関係者が加盟。(渡辺祥子代表幹事、会員152名)

日本映画ペンクラブ賞に岩波ホール支配人とスタッフ 日本映画ベスト1は「PLAN75」
岩波律子氏を表彰する渡辺祥子代表㊧

渡辺祥子代表(映画評論家)の冒頭のあいさつ。「日本映画ペンクラブは、映画に関わる仕事についている人達の職能団体で、同時に映画が大好きで、映画ファンでもある人達の集合体です。そういう人間が集まって何ができるかといつも思うんですけれども、映画をたくさん観て優れた映画を皆さんに紹介できることが一番素敵だと思います。その結果が今日のペンクラブ賞の授賞式になった。この賞を差し上げられるのが本当に嬉しいと思っていますので、皆さんにもぜひ他の方に日本映画ペンクラブが選んだ賞、選んだ方々を紹介して頂いて、どんなにかっこいいか、素敵でしょうと自慢して頂けるととても嬉しいです」

■222年度日本映画ペンクラブ賞

日本映画ペンクラブ賞 岩波ホール支配人・岩波律子氏とスタッフの皆さん
功労賞        映画評論家 山田宏一氏
功労賞        映画プロデューサー 吉崎道代氏br>

■2022年度日本映画ペンクラブ会員選出ベスト映画

【日本映画】 1 「PLAN 75」
2 「ある男」
3 「夜明けまでバス亭で」
4 「ケイコもを澄ませて」
5 「流浪の月」
6 「月の満ち欠け」
7 「ラーゲリより愛を込めて」
7 「さがす」
9 「ちょっと思い出しただけ」
10 「川っぺりムコリッタ」
10 「さかなのこ」
10 「峠 最後のサムライ」
【外国映画】
1 「トップガン マーヴェリック」
2 「コーダ あいのうた」
3 「エルヴィス」
4 「金の意図」
5 「リコリス・ピザ」
6 「ベルファスト」
8 「ウエスト・サイド・ストーリー」
8 「シスター 夏のわかれ道」
8 「TITANE チタン」
【文化映画(ドキュメンタリー)】
1 「教育と愛国」
2 「戦場記者」
3 「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~」
4 「私のはなし 部落のはなし」
5 「名付けようのない踊り」
6 「原爆をとめた裁判長 そして原爆をとめる農家たち」
7 「愛国の告白」
8 「たまねこ、たまびと」