「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」ゴダール監督が米国の反体制運動や文化を描いた革新的ドキュメンタリー

(2023年4月21日10:15)

「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」ゴダール監督が米国の反体制運動や文化を描いた革新的ドキュメンタリー
ゴダール監督(©Pennebaker Hegedus Films / JaneBalfour Service )

昨年9月13日に死去した仏ヌーベルヴァーグの代表的監督ジャン=リュック・ゴダール(享年91)が、1968年に渡米して、反戦活動家やブラックパンサー党の幹部らをインタビューし映像などで構成したドキュメンタリー映画。
「勝手にしやがれ」(60年)などの作品で、ヌーベルヴァーグの旗手といわれたゴダール監督は1967年8月に商業映画との決別を宣言して、68年5月、パリ五月革命の最中にフランソワ・トリフォー監督、ルイ・マル監督らと第21回カンヌ国際映画祭に乗り込んで賞の選出を中止に追い込んだ。そして同年に「1PM」のドキュメンタリーの企画のために渡米して、米国の反体制的な政治運動や文化状況に目を向けた。撮影はダイレクト・シネマの旗手といわれるリチャード・リーコックとD・A・ペネベイカーで、ドキュメンタリー映画の革命児たちの共同作業は編集段階で頓挫してしまったという。ゴダールが放棄した撮影データをベネイカーがつなぎ合わせて作ったのが「1PM」で、現実と虚構を掛け合わせようとするゴダールの意図と、現実を未加工のままに提示しようとするダイレクト・シネマの手法がせめぎあっている作品という。

同作は、ゴダール監督がスタッフらとの打ち合わせのシーンから始まっている。監督は作品が現実の出来事を描くAと、フィクションを交えたドキュメンタリータッチで俳優が芝居をする。どのパートもAとBに分かれること。そして現実の出来事はウォール街に勤める女性、黒人解放運動の急進的政治組織ブラック・パンサー党の情報相エルドリッジ・クリーヴァー、ベトナム反戦運動を主導した米反戦活動家で女優のジェーン・フォンダと結婚した(1973年~1990年)トム・ヘイドン、そして60年代のアメリカのロック黄金時代を代表するバンドの一つでサイケデリック文化を象徴するグループといわれるジェファーソン・エアプレインにルーフトップ・ライブを行わせる。そしてウォ―ル街の女性やらの発言を俳優が再現するシーンを撮影することをゴダール監督が説明する。

「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」ゴダール監督が米国の反体制運動や文化を描いた革新的ドキュメンタリー
反戦活動家トム・ヘイドン(©Pennebaker Hegedus Films / JaneBalfour Service )

トム・ヘイドンが延々と反戦運動について話をするインタビューシーンは現代にも通じる貴重な記録と言えそうだ。「世界中に軍を展開させる米政府による抑圧に年間800万ドルの税金を投入している。使い道を相談されることもなく、ベトナム戦争のような無意味な戦争に加担し血を流している」「会社員や労働者が払う税金が原資だ」「彼ら(南ベトナム解放戦線、北ベトナム)を抹殺しようとすれば、自分が殺される」「彼らこそが前線で勝利する」と主張する。実際に1975年、米軍が撤退し南ベトナム政府が無条件降伏して北ベトナムがベトナムを統一した。「軍事費を撤廃して浮いた予算を応用して許される範囲で国民生活に役立つ方向へある程度振り分ける」――この発言は現在の日本の防衛費増額の問題にも通じるものがあることに気づかされる。

「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」ゴダール監督が米国の反体制運動や文化を描いた革新的ドキュメンタリー
ブラック・パンサー党の情報相エルドリッジ・クリーヴァー(©Pennebaker Hegedus Films / JaneBalfour Service )

ブラックパンサー党の幹部クリーヴァーは「俺は長いこと刑務所にいた。9年間だ。その簡易刑務所の職員が何人もの主人を殺したのを知っている。今の政府の方針は黒人の革命家や投資たちをとらえて、一生ぶち込むこと。そのためなら憲法も法も無視する」「奴らに投降などしない。俺たちの変化を見せてやる」と語る。

さらにはジェファーソン・エアプレインビルの屋上でライブを行うシーンは、ビートルズのルーフトップ・コンサート1969年1月30日をほうふつとさせる。

それぞれのドキュメント部分と俳優たちがセリフで対象者たちの発言を再現するゴダール監督の実験的な試みが絡み合いながら、アメリカの激動の時代をゴダール流にスクリーンに再現している貴重なドキュメントになっている。

「1PM-ワン・アメリカン・ムービー」(英題:1PM)
1971 年/アメリカ/カラー/90分/©Pennebaker Hegedus Films/Jane Balfour Service
監督:D・A・ペネベイカー、リチャード・リーコック、D・A・ペネベイカー
撮影:ジャン=リュック・ゴダール、リチャード・リーコック
出演:ジャン=リュック・ゴダール、リップ・トーン、ルロイ・ジョーンズ、エルドリッジ・クリーヴァー、トム・ヘイドン、ジェファーソン・エアプレイン
4月22日(土)より、新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開。
K’s cinemaでの上映期間中は、68年の五月革命を予言したゴダール監督の問題作「中国女」を限定リバイバル上映される。同時に「中国女」(67年)をめぐるゴダールのドキュメント「ニューヨークの中国女」も初公開される。