アラキンのムービー・ワンダーランド/「658km、陽子の旅」「キラーコンドーム デイレクターズカット完全版」などのとっておき情報

(2023年8月5日11:15)

映画評論家・荒木久文氏が「658km、陽子の旅」「キラーコンドーム デイレクターズカット完全版」などのとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、7月31日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木      よろしくお願いします。7月の最終日ということで、なんか頭の中、ゆだっちゃってます、暑くてー!

荒木      7月の終わりから8月ってね、気持ちが高ぶる時期なんですけど、こう暑けりゃね…。

鈴木      暑過ぎですね!

荒木      今日も8月映画イベントから紹介しましょう。 まず山梨県、山中湖の古民家で楽しむ、屋外の上映会です。8月12日に山中湖古民家施設で開催される一夜限りの屋外上映会で「OPENAIR CINEMA」っていうらしいんですけど、 ここで、ウォン・カーウァイ監督の名作、1994年の「恋する惑星」が上映されるそうです。

鈴木      観た観た、観たよー。

荒木      いいよねー。真夏の夜に、雰囲気のある古民家、湖畔というロケーションの中での上映会。問い合わせは、OPEN AIR CINEMA制作委員会までお願いします。
  さて、次は最近、私がとてもいい映画に出会えたな…という気持ちになった1本の映画を紹介させてください。

鈴木      あんなに荒木さん、たくさん観ちゃってるのにそう思っちゃったわけ?

「658km、陽子の旅」「キラーコンドームなどのとっておき情報
「658km、陽子の旅」(公式サイトから)

荒木      凄くよかったです、これ。「658km、陽子の旅」という、先週末から公開中の日本映画です。 その前に、ダイちゃんはヒッチハイクしたことや、ヒッチハイカー乗せたことありますか?

鈴木      アメリカ一周してますけど、ヒッチハイクをしたこともなければ、ヒッチハイクをしている方を乗せたこともないけど、乗せそうになって怖いから止めたっておじちゃんがいたってのはあります。

荒木      なるほどね。どっちにしろ、勇気のいることですよね。

鈴木      ちょっと怖いな。ヒッチハイクで事件に巻き込まれるサスペンス映画ばっかり観てたから、尚更、俺やめとこうって感じになりましたね。

荒木      ・・・ということでそれはおいといて、「658km、陽子の旅」 ストーリーから行きましょう。
東京で暮らす42歳の独身女性の陽子さん。菊地凛子さんが演じています。彼女は、フリーターとしてチャット案内みたいなPCの仕事を、部屋にひきこもりの状態でなんとか続けているんです。ほぼほぼ自分の人生を諦めるような過ごし方をしています。彼女、若い頃は夢を抱いていたんですが、ちょうど就職氷河期世代で、その当時は、かつての夢への挑戦を父親に反対され、それをきっかけに20年もの間、青森の実家の父と、父娘2人だけなんですが、絶縁状態にあったんです。ある日、そんな彼女のアパートに従弟が訪ねてきて、お父さん亡くなったよと伝えるんです。わざわざ訪ねて来たのは、彼女の携帯が壊れていたからなんですよ。実はこの携帯故障が後でいろいろうまくいかない原因になるのですけど。それで彼女は、従兄とその家族とともに、東京から故郷の青森までお葬式に、車で向かうことになるんです。ところが、途中のサービスエリアでちょっとしたアクシデントがあって、従弟家族とはぐれてしまって、陽子は置き去りにされてしまうんです。 東京から青森までの658㎞という、この距離をヒッチハイクせざるを得ない状況になります。お金もないうえ、もともとコミュニケーションが不得意で、普段人との関わりを避けて、殻に閉じこもっている陽子さんなので、大変ですよ。見ず知らずの人に「乗せてください」ってなかなか言えないんです。

鈴木      んー、それ無理じゃないですかー。

荒木      そうなんですよ。ですが、どうしても実家に辿り着いて、父親の、焼く前の、出棺に間に合いたいという一心で、陽子は大変な思いをしながら、勇気を振り絞っていろいろな人に働きかけるです。その甲斐あって、陽子を車に乗せてくれる人はポツポツと現れるんです。まあ、ダイちゃんも言っていたけど、いろんな人ですよね。

鈴木      そうなんですよ、他人だからねー!

荒木      そして道中で出会ったさまざまな人は色々で、陽子にとっては、初めて触れ合う社会そのものなんですね。少しずつ、そんな交流を重ねながら故郷に近づいてゆくっていう映画なんです。 この映画は、先月行われた上海国際映画祭で、なんと最優秀作品賞、最優秀女優賞、最優秀脚本賞の、この3冠に輝いているんですよ。 菊池凛子さんの他には、風吹ジュンさんとか、オダギリジョーさんとか、実力派俳優が多く顔を揃えています。就職氷河期のフリーターで、引きこもりのコミュニケーション障害って、もうこれ、その女性がのっぴきならない状態に追い込まれるというですね。いろんな人に会って、ひどい目にあったり、優しさに触れたりして、42歳にして、何とか何かを乗り越えるってテーマなんです。

鈴木      どうなんですか?ロードムービーのタッチじゃなくて、ドラマ…。

荒木      ロードムービーです。いろんな人と会って、いろんな人との会話の中で自分を見つめ直していくと…。孤独と孤立の凍った心が溶けていく…みたいな。観ていると、菊池さんの演技が素晴らしいんですけど、観ている私たちの感情移入が半端じゃなくなるんですよ。彼女を頑張れと応援したり、時にはなんでそんなことすら言えないんだと腹立ったり、感情移入度が、私あんまりそういう方じゃないんですけど、今回とても感情移入が強かったです。最近は他人との密な関係をつくること避ける傾向にあるでしょう。そういう中で、コミュニケーション障害の人が一生懸命コミュニケーションを取ろうとしていくという。ま、社会の歪みや病理なんか、ちゃんと描かれているんです。で、ほら人間なかなか変わるの大変でしょう、性格。

鈴木      無理ですよー。三つ子の魂百までですから。

荒木      そうなんですよ。そういう人が、危機的状況に陥った時に勇気を出すっていうことと、自分を変えるってこと。これが24時間のロードムービーなんですけど、その中で変っていくという。同時に、人が持つ‟真の強さ”とか‟本当の優しさ”を感じ取れる、心に響く映画だと思います。

鈴木      いい映画じゃないですかー!お話伺ってると。

荒木      そうなんですよ。映画祭で上映されたのも頷ける作品ですね。上海映画祭で受賞されたのもうなずける映画でした監督は「私の男」、この映画でも紹介したかな、「#マンホール」…。

鈴木      ああ!やりましたね。

荒木      あの熊切和嘉監督なのですけども、なかなかほんとに鋭い作品でした。 ラジオの、この番組のリスナーの方にも同じような境遇というか、ロストジェネレーション世代、氷河期のね…、そんな空気を知っている人には格段に刺さる作品だと思いますよ。

鈴木      これ、荒木さん、ハッピーエンディング…。

荒木      それは、言っていいのかな…、ハッピーエンディングっていうか、間に合うには間に合うんですね、お父さんの出棺には。

鈴木      間に合うには間に合う…。 いいです、いいです!それで充分です。

荒木      車に乗せてくれる人たちとの、車の中での短い会話で、その乗せてくれる人たちのいろんな人生なんかもわかってくるんです。

鈴木      そりゃそうだ、逆にわかるもんね。

荒木      そうなんですよ。余談ですけど、私よく見ているNHKの72時間ってドキュメンタリーあるでしょう。あれも短い時間だけど人の人生が垣間見られる・・・みたいなところもあって。とても心に響くいい映画だったなと思います。

鈴木      人ってどこか、人の人生覗き込みたいですよね。比較してみたいってか、ちょっと関連づけたいんですよ。

荒木      そうなんですよ。ということで「658㎞ 陽子の旅」という。こういう映画に出会うととても嬉しいと思った作品でした。

鈴木      素敵な話です、いい話です。ありがとうございます。

荒木      さてと!ガラッと変わってですね、前回、おバカ映画というか、「マッド・ハイジ」を紹介しましたよね。

鈴木      最高の映画ですよね。あの紹介。

荒木      ダイちゃんにも、新海さんにも好評だったんで。同じような作品を紹介します。 題して、アラキンの推薦おバカ映画シリーズ第2弾です。

鈴木      わー!!パチパチパチパチ。

荒木      「キラーコンドーム」って言います!!

鈴木      へっ!!出たー!

荒木      ちょっと放送できるのかどうかわからないですが…。

鈴木      いや、もうこれ放送してます!

荒木      あ、そうか。新海さん、始末書用意してもらった方がいいかもよ。

鈴木      大丈夫です。

「658km、陽子の旅」「キラーコンドーム」などのとっておき情報
「キラーコンドーム/ディレクターズカット完全版」(© ELITE FILM AG All Rights Reserved)

荒木      はい、8月4日公開なんですが、正式なタイトルは「キラーコンドーム/ディレクターズカット完全版」です。

鈴木      あはははは。完全版。

荒木      ストーリーです。まあ、あんまりどうでもいいんですが・・・。 舞台はニューヨーク。ラブホテルで女子大生を連れ込んだ大学教授のあそこが食いちぎられるという事件が発生します。調査に入ったのはゲイの刑事で、マカロニっていうんですけど。そのホテルで捜査のついでに、ある男性とエッチをしようとしたところ、突如歯を剥き出したコンドームに襲いかかられ、二つ持ってるもののうち、1個食いちぎられます。

鈴木      あららららららー!!

荒木      間一髪で助かるんですけど、これは事件の背後にはなんかあるなと、犯罪の匂いが漂ってくるということで、事件を追い続けるマカロニ刑事とキラー・コンドームの戦いが始まるということなんです。

鈴木      ターミネーターを超えそうなストーリーじゃないですか、これは。

荒木      (笑)。これはおバカ映画というより、カルト映画だよね。実はこの作品、1996年製作のドイツ製ホラーコメディ「キラーコンドーム」のディレクターズカット完全版なんです。私、20年以上前のこの作品観ていましたね。ま、でたらめというか、アメリカのニューヨークの話なのに、主人公の刑事がイタリア人で、しかも会話は全部ドイツ語という変な話で、ゲイの刑事が男とエッチしまくりで、例のところの大きさが35㎝あってとか。

鈴木      うわっ、でかー!

荒木      映画の中では「ぴーにす」って言葉が100回以上。

鈴木      あららららららー。

荒木      そうなんですよ。コンドームの凶暴さがものすごくってとにかく血が出まくりでみんな痛そうですね。当たり前ですけど。でね、もっとすごいのはもっと別のところにあって、このとんでもないキワモノ映画のディレクターズカット版をなんと20年もたってから完成させたという監督の情熱ですね。これ、マーティン・バルツさんっていう人なんですけど。なぜ、ディレクターズカット版を作るかというと、海外映画の場合、最終的な編集権を持ってるのがプロデューサーなんですよ。日本は基本的には監督が編集権を持ってるから、劇場公開版がディレクターズ・カット版でもあるんですけど、海外はプロデューサーによって、監督にとってはちょっと不本意な編集をされるみたいなことがあるんですね。

鈴木      なるほど。

荒木      だから、当時公開されたバージョンとは別のものを、改めて編集するっていうね…。

鈴木      20年経って!

荒木      そうなんですよ。そういうのもあるわけですよ、ディレクターカットって、よくありますよね。「ゴット・ファーザー」なんかもそうですよね。

鈴木      そうかそうか、ディレクターズ版ね。

荒木      ところが、こういうとんでもない、くだらないっちゃあ(笑)…申し訳ありません、そういうものに、こだわりを持ってやったのがこの人ってことでね。

鈴木      こだわりだけでも凄いですよね。

荒木      凄いですよねー。そして、この映画の重要なキャラクター キラーコンドームをデザインしたのは、ハンス・リューディ・ギーガーという、あの「エイリアン」のデザインをした人なんですよ。だからしっかりしているっていうか、ちょっと不気味で、エイリアンのクリーチャーの幼虫によく似てますよ。

鈴木      あー…。

荒木      私もこの手大好きなんですけど、マニアの方は見逃せないと思います。興味のある方は、このチャンスに観に行っていただきたいと思います。 「キラーコンドーム ディレクターズカット完全版」です。8月4日公開。 そういえばここまで喋ってきて、私、男の人が、あそこを食い切られちゃうという映画、もう1本思い出しましたよ。

鈴木      えっ?そんな映画あるの?

荒木      あるんですよ。4,5年前、この番組でもお馴染みの、カリコレで上映してましたね。そのタイトルが「歯まん」。 葉の歯ブラシの歯。口の中の歯に、ひらがなのまんで「歯まん」というんですけど。

鈴木      それタイトル?…、あかん!!

荒木      映画の内容とか、何が、あれを食いちぎるのか、とても説明できませんので聞かないでください。

鈴木      説明しなくていい…。

荒木      これもカルト映画…。

鈴木      そんな映画、名前だけ紹介して今回は終わるということね。

荒木      はい!仰る通りでーす。

鈴木      仰る通りでーすって(笑)。じゃあ荒木さん、くれぐれもあそこ気をつけてくださいよー。

荒木      はい、お互いね。棄損しないようにがんばりましょう。

鈴木      はーい。失礼します。

 

アラキンのムービー・ワンダーランド/「アイスクリーム フィーバー」「ヴァチカンのエクソシスト」などのとっておき情報
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊨と鈴木氏)

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。

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