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映 画
「NO選挙,NO LIFE」「ヤジと民主主義 劇場拡大版」「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら」のとっておき情報
(2023年12月17日10:30)
映画評論家・荒木久文氏が「NO選挙,NO LIFE」「ヤジと民主主義 劇場拡大版」「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、12月11日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 このところ、政界がばたばたしてますね。
鈴木 知ってます。どうなるのこれ?
荒木 例のキックバック問題で大混乱ということですが…。
今、選挙やったらどうなる?なんて興味もありますよね。
そう言えば今年は、大きな衆議院選挙とかがなかったですが、ここにきて選挙に関する面白いドキュメンタリー映画が出てきましたので、ちょっと紹介しますね。
一本目はすでに先月から公開中です。タイトルが「NO選挙,NO LIFE」。選挙なしでは生活なし?とでも訳しますかね。
鈴木 あはははは。その用語は、登録商標取っといたほうがよかったと思いますよ。
荒木 この作品は、選挙取材歴25年のフリーライターの選挙戦を追ったドキュメンタリー映画なんです。
世の中には、選挙を専門に取材する記者がいるんですね。畠山理仁さんていうんです。
自称選挙に憑りつかれた男というんですけど。通常、大きな選挙の時は新聞やテレビはたくさん選挙に関する報道を伝えますけど、当然のように有力候補だけをメインに取材してますよね、ご存じのように。この畠山さんはその選挙の立候補者は、全員を取材することを基本の信条にしていて、その視点から国政から地方選挙、様ざまな選挙の面白さを伝えてきた人です。
今回は、昨年2022年7月に参院選がありましたよね。その東京選挙区が舞台で、ここは定数6人のところに候補者34人が立候補したんですよ。カメラは、彼、畠山さんが候補者への取材に励む姿にずっと密着するんです。
彼はたった1人で選挙現場を駆け巡り、候補者全員を取材するんです。期間中は、平均睡眠時間2時間! 経済的にも、原稿が書けなくなるから回らくなるという。とにかく畠山さんは修行者みたいなエネルギッシュな取材活動していて、驚かされるばかりです。
監督は「なぜ君は総理大臣になれないのか」プロデューサーの前田亜紀さんです。
選挙報道ってさっきも言いましたが、「候補者全員取材」なんてのはテレビ、新聞では決してやらないですよね。でも、もともと選挙の候補者は全員同額の供託金を支払い対等な立場で立候補しているんです。にも関わらず、黙殺されてしまう人たちがいます。
いわゆる「泡沫候補」と呼ばれている人たちなのですが、この時の東京地方区にも実にいろんな人がいました。バレエが大好きで自分で踊りを披露するためにバレエ党という政党を作って立候補した人とか、「私はエスパーで、超能力が使えるんだ!!」という電波系というか怪しいおじさん立候補者とか。ろくに食べるものもない生活なのに供託金を貯金して立候補した人とか、同性婚の強力な推進者やゴリゴリの右翼・保守もいるなど玉石混交なんですよ。
この泡沫候補さんたちが、すごい面白いですよ。こういう言い方は失礼ですけど、動物園ポイ楽しさすらあります。この人たちはほとんど法定得票数に達しないので300万円の供託金は没収されてしまいます。300万円あればいろんな事出来ますよね。
鈴木 そうですよ!
荒木 何故、それまでして出馬するのか?いわゆる泡沫候補にも知られざる物語がそれぞれあって、畠山さんはそれをきちんと取材しているんです。
「無頼系独立候補」と呼んで、「すべての候補者の主張を可能な限り平等に有権者に伝える」、それが彼の信条なんですね。
鈴木 そもそも、当選すると思って立候補するんですかね?
荒木 しないでしょう!
鈴木 しないですか?!やっぱり!
荒木 しないよね。自己承認とか、目立ちたい、そういうこともあるし、いろんな、そういうところでチャンスを作って、自分を皆に知ってもらいたいんじゃないかな。
鈴木 そういう意味では、宣伝効果は抜群ですよね。
荒木 そうですね。ただ300万円にね…、あー、でも300万円だったらあるか…。いわゆる選挙公報にも出るし。政見放送もね。
鈴木 なかなか顔を知られると思いますよ。
荒木 そうですね。周りからは滑稽に見えても真剣に政治に取り組んでいる人たちを、どうそれを見守るジャーアナリストっていうか、そういう意味で政治という世界の面白さや残酷さが見られると思います。ダイちゃんは、ちゃんと選挙に行くほうですか?
鈴木 行きますよ!当然行きますよ。
荒木 偉いですね。
鈴木 荒木さん行くでしょう?
荒木 ああ、行きますよ。
鈴木 あはははは。行くじゃないか。
荒木 白紙で投票もありますけど。
鈴木 それはどっちでもいいんだけど、取りあえず選挙会場には行きますよ。
荒木 映画の中で言っている当たり前のことですが、印象的な言葉があります。
「私たちは政治に無関心でいることは出来るんですよ。だけど、政治とは無関係ではいられないんですよ。」ということば。
考えないようにしていたとしても、どうしたって僕たちの生活に密接に関係しているのが政治ですってことだよね。ということで、「NO選挙,NO LIFE」全国で絶賛上映中です。
2本目は「ヤジと民主主義 劇場拡大版」というドキュメンタリー作品です。
こちらも先週から公開がはじまりました。覚えている方いらっしゃるでしょうか?
もう4年前になると思いますが、2019年夏の「参議院議員選挙」です。まだ、安倍さんが首相をやっていた頃です。7月に、北海道・札幌で安倍元首相の遊説中にヤジを飛ばした観衆の中の、ふたりの市民を警察官が取り囲んで移動させちゃうんです。いわゆる「ヤジ排除問題」。ニュースで見たこと、覚えありません?
鈴木 なんかちょっと記憶あるなあ、4年前ね…。
荒木 そうですよね。この時に警察によって「ヤジで排除された」2人が、表現の自由が侵害されたとして国家賠償訴訟を起こすんです。今も裁判は続いています。このヤジをめぐる出来事を追って作られたのがこの「ヤジと民主主義 劇場拡大版」なんです。もともと北海道放送のテレビドキュメンタリー番組がもとで、いろんな賞を受賞して、本にもなっているんです。これがもとです。2019年は、いわゆるモリカケ問題をはじめとして、例の忖度問題とか、「政権の暴走」的な雰囲気がありましたので、社会全体がナーバスになっていた時期なんですね。たかがヤジで警察が介入するのか?というのが印象だったんですけど。ヤジって、冷やかしや非難の言葉を浴びせる行為なんで、ヤジを飛ばすのは馴染めない人が多いでしょうね。今はヤジを聞けるのは野球場やサッカー場などね。
鈴木 野球もそうですよ。スポーツもありますよね。
荒木 ダイちゃんは、ヤジとか、飛ばしたとか飛ばされたとか、経験ありますか?
鈴木 ないけど、SNSでいろいろ書かれるのも、ある種現代のヤジじゃないですか?
荒木 そうだね!あれ、そうだね!私たちの若い頃は、学生集会や組合大会、会議でもヤジが、がんがんが飛んで、それがきっかけでヒート・アップし白熱して、相手の本音を引き出す一つの要素のひとつにもなっていたんですけどね。
鈴木 昔、ジャイアント馬場のプロレスで、「馬場、動け!」って言ってるのって、あれヤジですよね!?
荒木 あはははは。ヤジです、ヤジです!面白いヤジありますからね(笑)。
スポーツ系は(笑)。今は人の話はきちんと聞きましょうという雰囲気でね、ヤジは迷惑行為であるという認識の人が多いんですけど、警察もヤジを罵声という言い方で主張しています。一般に大きい声を上げるというのは騒いでいるだけに思われるんですけど、ただ、ヤジを飛ばせない社会にもなってきているんですよね。
鈴木 うーん。どうなんですか?それって。
荒木 そうですよね。そんな時にこの映画「ヤジと民主主義」は、本当にそれでいいのかということを、より深く掘り下げ問いかけています。
とても考えさせる作品です。「ヤジと民主主義 劇場拡大版」は公開中なんですが、この選挙関連2本ご紹介しましたが、この2作品の監督同士が出席して、なぜこうした作品が立て続けに生まれてるのかとか、そういうものを制作者たちと語りあった映像が配信されてるところがあるんです。配信サイトなんですけど、興味のある方はデータまだ乗っていると思いますので、DOMMUNE という配信サイトに行ってみてください。
最後は、「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら」という戦争をテーマにした恋愛ものという感じです。戦時中の日本にタイムスリップした現代の女子高校生と、当時の特攻隊員の青年との切ない恋を描いたラブストーリーです。現代からタイムスリップする女子高生を福原遥さん、そして特攻隊員を水上恒司さんが演じています。これね、敢えてあらすじ言いませんけど、女子めちゃくちゃ泣きます。
鈴木 じゃあ、俺たちも泣きますよ、そりゃあ。
荒木 泣きますよね(笑)。そんなに泣くことあるかってくらい泣くんですよね。時代を超えた恋愛映画っていうんですが、その裏に、改めて戦争について考え直すきっかけがちゃんと入ってるんですね。そういう意味では、スタッフや監督の意思が上手く伝わったなということですよね。より若い世代に、この戦争を知って欲しいという意味が込められてます。悲惨さも伝わってます。自分たちが生きる今っていうものの大切さをちゃんとわかってちょうだいね、という意味が伝わってると思います。上手く伝わっているってことでこの映画は成功なんでしょうけど、ただ意地悪な見方をちょっとすると、ツッコミどころもたくさんあります。タイムスリップが簡単すぎて(笑)。
もうひとつは、可愛い福原遥ちゃんがね、ちょっと戦争中のあの雰囲気におしゃれ過ぎて、だいたい昭和顔じゃないよね、あれ。
鈴木 ははははは。そういうところですか、ツッコミは(笑)。
やっぱり、時代に見合った顔つきってありますよね。
荒木 そうですよ!だからちょっと考えたんですよ。今の若い女の子たちね、誰がタイムスリップして昔の日本に行ってもですね、髪の毛は茶色いし、手足は長いし、色は白いし、あか抜けてるんですよね。ひょっとしたら敵の西洋人が攻めてきたんじゃないかと、当時の日本人に思われるんじゃないかと心配しました。
鈴木 それは言えますね。
荒木 言えるでしょう!やっぱり時代にあった顔ってあるんですよね。
鈴木 平安時代には美人だったけど今では…とか、いろいろありますよ。
荒木 ありますからね。だから、そういうところがツッコミどころですけどね。あんなあか抜けた昭和の顔としてはないよ。
そして 戦争の悲惨さとか不条理を、今の若い人に伝えるのは大変だと思うんですよ。
我々の時と違うからね。いろいろテクニックを使って戦争の悲惨さを伝えようとしていることで、まあわかりやすいラブストーリーに被って、被せているんですけど。あまり悲惨過ぎるシーンとか、血のりべったりもないので、10代や女性の方にも観ていただけると思います。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』という戦争映画でした。戦争映画じゃないか(笑)。
鈴木 例えば1942年だったり、39年だったりさ、そういう時に切なくも美しい恋愛って同じようにあったんですよね?
荒木 そりゃあったんでしょうね。今みたいにストレートに意思表示したり出来ない時代でしたから、もっともっと内に秘めて、きれいな恋愛…きれいな恋愛って言っちゃ変ですけど、あったんでしょうね、数知れず。そう思うと、成就できなくて死んでいった人たち、簡単には言えないですけど、気持ちはわかると思います。
鈴木 そんな切ない思いを、おっちゃん2人が斜め45度上ぐらいを見ながら、はぁーって言いながら締めるっていうコーナーになりました。
荒木 (笑)そうですね。福山雅治さんがエンディングテーマを書いてます。
鈴木 それをお送りしましょう。荒木さん、ありがとうございます。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。