「マ・レイニーのブラックボトム」チャドウィック・ボーズマンさんが黒人差別の不条理劇を熱演 

(2021年4月25日20:15 )

「マ・レイニーのブラックボトム」チャドウィック・ボーズマンさんが黒人差別の不条理劇を熱演
「マ・レイニーのブラックボトム」

昨年8月に大腸がんのため43歳の若さで死去したチャドウィック・ボーズマンさんの遺作となったNetflixのオリジナル作品。1920年代のシカゴを舞台に「ブルースの母」と呼ばれた実在の伝説の女性歌手マ・レイニーとバンドのトランぺッター、レヴィーの2人を中心にしたドラマ。ボーズマンさんはレヴィー役を熱演。ゴールデングローブ賞の主演男優賞(ドラマ部門)や全米映画俳優組合賞の主演男優賞を受賞し、アカデミー賞(現地時間25日=日本時間26日に授賞式)の主演男優賞にノミネートされた。マ・レイニー役のヴィオラ・デイヴィスも同主演女優賞にノミネートされ批評家から絶賛された。

■ストーリー

1927年、シカゴの録音スタジオで、人気歌手マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)のレコーディングが行われる。参加したバンドのトランぺッター、レヴィ―(チャドウィック・ボーズマン)は野心家で、リハーサルを前に独立して自分のバンドを作ることを公言したり、リハーサルで自分流にレイニーの曲をアレンジしたりしてほかのメンバーと対立する。そうしたなか、自分の甥と若い女性を伴い遅れてやってきたレイニーは、レヴィーのアレンジを一蹴した上に、素人同然の甥に曲の紹介の口上をやらせレヴィーは激しく反発し、プロデユーサーは止めるが彼女は押し通す。休憩中にバンドのほかのメンバーはレヴィーが白人のプロデュサーに媚を売っているとからかうが、レヴィーは8歳の時に白人の集団が家に来て母に乱暴したことなどの差別体験を涙ながらに告白。ほかのメンバーからも黒人の悲惨な差別が語られる。レイニーは「黒人でも金になるなら連中は利用するが、それ以外は野良犬扱いだ」と毒づき「白人にブルースはわからない」「ブルースは人生を語る手段」とブルースを語る。やがて「マ・レイニーのブラックボトム」の曲の録音が始まり、甥が口上を言うときに噛んで何度も撮り直しとなり、マイクのトラブルもありレイニーは怒って帰ろうとするなどトラブルになるが、なんとかレコーディングは終わる。だがレヴィーがレイニーと対立してクビにされてしまい、白人プロデュサーにも冷たく突き放され歯車が狂っていく。

■見どころ

劇作家オーガスト・ウィルソンの1982年の同名戯曲をジョージ・C・ウルフ監督が映画化した作品で、録音スタジオを舞台にセリフを多用して舞台劇のように展開する。マ・レイニーが白人プロデューサー相手に横暴とも思えるほど喧嘩腰でふるまうのは黒人としての被差別から身を守るためだったことや、レヴィーも過去の差別体験をバンドの仲間を相手に長々と吐露する。まさに今米国で広がる人種差別撤廃を掲げる「#BlackLivesMatter」(黒人の命も大切だ)の運動にも通じる内容になっている。ボーズマンさんは2016年に大腸がんのステージ3と診断されたが、公表せず映画に出演し続けた。遺作となった本作ではさすがにやせた感じがするが、長台詞をエネルギッシュによどみなくしゃべり続け、咆哮し、鬼気迫る圧倒的な存在感を見せて黒人差別の不条理劇を熱演している。またヴィオラ・デイヴィスは歌も歌い体を張って白人プロデュサーと渡り合う「ブルースの母」を熱演している。
(2020年12月18日からNetflixで独占配信中)