戦後80年・戦争映画特集

(2025年8月18日9:00)

映画評論家・荒木久文氏が戦後80年・戦争映画のとっておき情報を紹介した。トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月11日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木      山の日です。よろしくお願いします。

荒木      今日は山の日なんですが、今週金曜日はご存知のように終戦記念日なんですよね。

鈴木      そうですよ。8月15日。

荒木      戦争が終わってから80年という区切りの年です。映画業界でも戦争や原爆に関して多くの作品が公開されています。今日はね、いつもの悪ふざけは封印して謹んで、これらの映画作品を紹介させてください。

鈴木      そういう、戦争ものばっかりなんですか?

荒木      そうですね。そういうものばっかりですね。

鈴木      なるほど。わかりました。

荒木      まずは8月15日公開の太平洋戦争をテーマとした映画、『雪風 YUKIKAZE』です。きれいな名前でしょう、雪風。この「雪風」、戦争中の軍艦の一種、駆逐艦という種類の船の名前です。

アラキンのムービーワンダーランド/戦後80年・戦争映画特集
「雪風 YUKIKAZE」(8月15日全国公開)(©2025 Yukikaze Partners.)(配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント /バンダイナムコフィルムワークス)

鈴木      なるほど。

荒木      ダイちゃん、駆逐艦ってわかりますか?

鈴木      わかりますよ。駆逐艦ってどういう性能を持ってるか、そこまではわからないけど、駆逐艦って言ったらイメージは出来ますよ。

荒木      昔の海の戦争と言うのは、船同士の大砲の打ち合いで、もちろん飛行機なんかも絡んできますけど、船が船団を組んでガンガン撃ちあうんですね。中心にいるのは攻撃主体の戦艦なんですが、戦艦大和とかね。他にも空母とか巡洋艦とかいるのですが「駆逐艦」と言うのは将棋で言うところの「歩」ですよね。いわば、歩兵というか、軍団を守って一番先頭や後ろで戦う役目なんです。だから、魚雷とか水雷とか爆弾を持って、敵の大きな戦艦や空母を比較的近くから攻撃するという。小っちゃいから小回りが利いて速いんです。小っちゃいと言っても120mくらいあるんですよ。

鈴木      でかいなー。

荒木      戦艦「大和」は260mあったんですよ。それに比べると半分以下ですけどね。時速70キロくらいで小回りが利くんで、物資の運送だとかね乗組員の救助なんかもね。海のなんでも屋さんなんです。

鈴木      車で言うと軽自動車みたいだな。

荒木      そうそうそんな感じ。で、常にフロントライン、前線にいるんで危険なところに位置しています。だからやられちゃう可能性も高いんですよ。ところが、この「雪風」という駆逐艦は戦場で最後まで居残って沈没した船の味方を引き上げたり、時には相手の敵兵にも手を差し伸べるという非常に危険な作業を、最後まで必ずやってきた船なんです。しかも、必ず生きて帰ってくるというか、やられないで帰ってくるんです。

鈴木      えーっ!?

荒木      そうなんですよ。記録によると16回以上戦争に出てるんですけど、当時戦争に参加した駆逐艦38隻の中で1隻だけ、終戦まで生き残った船なんです。

鈴木      「雪風」だけ違った性能とか、大きさだったわけじゃないんですね?

荒木      いいえ、違うんですよ。しかも危険な目にいっぱいあって。だから「雪風」は「幸運艦」とか「不沈艦」とか、「幸運の船」とか呼ばれてたんですね。 戦後は外地から人を日本に運ぶという役割もした、そういう船です。 ちょっと前置き長くなっちゃったんですけど、この映画はその「雪風」の真実に基づくフィクションです。劇映画ですね。だから全てが事実じゃないんですけど、この船と乗組員たちの戦いを現代へ続く激動の戦争の時代を生き抜いた人々の姿を描いているんですね。 時系列でミッドウェイ、ガダルカナル、ソロモン、マリアナと辿っています。 そういう意味で、文字通り「雪風」が主人公なんです。だから、出演者はむしろ脇役で、そこに乗り合わせた人々の人間ドラマなんかを描いています。出演人物は艦長に竹野内豊さん。

鈴木      カッコいいですね。

荒木      他には玉木宏さんとか田中麗奈さんとか出てます。もちろん戦争映画ですから戦闘場面も凄いんですけど。「魚雷撃たれた!主舵いっぱい!」みたいなね。それでもドンパチの派手な海の戦いや、海の戦争を期待している人にはちょっと期待外れかもしれないですね。

鈴木      アクション要素が濃厚ってわけじゃないってことですね。

荒木      そうです。そういう要素よりむしろ雪風に乗りあわせた人々が戦争に向き合う普通の人々、兵隊たちの人間的な心理とか家族を描いた、本質的には反戦の要素を色濃く持った映画です。基本にあるところは反戦なんですけど、それをストレートに出すんじゃなくて、比較的冷静に異様な戦争の世界を描いているという、感じ取ってくださいねという感じかな。そんな感じの映画なんですけど、戦争の悲惨さを強調した映画もあればこういう映画もあるという。 まあ、戦争の話ばかりしてもキリがないんですけど。今も、ロシアでも、中東でもやってますけど…。

鈴木      戦争はどこかでやっていて終わらないね。

荒木      そうね。我々にとっても太平洋戦争は教科書とかじゃなくって、例えばダイちゃんのお父さんとか…。

鈴木      そうです。うちの母親は北海道生まれなんで直接ってことはなかったみたいなんですけど、父は昭和一桁 東京生まれ東京育ちなので、東京大空襲だ、疎開だって、僕が子供の時からいろいろな話をよく話聞かされましたよ。

荒木      そうだよね。そういう時にもし怪我したり亡くなったりしたら、ダイちゃんも生まれてないよ。そういう意味では太平洋戦争って、歴史の中だけじゃなくて我々と地続きなんだよね。

鈴木      めちゃめちゃ身近ですよ、感覚は。

荒木      そうなんですね。そういう意味でも忘れちゃいけないと思いますよね。 そういう意味も感じた『雪風 YUKIKAZE』、8月15日から公開です。いい映画なんで見ていただきたいと思います。

鈴木      今週末から毎週金曜日ロードショーって言ったら、15日が金曜日だもんね。

アラキンのムービーワンダーランド/戦後80年・戦争映画特集
「原爆スパイ」(© Participant Film)

荒木      そうなんですよ。  もう1本。今年公開の中で私が注目したのが『原爆スパイ』。 なんかちょっとコメディっぽいタイトルですが、シリアスなドキュメンタリーなんです。 昨年「オッペンハイマー」、原爆の父と呼ばれた科学者を描いて、アカデミー賞でも7部門取って話題になりましたけど。この作品の中でも事実に基づいてたんですが、原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」の責任者がオッペンハイマーで、このプロジェクトは全米からそれこそ天才と言われる学者が集められたんです。その中に最年少のなんと18歳で採用され、オッペンハイマー博士の下で研究・開発に携わった天才物理学者で、セオドア・アルビン・ホールという人がいたんですね。この人がこのドキュメンタリー映画のいわば主役です。このセルドア・ホールさんという人は、最初に原子爆弾を開発したアメリカによる、いわゆる原爆の独占をとても危険なことだと考えて、原爆開発に関わる重要な国家機密情報を当時のソビエト連邦へと流していたんです。だから『原爆スパイ』というわけなんですよ。

鈴木      ああー!なるほど。

荒木      当時、ソ連はアメリカのライバルとみなされて将来対立構図がわかってたんで、そのソ連に国家の最高機密を渡したということ。彼の動機は何だったのか?ということなんですね。ホールさんはアメリカが核の力を独占したうえで、将来ソ連に対して原爆を投下する事が現実にあると考えたんですね。原爆を脅しのカードとさせないということを目指すんです。つまりソ連が原爆を持つことで戦争を防ぐという…これ聞いたことありますよね。今で言われる「核抑止力」という考え方の基ですよね。

鈴木      まさしく同じですね。

荒木      ソ連がアメリカと同等の力を持てばアメリカがソ連を攻撃する事は無くなって、民間人の命も守られるという…。ホールは、その「思いやり」からこういう事をした、と映画の中で語っているんですよ。この辺り実に難しいですよね。

鈴木      難しい…。戦後80年の歴史を知れば知るほどどっちがいいと言い切れないよね。

荒木      このスパイ行為によってソ連の核開発は5年早まったと言われます。 更に、世界の核拡散状況は大きく変わったと言われています。そういう中でこの映画では、セオドア・ホール自身のインタビューを始め、いろいろな関係者が彼と彼の行為について語っています。ソ連に核兵器を売り飛ばしたスパイと言うレッテルを貼られたセオドア・ホールの人格とか家族たちはどのように秘密を共有して生きて来たんだろうかと・・・。 当然、アメリカにはいられないわけですから・・。セオドア・ホール自身は1999年に亡くなっていて多少インタビューにも出てくるんですけど。とても温厚な思慮深い人で、家族思いでいろんな事を考える。天才ですからね。妻が語り部として登場しているんです。難しいいい映画なんですけど、人間としての良心というのも考えさせられるし、アメリカとソ連の核開発を巡る真実も出て来るしですね。家族から国家まで考えさせられる…、 今、あなたが言ったみたいに「うーん…」ってなるしかない。  『原爆スパイ』という、まさに見るべき映画じゃないかと思います。  ということで、映画2本紹介したんですけど、時間がありそうなので今公開されている戦争系の映画をざっと紹介します。

鈴木      そんなに公開されてるんだね。

荒木      いっぱいあるんだよ(笑)。  まず、先月からの公開ですが、凄かったのが『木の上の軍隊』と言う映画。舞台は沖縄で、終戦に気づかないまま2年間も木の上で隠れて、生き抜いた2人の日本兵の実話なんですよね。井上ひさしさんの舞台劇を堤真一さんと山田裕貴です。2人の凄まじい熱演がとても印象的でした。
  次は、『長崎 閃光の影で』という映画です。これは文字通りの映画で1945年の夏、原爆投下直後の長崎を舞台にした被爆者救護にあたった若き看護学生の少女たちの姿を描いたドラマですね。  それから、『満天の星』という作品は、終戦一年前の8月、沖縄から九州へ向かっていた学童疎開船・対馬丸って聞いたことありますか?

鈴木      聞いたことある!

荒木      これはアメリカの潜水艦に撃沈された対馬丸事件なんですけど。事件後、箝口令が敷かれたことで謎に包まれていたんですよね。この事件を数々の証言から検証するドキュメンタリーです。

鈴木      そういう、言わない㊙な事、たくさんあるんだろうな。

荒木      でしょうね。さらに、戦争関連映画で過去の作品の再上映もあります。 有名な『この世界の片隅に』というアニメ。9年前ですよね。戦時中広島の呉で、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロイン、すずさんでしたよね。 彼女の日常を生き生きと描いていました。泣けましたね。本当に。私ももう一度見たいと思ってます。という事で戦争映画、色々たくさんありまして、見るのはちょっと気が重いかもしれませんけど…ダイちゃんも仰ったように自分に繋がってる歴史そのものなんですよ、太平洋戦争は。

鈴木      荒木さんがさっき話してたように、泣けるっていうじゃないですか。

荒木      うん。

鈴木      見たら、必ず心がぐらついて泣くのがわかってるのに見に行くって、何なんですかね? これって(笑)。

荒木      もちろん、その人の運命を自分のものとして感情移入・共有できるってことも含めてでしょうね。

鈴木      追体験するんだろうな、人は。

荒木      そういうことですね。その為に映画はあるといってもいいですからね。

鈴木      そうですね、なるほど。

荒木      ということで、今日は、真面目に戦争映画をご紹介しました。

鈴木      そうですよ。我々は、いつもふざけてるようで平和を考えるピースな人ですよ。多分。

荒木      そうです! 誰も言ってくれないけどね。

鈴木      ありがとうございました。

アラキンのムービーワンダーランド/戦後80年・戦争映画特集
(映画トークで盛り上がった荒木氏㊨と鈴木氏)

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。

■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。

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