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映 画
「異人たち」と「陰陽師0」のとっておき情報
(2023年4月23日10:00)
映画評論家・荒木久文氏が「異人たち」と「陰陽師0」のとっておき情報を紹介した。
トークの内容はFM Fuji「Bumpy」(月曜午後3時、4月15日放送)の映画コーナー「アラキンのムービー・ワンダーランド」でパーソナリティ・鈴木ダイを相手に話したものです。
鈴木 よろしくお願いいたします。
荒木 今日は2本ご紹介したいと思います。1本目は、4月19日から公開の「異人たち」という作品です。 「いじん」は偉い人の「偉人」じゃなくて「人と異なる」の異人です。あの♪異人さんに連れられて~♪~
鈴木 ~♪行っちゃった~♪のね。
荒木 そう。外国人という意味の「異人」と同じ字なんですが、ちょっと意味合い違いますね。どういうことかは、おいおい説明します。これはイギリス映画なんですけども、原作は日本を代表する名脚本家・山田太一さんの長編小説「異人たちとの夏」なんですよ。これを、「さざなみ」などで知られるイギリス人のアンドリュー・ヘイという監督が映画化したものです。実はこの原作、1988年に日本でも映画化されているんです。
鈴木 え?そうなの?
荒木 そうなんですよ。それを、今回は舞台を現代イギリスに移して、ヘイ監督ならではの演出と脚色で描き出すという話題の作品です。
鈴木 リメイクみたいなものですか?
荒木 リメイクですね。だけど、前提などは違います。ストーリーから行きますね。主人公はアダムという40歳の脚本家、シナリオライターです。
彼は12歳の時に交通事故で両親を亡くして以来、本当に孤独な人生を送ってきたんですね。ひとりっ子だった彼は、今 ロンドンのタワーマンションに住んでいるんですけど、両親の思い出をもとにした物語を書こうとしているんです。ある日、何かヒントにならないかと少年時代を過ごしたロンドンの郊外の実家を訪れると、そこにはなんと30年前に死んだはずの父と母が、当時のままの姿で暮らしていたんです。
鈴木 えぇーっ!?
荒木 そして、「お帰りなさーい」ってな感じで、自然に彼を受け入れてくれるんですね。それ以来、久しぶりに両親に会った彼は頻繁に郊外の両親が住む実家に通って、ふたりのもとで安らぎと癒しの時間を過ごすようになってですね、想像もしなかった再会に閉ざしていた心が解きほぐされていくような気持ちになるんです。
鈴木 それじゃ、3人 ほぼ同年代だったってことですよね、会った時は。
荒木 会った時はそうだよね。
その一方で、同性愛者である彼は同じロンドンの住人である謎めいた青年ハリーと恋仲になるというストーリーなんですね。
ダイちゃんも実家に帰ることがあるでしょう?
鈴木 あります。しょっちゅう帰ってますよ。
荒木 私はもう両親が居ないんで、1人だけで、空き家の実家にたまに帰るんですが。誰にも両親がいたので、これは心に浸みる話だと思うんです。
アンドリュー・スコットという人がアダムを演じています。この作品は、去年亡くなった日本の有名な脚本家、山田太一さんの原作なんですよ。山田太一さんていうと、「不揃いの」…。
鈴木 「…リンゴたち」ですよね。
荒木 そう、TVドラマ「岸辺のアルバム」とかでもお馴染みなんですけど。これは、第1回の山本周五郎賞の受賞作品なんです。
鈴木 そうでしたか?
荒木 そうなんですよ。1988年に、もう同じ年に映画化されていて、監督は大林宣彦さん。脚本が市川森一さん。主演は風間杜夫さんがやったんですね。アダム役ですね。
鈴木 なんか、時代感じるね。
荒木 そうなんですよ。両親は誰だと思います?
鈴木 誰だろうなー?
荒木 なんと!意外、片岡鶴太郎さんと秋吉久美子さんなんですよ。
鈴木 えー!? 秋吉久美子さん好きだったなあ。
荒木 恋人役は名取裕子さんなんですけどね。私、この映画、公開されてすぐ見ました!
鈴木 それは何ですか?見たくて?
荒木 見たくて!書籍のファンだったんで。印象に残る映画で、それこそ、私の10本の指に入るんじゃないかと思うくらいですよ。
鈴木 えーっ!
荒木 当時、主人公が浅草で、当時のままの両親と再会して、子供の頃出来なかった父とのキャッチボールだとか、お母さん手作りのアイスクリームを食べたりとかですね、思い出に浸って、徐々に素直さを取り戻して行くっていうところが素晴らしくてですね。
鈴木 荒木さんに共感するものが、何かあったんだろうね。
荒木 そうですね。親子の情や結びつきに感動したことをよく覚えていますよ。今だと、親がいないのでなおかもしれませんけどね。今お話したのは、私が見た1988年の日本映画「偉人たちの夏」という映画なんですが・・・、裏話するとですね、松竹から大林監督への発注は、真夏の映画シーズンなので観客をゾッとさせるようなお化け映画を作ってくれって。
鈴木 えーっ!?最初はそんなことだったの?
荒木 そうらしいんですよ。ところがね、大林監督の手腕に関わるとこんなに心に沁みるものになると…。その後、舞台とかラジオドラマになりましたね。
話は戻して、今回の「異人たち」もストーリーは、ほとんど日本版の「異人たちとの夏」と同じです。舞台がイギリス・ロンドン、時代が現代、そして主人公は同性愛者ということで、全く味わいの違う作品になっています。
大林さんは郷愁面をうまく描いていましたが、今回のアンドリュー・ヘイ監督は"孤独"とかね、特にひとりっ子だったんで、その辺りを描くのに秀いでてると思いますし、人生を前へ進む希望も提示してくれるという、原作を現代的にアレンジしてると思います。
また、監督も主演のアダムを演じている役者さんも同性愛者であって、彼らが背負っている悲しみとか幼少期に負った傷なんかも描かれているんですよ。孤独感がとても印象的です。登場人物は4人しかいないんですよ。本人とパパとママと、そして男性の恋人。
鈴木 あ、そんだけか。
荒木 とても、しっかり構成されています。
その時代母親が子どものゲイのカミングアウトを素直に受け付けられないこととか、父親が子供のいじめられている姿を見て戸惑ったりとかね。そういうセクシャリティと親との関係も、上手く表現されていますね。
鈴木 それ、エンディングっていうか、どうなるの?結末。
荒木 エンディングは、これは言わない方がいいです。見てください。
鈴木 えー、幻なのかな…、面白そうだな。
荒木 面白いですよ(笑)。そういう意味では、怖い部分、不気味な部分もしっかり怖いですよ。
鈴木 ちょっとダークファンタジー的なところもあるんですかね?
荒木 もともとダークファンタジーなんですけども、ちょっと笑いとかもありますし。もともとが…、ばらしちゃうと、異人っていうのはお化け、幽霊ですよね。
鈴木 はいはい…。異なる世界からやって来たってことですね。
荒木 そういうことです。
鈴木 なるほどねー。
荒木 その人たちとの交流ということで。最後にはもう一回どんでん返しが待っているんですけどね。
鈴木 「フィールド・オブ・ドリーム」みたいじゃないですか。
荒木 ああ、なるほどね。ちょっと近いかもね。35ミリフィルムで撮っていたりしますので ざらっとした特有な美しさもあるんですが、本当に素晴らしい脚色だと思いました。これ、是非ひとりっ子なんかはね、見るといいと思います。
鈴木 それ、私!私そうですよ。
荒木 「異人たち」という、4月19日から公開の作品でした。2本目!「陰陽師0」これも4月19日からですね。陰陽師は、陰と陽と師と書くんですね。今年は例のNHK大河が「光る君へ」ということで、平安時代の、紫式部とかの王朝文学の世界ですよね。ここに必ず顔を出してくるのが「陰陽師」ですね。
陰陽師ってもともと、古代日本社会の律令の役人なんですよね。こういった陰陽道という占いによって、占いや地相などを占った人なんです。技術系のお役人ですよ。
それが、プライベートな祈祷や神に仕える神官のようになったっていうことらしいんです。その代表的な存在が、安倍晴明ですね。
鈴木 本当にいたんですよね?
荒木 実在したんですよ、この人。この人の活躍を描いた夢枕爆さんのベストセラー小説「陰陽師」シリーズから、いろんな映画が作られているんですが、
今回は4月19日の「陰陽師0(ゼロ)」という作品で、晴明が陰陽師になる前の物語です。これを夢枕獏さんの協力のもとに完全オリジナルで映画化したものなんです。
前日譚という、今流行りのやつですね。
鈴木 じゃ、「ファーストオーメン」じゃないですか、それ。
荒木 あ!「ファースト陰陽師」だね。
鈴木 ね!そういうことですよね。
荒木 陰陽師は行政機関員で、所属は役所なんですけど、そこには陰陽師養成の学校も併設されていたんです。その学校に通っていた青年の安倍晴明が天才と呼ばれるほどの呪術の才能を持っていたんですけど、変わり者で陰陽師になる意欲も興味もない人嫌いのキャラクターでした。
ある日、彼は貴族の知り合いから、皇族の女性を襲う怪奇現象の解明を頼まれるんです。そんな時、ある若者が変死したことをきっかけに、当時の平安京をも巻き込む凶悪な陰謀に巻き込まれていくことになるという筋合いなんですけども。
鈴木 面白い!
荒木 面白いですよ!で、若き日の安倍晴明は山崎賢人君。カッコよく、長髪でね。
鈴木 カッコ良すぎるな。
荒木 ホントそうなんですよ。他に染谷将太さんとか奈緒さんが出てます。
監督が佐藤嗣麻子さんという人なんですけど、この人は「ゴジラ マイナスワン」の山崎貴監督の奥さんなんです。
鈴木 夫婦揃ってそうなんだ。
荒木 そうなんですよ。VFXを用いた映画も沢山作っていまして、それと、今回はノリとしては完全に現代劇ですね。喋り方なんかもわかりやすく作ってあります。
鈴木 平安時代じゃないって感じなのね。
荒木 ないない!時代劇と考えない方がいいですよ。
アクションもあるし、若い俳優さんも綺麗に撮っている一種のアイドル映画ですね。だから変な重苦しさがないんで、是非見に行ってください。
安倍晴明っていうと平安時代の有名人だったんですけど、これまで沢山映画化されて来ました。ダイちゃん、安倍晴明っていうとどんな役者思い出しますかね?
鈴木 そうだ、野村萬斎さん。一番ピンときますね。
荒木 そうですよね。あと、SMAPの稲垣さんとかもやってた。
鈴木 え?稲垣吾郎さんやってた?
荒木 TVでね。三上博史さんとかもやってたし、市川染五郎さんなんかもやってるんですね。で、今一番評判いいのがNHK「光る君へ」のユースケサンタマリアさんですね。
鈴木 凄い評判いいって聞きますものね。
荒木 そうね、怪しい雰囲気とわけわからない詐欺的雰囲気がピッタリで、
ハマっているような気がします。この「陰陽師0(ゼロ)」は、色んな映画祭に出品されてまして、評判の作品なので是非見といた方がいいと思います。
4月19日からの公開です。ということで2本ご紹介しました。
鈴木 ありがとうございました。
■荒木久文(あらき・ひさふみ)1952年生まれ。長野県出身。早稲田大学卒業後、ラジオ関東(現 RFラジオ日本)入社。在職中は編成・制作局を中心に営業局・コンテンツ部などで勤務。元ラジオ日本編成制作局次長。プロデューサー・ディレクターとして、アイドル、J-POP、演歌などの音楽番組を制作。2012年、同社退職後、ラジオ各局で、映画をテーマとした番組に出演。評論家・映画コメンテイターとして新聞・WEBなどの映画紹介・映画評などを担当。報知映画賞選考委員、日本映画ペンクラブ所属。
■鈴木ダイ(すずき・だい)1966年9月1日生まれ。千葉県出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。1991年、ボストン大学留学。1993年 パイオニアLDC株式会社(現:ジェネオン・ユニバーサル)入社 し洋楽宣伝プロモーターとして勤務 。1997年 パーソナリティの登竜門であるJ-WAVE主催のオーディション合格 。
現在は、ラジオパーソナリティとして活躍するほか、ラジオ・テレビスポット、CMのナレーション、トークショー司会やMCなど、幅広く活躍。 古今東西ジャンルにこだわらないポピュラー・ミュージックへの傾倒ぶり&造詣の深さ、硬軟交ぜた独特なトーク、そしてその魅力的な声には定評がある。