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6月のおすすめ映画 文化放送「上地由真のワンダーユーマン」推薦
(2024年6月12日11:00)
文化放送「上地由真のワンダーユーマン」(月曜午後9時30分)でパーソナリティ―の上地由真と映画ソムリエの東紗友美さん、映画評論家の荒木久文さんの3人が6月のおすすめ映画を紹介して見どころを解説した。同番組では毎週テーマを設け“由真的”テイストで進行。毎月第1週目は「今月のシネマログ」と題し、その月に公開される話題の映画作品を上地由真と映画の専門家2人が紹介する。今回は6月3日の放送で『マッドマックス:フュリオサ』『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』『スリープ』が紹介された。
上地 上地由真のワンダーユーマン!今週もよろしくお願いします。
今日は月に一度の映画をフューチャーする回、題して「今月のシネマログ」。映画ソムリエの「さゆみん」こと東紗友美さん、そして映画評論家の荒木久文さんとお届けしていきます。よろしくお願いします。
荒木・東 よろしくお願いします。
上地 6月といえば雨のシーズンですよね。何か雨にまつわる映画でおすすめ作品とかありますか?
東 最初に思い浮かぶのが雨が効果的に使われている、オードリー・ヘプバーンの『ティファニーで朝食を』。これの告白のシーンがすごいんですよ。土砂降りの雨の中、ホリー、オードリー・ヘプバーンが自分の感情を抑えきれずに傘もささないで告白するシーンなんですけど、恵みの雨ってこういうことだな、って。雨が本当に美しく効果的で。あのシーン、大好きでございます。やっぱり何度見てもいいです。荒木さんは?
荒木 私はですね、雨が印象的に使われている映画としてはですね、1982年の名作でリドリー・スコット『ブレードランナー』です。聞いたことありますかね?古い映画ですけど。
上地 あります。
荒木 ディストピア映画と呼ばれているんですけども。舞台が2019年の日本のようなロス・アンゼルスなんですね。で難なく雨が降っている。しかもそれは…。
東 酸性雨。
荒木 そうなんです。とっても印象的でしたね。鬱々たる未来のディストピアを表す象徴的な雨なんですね。これが名作と呼ばれる所以の要素のひとつだと思うんですけども。どうしてあそこであんなに雨を多用したかということを、後で監督にインタビューした記事を読んだんですけども。ネタ明かしは、屋外の撮影が多かったんですって。でも今みたいに画像処理が上手くできないから、とにかく余計なものが映りこまないように雨で消していたんだと。
東 へえ~(笑)消すための雨だったんですね。
荒木 バックを消すための雨。
東 物語に、80年代に作られた、2019年の作品だから、もう酸性雨しかおそらく降らないだろうと監督が予想して雨が降っていた…ぴったり!合っていますね。
荒木 そういう意味ではぴったりだね。
東 めちゃくちゃ印象的だ、たしかに雨。
荒木 そういう効果というのはどこでどう変わるかわからない。こういうふうにね、ちょっとやったものが大きく評価されたり、力を入れたものが評価されなかったりという。そういう運もあるよね。というような雨の感想でした。
東 あと黒澤明も雨、使い手ですね。
荒木 そうですね、雨ね。あと印象的だったのが相米慎二の『台風クラブ』も。あれは台風ですけどね。雨の中で踊るシーンとかね、あれも印象的でしたよね。
東 いろいろありますね~。
上地 ぜひね、雨で外に出られない日は家で見てみてください。今日は月に一度の映画をフューチャーする回、題して「今月のシネマログ」6月公開の映画の中から、私、上地由真とさゆみん、そして荒木さんの三人が「これはおすすめ!」と思った作品をご紹介していきます。ではまず、さゆみんからお願いします。

東 はい。私がご紹介するのは、現在大ヒット公開中の『マッドマックス:フュリオサ』です。
2015年に公開され、日本でも熱狂的なファンを生んだジョージ・ミラー監督のノンストップカーアクション『マッドマックス 怒りのデスロード』の前日談になります。
『マッドマックス 怒りのデスロード』から登場した女戦士フュリオサの若き日の物語を描く『マッドマックス・フュリオサ』、最新作のあらすじ、簡単にお話します。
世界の崩壊から45年、暴君ディメンタス将軍の率いるバイカー集団の手に落ち、故郷や家族をすべて奪われたフュリオサ。ディメンタス将軍と鉄壁の要塞を牛耳るイモータン・ジョーが土地の覇権を争う過酷な世界ですべてを奪われた怒りの戦士フュリオサが人生をかけて故郷の地へ生きて帰ろうとする修羅の道が描かれるのが本作です。
いや~、すごかったです!私、観てきたんですけど、ここまでパーフェクトな映画、久々だったんじゃないかなっていうぐらい熱量が高くて。『マッドマックス 怒りのデスロード』から20~30分増えているんですけど、前作って9割がカーチェイスシーンだったんですね。なんですけど、今回はドラマのシーンも増えていて見応えがありましたし、『マッドマックス 怒りのデスロード』って由真さん、タイトルは聞いたことあると思うんですけど、これがもう本当に映画ファンからも一般層からも本当に社会的評価も高い作品なんですけど、これにパズルのようにきっかり前半と後半みたいな感じで繋がる映画になっていて、ようやくこの『マッドマックス:フュリオサ』をもって『マッドマックス 怒りのデスロード』。この作品が完成したなと思ったんですよね。いや素晴らしかったんですけど、意外と『マッドマックス 怒りのデスロード』って車映画と認識されるんですけど、それだけじゃなくってポリコレみたいな側面もあって家父長制と資本の支配によって抑圧されちゃって、搾取された女性たちの解放の物語になっているんですよ、『マッドマックス 怒りのデスロード』、これを見ると、よりそのしっくりくるというかね、だからそういう側面でもジョージ・ミラーって女性のことを素晴らしい撮り方をしてくれる監督なんですけど、そこがちゃんとできていたので、フュリオサっていう女戦士は今後の映画史に間違いなく残るような描かれ方をしていて、もうパーフェクト級のパーフェクトでしたよね。
荒木さん、どうでした?
荒木 そうですね、おっしゃる通りだと思います。ドラマ部分も充実していて。フュリオサがどういうふうな生い立ちで、どういうふうな考え方をするのかっていうことがよくわかる映画になっていますよね。
東 熱かったですね。主演のフュリオサを演じるアニヤ・テイラー=ジョイが絶対に・・・今回はわからないですけど、次期オスカー女優になっていくヒロインだな、なんていうふうに思ったりしましたね。
荒木 お二人とも『マッドマックス』が第一弾が公開された時はまだ生れていない(笑)
東 70年代とかですもんね。
上地 私、まだ本当に『マッドマックス』見てないんですけど…。
東 おーっ?!
荒木 えっ?あ、そうなんだ。ある意味ラッキーですよ。
上地 そうなんです。だからこれ、どんなシリーズなんですか?
荒木 じゃあ、そのへんからいきましょう。
上地 はい、知りたいです。
荒木 『マッドマックス』シリーズっていうのはですね、1979年に第一弾が『マッドマックス』という原題で公開されました。今も監督をしているジョージ・ミラーと主演はメル・ギブソン、ご存じですよね?これはですね、近未来に暴走族による凶悪事件が多発する社会になったので、オーストラリアなんですけれども。警官だったんですね、
マックスって。それが凶悪犯を追いかけるという、そういう筋だったんですよ。
ちょっと近未来だけど、社会がまだあった時代。それがですね、ヒットして第2弾の『マッドマックス2』はですね、いきなり舞台設定がガラッと変わっちゃうんですよ。
東 そうなんですよね。
上地 へえ~!
荒木 世界大戦によって文明が崩壊してですね、戦争の影響で荒れ果てた世界になるんですね。で、凶悪なモヒカンの暴走族が、略奪を繰り広げる無法地帯。そこで元警官のマックスが一人で砂漠を彷徨うという、そういう話に変わってきちゃう。で第3弾は『マッドマックス/サンダードーム』1985年なんですけども、まあここにもメル・ギブソンが出ていて、サンダードームと呼ばれる金網のリングで試合をするというですね、
あんまりアクションは出ていないな、そういう3部作だったんですね。その3部作で完結したんですが、なんとその27年後、第3弾の27年後、新シリーズといっていいですね、第4弾の『マッドマックス 怒りのデスロード』…。
東 アカデミー賞10部門ノミネート、6部門受賞。驚異の作品でございます。
荒木 そうですね。これが9年前ですね、今から。2015年。
東 もうそんな経っているんだ。
荒木 もうそんな経っているんですよ。ここではシャーリーズ・セロンの丸刈りフュリオサが話題になったんですけども。ここにはマックスが出ているんですよ。
トム・ハーディがやっていたんですけど。今回は実質のスピンオフですよね。『マッドマックス 怒りのデスロード』の前のお話ということで、まあ当然マックスは出てこないんですね。関係なしなんですけども。そういう流れの、長い間の、いわゆるサーガと呼ばれる長大な物語の一巻の映画です。当時はね、もうみんな熱狂してね。1980年代を代表する映画のひとつです。
東 80年代も、もうものすごく熱狂していました?
荒木 そうですね、特に2なんかはね。
東 2015年の時の熱狂もすごくて。『マッドマックス 怒りのデスロード』は本当に伝説なわけで。その前日譚、しかもその前日譚をもってぴったり『マッドマックス 怒りのデスロード』が完結するというこの作品は、もうたまらないような。前編、後編と言っちゃってもいいぐらいぴったりですよね。
荒木 そうですね。まあ『オーメン』はじめ、今ほら「ファースト〇〇」とか「ゼロ」とかいわゆる前日譚ですよね。だけど、どこよりもよくできているなと思いました。いろんなつながりがスムーズで、伏線もばっちりなんですけど、いわゆる第4弾の『マッドマックス 怒りのデスロード』より前に、こっちができていたんじゃないかっていうぐらい。
東 たしかに!
荒木 ちょっと調べてみたんだけど、これ不確かな情報も入っているんですけど、実はこれふたつ、同じ時に公開するつもりでいたらしいんですよ。だから脚本もほぼ・・・まあ脚本といってもフュリオサの考え方だとか、そういったキャラクターだとか、どっから来てどうなっていくんだろうか、という基本的な構造はもうできていたらしいのね。
それで第5弾が作られて、だからいろんな伏線もですね、全部・・・だからこそ、このつながりというかリレーが完璧なんですよね。
東 本当に最高の映画です。私、東紗友美がご紹介したのは、現在公開中の『マッドマックス:フュリオサ』でした。
上地 続いては、映画評論家・荒木さんのおすすめ作品です。

荒木 はい、私が紹介するのは、6月21日公開です、『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』という作品なんですが、これ実は6月なのにクリスマス映画なんですよ。
上地 おお、早い!
東 早いというか…(笑)
荒木 一言でいうと早い、というか時期外れ。(笑)
上地 時期外れ。(笑)
荒木 コメディを交えた、まあ疑似家族系というかね、心温まるクリスマスにふさわしい映画ですね。
ストーリーはですね、1970年です。今からずいぶん昔ですね。
舞台はアメリカ、ニューイングランド地方の全寮制の名門進学校ですね。
白人エリートが多いので、まあ親のコネでどこでも好きな大学に行けちゃうので、勉強の方はあんまりで、やんちゃなおバカちゃんが多いんですけども。全寮制で、クリスマス休暇中はみんな、実家に帰って過ごすはずなんですが、いろんな事情で寮に残らざるを得ない人たち、生徒、それが「ホールドオーバーズ」と呼ばれるわけなんですね。
英語で「残り物」っていう意味ですよね。この学校の世界史の先生・ポール、このおじさんが、融通のきかない堅物で、同僚教師からも生徒からも嫌われている中年のおっさんなんですけども。この人、どういうわけか、その年のホールドオーバーズたちの子守役になって、寮に泊まんなくちゃいけなくなったんですが。学校に取り残された、ちょっと素行に問題がある生徒・アンガスくんというのがいるんですけども、彼とベトナム戦争で息子を亡くしてしまったその学校の食堂の料理長・メアリーというおばさんと、この3人がですね、結局それぞれの思いを胸に抱えながら2週間のクリスマス休暇を過ごす、というそういうお話なんですね。
東 もう良さそう。(笑)
上地 ね~!
荒木 そうね(笑)で、70年代の再現がまず素晴らしい。あのね、時間をゆっくり、今みたいにチャカチャカしないで、クリスマスっていうこともあるんでしょうけども、じっくり流れているっていう、そういう余裕が感じられる作りで。まあこれは主観的なことですけど、70年の方が時間がゆったりと流れていたよな、っていう、そういう雰囲気が非常によく出ていますね。内容的には泣いたり笑ったりして、それぞれ幸せっていうものを、どういうふうに嚙みしめるのか、という。だんだんね、そういう醸し出すものと、あとは師弟愛みたいなものがね、上手く描かれていて。まあ心洗われるというとちょっと表現で平凡ですけども、まあ古典的な、ね、クリスマス映画みたいな雰囲気も出てとってもいいですよ。
東 今年のアカデミー賞で作品賞、主演男優、助演女優賞、脚本賞、編集賞、5部門ノミネートされていて。あとやっぱり心の機微とか、そういうの描くの、上手いんだろうな~て思って、期待しているんです。
荒木 アレキサンダー・ペイン監督って、コメディベースなんですよ、ほとんど。だけどね、彼が長年こう考えていたのが「自分の価値とは何か」とか「生きるってどういこと?」ということをキャラクターに反映させて、まあ一貫してね、そういうものとしっかり向き合っている。人は変わらないけど、成長するんだっていう、非常に真面目に取り組んでいる人です。それでこの映画の主演ポール・ジアマッティはね、彼の作品にとてもよく出ているのですがこの顔だけでインパクトありますよね。
東 インパクトありますよね。味わい深い。
荒木 今回はね、寄宿学校の厳格な教師で融通がきかないで、みんなに嫌われていて、友人も家族も恋人もいない、学問一筋の人なんですよ。価値観が古いの。だけど教師として教えるのが生き甲斐のような人なんですけど、そういう人が映画が終わる時に、生徒と、具体的にいうと残されたアンガスくんとの師弟愛みたいなものがだんだん出来上がってくるんですよ。
東 でもこういう作品を観ると、そういう自分の大切な、そういう学生時代の大切な記憶とか蘇ったりするかもしれないですよね。ああ、先生いたな、こう見てくれている人いたな、って。
荒木 そういうのもあるんですが、基本的にはですね、1人目が厳しいことで生徒から疎まれている教師ですよね。2人目は、母親が再婚して受け入れてもらえなくて孤独な生徒さん。それから子供を亡くした黒人女性という、この3人がキャラクターがとってもいいんですよ。みんなバラバラで。だけど映画が終わる頃にはですね、本当に疑似家族のように心を通じさせるという、まあちょっとどこかで観てきたようなクリスマス映画かもしれないんですけども、でも安心して観ていられる。
上地 いや~、クリスマスはこういうの、ね!安心して観ていられるの、観たい。
荒木 そうですね。で、太ったおばさん。メアリーを演じたダバイン・ジョイ・ランドルフさんは、これで今年のアカデミー賞の助演女優賞を獲っていますね、この男の子の方はですね、アンガスくんというんですけども、ドミニク・セッサさんという人が演じていますが。自然な演技なんですけど、実はこの人、このロケをやる周囲の学校で生徒役のオーディションで決まったらしいんですよ。演劇部所属で…。
東 すごい!その作品が作品賞とか脚本賞とかノミネートされちゃうんですね。すっごーい!もってる。
荒木 そうですね。そういう意味では自然、決して上手いとはいえないけれども、本当に高校生なのでその辺がとても上手く表現されていると思います。
まあクリスマスの雰囲気いっぱいの、そこに流れるのは『クリスマスキャロル』っぽいね、ものもあると思いますけど、とても心温和ませるいい映画だったと思います。
私が紹介したのは、6月21日公開の『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』という作品でした。

上地 トリは私、上地由真のおすすめ作品です。
私がご紹介するのは、6月28日から公開の『スリープ』です。
この作品はですね、見えない恐怖に支配される夫婦の姿を描いた新感覚の韓国スリラーです。妻スジンを演じたのは『82年生まれ、キム・ジヨン』のチョン・ユミさん、そして夫ヨンスを『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンさんが演じています。
あらすじです。俳優の夫ヒョンスと出産を控えている妻スジン。幸せな結婚生活を送っていた夫婦に襲いかかる恐怖は、ある夜の夫のひと言から始まります。彼は「誰か入ってきた」とつぶやきますが、不審者の姿はありません。しかしですね、その日を境に夫ヒョンスは夜中に起きて冷蔵庫の肉や魚をそのまま食べたり、体をかきむしったりとおかしな行為を繰り返すようになります。受診した病院では睡眠障害と診断されるのですが、妻スジンの母はお祓いした方がいいと巫女を家に連れてきます。巫女の言葉から妻は、夫は何かに憑りつかれていると思い込んでしまって精神的に追い詰められていきます。
壊れていく妻と夫の関係、この恐怖の正体は何なのか…という作品です。怖かったよね~。
東 怖い。これはね、本当にザ・韓国スリラーという感じでグロいし…。
上地 もうね、不気味。初めから最後まで不気味で、二転三転して先が読めないんですけども。私はこの奥さんの立場、奥さんに共感して、一緒に追い詰められていく、最後になるにつれて自分もどんどん追い詰められていって。もう途中、あるシーンが、恐ろしいシーンがあるんですけど、そこで恐ろし過ぎて観るのをやめようって…。
東 本当になんか、あのさ、ザ・韓国のホラー映画じゃないからこそ怖いね。その人間の怖さというか、ね。
上地 人間の怖さがね。ゾクゾクしましたよ。どうでした?
東 これは本当に私もこんなに怖いと思わなかった。でも面白いんですけど。
ちょっとだんだん指の隙間から観るような感じになっていたんですけど。やっぱり役者陣のお芝居が本当に素晴らしくて、どうしても言及しなくちゃいけないんですけど、イ・ソンギュンさん『パラサイト 半地下の家族』で貧しい一家に寄生される上流階級のお父さんを演じていた方なんですけど、昨年の12月かな、亡くなってしまったんですよね。
本当に非常に惜しい役者さんで。イ・ソンギュンさんて、韓国映画好きな方は声であの人ってわかるぐらいと言われていて、声、色っぽい声、湿度感のある声も人気な方で。
これからも非常に楽しみな方だったんですけど、そういった方がなかなかスクリーンで見られる機会がこれを含めてあと1作しかないので、ちゃんとこういう大スクリーンで彼のお芝居を見れて良かったなと。そういう気持ちながら拝見させていただきましたね。
チョン・ユミさんも前半と後半で全く違う芝居をするんですよね。
上地 ね~。顔が全然違う。
東 顔、ちょっとなんかやった?みたいなぐらい(笑)変わるんですよね。
上地 ガラッと変わって…。
東 そう。切羽詰まってどんどん変わっていくお芝居も素晴らしかったです。そこらへんも興味深く拝見しましたが、荒木さん、これどうですか。怖くなかったですか?
荒木 あ~、怖かったですね。何だかわからないというのが怖い。
東 あ~、なるほど。
上地 そう!ねー!
荒木 あの、まあいろんなパターン、これスリラーなのかホラーなのか、まあ一緒なんですけど。あとサイコロジカルなね、不思議な物語なのかシュールな夢オチパターンもあるかな、という。結局どこに着地するんだろう、という。
東 そう。それわかんなかったですよ。
荒木 どこに連れていかれるのかわからない、という。それが一番ね、怖いんですよ。まあ人生と同じですよ。
上地・東 あははは!
荒木 はい。まあ思い込みだけで進行していく、妻の判断に迷って身構えができないんですね。こういうのは。それと東洋的な恐ろしさが詰まっている。つまりその成仏する前のなんとか、とか。
上地 念とか、そういうことですよね。
荒木 つまり日本人にも伝わることなんだけど、西洋にはない考え方が反映されていて、それもリアリズムとしてね、出てきているというのが怖いですよね。だからいろんな怖さがミックスしている。
上地 たしかに。
東 だから怖さミックスだよな~。なるほど。
荒木 さっきのそれこそ人と、あとスリリングなものとか不条理がミックスしているというお話を前に聞いたことありますけど、それが全部揃っているのね、これ。この映画。
上地 だから恐ろしいんだ。
荒木 あとはチョン・ユミさんなんですけど、非常に理知的なお顔をなさっていて、職業も劇の中ではIT関係とか、ピシッとした科学的な職業だったんだけど、だんだんだんだん…。
東 たしかに職業も効いていますね。
荒木 そう。だんだんだんだん祈禱師だとか霊媒師という方に頼っていくという、その流れも意外性があってね。精神的な弱さみたいな、人間の。そういうものが出ていて、とても怖かったですね。
東 これって、もう私、話したいんですよ。どうすれば良かったんですかね、自分が?
荒木 どうすれば…(笑)
東 奥さんの立場で…。
上地 なんかいろいろ観終わった後にこう…。
東 あれ?それってそういうこと?みたいな。
上地 語れるよね~。
荒木 そこはそういうことなの?私はこう解釈したわ、っていう解釈ができる。
上地 いろんな解釈できますね。
荒木 そうですよね。最後も含め、だね。
上地 素晴らしい作品でした。私がご紹介したのは6月28日から公開の『スリープ』でした。6月公開の映画作品の中から、それぞれの推しをご紹介しました。ぜひ映画館でチェックしてみてください。映画評論家の荒木久文さん、映画ソムリエの東紗友美さん、ありがとうございました。
荒木・東 ありがとうございました。

■上地 由真
オーディションがきっかけで関西を中心に音楽活動開始。2007年シングル「shine day」などをリリース、以降全国各地でライブ活動やイベント参加。最近は女優としても活躍、舞台、映画などのジャンルにも進出。
■東 紗友美
映画ソムリエとしてTV・雑誌・ラジオなどで活動中。趣味は、映画ロケ地巡り。国内外問わず廻り、1年で100箇所以上ロケ地を訪れたことも。インスタグラムでも毎日映画に関する写真やコメントをほぼ毎日掲載中。
■荒木 久文
現在 複数のラジオ番組を中心に、新聞紙面 ニュースWEBなどに映画をテーマとした評論 批評 紹介 などの活動を展開。報知映画賞選考委員 ノミネート委員 日本映画ペンクラブ会員。