「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」仏原発政策の闇を告発したアレバ労組代表を襲ったレイプ事件とその後の衝撃展開

(2023年10月20日10:45)

「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」仏原発政策の闇を告発したアレバ労組代表を襲ったレイプ事件とその後の衝撃展開
「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」のイザベル・ユペール(中央)

フランスと中国とのハイリスクな技術移転契約を内部告発したアレバの労組代表を襲ったレイプ事件と、その後の衝撃展開の実話をイザベル・ユペール主演で映画化した社会派サスペンス。
CFDT(フランス民主労働組合連盟)の組合員で、フランスに本社を置く世界最大の原子力産業企業アレバ社(2017 年に再編され現在のオラノ社設立)の欧州労働評議会代表モーリーン・カーニーが、EDF(フランス電力)と中国国有の原子力企業CGNPC(中国総合原子力発電公司)が極秘に進めていた中国への機密性の高い技術移転契約の提案書を入手し、技術の流出と雇用機会が失われることを懸念して内部告発するなか、2012年12月17日にパリ郊外の自宅で何者かに襲撃されナイフの柄でレイプされる。だが捜査当局に被害者から一転して自作自演の容疑者にされ、6年間闘い続けて無罪を勝ち取った実話を題材にした作品。
モーリーンを「ヴィオレット・ノジェール」(1978年)でカンヌ国際映画祭最優秀女優賞、「主婦マリーがしたこと」(1988年)でヴェネチア国際映画祭の女優賞、「沈黙の女/ロウフィール館の惨劇」(1995年)で同映画祭女優賞、「ピアニスト」(2001年)でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。2009年にカンヌ国際映画祭のコンペ部門の審査委員長、2021年に東京国際映画祭の審査委員長を務めるなどフランスを代表する国際的女優のイザベル・ユペールが演じている。
また、元アレバ社 CEO でモーリーンの盟友だったアンヌ・ロベルジョンをマリナ・フォイス 、アンヌ・ロベルジョンの後任となった CEO リュック・ウルセルをイヴァン・アタル 、モーリーンの夫ジルをグレゴリー・ガドゥボアが演じている。
監督はこれまでもイザベル・ユペール主演作品「ゴッドマザー」(2021)を手掛けたジ ャン=ポール・サロメ。レイプ事件後のモーリーンに寄り添い、警察も見出すことの できなかった事実を探し出して無罪に導いた仏雑誌「L'Obs」の記者カロリーヌ・ミシェル =アギーレの著書「LA SYNDICALISTE(組合活動家)」に出会い、本作の企画を立ち上げたという。

「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」仏原発政策の闇を告発したアレバ労組代表を襲ったレイプ事件とその後の衝撃展開

■ストーリー

2012 年 12 月 17 日、パリ近郊ランブイエにあるモーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)の自宅に何者かが侵入し、モーリーンの頭に袋をかぶせて手足をガムテープで縛り、ナイフで腹部に「A」のマークの傷をつけ、ナイフの柄を局部に挿入するという残忍な手口のレイプで凌辱。「2回目の警告だ。3回目はない」と死の予告をされる。
その数か月前、モーリーンの盟友でアレバ社長のアンヌ(マリナ・フォイス)がサルコジ大統領から解雇され、後任にはウルセル(イヴァン・アタル)が就任する。そのころモーリーンは6期目の組合代表に選ばれ新社長のウルセルと対立する。
そうしたなか、フランス電力会社(EDF)の職員を名乗る男から、中国とのハイリスクな極秘取引の書類を渡される。アンヌに見せると「ウルセルの野望は、中国と手を組み、低コストの原発を建設することで、裏にはEDFのブログリオがいる」と告げられる。
モーリーンはフランス財務省のモンブール経済・産業再生・デジタル大臣に面会して告発文書を見せるが「フクシマ(福島原発事故)以来、状況は複雑で、EDFが助けてくれるなら喜ぶべきこと。フランスの技術が金になる」といわれる。「中国が原発を建て、仲間が失業することか?」とモーリンは反発。その後ウルセル社長から「会社の戦略に口を出すな」と怒鳴り散らされる。それでも国民議会で「フランスの原発が中国に売られる」というレポートを配布して訴え続ける中、帰宅途中にバイクの男に運転する車の窓ガラスを割られバッグを盗まれたり、何者かに「手を引け、最後の警告だ」などと電話で脅迫される。そして、オランド新大統領と面会する日の朝に冒頭の襲撃事件が起きる。
捜査に当たったフランスの警察組織の一つで仏軍の一部でもある国家憲兵隊のブレモン曹長は、モーリーンの供述を疑い、自作自演と断定し、虚偽の告発容疑で摘発され、被害者から一転して容疑者になってしまう。黒を白と言いくるめる脅迫的な取り調べに精神的に追い詰められモーリーンはレイプ被害は虚偽と認めてしまうが、夫に「自白したら絶対後悔する」といわれ、虚偽を認めた自供を撤回して裁判で闘うことを決意。1審では禁固5か月(執行猶予付)、罰金5000ユーロ(約80万円)の有罪判決を受けるが控訴し、6年間にわたって闘い続ける。

「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」仏原発政策の闇を告発したアレバ労組代表を襲ったレイプ事件とその後の衝撃展開

■見どころ

フランスの原発政策の闇に迫ったために、ついには自宅で何者かに襲撃され肉体的にも精神的にも崩壊寸前に追い込まれ、さらには捜査当局から自作自演とされるという極限の状況に追い込まれる中で立ち上がったモーリーンの壮絶な闘いをリアルに描いて、原発問題の問題や、権力者の陰謀と狂気など様々な問題を問いかける見ごたえのある社会派サスペンスになっている。組合員を守るために経営者に忖度なしの主張を繰り広げ、密約を告発し、戦慄の襲撃事件にも屈せず裁判で争った実在のモーリーンを、フランスの名女優イザベル・ユペールが時にクールに、また闘志をむき出しにして激しく主張するなど体当たりの熱演を見せている。そしてモーリーンを支え続ける夫のジルをグレゴリー・ガドゥボアが好演している。
モーリーン襲撃事件をめぐっては、国家憲兵隊の若い女性隊員が、過去の似たようなレイプ事件を発見してモーリーンの供述を自作自演として処理しようとする捜査に疑問を持ち、事件の重要なカギを握っていくくだりも見どころの一つになっている。EDFの職員の極秘資料の提供とあわせて、女性憲兵隊員のやむにやまれぬ正義を求める行動としての内部告発が、権力者の不正や巨悪を明るみに出す上で重要な役割を果たすことを改めて感じさせる映画でもある。

■クレジット

監督:ジャン=ポール・サロメ 脚本:ジャン=ポール・サロメ&ファデット・ドゥルアール 撮影:ジュリアン・イルシュ 音楽:ブリュノ・クーレ
出演:イザベル・ユペール/グレゴリー・ガドゥボア/フランソワ=グザヴィエ・ドゥメゾン/ピエール・ドゥラドンシャン/アレクサンドリア・マリア・ララ/ジル・コーエン/マリナ・フォイス/イヴァン・アタル
2022年/フランス・ドイツ/フランス語、英語、ハンガリー語/121分/カラー/1:2:35 シネマスコープ/5.1ch/原題:LA SYNDICALISTE
Ⓒ2022 le Bureau Films-Heimatfilm GmbH + CO KG-France 2 Cinéma
10 月 20 日(金) Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下他にて順次公開