-
映 画

第96回アカデミー賞のとっておき情報
(2023年3月16日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が第96回アカデミー賞のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、3月11日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 こんにちは!! アカデミー第96回、終わったんですよね?
荒木 終わりました。2時間ほど前に、全部決定したばっかりですね。
鈴木 お願いします。
荒木 今日はその話題しかないんですけど。もう、みなさんご存知かもしれませんけど、明日のスポーツ紙のトップの見出しはどんなんでしょうね。
「日本の2作品がオスカー!」というね、2冠ということで。怪獣とアニメという、日本の象徴的な文化、カルチャーの受賞じゃないかということで。
鈴木 それ、凄いことですよね!
荒木 凄いですね。改めて申し上げますと、視覚効果賞で「ゴジラー-1.0」がオスカーですね。それからもうひとつは、ご存じの「君たちはどう生きるか」。英語のタイトルは「The Boy and tha Heron」。ということで、ジブリの復活のアカデミー賞長編アニメーション賞ということで。基本的には21年ぶり。「千と千尋の神隠し」で1回取ってますので、2回目なんですけどね。宮崎監督。
鈴木 凄いな~、やっぱり。

荒木 日本でも盛り上がりましたけど、アメリカでも盛り上がりました。
どういうふうに話していこうかな。
結果をお知らせする前に、先週お話したんですが、今回の見どころは「オッペンハイマー」。13部門にノミネートされたこの作品がどのくらい賞を取るか、ということに尽きると言えば尽きるんですけど。見事、作品賞他7冠ということで、原子爆弾の開発に携わった科学者の人生を描いたものですけども、非常にクオリティの高い作品ということを示したといっていいんじゃないかと思います。
鈴木 荒木さんから見て、7冠というのは予想通り少ないですか?多いですか?
荒木 妥当なとこじゃないですか。
鈴木 妥当なとこですか。
荒木 中身見ると、撮影賞とか編集賞とか、つまり技術賞も取っています。
確かに映画見てみると、本当に複雑な編集なんですよ。過去と未来。それから横行ったり縦行ったり、編集で複雑なものをそれなりにわかりやすくやってるし、撮影はモノクロのシーンが随分多いんですよ。それを上手く見せているというか、カラーとモノクロの対比。
鈴木 逆に、モノクロがある方がいい効果になっているということですか?
荒木 そうですね。クリストファー・ノーランの全てをつぎ込んだ作品といえるんじゃないかと思います。ひとつの頂点でしょうね。
鈴木 監督賞も取っていますからね、クリストファー・ノーラン。
荒木 そうですね。演技賞も予想された通りなんですけど、その他には「哀れなるものたち」が11部門ノミネートされたんですが、これも4つほど取ってますからね。
鈴木 ほんとだ!取ってますね。
荒木 そういうことでは、予想はしてたんですけど、ほぼほぼ予想通りですよね。私が予想したのは、助演女優賞以外は全部、5部門、作品、監督、主演の2つ、それから助演男優賞も当てたと。自分から言うのもなんですが。
鈴木 お見事!
荒木 順当に来たということですね。
日本の2作品の話をしましょう。宮崎監督としては「千と千尋…」以来、21年ぶり以来2度目の受賞となっているんですけど、1度引退されて新作に取り組むこと、17年ぶりの長編なんですけど。非常にクオリティの高い作品って前から言われていて…興行収入も88億円の大ヒットですよね。
アメリカのタイトル「The Boy and the Heron」、クリスチャン・ベールはじめ、一流の俳優さんが吹き替えしてるんですよ。これも話題になっていました。もちろんクオリティも高いんですけど、私が考えるには、まず「みやざき」っていう、ジブリのブランドの力がやっぱり強かったんじゃないかって思います。やはりここへ来て、アニメの宮崎の名前ですね。ライバルはね、ダイちゃんの好きな「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」だったんですよ。
この前のアニメのアカデミー賞といわれる2月のアニー賞では、「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」がグランプリを取りました。
今回は、「きみたち~」がアカデミー賞では取ったと。

鈴木 なんでそういう、差というか、順番があるんですか?今回。荒木さん的には?
荒木 そうですね、やはり投票する人たちの地域だとか・・、アジアも多いし、そういう差が出てるんでしょうね。
鈴木 なるほど。そういう意味で、今回のアカデミー賞は世界中の意見というか、趣味趣向が反映される賞ですよね。
荒木 そういうことですね。「スパイダーマン」の方が極めてアメリカっぽい構成でしたよね。考え方も。
鈴木 そりゃそうですね。
荒木 そういう意味でいうと、日本の死生観っていうか、そういうものも含めて、アジア系の死後の考え方とか発想がある程度評価されたのかなと思います。
鈴木 その辺りの考え方も、今や欧米から見ても異質なものでありながら、だいぶ馴染んできているっていう、証明、証拠でもあるかもしれないですよね、流れ的には。
荒木 そういう意味でのグローバルっていうか、あると思います。あと、
「ゴジラ-‐1.0」。これもVFXがこんなに凄いということで。なんせ、他の作品、ノミネートされた作品沢山ありますけど、100億から300億の製作費がかかってるんですよね。
鈴木 凄いなあ。
荒木 それがもう桁がね。2桁ぐらい違うね。17億円ぐらいの製作費でこれだけのもの。ダイちゃんも見てると思うんですけど、昭和が舞台ということで、資料だとかいろいろ大変だと思うんですよ。空気感みたいなもの、戦後の空気感もあるし。もちろんゴジラが怖くてですね、ゴジラ自身も凄かったんですが、玄人すじで評価されてるのは、実は、水の表現なんですよ。
鈴木 えっ?!どういうこと?水?表現ってのはどういうこと?
荒木 ゴジラが船を追いかけるシーンがありますよね。船の水しぶきとゴジラの水しぶき、この表現はもうアメリカのものを超えてるって言われていますね。こういう、目立たないところの表現が素晴らしいんですよ。
鈴木 なんか、陰に隠れたところも手抜きしないで頑張っちゃうっていうところも、日本人的にいうとわかるっていうか。
荒木 そうなんですよ。
鈴木 前に出すぎないけど、実はちゃんと出てるって凄いな。
荒木 しかも限られた予算の中で。爆発や炎の表現もあるんですけど、この水の表現が素晴らしいっていうことが、前から言われています。今度見る時には、そこを注意して見ていただくといいと思うんです。日本の作品がふたつ取ったということでおめでたいことなんですけど、他に目立つところを見ると、長編ドキュメンタリー作品ですね。
鈴木 長編ドキュメンタリー。
荒木 はい、「実録 マリウポリの20日間」。これは、ウクライナのマリウポリの戦いを地元のカメラマンが撮ったドキュメンタリーで、非常にリアルで、ロシア軍が人平気で殺すようなところも、リアルなところもあるんですけど、時代と言えば時代でね。昨年はちなみに「ナワリヌイ」でしたからね。
あと目立ったのは、これから多分ご覧になれると思うんですが、「関心領域」っていう作品。
鈴木 「関心領域」。…あります、国際長編映画賞。
荒木 そうなんですよ。だから日本の「PERFECT DAYS」は、これがここに居たんでちょっと、オスカーを取れなかったですね。
鈴木 これがいた故…なるほど。
荒木 多分、そういうことだと思います。評判が凄い高いです。私も見せていただいたんですが。
鈴木 素晴らしいですか?
荒木 素晴らしいですよ。見せないことで、特に音を使う事で残酷さを表現するっていう。見ていただかないとわかんないと思うんですけど、これ、音響賞も取ってるんですよね。
鈴木 なるほど。
荒木 住宅が舞台なんですが、隣に捕虜収容所があるんですよ。そこから音が響いてくることで、想像力とか、そういうものを非常に感じさせるという。これも優れた映画です。作品賞にもノミネートされていました。イギリスの映画です。
これも公開時期がきたら、紹介させて頂きたいと思います。
ということで、今日は日本の映画にとっては画期的な日です。怪獣とアニメという象徴的な受賞です。そういう意味では、今後はドラマなんかもどんどんオスカーを取って欲しいんですけど、ひとつのステップになった96回アカデミー賞だと思います。
鈴木 こういう日に、月曜日があって、荒木さんに生で電話出演していただいてるっていう、この瞬間が大切な…、しみじみするなって感じです。
荒木 おっしゃる通りですね、運命ですね(笑)。
鈴木 あはははは。荒木さん、生いいね!
荒木 はい。変な事言わないから、大丈夫ですよ。
鈴木 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。