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映画
松永大司監督「エゴイスト」の東京国際映画祭ワールドプレミアで同作を語る 「鈴木亮平と宮沢氷魚が演じるラブストーリー」
(2022年10 月28日17:00)
第35回東京国際映画祭のコンペテション部門に出品された映画「エゴイスト」のワールドプレミアが27日、都内の映画館で行われ、同作の松永大司監督(48)が登壇して、鈴木亮平(39)と宮沢氷魚(28)が演じるラブストーリーについて語った。
「エゴイスト」は鈴木が演じる編集者の主人公・浩輔と宮沢が演じるパーソナルトレーナー・龍太との愛を描いた作品で、高山真氏の自伝的小説が原作。監督・脚本を担当した松永監督は、大学卒業後、俳優として「ウォ―ター・ボーイズ」(2001年)などに出演し、その後ドキュメンタリー映画「ピュ~ぴる」(2011年)で監督デビュー。第56回日本映画監督協会新人賞など多数の映画賞を受賞した「トイレのピエタ」(2015年)や、「ハナレイ・ベイ」(2018年)などの監督を務めている。今回初めてコンペ部門に選出された。
ワールドプレミア後の質疑応答では、東京国際映画祭のプログラミングディレクターを務める市山尚三氏が司会を務めた。
市山 「最初にお会いしたのはVIPOという団体が若手監督に30分の短編を撮らせるというプロジェクトがあって、諮問委員をしたことがあったんですが、観たときに素晴らしい才能だと思ったので、そういう風にコメントした記憶があるので、松永さんがその後順調にキャリアを進めて、本当に素晴らしい作品を作ったということに自分でもうれしいです」「これまで作られた作品も素晴らしいんですが、今回本当にすごく強力な作品というか、かなりスケールアップした作品だと思いましたのでコンペティションにご紹介しました」
そして映画化に至った経過について聞いた。
■「テーマとしてはセクシャリテイでありながら、家族の在り方とかいろんなものがある」
松永監督 「企画プロデューサーの明石(真弓)さんからこの原作で撮ってみませんかという話をもらいました。その時点で原作とシナリオの初稿があったんですが、非常に興味深く、テーマとしてはセクシャリテイでありながら、家族の在り方とかいろんなものがある中で、阿川(佐和子)さんが演じる妙子(龍太の母親)が終盤の方で、主人公の浩輔が愛の在り方について、『僕は愛がなんだかわかりません』というセリフをいったときに、『あなたが分からなくても、それを受け取った私たちが愛だと感じればそれでいいんじゃないか』というシーンがあるんですけど、これを読んだ時にこれを映画化したいなと思いました」
「それは今自分が日本という国に生きてる中で、当事者の間での問題であるはずなのに、社会がその出来事に対して勝手に結論付けたりとか、ジャッジしていくっていうという風潮というか、世界が本当に住みにくいなと思っている中で、誰かの行いが相手にとって、当事者の間でそれが幸せだと思っていれば、社会が他社がそれを身勝手などということは必要ないんじゃないかってすごく思うことがあったんで、僕の今回の作品を撮る大きなきっかけになりました」
市山 「出演者の方々の演技が素晴らしいと思いました。鈴木さんとかが素晴らしいと思ったが、どのようなきっかけで2人に声をかけたのか」
松永監督 「プロデュ―サーと一緒に議論しながらキャスティングしていく中で、今回は鈴木亮平演じる浩輔と、宮沢氷魚演じる龍太の相性というかバランスを考えながら、明石さんと一緒に考えた結果この2人にオファーしました」
市山 「演出されるときどのような形で演技指導されたのか。例えばリハーサルをしたのか、あるいはあまりリそういうことはしなかったのか。役柄についてディスカッションとかはあったのか。2人の演技を引き出した方法は」
■「作品の4分の1ぐらいはシナリオに全くないシーンでその場で作ってる」
松永監督 「これも毎作品やることなんですけど、クランクインする前にリハーサルはかなりやります。その上でシナリオにあるシーンをやるというよりも、シナリオの前後のシーンだったり、台本に書かれていないシーンのキャラクターづくりのリハーサルも結構やります。特に今回は僕が監督デビューしてから約10年の中で作ってきたいろんな作品の経験の中から、今回自分のいろんなものをここに注がせてもらったなあと思うのは、全シーンほとんどワンシーンワンカートで撮ってるんですけど、完成した作品の4分の1ぐらいはシナリオに全くないシーンでその場で作ってるシーンが多いです」
「そういう意味ではドキュメンタリーとフィクションを行ったり来たりしている自分の経験がこの作品に生かされていると思うんです。セリフを言ってもらうところと、キーワードを言ってもらって、後は即興芝居をやってもらうシーンの撮り方の両方が今回ありましたね」
「なので2人の役者に対しての演出については、セリフの言い回しとか動き方の確認というよりかは、それぞれの演じるキャラクターの土台をしっかり作るというディスカッションをかなりクランクイン前にして現場に臨みました」
その後、会場から2人の質問を受けた。
Q「映画祭でこういうLGBTを扱った作品を観られたことをとてもうれしく思います。質問なんですが監督は非常にクローズアップを多用していたと思うんです。俳優の表情とかをアップで映していたんですけど。なぜそういうとり方をしたのかを教えて下さい」
■「クローズアップが多い理由は基本的には全部を撮らなくてもいいという選択」
松永監督 「まずは撮影に入る前にカメラマンの池田(直矢)とともに、今回の作品についてのトーンについて僕がアイディアを出しました。撮影時間、日数、予算だったりいろんなことを自分のカードとしてクランクイン前に並べた時に、それをポジティブに映画に反映させていくにはどうしたらいいかということを考えたうえでの結論を池田に話しました。その中で僕がスタッフ全員に観て参考にしてほしいとした映画がダルデンヌ兄弟の『息子のまなざし』(2003年のベルギー・フランス映画)という映画をみんなに一度見てもらって共有して現場に入りました。僕がドキュメンタリーを撮ることが多かったこともあってドキュメンタリーの時は自分でカメラを回すんですけれど、ワンシーンワンカットにした理由もなんですけれど、基本的には全部を撮らなくてもいいという選択を今回カメラマンにも伝えました。あとクローズアップが多い理由はですね、人を撮るというテーマのなかで、あまり客観的に物事をお客さんに観てもらうというよりかは、もうちょっと近い、身近で起こっている本当に手が届く世界で起こっている物語にしたいなあと思いました」
「あとは今回のもう一つの挑戦としてはクローズアップにすることで逆に言うと、いろんなものを省かなきゃいけない。映せないものが出てくるんですけれど、それがどこまでお客さんの創造で補うことができるか。音だったり役者の表情で、補えるかっていうことを素晴らしい役者さんたちとだったら挑戦できるじゃないかなと思いました」
「例えば終盤ラストの方で主人公の浩輔が自動販売機で水を買うシーンがあるんですけれども、一切自動販売機を映してなくてずっと浩輔の顔を映しているんですけれど、多分お客さんの中で自動販売機の存在を分かんなかった人もいたかもしれないと思ったんですけど、別に映す必要はないと思った。そういうことも踏まえて、寄りのショットで行けるんじゃないかと思いました」
Q 「素晴らしい作品で、すごく静かな作品だったんですが、突き刺さってくるものがすごく多くて今感動で言葉が見つからないんですが、きっと何回も映画館に足を運ぶことになると思います。監督は俳優のどういったところを重要視しているのか。また鈴木亮平さんを起用した理由は」
■「亮平は僕が監督になる前、彼が俳優になる前からの友人」
松永監督 「亮平に関しては、出会ったのはすごい昔なんですね。僕が監督になる前、彼が俳優になる前からの僕らは友人でした。なので、彼が役者として表に出している面と、プライベートで彼が僕に見せる面は必ずしも一緒ではないということを当然知っています。僕が役者をキャスティングする上で大事にしているのは、ないものを出すことはできないので、その人が持っている個性だったりを僕が役として必要な要素を持っているかどうか、それを僕が引き出すということなので、鈴木亮平が浩輔をやる上で、浩輔に必要な要素をどこかに持っていることだと思います」
市山 「以上でQ&A終了します。最後に監督の方から一言お願いします」
松永監督 「本当に今日はどうもありがとうございます。映画は作ってお客さんに観てもらって初めて完成すると思っています。そういう意味では今日から『エゴイスト』は別の旅立ちをするんだなあという思いの中で、非常に感謝をしています。日本での公開は2023年2月10日になるんですけれども、今日観てくれたお客さんの方たちで、SNSだったりブログだったりなんでもいいです。ほめることだけじゃなく、いろんな率直な外に発信してもらいたいなあと思います。まずこの映画を知ってもらって一人でも多くの人に映画館のこういうスクリーンで観てもらえたら、僕らスタッフが情熱をかけて作った映画が報われるなあと思っています。どうぞよろしくお願いします」