-
映 画

「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」と「ファーザー」のとっておき情報
(2021年5月18日15:30)
映画評論家・荒木久文氏が、「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」と「ファーザー」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、5月10日放送)の映画コーナー「アラキンのムービーキャッチャー NEO」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。

鈴木 お呼びしましょう。荒木さん。
ゴールデンウィークどうでした?
荒木 はい、畑仕事中心でしたよ。 だいちゃんはどうでした?
鈴木 普通です。仕事も。寝る時は寝てという感じでした。
荒木 今季節がいいですからね。 なるべく外にいたいという感じです。
鈴木 ではお願いします。

荒木 今日ご紹介する作品は、今のところ公開中もしくは公開されると確認をとってはいますが、急遽延期ということがあるかもしれませんので、見にいらっしゃる際には確認をしてから、お出かけくださいね…。
というわけで 現在公開中の映画からです。
タイトルが「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから」という作品からです。
愛する女性が、自分のことを知らないという世界に迷い込んでしまった男を描いた
ラブファンタジーですね。
主人公は、ラファエル君とオリヴィアちゃん。
高校時代にお互い一目惚れをして結婚しました。
それから10年 夫のラファエルは、高校時代から、小説家を目指していたのですが、夢がかなって、いまや子どもたちに大人気のベストセラーSF作家の超有名人になり大成功しています。
一方 妻のオリヴィアさんは、ピアニストを目指していましたが、今のところ子供相手の小さなピアノ教室を開きながらもプロのピア二ストを目指して、コンテストなどに挑戦し続けていました。
そんな状況の中 妻は多忙な夫とのすれ違いに孤独を感じていましたが、ある日、我慢の限界に達したオリヴィアがラファエルに想いをぶつけると大喧嘩になってしまいます。
その翌日のこと。ラファエルは、いつも出会う人々の様子が何かおかしく、世の中が何か変なことに気が付きます。彼はなんと別の世界(まあ一種のパラレルワールド)に来てしまったんですね。
周りの風景や周りの人々は変化ないのに、彼はしがない中学校の教師で、なんとオリヴィアは世界的なピアニストとして大活躍している、という立場が逆転した<もう一つの世界>だったんです。しかも、その世界のオリヴィアはラファエルのことを全く知らないという状況の世界でした。夫婦じゃないんです。
この期に及んで 自分にとってオリヴィアがすべてだと気付かされたラファエルは、もう一度彼女と愛し合うことで元の世界に戻れると考え、あの手この手を使って接触を試みます。二人の距離は近づくものの、彼女は長年連れ添った男と婚約することになっていました。さあ。ラファエルは、彼女を取り戻し、元の世界に帰れるのか?
一種のパラレルワールドもので、コメディ要素も散りばめてありますが基本純愛映画ですね。
アイデアがいいですね。パラレルワールドに飛んじゃって、そこで大切なものの存在に気づくっていうのはよくあるんですが、その中で苦労して、大切なものを何とか取り戻そうとする努力の内容が大変面白いんです。
「一番大切な人に出会わなかったら、人生はどうなっていたのだろう?」というこの映画の監督のユーゴ・ジェランさんのふとした発想からオリジナル映画化された作品だそうですが。
だいちゃんも、周りにいる大切な人簿とに出会わなかったら?と想像したことありますよね? 奥さんでも 友達でも?
鈴木 ある、ある、ある、ある…だって、わからないじゃないですか、
その時 好きで結婚したり、気が合って友達になった人でも、その人が人生にとって本当に大事な人だったのか、わからないですよね。
荒木 そうですよね。別の人がすんなり収まっているということもあるしね。
永遠の謎ですよね。
この映画では、自分にとって都合の良い世界を取り戻すことだけでなく、相手の世界を尊重すること。自分が幸せになりたい、より、相手の幸せを大事にする・・それが、恋から愛への転換なのだと説いているように、私には思われるのですが、世の中 なかなかそうはいかないですよね。
鈴木 そうですよ。
荒木 夫 ラファエル役はフランソワ・シビル。彼は近年のフランス映画ではでづっぱりと言っていいほどの売れっ子になりつつありますね。
鈴木 かっこいいですよね。
荒木 そう?ちょっとごついゴリラ顔ですけどね。これは最近のフランス人顔なのでしょうか?オリヴィア役のジョセフィーヌ・ジャピは26歳ですが、高校時代はとてもかわいいし、大人になるととても気品のある美しい女優さんです。眼鏡姿に萌えますよ。
個人的には大好き…。
音楽面も 妻のオリヴィアがピアニストという設定ですので、シューベルト、ショパン、J.S.バッハのクラシックのピアノの名曲が、時に甘く、時に切なく、本当にエモーショナルに彩っています。特に最後のフィナーレのピアノ演奏場面がとても素敵です。
やっぱりフランス映画はお洒落ですね。改めて思わせるおしゃれな、おしゃれなフランスのファンタジックラブストーリーです。
鈴木 ハッピーエンディングなんですか?
荒木 そのあたりはネタばれになっちゃいますから、ちょっとね。
タイトルが「ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから 」現在公開中です。
鈴木 はい次の作品、お願いします。

荒木 先日4月25日に開催された第93回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞、編集賞、美術賞の6部門にノミネートされ、そのうち主演男優賞と脚色賞の2部門で受賞した作品「ファーザー」です。5月14日今週金曜日の公開です。
いやいや見応えのある大作でしたよ。
ストーリーです。
ドラマの主人公はアンソニー。去年83歳を迎えた名優アンソニー・ホプキンスが演じます。
彼が自分自身と同じ名前、同じ年齢、同じ誕生日の認知症の父親役という、ま、あまりない異例の設定でアンソニーという名前の老人を演じます。
ロンドンで独り暮らしを送るアンソニーは、最近いろいろな記憶が薄れ始めていましたが、自分では十分しっかりしていると自覚していて、娘のアンが手配してくれる、介護人、いわゆる、ホームヘルパーさんですよね。
そういう人たちをなんだかんだ文句をつけて何人もやめさせていました。
ある日、娘のアンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられ彼はショックを受けます。
そんな時アンソニーの自宅には、いつの間にかアンと結婚して10年以上になるという顔も知らない男が現れ、ここは自分とアンの家で、あなたを引き取って暮らしているんだと言います。そのうち買い物から帰ってきた娘のアンは、なんと見知らぬ女になっています。
これは何だ?と見ているこっちが大混乱します。
一体どうなっているんでしょう。だんだん現実と幻想の境界が曖昧になっていく中、最後にアンソニーがたどり着いた真実とは――?
ということで…。
つまりこれは認知症の人から見た主観、視線でドラマが作られているんですよ。
私も見せてもらいましたが、いやー今年最も怖い映画。
鈴木 ヘビーだね、これ!
荒木 そうなんですよ。スリラーで且つ重厚な人間ドラマという…言葉を失いましたよ。
ひとつは 自分の近い未来を見せられてるようでまず、怖いこと。
ある種の認知症の人の追体験をさせられる不思議な感覚な映画ということです。
認知症患者の視点からの世界を見ているので、さっき言ったように知らない男性が義理の息子と名乗ったり、見知らぬ女が自分の娘と名乗って入ってきたり…。普通に考えると強烈なホラーが日常的に起こるんですよ。
鈴木 なるほどー。
荒木 ある種の認知症の患者さんは実際にこう見えているんですね。多分。
認知症の人が自分の子供にあなた誰ですか?というのもそりゃ無理もないですよね。だから彼の戸惑い・不安・恐怖を一緒に味わうんですよ、見ている観客は…。
鈴木 初めていわれたその瞬間はショックでしょうね。
荒木 そうですよ。いやいや他人ごとではありません。誰にも起きる可能性はあると思うと、苦しくなってきますよ。
間違いなく重くて苦しいけれど「私たち自身の映画作品」だと感じました。
この映画は 日本を含め世界30カ国以上で上演された舞台、戯曲です。「Le Pere(ル・ペール) 父」を基にしています。
老化つまり老いによって失われてゆくものと親子の揺れる絆を、記憶と時間がだんだん混迷していく父親の視点で描いたものです。
日本でも2年前でしたか、橋爪功さんと若林真由美さんで上演されましたよね。
この原作者は『Le Père(ル・ペール)』の著者であり、劇作家である、フロリアン・ゼレールという人で、今回本作でメガホンを取り長編映画監督としてデビューしました。
アンソニー・ホプキンスは、「自分の父をそのまま演じた」といているそうですが、その演技は、さすがに、主演賞にふさわしいですよ。冷静に対応していたと思うと激高し、泣き、笑い、その老人特有の表情も動きも、見事というしかありません。
鈴木 老人特有の表情を老人自身が演じているんですよね。
荒木 そうですね、老人特有の表情、特に無表情 特に痴呆の人に多いと言われていますが…泣いたり笑ったり激高したり、いわゆる喜怒哀楽…
名前と顔が一致しない、知らない人が自分をよく知っていて、時間や日付の感覚も薄れて、それに気づいた時の自分への絶望…。
介護する娘のアン役には「女王陛下のお気に入り」で、2,3年前にアカデミー主演女優賞を受賞したオリビア・コールマンが.演じています。
今までにも 痴呆を扱ったドラマはありましたが、とにかく“認知症の人の主観的視線”でドラマを描くという画期的な設定が話題を呼んでいるのですが、役者や筋書きだけでなく、舞台設定も非常に重要な要素になっています。
ほとんど<アンソニーのアパート>が舞台なのですが、同じ空間なのに、時には快適で、時には冷たく見慣れないものに変化するんですね。カラーと家具だけをその時々で微妙に変える仕掛けにもなっています。見る方はそのあたり気を付けてみてください。
一種パラレルワールドものみたいにも観られる作品。
私の知り合いには、自分の未来を見せられているようで耐えがたかった…という人もいました。つらく、重く、でも、とても素晴らしい問題作だと思いました。
「ファーザー」という今週14日公開です。 非常にショックな映画です。
鈴木 ただ今の人は長生きしちゃうわけじゃないですか…。
荒木 長生きのリスクですね。
自分の問題としてもとらえ、まず、認知症の人を理解するうえでもいいかもしれませんね。
鈴木 今青く景色が変わってゆくと言ったでしょう?
そういうものは見たことないんでしょう? でも今とは違う感じになってゆくんでしょう? いやいや 重―い感じで締めさせていただきます。必見だなっても思いますよ。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。FM Fuji『GOOD DAY』(火曜午前10時)のパーソナリティなどに出演中。