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「三度目の、正直」公開記念イベント、野原位監督が濱口竜介監督とトークショー
(2022年1月10日11:20)
野原位監督の「三度目の、正直」(1月22日公開)の公開記念イベントが9日、東京・渋谷区のユーロライブで行われ、野原監督と濱口竜介監督がトークショーを行った。
濱口監督は「偶然と想像」(2021年)が第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞し、西島秀俊主演の「ドライブ・マイ・カー」(2021年)が第74回カンヌ国際映画祭で日本映画として初めての脚本賞と国際映画批評家連盟賞など計4部門で受賞し、第87回ニューヨーク映画批評家協会賞の作品賞を受賞。8日(日本時間9日)には全米映画批評家協会賞の作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(西島秀俊)を受賞するなど今最も注目されている映画監督。
この日のイベントでは濱口監督の5時間17分の大作で、野原監督が共同脚本を務めた「ハッピーアワー」(2015年)と野原監督の短編映画「すずめの涙」(2021年)が上映され、その後は監督と野原監督のトークショーが行われた。野原監督の才能を最も近くで知る濱口監督と共に野原作品とその演出について大いに語った。
「ハッピーアワー」は神戸で暮らす仲の良い4人の女性のそれぞれの波乱に富んだドラマを描いた作品で主演の田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りらの4人が第68回ロカルノ映画祭で最優秀女優賞を受賞して話題を呼んだ。
「すずめの涙」は神戸市の元町映画館の10周年企画のために制作された短編。父を亡くした主人公(川村りら)の元にある男性(申芳夫)が訪れ父親とは旧知の仲で線香をあげたいという。明らかに怪しいが仕方なく家に上げるが言葉のはしはしに違和感を感じ始め意外な展開が起きるという人情喜劇。
「ハッピーアワー」に加えて「すずめの涙」も上映することを提案したという濱口監督は「これは神戸の元町映画館を愛する監督たちのオムニバス映画集に入っていて、正直めっちゃ面白いと思った。『ハッピーアワー』からこの映画(「三度目の、正直」)に至る一つの流れというか、それを見て頂く上でもわかりやすいのではないか」と語った。
「野原君とはずっと一緒に映画を作ってきていて、『ハッピーアワー』から共同脚本という関係性に入っていった」という。
野原監督は「『ハッピーアワー』では最初は助監督的な立場で、途中からもう一人高橋さん(共同脚本の高橋知由氏)と3人で脚本を担当した」という。
濱口監督は、その時の野原監督の「脚本家としての覚醒ぶり」に注目したといい「大体こんな話にしましょうというプロット案が話し合われてあって、大まかにいうと野原君が先鞭をつけるというか斬りこんでいく斬りこみ隊長」と明かした。
野原監督が初稿を書き、濱口監督は「初稿を読んでどうするか。現場で監督をする人間としてこれはなかなか難しいというところもあるので直させてもらうということを自分でもしていて、高橋さんというもう一人の人がフィードバックして、これは構造的にこうなっているのでこうした方がいいですよという、大まかな役割分担があって、違うこともあるんですけど、そういう風に書かれている」と語った。
そして「『すずめの涙』のテイストというのは、例えばお父さんの話が入るんですけど、あのくだりっていうのは、ようこんな話が出てくるもんだなという話が出てきて、『三度目の正直』の後に見たのかな、非常に洗練された最後のオチまであって」と評価した。
野原監督は「『三度目の、正直』の後に撮ったんですが、申(芳夫)さんの力です。申さんにお経っぽく見えるのを考えて頂いてこれしかないみたいな(笑い)」と話した。
そして「(「ハッピーアワー」の脚本は)濱口さんが最終的に直していくのですが、濱口さんがなるべく高く飛べるように、濱口さんが読んだら怒るかもしれないと思いながらも高く飛ぼうみたいなことを考えて書いていたことを思い出しました」と語った。
濱口監督は「完全に飛躍力があるんですよね。ちょと自分では思いつかないような飛躍した話をポンと出せるところがある。これはある種の特性だし『ハッピーアワー』のけん引力になっていた」という。
「三度目の、正直」について濱口監督は「先ほど(上映)の予告編を見て何となく気づいたんですけど、記憶喪失の少年が出てくる。野原君にどういう話なのって聞いたら、記憶喪失の少年が出てきてっていう話を聞いて、大丈夫って…(笑い)でも、『三度目の、正直』の感想を言わせてもらえば、これは端的にすごい映画だと思いました」と語った。
「映画を撮っている人間からすると、このようなことがカメラの前で起きているのはおかしいということが何か起きていて、それがちゃんと記録されていて物語として成立しているというのは、フィクションというものを立ち上げた経験のある人間からすると、なんでこんなものが起きているのかっていうものが始終起きている映画なんです。ただそれがどこまで皆さんに届くものかというのは自分は正直分からないということも思った。正直言って20年後30年後に2022年どんな映画がありましたかと言われたら『三度目の、正直』という映画がありましたといわれるような映画だと思う」などと語った。
その後も客席からの質問にも答えながら熱いトークを交わして観客を魅了した。
■「三度目の、正直」の内容
第34回東京国際映画祭のコンペティション部門でも上映された「三度目の、正直」は、野原監督の劇場デビュー作で、川村りらなどのキャストやスタッフの多くが「ハッピーアワー」から引き続き参加している。
ストーリー:月島春(川村りら)は、は、パートナーの連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんな時、公園で記憶を失くした青年と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅(小林勝行)は音楽活動を続けている。その妻・美香子(出村弘美)は精神の不安を抱えながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。それぞれの秘めた思いが、神戸の街を舞台に交錯する。
「三度目の、正直」は2022年1月22日(土)、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開される。