塚本晋也監督「ほかげ」第 80 回ヴェネチア国際映画祭で公式上映 8分間スタンディングオベーション

(2023年9月6日20:15)

塚本晋也監督「ほかげ」第 80 回ヴェネチア国際映画祭で公式上映 8分間スタンディングオベーション
フォトコールに登壇した㊧から森山未來、塚尾桜雅、塚本晋也監督

イタリアで開催中の第 80 回ヴェネチア国際映画祭で5日(現地時間)、オリゾンティ・コンペティション部門に選出された『ほかげ』が公式上映され、塚本晋也監督、出演者の森山未來、塚尾桜雅が参加した。

新鮮で革新的な作品で構成されるオリゾンティ・コンペティション部門には 18 作品が出品されている。塚本監督作品がヴェネチア国際映画祭に選出されるのは、『斬、』以来5年ぶり。

今回、現地には、塚本晋也監督をはじめ、物語の狂言回しとなる戦争孤児を演じた塚尾桜雄、片腕が動かない謎の男役の森山未來が参加している。本編の終盤、エンドロールに差し掛かるやいなや、早くも場内からは惜しみない拍手と歓声が巻き起こり、劇場を埋め尽くした観客たちから、約 8 分間のスタンディングオベーションが巻き起こり、熱気に包まれた会場と超満員の観客からは同作への評価の高さがうかがえた。

上映後には、観客との Q&A の場が設けられ、塚本監督は「まずは、ありがとうございました!Grazie(ありがとう)!」と感無量の表情をのぞかせた。
作品について尋ねられると、「今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は歳を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて制作しました」と同作に込めた思いを語った。

森山は、「塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています」と初の塚本作品、そして、本作でヴェネチア国際映画祭に参加できたことへの感謝の意を表し、大きな拍手を浴びた。

また、初めての海外映画祭への参加となった塚尾は「Mi chiamo OGA.Ho 8 anni. Piacere!(僕の名前は桜雅です。8 歳です。はじめまして!)」と、一生懸命覚えたというイタリア語での挨拶を披露し、会場を沸かせる一幕も。

上映を終え、塚本監督は「実は、『ほかげ』は僕自身がとっても好きな映画にできたんです。また、今回、このような大きなスクリーンで上映できて嬉しかったですし、お客さまが皆、息を詰め、集中して観てくださっていて、観終わった後に、祈りの思いが伝わったという感触を非常に強く感じられました。とても嬉しいです」と喜んだ。
そして、森山は、「ヨーロッパの映画祭に参加したのは僕自身初めて。ヴェネチア国際映画祭という場所にこの作品で来られて、本当に光栄です。監督の込めた祈りやエネルギーがこれからどういう風に観客に届いていくのだろうと楽しみでもあります」と語り、塚尾は 「自分が出ている映画を多くの方が観てくれていると思うと、すごく嬉しい気持ちでいっぱいです!」と一生懸命に伝えてくれた。

ヴェネチア国際映画祭には 9 度目の参加の塚本監督だが、今回、初めて観客からの Q&A の場に立ち会い、「お客さまが的確で実感のこもった質問をしてくれたので、想像以上に大事なことを伝えられた気がします。今の世の中の不安とか、戦争に近付いてきているということを伝えられたし、皆さんが真剣に聞いてくださったので、とても良い時間になりました」と振り返った。

■塚本晋也監督とヴェネチア国際映画祭

1997年、北野武監督が『HANA-BI』で金獅子賞を受賞した年にメインコンペティション部門の審査員を務める。その後、『バレット・バレエ』(98)プレミア上映、『双生児』(00)プレミア上映、『六月の蛇』(02)コントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)審査員特別大賞 受賞、『ヴィタール』(04)プレミア上映、2005 年はオリゾンティ部門審査員。『鉄男 THEBULLET MAN』(09)コンペティション部門出品、『KOTOKO』(11)オリゾンティ部門 最高賞のオリゾンティ賞を受賞。『野火』(14)、『斬、』(18)と二作連続でコンペティション部門出品を果たした。本作にて、5 年ぶり、9 度目の参加となる。

■映画『ほかげ』 作品概要

『鉄男』(89)でのセンセーショナルな劇場デビュー以後、世界中に熱狂的ファンを持ち、多くのクリエイターに影響を与えてきた塚本晋也。戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』(14)、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』(18)、本作ではその流れを汲み、戦争を民衆の目線で描き、戦争に近づく現代の世相に問う。
主演は、2023 年後期の NHK 連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロインに抜擢され、今最も活躍が期待されている俳優、趣里。孤独と喪失を纏いながらも、期せずして出会った戦争孤児との関係にほのかな光を見出す様を繊細かつ大胆に演じ、戦争に翻弄されたひとりの女を見事に表現した。
片腕が動かない謎の男を演じるのは、映像、舞台、ダンスとジャンルにとらわれない表現者である森山未來。飄々としながらも奥底に蠢く怒りや悲しみを、唯一無二の存在感で示している。主演の趣里が演じる、戦争で家族をなくし、焼け残った居酒屋で体を売って生きている女と交流を深めていく戦争孤児を『ラーゲリより愛を込めて』や大河ドラマ「青天を衝け」に出演している子役・塚尾桜雅。一度見たら忘れられないその瞳で物語をより深く豊かに彩る。復員した若い兵士役に、PFF グランプリ受賞作品『J005311』の監督でもある河野宏紀。そして、映画監督、俳優としても活躍する利重剛、大森立嗣が脇を固める。

塚本晋也監督「ほかげ」第 80 回ヴェネチア国際映画祭で公式上映 8分間スタンディングオベーション
「ほかげ」ポスタービジュアル

現地時間9月7日(木)~17日(日)に開催される、第48回トロント国際映画祭では「センターピース部門」に選出。デビュー作『鉄男』以来、『鉄男II BODY HAMMER』(92)、『東京フィスト』(95)、『BULLET BALLET/バレット・バレエ』(98)、『双生児』(99)、『六月の蛇』(02)、『ヴィタール』(04)、『KOTOKO』(11)、現在各地で9年目のアンコール上映中である『野火』と数多くの作品をトロント国際映画祭に出品してきた。前作の『斬、』に続き、5年ぶり 12 作目となる。

【あらすじ】
女は、半焼けになった小さな居酒屋で 1 人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。

【クレジット】
出演:趣里/塚尾桜雅 河野宏紀/利重剛 大森立嗣/森山未來
監督/脚本/撮影/編集:塚本晋也
助監督:林啓史 音楽:石川忠 音響演出:北田雅也
製作:海獣シアター 配給:新日本映画社
2023 年/日本/95 分/ビスタ/5.1ch/カラー
©2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
公式サイト:hokage-movie.com
公式 X:@hokage_movie #ほかげ
11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

同映画祭にはコンペティション部門に濱口竜介監督の「悪は存在しない」、アウト・オブ・ンぺに空音央監督のアートドキュメンタリー「RYUICHI SAKAMOTO OPUS」が出品され観客の拍手喝さいを浴びた。コンペ部門の金獅子賞などの各賞は現地時間9日(日本時間10日未明)に発表される。