映画「帰れない山」舞台挨拶 芸歴50周年片岡鶴太郎が人生の転機について語る

(2023年5月7日13:45)

映画「帰れない山」舞台挨拶  芸歴50周年片岡鶴太郎が人生の転機について語る
トークショーを行った片岡鶴太郎(5日、東京・中央区のシネスイッチ銀座で)

北イタリアのモンテ・ローザ山麓を舞台に、2人の男性のかけがえのない友情と魂の交流を描く感動作「帰れない山」が5日、公開され、都内で片岡鶴太郎(68)をゲストに迎えて公開記念舞台挨拶が行われた。

同作は、山麓の小さな村で、都会育ちの少年ピエトロと、同い年の牛飼いの少年ブルーノとが出会い濃密な時間を過ごす。やがて大人になった二人は再会し、お互いの心に寄り添いながらもそれぞれの道を進んでゆく。北イタリアの雄大なるモンテ・ローザ山麓を舞台に、彼らの友情と成熟を描く、美しくもほろ苦い“大人の青春映画”。

公開を記念して、本作の主人公2人が自身と向き合い、自らの生き方を探していくことにちなみ、物まねを得意とする芸で人気を博し、その後、俳優、芸術家として一線で活躍され、今年で芸歴50周年を迎えた片岡鶴太郎をゲストに迎え、公開記念舞台挨拶が行われた。お笑い芸人から画家、ボクサー、俳優、そしてヨガマスターへと転身した際の気持ちや、人生の転機をどのように決断したのかなど幅広く話した。

■「見終わった後、しばらく余韻の中で、自分と語り合っていた」

この日の聞き手は、前東京国際映画祭ディレクターの矢田部吉彦氏が担当。映画上映後、矢田部氏の呼び込みにより、ステージに登壇した鶴太郎は「おそらく皆さんも見終わった後の余韻に浸っているところじゃないかと思うのですが、わたしも見終わってしばらく沈黙の中におりました。沈黙というのは、自分と会話をすることというか。わたしならどういう判断をするのかな、わたしが子どもの頃はどうだったのかな、など自問自答していて。見終わった後、しばらくそういう余韻の中で、自分と語り合っていた気がします」と本作の感想を述べた。

そして「映画に限らず、音楽、絵画、芸術作品など、いい作品に向き合うと沈黙になって、自分と語り合う。その時間が長ければ長いほどいい作品に出会ったな、と思うんですね」と付け加えた。

■「漫談や色ものなどが面白くて。それでものまねをやりたいと思うようになって、芸人の道に進んだ」

この日は、男同士の友情、父と息子など、本作を語る上で重要なテーマに沿ってトークを展開。そこでまずは、鶴太郎が芸の道に進む上で大きな影響を与えたという父親の話から話した。

「うちの父親は神田の生まれで。特に落語が好きで、物心ついたときから上野や浅草の演芸場に連れられていったんですけど、子どもなので落語はよくわからなかった。むしろ漫談や色ものなどが面白くて。それでものまねをやりたいと思うようになって、芸人の道に進んだんです」と切り出した鶴太郎は、「高校を出てすぐに(声帯模写芸人)片岡鶴八の弟子になって。親元を離れて、自分の道を歩み始めたものですから。父親母親は黙って見守っていてくれましたね」と振り返る。

その流れでトークテーマは、“人生の決断”について広がっていった。

「さいわいにして父親の影響で寄席に行くようになって。落語家の方、演芸人の方を見て、ものすごくカッコいいと思ったんです。子どもの頃からあこがれがあったので、終わったあと、すぐに楽屋にサイン帳を持って“サインをください”って言いに行ってたんです。ちょうど談志になったばかりの(立川)談志師匠にも、もらいに行って。“こういうのが将来芸人になったりするんだよな”なんて言われながらもサインを書いてくれた。舞台で面白いことをやっていればやっているほど、楽屋での芸人さんの風情、色気が子供心にカッコいいなと思っていた」と懐かしそうに語る鶴太郎。

■「魂がこれをやりたいというもの。魂の歓喜というか、魂が喜ぶだろうなということをやる」

さらに画家、ボクサーなどへの転身についても、芸事と同様に、自分が「カッコいい」「やりたい」という衝動に突き動かされてやってきた部分が大きかったという。

その思いについて「魂がこれをやりたいというもの。魂の歓喜というか、魂が喜ぶだろうなということをやる。そこにはもうかるとかもうからないとか、失敗するとか、成功するとか関係ない。いろいろなしがらみを取り払って、とにかくやりたいことをやるのがしあわせな選択だと思います」と力説した鶴太郎。その真剣な言葉に会場も熱心に耳を傾けていた。

そんな鶴太郎にとっての魂の友人とは?

「芸能の世界では、作品を1本やるときずなが生まれるんですが、それからみんなが違う世界に行ってしまうので、なかなかきずなを持続していくのは難しい状況なんです」と語る鶴太郎は、「そういう意味で、私の中で信頼を置いているのはヨガマスターですね。彼にはいろんなことを相談できますし、いろんな質問にも答えてくれる。これは友情ではなく、師弟関係かもしれませんが」と答えた。さらに「友情を大事にするなら、最低限、相手に迷惑をかけちゃいけない。お金の貸し借りなども、友情が壊したくないなら言えないですよね」と付け加えた。

そして最後に「これは本当に正統派の映画ですよね」と語った鶴太郎は、「シンプルに男同士の友情の物語。子どもの時に出会って、そこから年齢を重ねていって。大人になるまでのプロセスにはせつなさなどもありましたが、だからこそ胸が熱くなるというか。わたしにはそういう友がおりませんので、ある種のうらやましさを感じました。映画を観ながら、自分の人生を照らし合わせて、いろんなことを考えさせてくれるような、沈黙のある映画だと思います」とメッセージを送った。

■「帰れない山」

映画「帰れない山」舞台挨拶  芸歴50周年片岡鶴太郎が人生の転機について語る
「帰れない山」(© 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV – PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.)

監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ 撮影:ルーベン・インペンス
原作:「帰れない山」(著:パオロ・コニェッティ 訳:関口英子 新潮クレスト・ブックス)
出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティ
2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/1.33:1/5.1ch/147分/原題:Le Otto Montagne/日本語字幕:関口英子/後援:イタリア文化会館/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
(5月5日(祝・金) より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開中)