第34回東京国際映画祭閉幕 東京グランプリはコソボの監督の「ヴェラは海の夢を見る」

(2021年11月8日23:45)

第34回東京国際映画祭閉幕 東京グランプリはコソボの監督の「ヴェラは海の夢を見る」
東京グランプリを代理で受賞した駐日コソボ共和国大使館 臨時代理大使アルバー・メフメディ氏㊨とイザベル・ユペール審査委員長(8日、東京・千代田区のTOHOシネマズ日比谷で)(©2021 TIFF)

第34回東京国際映画祭のクロージングセレモニーが8日、東京・千代田区のTOHOシネマズ日比谷で開催され、東京グランプリにコソボの監督カルトニア・クラスチニの「ヴェラは海の夢を見る」を選出した。また審査員特別賞には「市民」、最優秀監督賞に「ある詩人」のダルジャン・オミルバエフ監督など各賞が決まった。

「ヴェラは海を見る」はコソボのカルトリナ・クラスチニ監督による作品で、手話通訳をしている中年女性のヴェラが、判事の夫、舞台俳優の娘とともに充実した生活を送っていたが、ある日突然夫が自殺し多額の借金を残したことが分かり状況が一変するという内容。男性優位の環境に抵抗する女性を力強く描いた。
東京グランプリの選考結果について審査委員長の仏女優イザベル・ユペールが次のように説明した。
「この映画は夫を亡くした女性を繊細に描くとともに、男性が作った根深いルールに従わないものを絡めとる家父長制度の構造に迫る映画でもあります。監督はこのヴェラ、国の歴史の重みを抱えるヴェラの物語を巧みにかじ取りしています。その歴史の重みは静かにしかし狡猾にも社会を変えようとする者に暴力の脅威を与えるのです。確固とした演出と力強い演技が自信に満ちた深い形での個々のそして集合的な衝突をこの映画の中で生み出しています。この映画はコソボの勇気ある新世代の女性監督らによる素晴らしい作品群にまた1作が加わったというものであります」

クラスニチ監督の代理で駐日コソボ共和国大使館 臨時代理大使アルバー・メフメディ氏が登壇して金のキリンのトロフィーと賞状を受け取った。

第34回東京映画祭閉幕 東京グランプリはコソボの監督の「ヴェラは海の夢を見る」
受賞の喜びを語るカルトリナ・クラスニチ監督(©2021 TIFF)

クラスニチ監督はビデオメッセージで受賞のコメントをした。
「私の初長編映画『ヴェラは海の夢を見る』が東京国際映画祭に出品されると聞いてとても光栄に感じました。東京と日本は私にとっては夢であり、そして夢のような映画の匡です。またこの映画祭に初めて参加するコソボ映画だったということも大変光栄です。グランプリを受賞したことを知りよろこびのあまり大声で叫び、笑い、泣いてしまいました。このような栄えある賞を下さり本当にありがとうございます。審査委員の皆さま、そしてこの物語を実現させるために、私と共に一生懸命働いてくれたチーム、キャスト、スタッフに感謝します。ありがとう東京。ありがとう日本」

最後にコンペティション部門の審査委員を務めたイザベル・ユペール(女優)、ローナ・ティー(プロデューサー/キュレーター)、クリス・フジワラ(映画評論家/プログラマー)、青山真治監督、世部裕子(映画音楽作曲家)が登壇して、ユペール審査委員長が総評を述べた。
「(コンペ部門の)15作品を振り返ってみますと、私に最も強く印象を残したことのひとつは映画の多様性の豊かさです。まず言語の多様性です。スペイン語、イタリア語、韓国語、日本語、アゼルバイジャン語、クルド語などなどです。コンペ作品の一部には言語の違いがテーマになっている映画がありました。最優秀監督賞を受賞した「ある詩人」では、登場人物の一人が世界に存在する数多くの言語があることを論じ、本人が話しているカザフの言葉をはじめ多くの言語が消滅の危機にさらされていると嘆くシーンがあります。とはいえ逆の意見も表明されています。おそらく皮肉なことですが『ちょっと思い出しただけ』では世界の人が皆同じ言葉を話したらいいんじゃないかと考えたりしています。驚くべきことに死もコンペ部門の作品の 多くのテーマになっていました。その他非言語的な芸術形式だったり、音楽、演劇、舞踊、そして映画そのものといった表現形式も取り上げています。ということでコンペティションの選考ではわれわれ審査委員は現代文化における映画の位置づけについて考えられることを求められました。そしてすでに確立されたアーティストと、新しい方たちの声、世界の様々な国々の多様なコミュニティーを扱っている作品に向かい合うことになりました。こうした状況の背景と共に社会の現状を見ることが出来ました。そして何度も何度もこうした作品がもたらす社会のイメージの現代的なことに感動しました。以前は世界の映画の中では文化を民族的なフォークロアとしてとらえる見方がよくありましたが、今年の東京ではそういうことはありませんでした。コンペ部門は多くの女性が描かれた作品がありました。3作だけ上げますと東京グランプリ受賞作の『ヴェラは海の夢を見る』の主人公。そして審査委員特別賞を受賞した『市民』。それから最優秀女優賞の受賞作『もうひとりのトム』。これらの作品の主人公たちは3人とも途方もない苦境、腐敗、犯罪、虐待、ネグレクトに直面しています。どの映画でも社会制度全体のこれらの問題と人々を引き続き抑圧し続ける過去のレガシーを見せています。それでありながら非常に特徴的なのが3作の主人公共に被害者としては描かれていません。その1人1人が敵を見極め対峙していくことが出来るようになっています。そして最後に闘いの勝ち負けに関わらず、これらの作品は未来に目を向けています。こうした15作品と共に世界を様々に探究するのは楽しいことで、またこれらの賞の審査委員として任されたことを大変光栄に思っております。ありがとうございました」

■第34回東京国際映画祭:各賞

〇コンペティション部門
東京グランプリ/東京都知事賞 「ヴェラは海の夢を見る」
 
審査員特別賞 「市民」
最優秀監督賞 ダルジャン・オミルバエフ(「ある詩人」)
最優秀女優賞 フリア・チャベス(「もうひとりのトム」)
最優秀男優賞 アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、バルシュ・ユルドゥズ、オヌル・ブルドゥ(「四つの壁」)
最優秀芸術貢献賞 「クレーンランタン」
観客賞 「ちょっと思い出しただけ」(松居大悟監督)
〇アジアの未来部門
作品賞 「世界、北半球」
〇Amazon Prime Videoテイクワン賞 キム・ユンス(「日曜日、凪」)
 同賞審査委員特別賞 瑚海みどり(「橋の下で」)

クロージングセレモニー終了後にクロージング作品として、ブロードウェーの大ヒットミュージカルを映画化した「ディア・エヴァン・ハンセン」が上映された。

(第34回東京国際映画祭、開催期間:2021年10月30日(土)~11月8日(月) 会場:日比谷・有楽町・銀座地区 公式サイト:www.tiff-jp.net)