「僕たちは希望という名の列車に乗った」冷戦下の東ドイツで国家を敵に回した高校生たちの実話

(2019年5月22日)

  • 僕たちは希望という名の列車に乗った
  • 「僕たちは希望という名の列車に乗った」(Bunkamuraル・シネマ)

1956年の冷戦下、東ドイツの高校で実際に起きた事件を題材にした緊迫のドイツの青春映画。高校生のテオとクルトは列車に乗って西ドイツを訪れ、映画館で見たニュースでソ連の支配に対する全国規模の民衆蜂起がハンガリーで起きたことを知る。ハンガリー動乱はソ連軍に鎮圧され数千人の市民が殺害され25万人が難民となり国外に逃亡。サッカーのスター選手も死亡したと報じられた。

2人はハンガリー市民に共感し哀悼するためにクラスで呼びかけ授業中に2分間の黙とうを行うが、これがやがて大事件に発展する。ソ連の支配下にある社会主義国の東ドイツではハンガリー動乱を支持するのは反革命に等しい行為で物議をかもすが「動乱で死んだサッカー選手の追悼で政治的な意味はない」といった主張をしたため、校長らは学校内部で納めようとする。しかし事態を重く見た当局は直接クラスに乗り込んできて「政治的な抗議だった」という証言を引き出し首謀者を告げなければ19人全員退学にしてクラスを閉鎖すると脅し、生徒全員の事情聴取を行った。生徒たちの家族まで調べ上げ、家族を巻き込んで”自白”させようと奔走して生徒たちはパニックになる。

仲間を密告して大学に進学し社会的地位を保証されるのか、それとも信念を貫いて大学進学をあきらめ労働者として生きるのか、生徒たちは厳しい選択を迫られる。極限状況の中で彼らは悩みもがきながらも衝撃的な決断をする。

結末は感動的でまさに事実は小説より奇なりといった感じのラストだ。実話だけにリアリティを感じさせ、ドキュメント映画を見ているような緊迫感がある。ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツが統一される44年前のことだった。テオ役のレオナルド・シャイヒャーやクルト役のトム・グラメンツ、テオの恋人役のレナ・クレンクら新人俳優たちがフレッシュな演技で緊迫のドラマを盛り上げている。

監督は「アイヒマンを追え!ナチスが最も畏れた男」(2016年)のラース・クラウメ。原作は事件の当事者ディートリッヒ・ガルスカが体験に基づいて書いたノンフィクション「沈黙する教室 1956東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語」。ちなみに映画の原題は「The Silent Revolution」(沈黙の革命)となっている。ベルリンの壁ができる5年前のことで当時厳しい監視下の元東西ドイツ間を行き来していた列車が物語の重要なキーワードになっていることから日本語タイトルが付けられたようだ。(2019年5月17日公開)