「EO イーオー」ロバが放浪の旅で見る人間社会を映し出す鮮烈な映像体験

(2023年5月2日16:30)

「EO イーオー」ロバが放浪の旅で見る人間社会を映し出す鮮烈な映像体験
「EO イーオー」のポスタービジュアル

 ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した「出発」(1967年)や、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「ザ・シャウト/さまよえる幻響」(1978年、日本未公開)などで知られるポーランド出身のイエジー・スコリモフスキ監督(84)の「イレブン・ミニッツ」(2015年)以来7年ぶりの新作で、ロバのEOを主役にした異色のロード・ムービー。
ロベール・ブッソンの1966年の映画「バルタザールどこへ行く」にインスパイアされた作品で、ポーランドのサーカスで生まれたロバの数奇な生涯を描いている。
昨年5月に開催された第75回カンヌ国際映画祭で「帰れない山」とともに審査員賞を受賞し、作曲賞も受賞した。第95回アカデミー賞の国際長編映画部門にポーランド代表作品としてノミネートされ、さらにニューヨーク批評家協会賞の外国語映画賞などを受賞した。

監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本・製作:エヴァ・ピアスコフスカ、イエジー・スコリモフスキ
出演:サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、イザベル・ユペール
2022/ポーランド、イタリア/カラー/ポーランド語/88分 映倫:G
後援:ポーランド広報文化センター 配給:ファインフィルムズ


■ストーリー

「EO イーオー」ロバが放浪の旅で見る人間社会を映し出す鮮烈な映像体験
「EO イーオー」(© 2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED)

主人公のロバのEO(イーオー)は、ポーランドのサーカス団で、パフォーマーのカサンドラ(サンドラ・ドルジマルスカ)のパートナーを務めていた。カサンドラは愛情を注ぎ幸せな生活を送っていたが、ある日、サーカス団から連れ出されてしまう。そしてポーランドからイタリアに向かうEOの旅が始まる。馬と一緒にトラックで運ばれる途中で、若い司祭(ロレンツォ・ズルゾロ)に拾われる。司祭の瀟洒な豪邸でイザベル・ユペール演じる女主人とのいさかいや、謎めいた2人のキスを見たEOは、その場を離れて単身で放浪の旅が始まる。心優しく手を差し伸べる農家の主婦がいれば、冷酷に扱う者。様々な人間と出会いながら、あてどないEOの旅が続く。

■見どころ

セリフもなくナレーションでEOの心情を代弁するわけでもなく、ひたすらロバが足早に歩くシーンは、逆にとても多くのことを感じさせ考えさせ、スクリーンから目が離せなくなる。それはEOとともに、移り変わってていく風景や、様々な人間の生き様を、普段とは違った視点や感覚で見るように思えた。
イエジー・スコリモフスキ監督は、「灰とダイヤモンド」(1958年)などで知られるポーランドのアンジェイ・ワイダ監督の「夜の終わりに」(1960年)の共同脚本や、ロマン・ポランスキー監督の監督デビュー作「水の中のナイフ」(1962年)の脚本を担当している。そうした時代のポーランド映画が持つテイストがこの作品にも流れているように感じた。

(5月5日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー)