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映 画
アラキンのムービー・ワンダーランド/「search/#サーチ2」「聖地には蜘蛛が巣を張る」のとっておき情報
(2023年4月22日12:30)
映画評論家・荒木久文氏が「search/#サーチ2」「聖地には蜘蛛が巣を張る」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、4月17日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でFMfuji の東城佑香アナウンサーを相手に話したものです。
東城 よろしくお願いします。
荒木 今週もご苦労様です。今週あたりからゴールデンウィークの映画がたくさん公開されます。ということで、ちょっとくろうと好みというか…、その中からサスペンスものを中心にご紹介しましょう。
東城 楽しみです。
荒木 東城さんの苦手な怖いのはありませんから。
ご紹介するのは、まず一本目、「search/#サーチ2」という映画です。この映画は2018年に「search/サーチ」という作品がありまして。この作品、何が凄いかといいますと、スクリーン全体がPCの画面だけで進行するという、非常に革命的な手法で展開されたんです。話題になりましたが、ご覧になってはいないですよね。
東城 そうですね。見ていません。
荒木 今回は、続編になるんですけど、やはり、すべてPC画面の中で物語が進行するんです。まずストーリーからいきますね。
ロサンゼルス在住の高校生の女の子ジューンは、シングルマザーの母親と2人暮らしです。ある時、彼女の母親は,恋人と南米・コロンビアに旅行に行きますが、そこで突然、行方不明になってしまいます。ジューンは、デジタルネイティブ世代の高校生ですので、もう、PCスキルがすごいんです。彼女は、検索サイト、家事代行サービスサイト、SNSなど使い慣れたサイトや最新アプリを全面的に駆使しまくって、直接南米に行けないので、PCの前で母親の捜索を試みるんです。
ところが事態は思わぬ方向に進んでくということなんです。前回の『searⅽh/サーチ』、観ていない方にお話しするんですけど、前回は、行方不明になってしまった高校生の娘をお父さんが捜すというパターンだったんです。
東城 ああー!じゃ ちょっと逆のパターンですね。
荒木 ただ、そのお父さんはパソコンが苦手で、どちらかというと、たどたどしく進行しているっていう形だったんですけど、同じ行方不明の肉親を捜すというコンセプト同じなのですが、今回は180度違います。探すほうは、スーパーデジタルネイティブ世代・10代の女子高生なんで、最新のアプリとかネットサービスとか、とにかく知り尽くしているんですよ。すごい。最先端です。この世代を主人公にしたのがこの映画が面白くなる要素だったと思うんです。非常に面白い映画なんですけど、スピードで言うと前回の10倍ぐらいの速さで進むんですね。
東城 (笑)それだけ得意っていう部分で、画面がパンパンパンパン変わっていきそうですね。
荒木 そうなんですよ。情報量が膨大で、同じ画面がパンパンパンパン変わって、同じ画面に重複情報がこれでもかと盛り込まれ、情報量が凄いんです。そこにも、全てに伏線が張り巡らされているんです。
東城 そうですか。観ているこちらも大忙しですね。
荒木 大忙しです。大変です。全体のテンポが速いので、主人公のジューンのタイピング速度なんて、私の10倍ぐらいかな? 君の指、両手で合計20本くらいあるの?みたいな。 大谷の165キロ球速ぐらいですよ。
東城 今の若い世代って早いですものねー。
荒木 全てがデジタルデバイス上で展開されてるんで、画面に普通に撮られているシーンがないんです。非常に集中力が必要になります。
で、大きな問題なのが、PCやアプリに無縁な人はこの映画見てもたぶん、何をやっているのか全く理解できないことなんです。
東城 えー?そうなんですか。
荒木 いわゆる情報格差、デジタルデバイド、これが如実に表れる作品なんですけども、東城さんご自身はPCに関してはどうですか?強い方ですか?
東城 いやーもう、弱い方って言った方がいいかなって、今 思いました。
最低限しか多分使えないかなって感じですね。
荒木 そうですか。でもね、スマホは、女性、特に若い女性はそっちが早いっていうのがありますもんね。
東城 どちらかというと、普段スマホばかり使っているタイプですね。
荒木 私は昔 デジタルコンテンツにかかわっていたので、ほぼほぼ全部理解できたのですが。同じ試写会を見た知り合いの、私と同じくらいのおじさんは、この人、まだガラケー使ってるんですけど、「全く わからなかった」って言いましたね。
東城 ああ、そうですか…。
荒木 東城さんと同じように、「マーベルと同じような魔法の映画だと思ってみていた。」と言っていました。
東城 あはははは。魔法の映画ですかー。
荒木 無理もないですね。何が出てるかさっぱりわからないっていうんです。世代によって、環境によって理解出来ない人がいることは確かなんです。Z世代とか、若い人には面白いと思います。
東城 あ~!そうですか。
荒木 だから、逆にわかんない人は観なくていいよっていう、感じですよね。
東城 予告を観させていただいて、それこそ、全画面に複線ありって言葉に興味そそられましたし。最後叫び声で終わっていたのも、私は気になりましたね。
荒木 ああー!なるほど。最後の終わり方ですね。
東城 だから、結果どうなるのかなって、気になりました。
荒木 そうですよね。非常に面白い映画なんですけど、ただ面白いだけでなくって、情報管理の恐ろしさっていうのを数々教えてくれるんですよ。
東城 確かに。
荒木 メールのアカウント乗っ取られるとどうなるのか?とか。パスワードのリセット、秘密の質問だとか、私たちが普段使っているものがたくさん登場します。そのうえで、グーグルとかGAFA、IT企業に私たちの行動情報が把握されているという実態が見えてくるんですよね。世界では国家が情報管理を支配する国がありますしね。そのあたりの恐ろしさが本当によくわかる作品ですけど、今やライフラインになっているネットですから、これがないと世の中、なかなか生き延びられないんだろうなという感想も持ちました。「search/#サーチ2」という作品です。公開中です。
今のは、全てがPCの画面上で進行した映画でしたが、これからご紹介する映画は、
リアルもリアル、イランに実在した連続殺人鬼による、娼婦連続殺人事件に着想を得て作られた、ほぼほぼノンフィクションに近い劇映画です。>
東城 わー!実際の事件がもとになっているんですか?
荒木 そうなんですよ。タイトルは『聖地には蜘蛛が巣を張る』。
聖地というのは、メッカとかですね。そういう聖なる場所のこと。ちょっと変わったタイトルでもありますね。
ストーリーです。イランのイスラム教シーア派の聖地マシュハドという町です。
いわゆる娼婦を標的にした連続殺人事件が発生します。この殺人者は「スパイダー・キラー」と呼ばれ、「街を浄化」、きれいにするという声明のもと犯行を繰り返すわけです。
多くの女性を殺害し続け、街は恐怖に陥るんですが、なんと、一部の人々はそんな犯人を英雄視し、声援を送る者さえいます。
一方 この事件の犯人を追う女性ジャーナリスト、ラヒミさんという女性なんですけど、危険を顧みずにおとり捜査、おとり取材にのめり込んでいきます。そして遂に犯人の正体にたどりつくんですが、彼女には命の危険が迫ってくるというね。思わず手に汗握るというサスペンスなんですけども…。
この事件のモデルとなったのは殺人鬼 サイード・ハナイという人物です。2000年から1年間で16人の女性を殺害しているんですよ。妻と2人の子供がいる、模範的な敬虔なイスラム教徒だったんですけど…。
東城さん、イスラム教徒とか中東の国々っていうとどんなイメージですかね?
東城 そうですね。やっぱり厳格なイメージといいますか、女性は髪を見せてはいけないみたいなところもありますよね。
荒木 そうなんですよね。ところが、そういう常識が、通じない国らしいんです。つまり、『Spider Killer (クモ殺人者) 』と呼ばれた彼が殺人のターゲットにしたのは売春婦のみで、彼女たちは薬物常習者だったので、警察が真剣に捜査をしなかったんですよね。酒も飲まないし、厳格っていう、東城さんのおっしゃったイメージ、売春婦がいるとか、薬を売るとか、そんなイメージが元々無かったんで、あまりに違うんでびっくりするんですよ。
もっとショックなのは、特に女性に対する考え方や家族の在り方です。もちろんイスラム教って、私たちの常識と違っているのは当然ですけど、こと、殺人に至ることでさえ、被害者が女性だと女が悪いんだという傾向にされるのがままあるんですね。
東城 えー?びっくりですね。
荒木 それも一般の人にまでそんな風に考えているという現実見ると、これ一体何なの…っていう感じなんです。そういう気持ちになるような映画です。
ここには イスラム教に裏打ちされた「ミソジニー」という考え方があります。あまり聞きなれない言葉ですが。
女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視なんです。男性は「自分は男性である故、女性よりも上なんだ」というような心理が働いているんですね。つまり女性蔑視社会のもとになる意識です。
その根底には「家父長制」という考え方がありますね。父親が俺が正義だ!一番偉いんだって言う…、昔の日本もそうでしたけど、そういう認識がですね、家族や子どもたちの共通認識になって、連綿と受け継げられることなんです。
東城 また、女性自身もそれに対して疑問をいだいたりしないような状況なんですかね?
荒木 もちろん、西洋的な教育を受けた方とか、そうじゃない人も沢山いますけど、家庭に入っちゃうとそういうことで、考え方がそういうふうになっちゃうんでしょうね。この映画、女性のヌードや性的なシーンがしばしば登場するんですが、イランの映画なのに、逆にこんなのいいの?って思ったらですね、これ、イラン映画じゃないんですね。
東城 違うんですか?
荒木 そうなんです。イランじゃこんな映画撮れなくて、デンマークとか、ヨーロッパの合作なんですよ。許可が下りずにヨルダンのアンマンなどで撮影したんですね。主人公の女性ジャーナリスト、ラヒミを演じてる人はですね、カンヌで主演女優賞を獲ったザーラ・アミール・エブラヒミさんという人なんです。この人もイラン出身なのに、国内での俳優活動ができなくて、ヨーロッパで、亡命して活動してます。監督は、有名な映画たくさん作ってる監督なんですけど、イラン生まれのアリ・アッバシ監督っていいます。彼もイランに入れないんですよ。
東城 そうなんですね。
荒木 そんな人が作った映画なんで…。イスラム教の最大の問題は、女性支配の問題で、特に殺人の男に非難より支持が広まるという…。
東城 信じられないですけど…。
荒木 そうなんです。売春婦だから女が悪い…という・・。そこには売春しなければ生きていけないという貧困の問題があるにも関わらず、宗教的な教条主義が前にきちゃってるわけですよね。そんなことを考えながら観ると、漫然たる気持ちになってですね、あまりにもかけ離れた国や宗教の人たちと、地球上で我々は共存しなければいけないという…。直接今の生活に関わることではないですけど、ちょっとそんな感じがします。もっとも劇映画でドキュメンタリーではないので、全て事実ではないんですけど、見終わって、ちょっとやりきれない気持ちになったことも本当のところです。
東城 根底には、宗教とか、イスラムの女性に対する蔑視の意識とかだったりっていうのがしっかり表れているからこそ、知らない私たちには衝撃が大きいですよね。でも、知っておくべきことなのかなという気もしましたので、非常に観る意味がある映画なんじゃないかと、私も感じました。
荒木 犯人が一番初めに提示されるので、犯人捜しという形ではないんですけども、ヒリヒリした感じが迫ってきてですね、非常に手に汗握る映画です。『聖地には蜘蛛が巣を張る』という、公開中の作品です。
ということでGWの映画いくつか紹介しましたけど、是非ご覧になって頂きたいと思います。
この前ダイちゃんの時に申し上げたんですけど、私の好きな映画音楽…みたいなものを募集しているので、もしよろしかったら、リスナーの方寄せていただきたいなと思っています。
東城 映画も魅力的な音楽たくさんありますからねー!是非みなさんお寄せください。
荒木 東城さんの好きな映画音楽っていうのも、お聞きしたいなと思っていたんですけど、時間が長くなっちゃったんでまた機会があったら是非お願いします。
東城 是非 お話させてください。今週もありがとうございました。