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映 画

「ディア・ファミリー」「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」のとっておき情報
(2023年6月22日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が「ディア・ファミリー」「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、6月17日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いします。
荒木 昨日、父の日でしたよね。ダイちゃんは、お父さんになにかお祝いなどあげましたか?
鈴木 今週の後半に会って渡すことになっています。お預けプレイになってます。

荒木 なるほど、楽しみですね。まだ、父の日は、母の日に比べるとちょっと歴史が浅いというか、影が薄いですがね。
今日は、それに因んだわけではないんですが、子どもの為に頑張ったお父さんの話しです。
まずは6月14日公開、「ディア・ファミリー」という作品です。
世界で17万人の命を救ったと言われる医療機器の誕生にまつわる実話を映画化したヒューマンドラマです。
時代は1970年代です。小さな町工場を経営している坪井宣政さんという人がいます。
あの大泉洋さんが演じています。彼の娘の佳美ちゃんは生まれつき心臓に疾患を抱えていて医者から、余命は10年、二十歳までは生きられないだろうと宣告されてしまいます。娘のこの病気は、日本中のどこの医療機関・病院でも治すことができないし、海外でも難しいという厳しい現実を突きつけられた宣政さんは、なんと、娘のために自分で人工心臓を作ることを決意するんですね。突飛もないことです。何の知識もない中小企業のおっさん社長がですね、誰が考えても、知識も経験もゼロからの人工心臓開発というのはむちゃくちゃで不可能なことですよね。
鈴木 そりゃ、無茶苦茶ですよ。
荒木 でも、宣政さんと妻の陽子さんは娘を救いたいという一心で勉強と研究に励み、いろんな医者や技術者から教えを乞うて、資金繰りをして何年も何年も開発に没頭するんです。
だけど、佳美ちゃんの命のリミットは、刻一刻と迫ってきていというものなんですけど。
大泉洋さんが主人公・宣政を、妻・陽子役を菅野美穂さん、娘・佳美役を福本莉子さんが演じています。他に松村北斗さんとか、有村架純さんも出ています。
さっきちょっと言いました、世界で17万人の命を救ったと言われる医療機器というのは、正確に言うと、IABP、大動脈内バルーンパンピング。いわゆるバルーンカテーテルというものです。聞いたことありますよね。
これは小さい細長い風船のついたカテーテルを足の付け根などから胸の下の大動脈内に送り込んで、心臓の拍動に合わせてその風船が膨らんだり縮んだりするんです。それで心臓を補助する循環装置なんですけど、主人公は結局、このカテーテルを作り上げることに成功するんですね。
日本で初めての国産のバルーンカテーテルの誕生にまつわる実話でもあり、父と娘、そしてタイトルにあるように家族の物語です。モデルとなったのは、映画では坪井宣政さんとなっていますが、本名は筒井宣政さんと言います。
鈴木 本当は?本当は筒井さんなのね?
荒木 そうなんです。東海メディカルプロダクツというところの社長さんです。清武英利さんて人の原作が基になってるんです。映画の中で、この宣政さん、自分で常に言ってるんですけど、「やると決めたことは絶対にやり通す」という頑固というか、一途な性格なんですね。しつこいというか、娘の命のリミットが刻一刻と迫る中で、娘の命を救いたいという一心で、人工心臓の開発を諦めることをしないんですよ。でも、どう考えても無茶でしょ?
鈴木 愛情とか、気持ちはわかるけど…。
荒木 ネタバレになっちゃうかもしれないけど、未だ人工心臓って開発されてないんですよね。
そんな、なんの実績もない人が、不可能と言われていることへ挑戦する諦めないひたむきな姿と、父親の愛情、人間の勇気や、ある意味の狂気もあるかもしれません。そして最後には希望を感じさせてくれる作品です。
鈴木 女の子、娘さんどうなるんだろ?気になる…。
荒木 うーん、気になりますよね。でも、その辺は映画見ていただくしかないと思います。
鈴木 わかりました、何も聞きません。
荒木 ひとつは、やはり大泉洋さんの演技力いいですよね。もちろん、今回、笑いは完全封印です。私、もともとこの人笑っていても目が笑ってないなーと思うことがあって、そういう意味では、目の演技が自然で、頑固一徹。あきらめないという意志の強さが、昭和のおっさんがピッタリですね。で、娘のために全てのものを注ぎ込み、ダメになっても今までの経験を無駄にすることなく、方向転換して生かして、また次に進むという…。こういうものも上手く表していますね。
鈴木 さすが、社長になるだけの器量してるいんですね。
荒木 中小企業の2代目社長なんですけど、多くの従業員抱えて頑張ってやってるんですね。
最後に、強く感じたのは、医学界や医療業界の閉鎖性や利権の問題です。大学病院の教授と研究者の関係やヒエラルヒーというか、そういうものが多少なりとも医療の進歩を阻んでしまうという、古い体質もちらっとね。
鈴木 あると思います。
荒木 あからさまではなかったけど。
もしかしたら、私たちが日ごろお世話になっている小さな医療器具、例えばカテーテルも使った人もいると思いますけど。そういうものに、こんな裏話というか、ストーリーとか、人の想いみたいなのがね。
鈴木 全ての医療器具にあるんですもの、当たり前のように。
荒木 そうですね。だから、ありがたいと…。最近 病院に行くことが多いんで(笑)。
鈴木 本当、わかりますよ。そういうことですよね。
荒木 涙腺が弱い方、涙もろい方は、いつもよりティッシュペーパーやハンカチを5割増しで用意してください。
鈴木 5割増し!?ですか。わかりました。
荒木 やはり 病気の子供がからむ話は、どうしても感情を移入しやすいですけどね。子供のために頑張ったお父さんの話「ディア・ファミリー」という6月14日公開の作品を紹介しました。
鈴木 もう、切なくてお腹いっぱいになってしまいました。

荒木 もう一本。これは血がつながった父と子の物語ではないのですが、大きい意味での命のつながりの物語です。「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」
これも6月21日公開です。ダイちゃん、第2次世界大戦の時にユダヤ人の命を救った人と言うと、誰だかわかりますか?
鈴木 シンドラー。
荒木 そうですね、オスカー・シンドラーですね。それから、日本人にもいましたよね、杉原さん。杉原千畝さんね。実はもう一人、ニコラス・ウィントンというイギリス人がいるんですね。
鈴木 あまり聞かないな。
荒木 あまり聞かないですよね。この人は、2次大戦開戦前のチェコスロバキアで、ナチスよる迫害から、ユダヤ人の子どもたちを安全な国へ疎開させるという「キンダートランスポート」という作戦を実行した人なんです。チェコのプラハで、ユダヤ難民が悲惨な生活を強いられていることを知ったニコラス・ウィントンと仲間たちは、子どもたちをイギリスに避難させる活動を組織します。
ただ、単に「疎開」させるんじゃなくて、受け入れる側の里親を探して書類を作り、養子縁組して、それに伴う資金も集めなければなりません。もともとこの人は政府の役人でも何でもないので、ボランティアなんですよ。そのうえ、ナチに目をつけられると命の危険もあるわけです。そんな中で、彼らは子供たちのチェコ脱出に奔走してナチスの侵攻が迫るなか、子どもたちを次々と列車に乗せていきますが、ついに開戦の日が訪れてしまいます…ということなんです。6カ月間で、669人のユダヤ人の子どもたちをチェコから脱出させるんですね。
鈴木 今でも、子孫の方とか残っているんですよね。
荒木 そうなんですよ。ウィントンさんね、最後の脱出にちょっと失敗したこともあったんで、250人ほど残しちゃったんですけど、長い間、家族にも話さないで沈黙したまま50年。
鈴木 えー!?
荒木 誰にも言わなかったんですって。約50年後にウィントンの妻が屋根裏部屋で見つけた一冊のスクラップブックに記録された克明な情報により、ウィントンの偉業が明らかとなるんです。そして、ウィントンさんと、既に高齢になった子どもたちとの再会が、彼には内緒でテレビの収録で実現することになるんですね。
鈴木 いやーっ、いやいや、ヤバいですね、それ。
荒木 ですよねー。名優と言われる、アンソニー・ホプキンスが主演を務めていますが、これが本物にそっくりなんですよ。
鈴木 ああいう感じなんですか!
荒木 ああいう感じ。実際に、ニコラスに助けられたかつての子どもたちやその親族も撮影に参加しているようです。2016年にドキュメンタリー映画もありましたので、ご覧になった方もいると思うんですけど。
鈴木 いやー、これは泣くどこところじゃないな。
荒木 泣くどころじゃないですよ。助けられた子供たちにとっては、父親にも等しい存在ですよね。 助けられた子供たちの子孫は6千人にもなっているとのことですが、彼らもニコラス・ウィントンさんがいなければ存在しなかったってことですから。さっきの筒井さんと言い、ニコラスさんと言い、ひとつの命を救うことは後に繋がる、何百人、何千人という人の命を救うことにも繋がることですね。
鈴木 凄い、偉いな―と思いながら、ヘビーだなと、重みも感じますよね。
荒木 「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」ということで、今日はお父さん関係、人を救う話ということでご紹介しました。
鈴木 ダディというところから、神なる偉大なる父まで、幅広いですよね。
荒木 ほんと、そうですよね。お父さん偉大です!
鈴木 ありがとうございました。

■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。