アンソニー・ホプキンス、主演男優賞発表時にウェールズの田園地帯で眠っていた 大逆転劇の舞台裏

(2021年4月27日12:20)

第93回アカデミー賞で最有力といわれていたチャドウィック・ボーズマンさんを押さえて主演男優賞を受賞した英俳優アンソニー・ホプキンス(83)が主演男優賞が発表されたとき、ロサンゼルスの授賞式会場から遠く離れた故郷の英国ウェールズの自宅で熟睡していたという。一夜明けてホプキンスは自身のインスタグラムに動画を投稿して受賞にコメントし、ボーズマンさんを追悼した。そうしたなか、授賞式の最後に変更された主演男優賞の発表でなぜ大どんでん返しが起きたのかとハリウッドで波紋が広がっている。

米紙ニューヨーク・ポスト(電子版)によると、ホプキンスは、「マ・レイニーのブラックボトム」のチャドウィック・ボーズマンさんを抑えて大逆転の主演男優賞を獲得した際、真夜中のウェールズの田園地帯でぐっすりと眠っていたという。ホプキンはノミネートと受賞予想の報道が過熱する中、ハリウッドからウェールズに向かい静かに過ごしていたという。ホプキンスは「ファーザー」で認知症を発症した父親を演じて、ハンニバル・レクター博士を演じたサイコスリラー映画の傑作「羊たちの沈黙」(1991年)以来2度目の主演男優賞を獲得した。

ホプキンスは朝、ウェールズの野原からインスタグラムにメッセージを投稿し、受賞した驚きを表明するとともに、ボーズマンさんに敬意を払った。

「おはようございます。私は故郷のウェールズにいます…83歳にしてこれを手にするとは思ってもみませんでした」と、ホプキンスはアカデミー賞史上最高齢で主演男優賞を受賞しことを驚き「あまりにも早くこの世を去ってしまったチャドウィック・ボーズマンに敬意を表したいと思います」と述べた。

ボーズマンさんはゴールデングローブ賞やSGAアワード(全米俳優組合賞)で主演男優賞を受賞しておりその流れでアカデミー賞も大本命とみられていた。ボーズマンさんが受賞しなかったことに憤慨するコメントをツイッター投稿したファンもいたという。

NP紙「アカデミー賞はサプライズには事欠かない」過去の波乱

ニューヨーク・ポストは「アカデミー賞はサプライズには事欠かない」と指摘。2019年の作品賞で、「グリーンブック」が本命の「ローマ」を破った物議を醸したことや、2017年に作品賞で実際の受賞作の「ムーンライト」ではなく、「ラ・ラ・ランド」と誤って発表され、監督らが壇上に上がりその直後に訂正された前代未聞のハプニングがあったのは記憶に新しい。1997年に「恋に落ちたシェイクスピア」が「プライベート・ライアン」を破る番狂わせもあった。同紙は「それも楽しみのひとつ」と指摘した。受賞者が白人に偏っているとの批判を受けて非白人のメンバーを4000人追加して投票者は約1万人といわれる。

ボーズマンさんの受賞を予想して主演男優賞の受賞を最後に変更した?

従来は作品賞が最後に発表されるが、今年は“大トリ”が主演男優賞に変更されるという異例の事態になった。そのため、視聴者は、8月に大腸がんで43歳の若さで亡くなったボーズマンさんを称えるための”演出“だと思っていたという。しかし、ボーズマンさんの名前が呼ばれることはなく、ホプキンスが受賞し。さらに拍子抜けだったのは、ホプキンスが遠く離れたウェールズにいてリモートでのスピーチもなかった。視聴者は驚き衝撃を受けた投票者もいたという。

「椅子から転げ落ちた」と、ある映画芸術科学アカデミーの投票メンバーが同紙に語ったという。「あれは一体なんだ?アカデミー内でアンソニー・ホプキンスに対する何らかの動きがあったことを、私は全く知りませんでした。映画自体がちょっと芝居がかっていて熱中できないと思いましたが、私はチャドウィックに投票しました。多くの人が同じだと思いましたし、他の候補者に投票するという声を聞いたとしたら、それはリズ・アーメッド(「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」)でした」という。

授賞式シーズンの評論サイト「GoldDerby」のシニアエディター、ジョイス・エングは、今回の受賞は、Netflixがまだマスターしていない、古き良き時代のハリウッド戦略によるところが大きいと指摘した。「一般のファンが気づかない何かがあったと思います。それは、『ファーザー』がまさに(アカデミー賞に)ふさわしい時期にピークを迎えていたという事実です。ソニー・ピクチャーズクラシックスは、この作品の公開を文字通り(アカデミー賞の対象の公開期限)ギリギリまで延期して2月26日に公開した」という。一方、「マ・レイニーのブラックボトム」は昨年11月にNetflixで公開されたが、ホームステイで気晴らしがたくさんある時期だったという。

同紙は「受賞者やその代理人が出席していない可能性が高い晩餐会の最後にカテゴリーを設置するという制作方法は、非常に愚かなものでした。しかし、これで一つ証明されたことがあります。それは、集計係が行う投票数は本当に秘密であるということです。そうでなければ、賞の順番を変えるなどということはしないはずです」と指摘した。

いずれにしてもホプキンスがボーズマンさんより多くの票を獲得したことと、名優の「ファーザー」での演技が主演男優賞にふさわしいものであることは間違いないようだ。

■第93回アカデミー賞主要部門のノミネートと受賞(★印)

【作品賞】(★)「ノマドランド」、「ミナリ」、「シカゴ7裁判」、「プロミシング・ヤング・ウーマン」、「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」、「Mank/マンク」、「ファーザー」、「ジューダス・アンド・ブラック・メサイア」
【主演男優賞】チャドウィック・ボーズマン(「マ・レイニーのブラックボトム」)、リズ・アーメッド(「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」)、(★)アンソニー・ホプキンス(「ファーザー」)、ゲイリー・オールドマン(「Mank/マンク」)、スティーヴン・ユアン(「ミナリ」)
【主演女優賞】キャリー・マリガン(「プロミシング・ヤング・ウーマン」)、(★)フランシス・マグドーマンド(「ノマドランド」)、ヴィオラ・デイビス(「マ・レイニーのブラックボトム」)、バネッサ・カービー(「私というパズル」)、アンドラ・デイ(「ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデー」)
【助演男優賞】(★)ダニエル・カルーヤ(「ジューダス・アンド・ブラック・メサイア」)、サーシャ・バロン・コーエン(「シカゴ7裁判」)、ポール・レイシー(「サウンド・オブ・メタル~聞こえるということ~」)、レスリー・オドム・ジュニア(「あの夜、マイアミで」)、ラスキース・スタンフィールド(「ジューダス・アンド・ブラック・メサイア」)
【助演女優賞】(★)ユン・ヨジョン(「ミナリ」)、オリビア・コールマン(「ファーザー」)、グレン・クローズ(「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」)、マリア・バカローバ(「続・ボラッド 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカの貢ぎ物計画」)ジョディ・フォスター(「ザ・モーリタニアン」)、アマンダ・サイフリッド(「Mank/マンク」)
【監督賞】(★)クロエ・ジャオ(「ノマドランド」)、デヴィッド・フィンチャー(「Mank/マンク」)、リー・アイザック・チョン(「ミナリ」)、エメラルド・フェネル(「プロミシング・ヤング・ウーマン」)、トマス・ビンターベア(「Another Round」)