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映 画
「鳩の撃退法」「先生、私の隣に座っていただけませんか?」のとっておき情報
(2021年9月5日12:15)
映画評論家・荒木久文氏が、「鳩の撃退法」「先生、私の隣に座っていただけませんか?」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、8月30日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 荒木さーん、お願いします。
荒木 はい、今日のテーマは、現実と創作の世界が混ざり合う…つまり、何が真実で、どこまでが嘘なのか どこまで現実で、どこまでが夢や虚構なのか、というパターンの作品についてですね。好きな人いますよね・・・こういうジャンル。比較的たくさんありますが、最近では6月の公開で菅田将暉さん主演『キャラクター』という作品がありました。
主人公の売れない漫画家が、偶然 殺人事件を目撃してしまいます。彼はその犯人の顔を“キャラクター”にした漫画を描くと、なんとその作品で一躍 売れっ子漫画家になりましたが、そのうち漫画に描かれた殺人事件が現実に起こりはじめ、その漫画の主人公 つまりキャラクターに次第に追い詰められていく…というものでした。
今日 ご紹介の作品はこの手の作品2本。書いた漫画や小説が 現実になる?
さあどういうことでしょうか?
まずは1本目現在公開中の作品 藤原竜也主演『鳩の撃退法』。
ストーリーから…。
主人公はかつて直木賞も受賞した天才小説家津田伸一(藤原竜也が演じています。)彼は自分の担当編集者(土屋太鳳)に、今書いている途中の新作小説を読ませています。
その小説の内容は…主人公は元売れっ子小説家。今はある事情で書けなくなってデリヘル嬢を送迎する運転手で生計を立てています。そんななか一つ目の事件。
彼が偶然、コーヒーショップで出会った男がその家族と共に失踪してしまいます。
そしてふたつめの事件。その後、主人公の元には謎の大金が転がり込みますが、喜んだのもつかの間 その金がニセ札であることが判明します。
更にはなぜかそのニセ札を追って、街の裏社会の大ボス 怖いさんが動き出し、その中からさっきの一家失踪事件との繋がりが見えてくるという話です。
これを読んだ、編集者の土屋太鳳さんには、この話がどうにも単に小説の中だけのことだとは思えません。
鈴木 なるほど…事実っぽいんだー。
荒木 実際にあった話をそのまま書いているんじゃないかと…実は前にも同じようなことがあったらしいんですね。彼女は「検証」を始めますが、そこには驚愕の真実が待ち受けていました。ということで…。
原作は 佐藤正午さんの小説「鳩の撃退法」。直木賞受賞作家です。
わたしも好きですよ、この人。特に初期の作品。「永遠の2分の一」「月の満ち欠け」とか推理小説、恋愛小説を得意とする作家さんです。
映画のほうは俳優陣豪華です。
小説家の主人公。藤原竜也さん。ちょっと情けない感じで、クズでヘタレ。ぼこぼこに殴られたりしますので、かっこいい藤原君を期待するとちょっと…、というより最近は“日本一クズな役が似合う俳優”という人もいるぐらい、曲者感が強いような気がしますよね。服もよれよれで女にだらしない感もグッドです。
鈴木 暗さとか、弱さもありますよね。
荒木 そうですよね、この人こういうキャラになったのはいつごろからでしょうかね?失踪する家族の父親役は風間俊介くん、全くの無表情。目がうつろで死んでるようなメガネの風間くん。なかなか不気味でいいです。
そして謎の人物。怖い―裏社会を仕切っているボスには豊川悦司さん。さすがの貫禄ですよ。女優陣は担当編集者役にさっき言いました、土屋太鳳さん。そしてここのところ映画出演が多いですね、元乃木坂の「ためすぎ先生」西野七瀬さんも出ています。ほかにも岩松了さん、濱田岳さん、リリー・フランキーさん、ミッキー・カーチスさんなど一癖ありそうな人ばかり…。
鈴木 なるほど。
荒木 映画は小説と現実、そして過去と未来が交錯しながら進みます。とてもとても複雑です。もともと映画化は不可能だろうと言われていた作品ですよ。居眠りなんかは禁物。細心の注意を払ってみないとわからなくなっちゃう恐れは十分あります。
しっかり見逃さないように、聴き逃さないようにめっちゃ集中して頭フル回転して観てください。ぼーと見てたらだめですよ。
予告編では「あなたはこの男の嘘を見破れるか?」とコピーがあります。
現実と小説(想像・創作)の部分が混ざっているので、何が真実だったのか、何を信じればいいのかは映画を見て判断していただくとして…。
「鳩の撃退法」…タイトルも面白いですよね。公開中です。
鈴木 なるほど おもしろそうですね。
荒木 はい、2本目9月10日公開です。
「先生、私の隣に座っていただけませんか?」という作品。これも現実とフィクションが交錯します。
ストーリーです。結婚5年目の夫婦。黒木華 演じる妻。結構人気の高い女性漫画家です。 そして夫は柄本拓君が演じます。彼も漫画家なんですが、今は奥さんのアシスタントをやっていて、奥さんの連載をサポートしています。
ある日 夫は妻の机から、まだ書きかけの新作漫画、「先生、私の隣に座っていただけませんか?」というタイトルの原稿を見つけます。
どうしても読みますよね、読んでみると、そこには、まず間違いなく自分たちと思われる漫画家夫婦の姿が描かれていて、さらに夫が、妻の担当をしている女性編集者との不倫している現場がリアルに描かれていたんです。夫真っ青。それは実は夫の不倫は事実だったんですね。
鈴木 いやいやいやいやー。
荒木 一方、そのころ妻は免許を取るため教習所に通っていたんですが、漫画のストーリーは、その妻と自動車教習所の先生との淡い恋から、やがて激しい恋へと急展開していきます。さあ、この漫画は完全なフィクション、創作なのか、妄想なのか、それとも夫に対する妻の復讐なのか…現実そのままと思われるその不倫漫画を読み進めていく中で、夫は恐怖と嫉妬にうち震え、妄想を巡らせます…その上だんだんと現実と漫画の境界が曖昧になっていきます。さあ、この漫画の結末は?そして二人の結末は?
これはね、私 見せていただきましたが、男にとっては恐ろしいホラーです。それも心理的にじわじわときます。
鈴木 一番いやなパターンですよ。
荒木 真綿で首を絞められるような恐怖ですよ。
全体のリズムがいいですよ。カメラが切り変わるリズム、黒木華ちゃんの沈黙と会話の独特なリズムが恐怖心を嫌でも煽り立てます。
脇役もいいです。特に最近売れっ子 奈緒さん。妻の担当編集者で夫の浮気相手。
能天気に明るい貪欲な女性で、びっくりするほどあっけらかんとしています。
鈴木 身近ほど怖いねー。
荒木 自動車教習所の教官にはかっこいい金子大地くん、風吹ジュンさんも妻の母役で出演しています。
脚本がいいですよね。現実が漫画に、そして漫画が現実に…?というギミックが素晴らしいしストーリーも巧妙で、漫画の使い方がとても斬新で見事です。
冒頭から漂う不穏な空気が漂っていて、そのままのラストまで思わせぶりな状態のまま進んでいきます。サスペンス?ではないのですが、でもある意味サスペンスコメディかな?
鈴木 明るさはないんですか?
荒木 ありますよ。
あっけらかんとした明るさ。それに 女は覚悟を決めると強くぶれないということ。
妻も不倫相手もびっくりするほどあっけらかんとしていて女性陣がとても賢く強い印象でした!
鈴木 キラキラしてますよね。
荒木 それに比べて夫の器の小ささと肝の細さが浮き彫りになっていく様が滑稽に描かれています。こちらはとってもわかりやすいですよ。
静かなのにずっとハラハラ 静かなハラハラのし通しです。
どこまでが真実なのかが曖昧でこのバランスが素晴らしくて、展開が気になってしまう。不倫がテーマなのですが軽やかに見られるコメディと言っていいでしょう。
ハラハラしながら、現実なのか妄想なのか、見る人は多分女の人でも夫と同じ目線で、妻が描く漫画の続きを待ち焦がれているでしょうね。
監督は堀江貴大(たかひろ)。オリジナル企画のコンテスト「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2018」の準グランプリ受賞作品の映画化したもので、早くから注目されている新鋭です。 5年ほど前からクリエイター発掘のためのコンペ 最近、面白い監督作品をどんどん発表しています。 以前 土屋太鳳 田中圭さん主演の「哀愁シンデレラ」、中条あやみの「水上のフライト」「ブルーアワーにぶっ飛ばせ」「嘘を愛する女」とか、なかなかエッジの利いた、キラッと光る個性の作品がこれまでの公開されています。
今後もこのコンテストから生まれた作品は、ムロツヨシ主演で9月に「マイダディ」
その後「三人の柄本明」という、なんというか面白いタイトルの作品が控えています。
9月10日公開「先生 私の隣に座っていただけませんか?」という作品でした。
今日は現実とフィクションが交錯するというテーマの映画2本ご紹介しましたよ。
2日後に誕生日を迎えるだいちゃんは?夢と現実が交錯することはあるのでしょうか?
鈴木 私自身はパラレルワールドの住人だとよく言われましたよね。
荒木さん ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。